766.お仕事開始ですっ!
ガルデラ帝国の中央街で開催される、ビールの祭典ノーベンバーフェスト。
クエストは、注文の全てをさばけという形ではない。
ヘルプで入る店主がしっかり仕事をしてくれるため、単純なオーダーは数を多くこなすほど経験値が入るだけ。
そのため今回大事なのは、仕事を成功させることで上がっていく『ゲージ』だ。
各『要素』を達成することで、これが青から徐々に変わっていく形になっている。
「今回メイちゃんたちいるの!?」
「最高にラッキーなんだけど!」
「でもさ、注文自体はシステムでするわけだから……」
「メイちゃんたちが来てくれるか、店主おじさんが来るかは……運ってことかよ!」
プレイヤーたちが残酷な事実に気づいたところで、開店時間。
「今日も忙しくなりそうだ。頼むぞ、冒険者殿!」
「それじゃ今回は、私たちが提供する側でいきましょうか」
「「「はいっ」」」
色とりどりの衣装に着替えた四人に、思わず笑みがこぼれる観客たち。
そして『誰が来るかルーレット』を含んだ、ノーベンバーフェストが始まった。
木製のテーブルが並ぶ会場は、中央の舞台を抜けば体育館ほどの広さ。
さっそく四人は、大量のビールをキッチンから受け取った。
ツバメとレンは左右の手に大ジョッキを5つずつで、計10個。
まもりはトレーを使って7個ほど。
視界に見えた『目的テーブル』に向かって、四人が動き出す。
「【バンビステップ】!」
元気な看板娘メイは、柔軟で速い動きを見せつつ「おまたせしましたっ」と笑顔で到着。
これに「メイちゃんきたぁぁぁぁ!!」と、あがる歓喜の乾杯。
一気にテーブルがわき立つ。
レンの到着に「使徒長様のおいでだー!」と声が上がり、「うわっ!? いつの間に!?」とツバメの来たテーブルが盛り上がる。
そして店主が来たテーブルは「お前かよ!」とツッコミで盛り上がるため、どこも楽しそうだ。
「……あ、ああああの」
敏捷が低いこともあり、一人普通の店員のような動きのまもりがテーブルにやってくる。
「メイさんたちでなくて……申し訳ありません」
そう言って、自分がビールを置いていいのか迷ってしまうまもり。
「いやいやいや! 盾子ちゃん最高だよ! ドンドン持ってきて!」
「す、すみませんでしたっ」
トレーで顔を隠しながら頭を下げ、キッチンへ駆け戻る。
「まもり大丈夫? この手のクエストって受けたことないでしょう? まずは確実にできる範囲でやれば十分よ。私たちが失敗しても、メイたちがあっさりその分以上をカバーしてくれるから」
どんな形式でも、メイとツバメの活躍は突出。
もちろん今回も問題はない。
「まずは楽しく」というレンの言葉に、まもりが「ありがとうございます」と返す。
「ほう……」
そんな二人の先輩後輩感に、一人の女子プレイヤーパーティが目を付けた。
剣士少女はメガネをクイっと上げ、意味深な笑みを浮かべる。
「へへ。お姉ちゃん、かわいいじゃねえか」
「っ!?」
「ちょっと、そういうの困るんですけど?」
レンもそのノリに気づいて、ちゃんと乗ってあげる。
「おおー! 実際見たことないのに、見たことあるような気がする会話だ!」
気弱な店員に意地悪する客と、割って入る強気の店員。
女子プレイヤーのテーブルは、さらに盛り上がる。
「ああん? おいおい、よく見たらお前さんもめちゃくちゃかわいいじゃねえか」
「はいはい」
これは軽く流すレンだが、気づいた仲間が後に続いて流れが変わる。
「本当だ、いい女じゃねえか」
「ああ、気に入ったぜ」
するとさらに、付近の席の客までこのノリに乗ってくる。
「可愛いぞ、使徒長ちゃん」
「ああ、可愛い!」
「制服が黒くないのがギャップになって最高だよ、使徒長ちゃん!」
「やめときなさいよ!」
いきなりの可愛いコールに、さすがにちょっと顔を赤くするレン。
そんなオチに、近くの客が笑いながら拍手を始めた。
剣士少女の始めた酒場の可愛い店員ネタは、場の雰囲気もあって盛り上がる。
「料理の注文が増えて、運びの手間が数が増えてきました」
「ここからは担当を分けましょう! まもりは……料理担当がいい?」
「ふあっ! す、すみません……」
料理皿を運ぶ際に必ず「おいしそう」っていう目で見るのが楽しくて、レンはつい笑みがこぼす。
「まもりは近場の料理、私はビールで。メイ、少しだけ力を入れてもらえる?」
ゲージは青から緑へ変わる途中だが、この後他のクエストが難しかった時のためにもう少し上げておきたい。
「おまかせくださいっ! 【装備変更】!」
メイはここで【鹿角】に変更。
このクエスト、実は【技量】型のプレイヤーのためにビールはトレーに乗せ、そのトレーを重ねて持って行くことができる。
持って行ける量は【腕力】に、当然移動力は【敏捷】に関わる。
「おおおお……」
左右の手に一つずつ、重ねたビールのトレーはタワー状態。
「あ、あんなの動けないだろ」
「いきますっ【バンビステップ】!」
しかしメイは走り出し、得意の高速ステップで会場の端の席へ。
「「「おおおおおーっ!」」」
まったく危なげない足の運びで駆けつける。
「まずはこちらのテーブルからっ! おまたせいたしましたーっ!」
「メイちゃん来たーっ!」
テーブルにビールの塔をドンと置き、人数分置くと次のテーブルへ。
「メイちゃんカフェはクジ外れたからな! これは歓喜だ!」
「本当だな!」
「最高だぜっ!」
今や遅しと待ちわびる、三人組の青年剣士たち。
「お待たせいたしました!」
「「「店主かい!!」」」
同時に立ち上がって声を上げる。
これまで見たこともないその光景にまた、付近の客が手を叩いて笑い出す。
「あははははっ! あいつら最高だな! ……あれ、いつの間にか料理が」
「本当だ……! でもいつの間に!?」
「さっきアサシンちゃんが来てたぞ」
「いつだよ!」
「さすがは暗殺者、メイちゃんの方を見てたらこれだ……!」
「【加速】」
一方のツバメは、料理をトレーに乗せ場内を駆け回る。
両手の皿には、ソーセージとマッシュポテトの盛り合わせ。
「よし、俺たちも一杯やるか!」
「ッ!!」
そこにやって来たのは、NPCの兵士たち。
もちろんこれは、このクエストに立ち塞がる難所だ。
目前にやってきた大男たちを回避するのは難しく、ぶつかれば料理を落とし、退くのを待てば『待たせ時間』を取られてゲージが減る。
「大柄なのは幸いでした【スライディング】!」
しかしツバメは止まらない。
皿の大きさ的に、二枚持ったまま脚の間をくぐるのは難しい。
するとツバメはなんと、右手のマッシュポテトを高く投じ、大男の足元を左手の皿だけの状態で潜り抜けてみせた。
「おまたせいたしました」
スッと立ち上がって、普通にソーセージ盛りを置くツバメ。
「こちらもどうぞ」
そして遅れて落ちてきたポテトの皿を、受け止めて提供。
「これこれ! これだよっ!!」
「やっぱこのホールアクションこそ、メイちゃんたちだよな!」
「元気、可愛い、野生的! これだよな!」
「野生ではございませーん!」
そんな声に、会場の端からしっかり声を上げるメイ。
「ね? 私たちは自分のペースで楽しくいきましょう」
「は、はひっ」
相変わらず凄すぎて苦笑いのレンと、口をあんぐりのまもり。
ゲージの上昇とは関係ないところでも、メイたちはノーベンバーフェストを盛り上げるのだった。
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