741.帰り道の戦い
「俺がこの街の隅で、廃業という看板を掲げながらひっそり生きているのは、毒という力のせいだ」
医者はそう言って、準備していたカバンを手に取る。
「遅効性や蓄積型のものなんかはそれこそ、邪魔な者をこっそり葬るのに都合がいい。それを利用したいと考える者が後を絶たなくてな」
そこそこ大きな国であるブラッジヤでは、常に謀殺などの危機も渦巻いている。
権力者や敵対組織の排除に、毒はもってこいだ。
「俺が動くとなれば、また毒を利用するために寄って来る者たちが現れるだろう。ヤツらは俺を逃がしはしない」
「ご、護衛でしょうか」
「そーいうことかぁ」
途端に付近を行く男たちが怪しく見え始めるのは、護衛型クエストの定番だ。
走り出す緊張感。
「一応、食べておいた方がいいかも」
メイはここで念のため【原始肉】を取り出し、豪快に噛み千切る。
その豪快な野生ぶりにまもりは「おおっ」と感嘆し、メイはちょっと恥ずかしくなる。
「準備はいいか? 目的はブラッジヤ北東部にあるポータルだ。ここは西南部。どういうルートで行ってもいいが、覚悟はしておいた方がいい」
「りょうかいですっ」
敬礼ポーズでうなずくメイに、まもりも盾を持つ手に力を籠める。
「行こう」
こうして医者先生と共に、街はずれの路地裏を歩き出したところで――。
「どこへ行こうってんだぁ……先生さんよぉ」
さっそくやって来たのは、短剣を下げた紅色フードマントの男たち。
「聞いてた話じゃ、もう医者業はできねえって話だったが……」
手にしたカバンに目ざとく気づき、責めるような視線で問いかけてくる。
「…………」
「オマエはおとなしく、オレたちの言うとおりに働けばいいんだよ」
「冗談じゃない。謀略や権力争いに加担するために、この仕事をしているわけじゃない。俺は人を助けるために医者をやっているんだ!」
「これからは、殺す側になる」
そう言ってフードマントの男が空に魔法を放つと、狼煙代わりの赤い煙が上がった。
「オマエは無理やりにでも連れていく……やれ!」
先頭の男の号令で、フードマントの男たちが動き出す。
「は、速いです……っ」
先頭は速い移動を得意とする二刀流。
「【旋風三段】!」
右左と、二連の攻撃から回転してもう一撃。
「【クイックガード】【地壁の盾】、盾、盾!」
この速い三連撃を盾で弾くと、男はそのまま【とんぼ返り】で後方へ跳躍。
「【麻痺突き】!」
その背後に隠れる形で駆けてきていた男が、突然姿を現す。
弾けるような閃光の直後、放たれるのは高速移動突きだ。
「ひゃあっ! もももう一度【地壁の盾】!」
しっかり驚いているのに、相変わらず防御は完璧だ。
「【疾走】!」
「「ッ!!」」
しかしこの隙を突き、特攻してきた一人の男。
その手にあるのは武器ではなく、なんと【転移宝珠】
それは医者ごと転移してしまおうという、力任せだが効果的な攻撃だ。
「【かばう】!」
ここでまもりは速いステップで医者と男の間に入り込もうと、やや強引にスキル発動。
「ぐあああああっ!?」
そのタイミングがわずかに遅かったため、盾で男を弾き飛ばす形になった。
「まもりちゃんないすーっ!」
倒れた男は、メイが剣の振り一つで片付ける。
複数人での攻撃を仕掛け、状態異常攻撃から転移宝珠を使用。
すべて決まれば即クエスト失敗という恐ろしい連携を、見事に防いでみせた。
だがこれはミッション。
その難易度の高さは、こんなものではない。
医者を取り囲む様な陣形を取った、5人の男たち。
その手にあるのは、剣とボウガンだ。
矢じりに付いた宝石は状態異常を起こすものと、魔法が秘められたもの、そして『刺さった者を強制転移』させる効果を持ったもの。
2人の男が接近し、ロングソードで医者を狙いに行く。
「【強振】!」
全力の振り払いは、防御した相手を大きく弾く効果を持つ一撃。
「【不動】!」
嫌な予感を覚えたまもりは、防御時に動かされてしまうのを防ぐスキルでこれを受け止める。
「【クイックガード】【地壁の盾】!」
続く男の振り降ろしもしっかり弾くと、男はすぐさま左手を伸ばした。
「【レッドフレイム】!」
「【天雲の盾】!」
しかしまもりはこれを読む。
続けざまの炎を左の盾で見事にガード。
「【地壁の盾】、盾、盾っ!」
さらに弓術師たちの氷結矢、痺れ矢、転移矢という地獄の一撃転移連携も見事に弾く。そうなれば。
「【装備変更】【バンビステップ】!」
華麗で柔らかなステップで踏み込んできたメイが、一度の大きな振り払いで前衛二人を斬り飛ばす。
そして振り返るのと同時に、弓術師三者の動きを確認。
「【裸足の女神】!」
「ぐあっ!!」
一番早く次弾を準備していた弓術師の懐に入り込み打倒。
「【ストライクシールド】!」
2人目の弓術師がまもりの盾投擲に倒されたのを見て、メイが3人目を打倒。
余裕の勝利となった。
「なるほど、大した腕だ」
感心する医者。
メイは笑顔で親指を立てると、再び先を急ぐ。
まもりも恥ずかしがりながら親指を立てて、後に続く。
たどり着いたのは、高さの違う建物が並ぶかなりの難所。
転移宝珠付きの矢を放つ者たちが街の建物の各所から攻撃してくるという、ともすれば身代わりになってでも医者を守らなくてはならない厳しい場面だ。
しかしジャングルでは常に『どこからどういう形で増援が来てしまうか』に気を使いながら戦っていたメイは、視野を広く保つ癖がある。
紅色のフードマントの者たちが通行者とは違う『狙う動き』をしていれば、そんなものは即座に目につく。
「【投石】!」
投げた石は空を裂き、一直線に飛来。
「ぐああっ!!」
そのままボウガンで狙いをつけていた男に直撃した。
「まだまだっ! 【投石】【投石】【投石】からの、【投石】だ――――っ!!」
二階建ての民家の屋根、道具屋の看板の横、木の陰、そしてわずかにタイミングを遅らせてボウガンを取り出した酒場の屋根上。
全ての敵を、ガンシューティングのような速い連射で打倒したメイ。
さらに【遠視】は、遠方から医者を狙う者の姿もしっかり発見している。
「【ゴリラアーム】! せぇぇぇぇのっ!」
【王樹のブーメラン】をつかんだメイは、そのままその場で三回転。
「それええええええ――――っ!!」
「うあああああああ――――ッ!!」
放たれたブーメランはブラッジヤの空を行き、三階建ての商店の屋上にいたスナイパーのような男を弾き飛ばした。
「すごい……」
見たこともない攻撃の連発で全てを片付けてしまうメイに、こぼれる感嘆。
「やっぱりまもりちゃんがいると、よいしょっ! 安心して目線を遠くに向けられていいねっ」
そう言って笑いながら、飛んできていた【爆裂宝珠】を片手でつかんだメイは、お返しの投擲でこのマップ最後の敵を吹き飛ばした。
「すごすぎます……」
その驚異的な反射と的確な動きに、まもりは思わず唖然としてしまうのだった。
盾のまもりと、野生のメイ。
二人は超高難易度と言えるこのクエストを、難なく乗り越え突き進む。
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