702.約束と遅刻と
「本日のインタビュー、ゲストは素敵な『野生』のお姉さんこと、メイさんでした!」
「ありがとうございましたーっ!」
乱れ飛ぶ拍手の中、両手を振りながら舞台から降りたメイは大急ぎで会場を後にする。
「…………あれ?」
何か紹介の内容におかしな部分があったような気がするが、気にしてはいられない。
「ありがとうございました。時間が押してしまって申し訳ありません」
無事にイベントを終え、運営も感謝と謝罪を告げてくる。
「いえいえっ! 楽しい時間をありがとうございました! 約束があるので、失礼いたしますっ!」
メイは再び大きく頭を下げると、大慌てで走り出す。
「最後のクエスト、遅くなっちゃった」
三人でした約束は、フェスの最後を大きなレイド戦で飾るというもの。
「三人で一緒にって、約束したのに……っ」
すでに大規模レイドボス戦は、始まってしまっている。
お祭りに遅れてしまい、一人走る自分を思うと寂しさが募る。
今ごろ、たくさんプレイヤーが巨大なボスを相手に熱い戦いを行っているのだろう。
一心不乱に、会場へ向けて駆けるメイ。
「……あれ」
やがてその目に見えてきたのは、見慣れた魔導士とアサシンの姿。
「レンちゃん!? ツバメちゃん!? 待っててくれたの!?」
「当然じゃない」
「やはりイベントごとは、時間が押してしまいますね」
それは二人並んで建物の屋根に腰を下ろし、メイを待つレンとツバメだった。
「レンちゃん! ツバメちゃん! ありがとーっ!」
屋根から降りた二人に、思わず飛びつくメイ。
そのまま両手に力を入れて、強く抱きしめる。
「それじゃあ行きましょうか。なかなか派手な戦いになってるみたいよ」
「ワクワクしますね」
「うんっ!」
さっそく『包帯』と『眼帯』を身にまとうレン。
三人は駆け足で現場へと向かう。
視えたのは巻き上がる砂煙と、閃く派手なエフェクト。
一時的に黙示録の獣をダウンさせたものの、白熱の大型レイド戦には確かに『焦り』の色が混じっていた。
「メイちゃんっ!! 来てくれたんだね!!」
後方から指示と支援をしていたローランが、その目に輝きを灯す。
そしてさっそく、現状の説明を開始する。
「このボス、少しレベルが違うよ。攻撃の火力や範囲が広いのはもちろん、HPがすごく高くてなかなか攻め切れないんだ。しかも制限時間いっぱいまでに打倒できないと、未達成で終了になっちゃう」
「今からだと、持てる力を一気に叩き込むくらいでちょうど良さそうね」
「前衛組はもうHPもMPも少ないし、ボスのHPは半分以上残ってる」
「グラムやアルトリッテ、刹那やリズがいても不利なの……?」
「恐ろしい状況です」
「時間も足りないし、攻め手にも欠けてきてるっていうのが現状だね。このまま最前線に向かってもらえるかな」
うなずき合う三人。
そのまま前衛組のもとに向けて走り出す。
「ツバメちゃん、本物のアサシンの力を見せて欲しいですな!」
「可愛いアサシンちゃん、お願いね」
駆けるツバメに、なーにゃとシオールが声をかける。
「ここからは貴方たちが中心ですわ」
「ナイトメア、貴様の力を見せてみろ」
「使徒の先の行く者、お手並み拝見だね」
さらに白夜とリズ、刹那が続く。
「メイ! 遅いぞ!」
「遅れて来ることでこの神槍より目立つとは……! ここからしっかり働いてもらうぞ!」
そして気づいたアルトリッテとグラムが、そう言って笑う。
「見ろ! 俺が参加してるんだ! メイちゃんは必ず来る!」
「俺たちは生成された中ボス級を徹底して叩くんだ! 絶対にメイちゃんたちに無駄な『一振り』をさせちゃダメだ!」
「「「おうっ!」」」
さらに掲示板組も、メイたちの到着にわき上がる。
こうしてメイたち三人が、戦いのバトンをつなぐような形で最前線へ踊り出た。
「こいつ、なかなか骨があるぞ」
「頼むぞメイ!」
「おまかせくださいっ!」
「時間も少ないし、全力全開でいきましょう」
「そうですね。到着したばかりですが、早くもクライマックスです」
そして笑顔で応えると、メイは剣を手に取り掲げてみせた。
「めいっぱい、がんばりますっ!」
並んだメイたちは、いつもの陣形を取りうなずき合う。
「【蓄食】っ!」
そして早くも取り出した両手のバナナを、ちょっと背中で隠しつつ一気に使用。
【腕力】値を大きく向上させる。
「いきますっ! 【バンビステップ】!」
先陣を切り、走り出すメイ。
気づいた黙示録の獣は、7つの頭で一斉に攻撃を仕掛ける。
先頭の喰らいつきをかわすと、時間差で左右から迫る2つの頭。
これをしゃがんでかわしたところに見えたのは、15連の炎砲弾。
一つ一つを大きな動きでかわしてしまうと、その後を狙われると予感。
左右への最小限の動きと、『下』をすり抜ける形でメイはこれを回避する。
「下をくぐれば回避後を突かれにくいのか!」
それを見たアルトリッテが、感嘆の声を上げた。
しかし残った3つの頭は左右、さらに上方からメイに接近。
左右からの攻撃をかわしたところに、上からの喰らいつきを叩き込むつもりのようだ。
「それっ!」
メイはわずかな時間差で来る2つの頭を大きな斬り払いで弾くと、そのまま剣を下方に構えて――。
「【アクロバット】!」
そのままサマーソルト、大きなトンボ返り斬りで斬り飛ばす。
すると炎弾を吐き終えた五つの頭が、その目をメイに向け口を開いた。
わずかに見えた白煙。
次の瞬間放たれるのは、超高速の水砲弾。
「【お仕置き戦樹】!」
スキルの発動と同時に振り上げた右腕に合わせて伸びる木々の根が絡み合い、放たれた2つの水砲弾を弾く。
「おしおき!」
続く2連の水砲弾を、左手後方から伸び出す木々で弾く。
「おしおき!」
そして最後は先ほど喰らいつきにきた頭も含めた、3連発を弾き飛ばし――。
「おしおきだーっ!」
振り上げた手に応える形で突きあがった木々の根が黙示録の獣の腹部を捉え、大きく後方へ転がした。
しかし、その起き上がりは速い。
「メイちゃん! 合体ブレスだけは気をつけて!」
「りょうかいですっ!」
ローラン必死の叫び。
7つの頭が同時に放つ合体ブレスは、視界を丸ごと焼き尽くすほどの高温にして広範囲。
直撃すれば、ただでは済まないだろう。
だが、それでもメイは下がらない。
その場で大きく息を吸うと――。
「がおおおおおおおお――――っ!!」
「「「ッ!?」」」
ゴウッ! と、音に聞こえるほどの衝撃。
付近一帯を融解させようかというほどの高火力ブレスが弾け飛び、火の粉になって消える。
【蓄食】による強化【雄たけび】は、参加者たちにとって脅威になっていた合体ブレスをかき消してみせた。
「今が好機ね!」
「はいっ!」
参加者たちが身体に走るビリビリとした痺れに唖然とする中、レンとツバメは流れを逃さない。
「【加速】【リブースト】【電光石火】!」
一気に距離を詰め、腹部に斬撃を決める。
「【紫電】!」
そしてそのまま雷撃をつなげて、硬直を奪った。
「――――それではどうぞ、お越しくださーい!」
メイが掲げる右腕。
召喚の腕輪によって空中に生まれた魔法陣から、落ちてくるのは巨大な象。
「「「うわっ」」」
着地と同時にその場にいた誰もが一度、小さく浮き上がる。
「おねがいしますっ!」
放たれるのは、黙示録の獣が放ったものを大きく上回る水砲弾。
暴走する重機にでもぶつけられたのかというほどの勢いで、転がる黙示録の獣。
そしてラフテリアの空に、大量の飛沫が舞う。
「【フリーズブラスト】!」
杖を【ヘクセンナハト】に持ち替えて、魔法効果範囲を向上。
レンが放った氷嵐は見事に、凍結を奪い取った。
「【バンビステップ】【モンキークライム】!」
そしてそれを見たメイは走り出し、凍結した獣の足元から首を伝って頭部へ。
「【ラビットジャンプ】【アクロバット】!」
そのまま頭頂部を踏み台にして跳躍し、空中で一回転。
「【装備変更】からの――――!」
頭装備を【狐耳】に換えると、手にした剣に青い【狐火】が灯る。
「【フルスイング】だああああああ――――っ!!」
振り下ろされる一撃はすさまじいエフェクトと共に炸裂し、直後に青い炎を巻き上げる。
三人は見事な連携で、いきなり黙示録の獣を吹き飛ばした。
「よいしょっ!」
着地と同時に振り返ったメイは、ツバメやレンと笑い合う。
「さすが……っ!」
「やはりこの三人ですな!」
ローランが歓喜で思わず、拳を握ってぴょんと飛ぶ。
これにはなーにゃも、大きくうなずいた。
「メイちゃんが来て、いきなり流れが変わり出した!」
「いけるぞ! メイちゃんたちがいればいける!」
それでも黙示録の獣のHPは6割以上を残している。
その体力は明らかに異常だが、やはりこれまでとは戦いの流れが違う。
プレイヤー側が優位を取る瞬間が来たのだと、誰もが感じ始めたのだった。
誤字報告、ご感想ありがとうございます! 適用させていただきました!
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