740.めずらしいクエストです!
「医者業はもうやってない。他を当たれ」
ようやく見つけた医者は酒を飲み干すと、すげなくそう答えた。
「ええっ!? でもすごい毒なんですっ!」
必死なメイに、まもりもこくこくうなずく。
しかし医者は、再び「帰れ」とだけ言い放って背を向けた。
「そこを何とかお願いしますー!」
何とか待ってもらおうと、医者の裾にすがりつくメイ。
医者、その力が強すぎて一歩も進めない。
しかし歩数はあらかじめ決まっていたのだろう。
しばらくその場で足踏みした後、不意に立ち止まった。
「……どうしてもと言うのなら、街を出て北に進んだ先の森に、解毒に使う【ヴィエジャ草】がある。さっき男を助けたのが最後でな。あれがないと俺は仕事にならないんだ」
「取ってきます!」
すぐさま応えて、動き出すメイ。
そのまま二人は北の森へ向かい、さっそく【ヴィエジャ草】探しを始める。
足元には薄く水の張った池。
木々の密度は高くなく、静かなたたずまいをしている。
渡されたメモを見ることで草の形状を把握し、捜索を開始。
「この草に見覚えありますかー?」
池の水を突いていた鳥に尋ねるも、首を傾げる。
いよいよメイは、付近の動物の手も借りて一緒になって探し出すが、どうしても見つからない。
「こ、これだけ探しても見つからないなんて……」
『指定範囲』はあらかた探し回ったが、それらしきものすら見あたらない。
そんな状況に、まもりは焦燥を覚える。
「うーん、ないなぁ」
メイでも見つからないとなると、よっぽどのレアアイテムなのだろう。
稀にゲームである『範囲内』で必要なものを見つけられず、圏外へ出てしまう現象もしばしば。
それでも、見つからない。
あらためて二人はスタート地点に戻り、見落としがないかを再確認しようとし始めたところで――。
「あれは……」
一人の男が、何やら草を手に森を歩いているのが見えた。
やがてメイたちの前を通りかかった男の手には、明らかな【ヴィエジャ草】
「「っ!」」
二人は、これは何かあるとすぐさま駆け寄る。
「あのっ! その草はどうしたんですか?」
「ああ、これは病床の親を助けるために見つけてきた【ヴィエジャ草】だよ。8時間かけてようやく見つけられたんだ。一秒も早く帰ってやらんとな……!」
「「8時間……」」
そう言って去っていく男。
そこに現れたのは、一頭の大型狼。
「う、うわあああああ――――っ!!」
これに驚いた男は大慌てで逃げ出していく。
しかし狼の方は特に男を襲う様子もなく、興味なさそうに立ち去っていく。
そして、その場に残されていたのは――。
「……あれ、さっきの人の道具袋でしょうか」
【ヴィエジャ草】が入った道具袋。
慌てて逃げ去った際に落としたのだろう。
「た、大変だーっ! まもりちゃん、急いで後を追いましょうっ!」
「は、はひっ」
メイは道具袋をひろうと、走って男の去って行った方へ。
「一秒も早くって言ってたよね!」
「は、はひっ。確かに言ってましたっ」
一刻を争う状況なのだろうと、二人は急いで追いかける。
男はよほど驚いたのか、そのまま街の方へと逃げていった。
結局元来た街に戻ってきてしまったメイたちは、そのまま中央街へ。
すると、一人の豪華なマントを羽織った男がこちらにやってきた。
「君たちちょっといいかな?」
「はいっ」
「その薬草を譲ってもらいたいのだが」
「ええっ! これはわたしのじゃないんですっ!」
「アイテムの出自にはこだわらない。そうだ! 譲ってくれるのなら、私のコレクションしている武器や防具の中から好きな物と交換でもいいぞ!」
「でも急いでるって言ってたんです! ごめんなさーい!」
しかしメイは、特に気にすることもなくこれをスル―。
まもりも全く気に止めない。
二人は大通りを駆け抜け、そのまま街はずれの方へ。
「あっ、いた!」
そこでついに、落とし物の男を発見。
メイが駆けつけると、息を切らした男が困惑気味の顔で振り返る。
「あれ、どうしたんだいお嬢さん」
「これ、落とし物ですっ!」
「これは……おお! これは助かった!」
男は少し大げさな声を応えて、道具袋を受け取った。
そして【ヴィエジャ草】を手に取り確認する。
「もどりましょうっ! あの森にちゃんと生えてるみたいだし、今度こそがんばろうね!」
「は、はひっ」
「それではおだいじにっ!」
男にそう告げて、二人はここで再びターン。
北の森を目がけて走り出し――。
「おい、【ヴィエジャ草】は無事に戻ってきたぞ」
「あれ、先生?」
男がそう言うと、近くの建物から状況を見守っていた医者がやってきた。
意味が分からず、首と尻尾を傾げるメイ。
「……悪いが、お前たちを試させてもらった」
「へへっ、そういうことだな」
「どうやらお前たちの目的は、『毒』や『解毒薬』を用いて良からぬ利益を得ようというものではないようだ」
「……どーいうこと?」
今度は反対方向に首と尻尾を傾げるメイ。
「すまないな。そもそもあの森に【ヴィエジャ草】なんて生えてない。そんな中いくら探しても見つからないアイテムを落としてしまう男と、高級な装備品との交換を迫る者の登場で、お前たちの人間性を見させてもらった」
どうやら【ヴィエジャ草】を落とした男も、交換を申し出た男も、全てプレイヤーを試すクエストになっていたようだ。
男の落とした【ヴィエジャ草】をそのまま医者に持ち込んでもアウト、交換を持ち出してきた男の話に乗っかってもアウトだ。
「もう医者業をしていないというのは本当だし、足りていない道具の準備をするのに時間が必要だったんだ。何より、毒も薬も使い方次第で武器にも金にもなる。そのせいで目を付けられていてな。だから……お前たちの人間性を試す必要があった。誰かを助けたいという思いは本物なのかどうか」
「そういうことだったんだ……」
「こ、ここからまた、クエストにつながるのでしょうか……!」
「……冒険者たちよ、腕は確かか?」
「メ、メイさんなら間違いありません」
「えへへ」
質問の意味よりも、「メイなら大丈夫」と即座に応えたまもりに、ちょっと照れるメイ。
すると医者は酔いを醒ますように、自らの頬を強く叩いた。
「そうか。それなら連れていってくれ。その患者のもとへ。この街では……少し動きづらくてね」
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