709.花の都フローリス
「これはひどい……」
噂を聞きつけてやって来たパーティが、その惨状を見てつぶやく。
花の都フローリス。
そこは街のいたる所に美しい花が咲き乱れる、『星屑で最も美しい街』と称されていた。
だが今は大型クエストの挑戦に失敗し、『終わった街』となってしまった。
穏やかな陽光も薄雲に隠れ、どこか薄暗い。
「おい、なんだこれ!?」
終わった街の観光にきたプレイヤーは、油のように表面を光らせる水たまりに立っていたところで気づいた。
「HPがとんでもない速度で減ってくぞ!」
「【劇毒】だって……!?」
「【毒消し】を使おう」
手持ちの毒消しを使用し、【劇毒】が消えたのを確認してひと安心。しかし。
「お、おい! ここに踏み込んでるだけで即【劇毒】になるのかよっ!」
すぐさま始まるHPの減少。
あらためて見れば、水たまりの範囲はすさまじく広い。
「マズいぞ、すぐに出よう」
「急ごう!」
使うそばから即【劇毒】状態になってしまうということは、早く抜け出さなくては死に至るという事。
慌てて走り出す観光プレイヤー。
「「「うおおっ!?」」」
しかし彼らが慌てて水たまりの端にたどり着いたところで、突然地面から湯気のようなものが吹き上がった。
「う、うごけない……っ!」
広がる煙を喰らったパーティは全身が痺れ、その場に倒れ伏す。
「お、おい! 早くしないと……HPがっ!!」
「ダメだ! 全然体が動かねえッ!!」
アイテムを使用してこの状況をどうにかできないかと必死に考えるが、それすらできない。
「だ、ダメだ……」
「終わりだな、フローリスは」
「これまで二つ、大型クエストの失敗で崩壊を迎えたマップがあるけど、ここは段違いに酷い……」
【劇毒】により、あっという間にHPがゼロになる。
崩壊都市観光に来たプレイヤーたちはこうして、滞在わずか10分ほどで死に戻りとなってしまった。
王都ロマリアや聖教都市アルティシアのように、大きなクエストを乗り越え守られた街とは違い、ここはクエスト失敗によって失われた街。
そして一度失われた街が復活を遂げたことは……かつて一度もない。
どちらの街も、廃墟のままだ。
そんな三つの崩壊都市の中でも、花の都フローリスは『一番酷い』という烙印を押された。
「……こ、これは?」
やって来たのは、淡い金の髪を頭の左右で大きなお団子にした一人の少女。
年齢は16,7歳くらいか。
モコモコのファー付きフード、白地にグレーの鎧をまとった姿は、騎士にも剣士にも見える。
緑が鮮やかな紋章入りの盾がよく目に付く。
星屑フェスを楽しんだ彼女は、鼻歌交じりでフローリスに帰ってきて愕然とした。
「ど、どうしてこんなことに……?」
街に人気はなく、賑やかだった通りも閑散。
石畳はめくれ上がり、街中に咲き誇っていた花も見当たらない。
あるのは毒々しい沼と、妖しい無数の水たまり、そして噴き出す煙と奇妙な植物だけ。
フェスに行く前まで見ていた光景とは、まるで別物だ。
「もしかして、場所を間違えた……?」
少女はあらためて付近を確認してみる。
しかしこの街のシンボルである、かぶさった花で少し見にくいアーチ形の時計台は、確かにそこに存在する。
「そうだ……!」
辺りを見回しながら、小走りで進む。
かなりの引っ込み思案である少女には、唯一会話ができる相手がいる。
最近では思い切って声をかけてみたこともあるその相手は、NPCの少女だ。
「いない……」
しかしいつも元気な笑顔でハウジング用の種を売っていたNPC少女は、その姿を消していた。
最初は声をかけられるたびに「ひぃうっ!?」と飛び跳ねていたが、相手は人間ではなくNPC。
そして必ず笑顔で声をかけてくれたので、少しずつ慣れてゆき……そして少女はこの街を拠点とした。
今ではもう、アイテム欄が種でいっぱいだ。
「雨……」
すっかり変わってしまった街の惨状を見ながら、少女は悲しそうにする。
そこに降り出した雨は、薄紫がかっていて気味が悪い。
「HPが減ってる」
しかも降られるほどにHPが減っていく仕様のようだ。
場所によっては、その他の様々な状態異常まで引き起こす雨。
「だ、だれかいませんかー?」
突然拠点の街が消えてしまった少女は、行く当てもなく走る。
「だれか、い、いませんかーっ?」
まさかの事態にはヒントもなく、どこへ行けばいいのか見当もつかない。
「まず、何があったのかを調べた方がいいのかも。元に戻す方法もあるかもしれないし」
しかし当てなどない。
衝撃にふらつく足を進めながら、何かきっかけになるようなものがないかと走り続ける。
何もない。
人気もなく、魔獣すらいない。
雨は降り続き、閑散とした光景だけが続く。
突然失った、花の都という拠点。
立ち止まり、呆然とする少女。
その目に、見覚えのあるプレイヤーの顔が映った。
「…………メ、メイさん?」
「あれっ?」
まさかの登場人物に、驚く少女。
うっかり呼びかけてしまった野生の王者、メイと目が合った瞬間――。
「あ、すすすすみませんっ。わわわ私みたいなのがなれなれしくっ」
距離感も声のかけ方もまるでなれなれしくはなかったが、手にした盾に隠れて「すみませんすみません」と頭を下げる少女。
しかしメイは尻尾をピンと立てると、笑顔を向ける。
「ああーっ! カフェに来てくれた、盾の戦士さんだよーっ!」
メイはうれしそうに、尻尾を左右にブンブンと振ってみせた。
どうやらメイのいる時間帯に二度カフェにやって来た盾の少女は、記憶にしっかりと残っていたようだ。
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