772.帝国兵士メイちゃん
「整列」
ガルデラ帝国の、東門宿舎前。
集まった兵士クエスト参加者の前に、やって来たのは兵長。
濃い灰色の制服はやはり、フローリスにやってきた兵士たちを思い出させる。
「……いいだろう、合格だ」
「テストもないの?」
志望者を大雑把に一瞥した兵長は、なんとその場で全員の採用を決めた。
これにはレンもさすがに驚く。
てっきりテストを受けてからのクエスト参加になると思っていたので、拍子抜けだ。
「へ、兵士は使い捨てだから、基本は誰でもいいってことなんでしょうか」
そんなまもりのネガティブな言葉に、思わず「なるほど」とうなずく。
「このクエストは、基本誰でもテストなしでできるからいいよな」
「まあ、兵長の態度が悪いのが気に入らないけどね」
余裕を見せる掲示板組。
旧市街での流れを知らないプレイヤーには、誰でも受けられる簡易なクエストに見えているようだ。
「各自制服を支給する。すぐに着替えて任務に入る様に」
「はいっ!」
「はひっ!」
ビシッと敬礼するメイに、付近から「おおー」と声がもれる。
そしてその横で早くも緊張するまもりに、笑いがこぼれる。
「どうしよう、もう楽しいんだが……!」
「本当だな!」
楽しそうに笑うクエスト参加者たち。
与えられたのは官帽に、裾長めのコート。
そこにブーツという姿は、なかなか決まっている。
一見クールなツバメも、今回は体型に合わせたサイジングのため悪くない。
子供将官ぽさはまだ少しあるが、なかなかサマになっている。
「それにしても使徒長ちゃんが似合い過ぎる」
「最近見ないな、こういう軍服が似合う感じのキャラって……黒少女ちゃん?」
「…………いい」
見惚れて頬を緩ませる黒少女は、とても満足そうだ
「それに比べて盾子ちゃんよ……」
「盾子ちゃんの部隊は『と、とりあえず突撃ですーっ!』みたいな命令がくだされそう」
「あはははは、分かる」
おっかなびっくり将校の想像が、はかどる掲示板組。
「ああ、見に来てよかった……!」
いつもは地味なこのクエストが、早くも賑わい出す。
「ていうかスライムちゃん、それは着てるでいいのか?」
官帽を乗せ、コートをマントみたいにかぶせたスライムの姿は、何度も見ても面白い。
「もちろん、問題ないぽよっ」
「スライムさんは相変わらず不思議です」
「この形状にも、すっかり慣れたぽよ!」
「バインバインすると、帽子がその都度跳ねるのがいいわね」
これにはツバメやレンも、笑みがこぼれる。
「そろったな。まず最初の任務は城壁の修理だ。直ちに現地へ向かう。整列!」
掲示板組は、メイたちを先頭に四列を作成。
「そのままついてこい! 行進!」
そのまま足並みをそろえて、現場へと歩き出す。
「それじゃ行きましょうか」
「「「ハッ!!」」」
レンの言葉に、規律正しく敬礼したのは掲示板組。
「ここのトップは私じゃなくて、あの兵長だからね?」
「「「ハッ!!」」」
ため息をつきながら、兵長の後に続くレン。
その先には、上部の一端が崩れた城壁があった。
その高さは、高速道路の上端ほどもある。
メイたちは壁に掛けられたハシゴを登って、壁の上部へ。
「風、強いですね……」
「本当……台風みたい」
「うわわわわわーっ!」
その強風にあおられ、走るメイ。
「いつもより速い気がするっ!」
「目が回るぽよーっ」
一方ちょっと面積を広くして風を受けてみたスライムちゃんが、風にコロコロと転がっていく。
そしてよく見れば、指示役の兵士長にだけ命綱が付けられていた。
「先に言っておく! 落ちて死んでも我らは死体の回収などしないからな」
居丈高な態度の兵長を見るに、やはり兵士は基本使い捨てなのだろう。
「ねえ、もしかして今のって……」
だがそんな兵士長の言葉を、レンは違った意味で受け取った。
三人にもそっと、耳打ちをしておく。
「仕事は壁の崩れ落ちている箇所にブロックを配置し、この【粘着剤】で接着するだけだ。作業開始!」
そう言って兵士長は、城壁の上に作られた石積みの部屋の中へ。
外部を見張るために造られた監視所のようなその場所は、風にも強い。
作業は壁の上にあるブロックを、V字型に欠けた壁に配置し【粘着剤】で固定するだけだ。
各自がブロックを抱えて歩き出す。しかし。
「「「うおおおおおおおお――――っ!?」」」
途端に噴き出す強風に、倒れ込む。
「あぶないぽよっ!」
「たたた助かった! 礼を言うぞ!」
風に飛ばされそうになった黒少女ちゃんを、スライムが壁になって守る。
すると、ピタリと風が止まった。
「今だ!!」
気ままな風の隙を突き、走り出す掲示板組。
メイも漫画の『そばの配達』みたいな量を手に乗せ走り出し、V字の『崩れ』の前にブロックを下ろす。そして。
「っ! 伏せてくださーい!」
聞こえた風の音に、即座に声を上げる。
ここは『メイ』に詳しい者ばかりの掲示板組の集合チーム。
即座にメイの言う通り、ブロックを下ろして身体を伏せる。
すると直後、暴風が吹き荒れ床に置いたブロックの一部を吹き飛ばした。
さらに伏せるのがわずかに遅れた掲示板組の一部が、転がっていく。
「やばっ!」
一人の少女が壁から落ちる。
そんな中、駆けつけたのはメイ。
「よいしょっ!」
すべり込む形で少女の手を取り、風が過ぎるのを待つ。
「よかったー!」
そして風が落ち着くのと同時に、引き上げてみせた。
「あ、ありがとうございますっ」
「いえいえっ」
うれしそうにほほ笑む少女。
「……やだ、たくましいメイちゃん」
「これが、野生の強さか」
「うわー! とばされちゃうー!」
無類のたくましさを見せたメイ、聞こえた掲示板組の『野生』という声に、突然か弱いフリ。
「もう、風吹いてないわよ」
そしてレンの一言に、皆笑う。
こうしてメイは大風の予兆を聞き取れることが周知され、作業は大幅に速度アップ。
「風、来ますっ!」
大風によってプレイヤーを失い、作業効率が落ちていくというなかなか悲惨なクエスト。
しかしメイの合図戦略で人が減らないため、作業は速度を上げていく。
「よいしょっ! 【ラビットジャンプ】」
後はブロックを破損部分に配置し、いざという時でも【浮遊】があるレンに接着を任せる。
「普通に高所作業の命綱無し版って考えると、なかなか恐ろしいクエストね」
【粘着剤】は瞬間接着剤並みの速度で乾くため、仕事は順調に進んでいく。
「風、来ますっ!」
残りはもうわずか。
あと数列分のブロックを並べて接着すれば、被害者なしで任務完了だ。しかし。
「風……じゃない」
メイの耳が、音の違いを聞き分ける。
そして視線を上げて気づく。
「モンスターがきますっ!」
メイの指さした先には、一羽の巨鳥。
風吹きすさぶこの場を目がけて、猛烈な勢いで飛来してきた。
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