774.準備ができました!
「少し申し訳ない気もしますね」
「そうだねぇ」
「は、はい」
帝国兵としての壁改修クエストは成功させているとはいえ、突然の失踪。
それは誰が見ても死に戻りの状況だ。
一緒だったプレイヤーに余計な驚きを与えてしまったのではないかと思うツバメ。
「とはいえ、帝国兵長はダメだけど帝国兵プレイヤーにはバレてもいいっていう、緩めのルールとは限らないのよね」
ないとは思うが、プレイヤーを含めた帝国兵に『離脱』がバレてもアウトの可能性もゼロではない。
「一仕事終えたら、ご心配をおかけいたしましたとお知らせしましょう」
レンたちは帝国軍制服を着替え、所持の状態にしたところで旧市街地へと戻る。
廃事務所のソファをどかして階段を降りると、レジスタンスの面々が各々の作業中だった。
「制服、手に入れてきましたっ」
「さすがだな。君たちの能力を考えれば、少し簡単すぎる仕事だったかもしれん」
「早い仕事ぶり、見事だ」
リーダーであるスタンがそう言って大きくうなずくと、周りもそれに続く。
「さて、兵士に扮することが可能となったここからが、本当の第一陣だ」
そう言ってデスク上に城のマップを広げると、吊るされた裸の魔法珠灯が図面を照らし出す。
「初日の目的は、四つ」
「結構あるのね」
「ここでの行動は、建国祭当日のための布石になるものが多い。当日を楽にするためにやっておきたい任務となる」
「それと、内部の雰囲気を知っておくためのものだな」
レジスタンスの男が注釈を入れた。
「一つ目は、当日兵士たちに振る舞われるワインの細工。【睡眠薬】を入れることで俺たちが動いた時に出てくる兵の数を減らすことが可能となる」
「なるほどね」
建国祭当日はレジスタンスが派手に暴れることで、注意を城外に向け時間を稼ぐという動きがある。
それなら鎮圧を受けるまでの時間は、長い方がいい。
「二つ目は、中庭を見張る魔獣の懐柔もしくは始末だ。当日第二王子を逃す際に中庭の一部を通ることになるからな。専用の【特製干し肉】を用意しているが、従魔士のように動物に好かれる者が担当するといいだろう。ここは色々と注意して任務に当たってくれ」
「……妙に注意を押すのですね。ですがメイさんがいますから大丈夫でしょう」
「おまかせくださいっ!」
「三つ目は、貴族たちの前夜祭に潜り込むこと。豪商『ドレーク』を発見し認識。可能であれば暗殺を頼みたい」
「きゅ、急に物騒になってきました……っ」
そう言ってまもりは、盾に隠れる。
「こいつは帝国の商売の全てに根を伸ばし、金の流れを思うがままにしている巨悪だ。気に入らない者の店は無理やり潰す。旧市街の住人に食べ物や薬が渡らず、兵士として使い捨てられる現状を作り出した元凶ともいえる人間。仮に皇帝を変えてもこの男が影響力を持つ限り、この状況は変わらないだろう」
狙いは皇帝を変えた上で、その右腕となって一部の貴族以外を苦しめている豪商も失墜させること。
「とはいえ、前夜祭で帝国の実権を持つ男が殺されたとなれば騒ぎとなり、当日の警備は厳しくなる。そこでこの【昏睡針】を刺して欲しい。そうすれば数日間は強い眠気にヤツは身動きも取れず、一日のほとんどを眠りの中で過ごすことになる。ヤツが目を覚ました時にはすでに政変完了。しっかりと様々な後始末をさせてやる」
「これはかなり大事な仕事になりそうですね」
「そして最後は、第二王子の部屋の鍵を手に入れること。我らを救おうと様々な改革を提示してくれたが、現皇帝と豪商に潰され城の奥に監禁状態にされている。鍵を第二王子に渡しておくことができれば、当日の救出はかなり楽になる」
「なるほど。前段階で準備できなかったクエストは、建国祭当日に巻き返さないといけなくなるのね」
「そういう事だな」
当日に第二王子を救出。
そして現皇帝を打倒した後、代わりの者を王として祭り上げるという形は、こういう物語の基本だろう。
「他にも帝国が行っている行動には色々と気になるところがあるのだが……それは今回の作戦に直接は関わってこないはずだ。君たちは世界を駆ける冒険者。もし君たちに気になるものがあるようなら見ておけばいいだろう。とにかくまずは、四つの作戦を無事成功させてくれ」
そう言ってスタンは、帝国城の内部地図を渡してきた。
【睡眠薬】と【特製干し肉】、【昏睡針】も一緒だ。
「誰に持たせるかで、任務失敗なんてこともありそうなアイテムの量です」
「それにこの言い様。もしかすると最近あった色んな事件につながる情報とかも出てくるのかもね」
「あ、あの『兵器』についても何かわかるのでしょうか」
フローリスにやって来た兵士たちの落とし物から、たどり着いたガルデラ帝国。
今だ見ぬ、黒仮面の者たち。
そして謎のアサシンもそこに関わってくるのか、謎は多い。
帝国には何か、クエストだけでない何かが隠れているであろう気配がして、思わずワクワクする。
「よし、こちらも当日に向けて準備を始める。君たちも頼むぞ」
「なかなかドキドキする展開になってきたわね」
「スパイミッションのような緊張感があります」
「うんっ! 今からドキドキしちゃうよーっ!」
「それじゃあ、準備が終わったらさっそく始めましょうか」
「りょうかいですっ」
「はいっ」
「が、がんばります……っ」
こうしてメイたちも一度、装備やスキル構成の確認を始める。
長らく「絶対に何かある」と言われながら、見つからなかった帝国の大型クエスト。
建国祭自体が開かれるとなれば、当然帝国兵クエストも提示されるだろう。
大きな展開の予感。
こうして四人はレジスタンスの実行部隊として、ガルデラ帝国建国祭の前夜祭に乗り込むことになったのだった。
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