701.真実
「ど、どうしましょう……っ!」
「なんだ、どうした?」
顔を青ざめさせる運営担当者の一人に、声をかけるレイド戦責任者。
「今戦っているレイドボスなんですが、テスト時に使った設定値をそのままにしてしまったようです」
「感じていた異常な強さの原因はそれか! テスト時ということはもしや……例のもの用に調整された値をそのまま出してしまったという事か!?」
「はい。申し訳ありません」
まさかの事態に、さすがに責任者も頭を抱える。
「……もう戦いは始まっている。今から調整を入れようものなら、どう決着しても操作や違和感を覚えるだろう」
始まった戦いに手を入れる、それは当然許されることではない。
こうなってしまった以上、戦闘中に突然の弱体化を入れることはなしだ。
責任者は大きく息をつき「よし」と、一つしっかりうなずく。
「このままいこう。現状のトップたちが手を結んでも打倒し得ない、届かないボス。そんなのをフェスの最後に出してきたとなれば、批判も出るだろう」
そう言って、あらためて現状を確認する。
集まったトップたちはよくやっているが、それでもやはり足りてない感じだ。
「だがこれだけのプレイヤーをもってしてもなお、勝てない存在がいることをここで知らせておくのも悪くはない。まさかこんな形でお目見えすることになるとは思わなかったが、こうなった以上容赦のない結果になることは確実だ。我々も腹を決めよう」
「は、はい……っ!」
こうしてレイドボス戦の担当者たちは、プレイヤー敗戦という未来に対して覚悟を決めた。
◆
「当たるのものかっ!」
一つ目の顔が仕掛けてきた喰らいつきを、しっかり引き付け回避。
すると二つ目の顔が即座に炎弾を吐き、これをかわしたところを三つ目の顔が喰らいつきにくる。
「くっ! 【セイントシールド】!」
たまらず黄金の盾で防御。
直後【爆炎喰らいつき】は猛烈な炎を上げるが、物理攻撃後の派生まで対象とする防御スキルで難を逃れる。
「【ソニックドライブ】!」
ここでグラムは距離を詰め、アルトリッテの盾に喰いついた頭を狙いにいくが――。
「「ッ!!」」
左右二つの顔が同時に吐くブレス。
「【ソニックドライブ】!」
「【ペガサス】!」
広範囲高火力の一撃に、二人慌てて回避に入る。
するとそこへさらに、光る尾による強烈な叩きつけが迫りくる。
「くっ!」
「ぬああああっ!」
これが肩や腕を弾き、前衛二人は2割近いダメージを喰らって大きく体勢を崩した。
一体の敵にして7回攻撃を誇る、黙示録の獣。
【喰らいつき】と【炎弾】の組み合わせに加えて範囲攻撃の【ブレス】時にバラバラ、時に合体で放つ攻撃は、一方的な攻めを継続する。
「なるほどね。黙示録の獣は、リヴァイアサンとの同一視によって作られているようだよ」
「そのようだな」
刹那の言葉に、応えたのはリズ。
「それじゃ、ボクたちもいこうか」
グラムとアルトリッテへの追撃を阻止するタイミングで動き出す、闇の者たち。
「――【早駆け】」
先頭を切ったのは、鳴花雨涙。
高速移動で一気に距離を詰めると、放たれた炎弾を見て急停止。
「【風遁・爆進脚】!」
サイドステップで軸をずらしてからの超高速接近。
「【遅れ咲き】【苗木越え】!」
赤の切り傷を刻み込み、そのままハイジャンプ。
この時点では小ダメージだが、その後任意のタイミングで斬撃を起こし、隙を作ることができるのが【遅れ咲き】の利点だ。
「――今!」
「もらったよ! 【クルシフィクション】!」
雨涙の起こした斬撃によって飛び散る血しぶきと、生まれた隙。
刹那が放つのは、鎖が突きあがり敵を磔にするスキルだ。
紋様の刻まれた鎖が縛るのは、巨体ゆえに腕のみ。
その拘束は短時間だが、確かに獣の動きを大幅制限してみせた。
「頼んだよ」
「頼みます」
「「――――レクイエム」」
そんな二人の視線に、動き出すのはリズ。
「【暗衝】!」
足元に黒色の波動を残しながらの突撃で、一気に距離を詰める。
「喰らうがいい! 【暗天の大剣】!」
放つ回転斬りは、付近一帯を薙ぎ払う重い一撃。さらに。
「それでは詰めが甘いのではなくて? 【ライトニングスラスト】!」
リズの真横を追い越していく白夜。
直後、腹部に突き刺さったレイピアにまばゆい光が集まる。
「【極光乱舞】!」
燐光が舞い散る爆発、獣が大きく弾き飛ばされた。
「すげえ……っ!」
「使徒たちの連携だ!」
ここでしっかり全員がポーズを決めるのが、使徒が使徒たるゆえん。
確かな連携は、確かなダメージを与えた。
しかし獣はヒザを突くことで転倒を防ぎ体勢を立て直すと、これ以上の追撃を許さない早い復帰から反撃へ移る。
六つの頭が同時に放つブレス。
火力と範囲の大幅な向上によって、回避の隙もなし。
「「「うわあああああ――――っ!!」」」
これによって前衛にいた使徒たちは、2割から3割に迫るダメージを受けた。
キュービィやアトラクナイア、ローチェといった中距離組もイフリートの背後に隠れることでやり過ごすが、わずかにかすめてHPを減らす。
どうにか召喚獣と盾防御で切り抜けたトップ組だが、HPもMPも減りが目立つ状態だ。
「「まだだ!」」
叫び声は、先頭のアルトリッテとグラムのもの。
ブレスに参加しなかった7つ目の頭は、追撃も可能な状況で待機していた。
この時点で選んだターゲットは、魔導士が呼び出す中ボスたちを片付けていた参加者たち。
放たれる巨大な火炎弾。
その一撃はなんと、『溜め』から放たれた。
「あぶないっ!」
思わず叫ぶローラン。
イチかバチか放った矢は、豪炎球に飲まれて消える。
「任せるぽよ――っ! 【飛び跳ね】【材質変化】!」
ここに飛び込んで来たのはスライム。
直撃すれば付近一帯を焼き払い、中ボス狩りの参加者たちを一気に瓦解させてしまう一撃を、身を挺して止める。
飛び散る猛烈な火花に、誰もが言葉を失う。
地面に叩きつけられたスライム。
本来であれば、一撃死もありうる火力の一撃。
「あ、危なかったぽよーっ!」
しかしスライムは【材質変化】を『攻撃の種類』に合わせることで、ダメージを軽減できることを知っていた。
HPの5割を飛ばされたものの、無事生き残ることに成功。
「すげえな、あのスライム!」
「やるじゃーん!」
思わぬ見事な動きに、驚きを見せる金糸雀とローチェ。しかし。
スライムが抜けたところに生まれた隙間。
新たに生成されたキングオーガ二体が、部下を引きつれ猛烈な勢いで襲い掛かってくる。
「……貴様と共に戦うのは今回だけだ」
「は、はい」
「【魔王滅殺剣】!」
「【熾天剣舞】!」
上司と部下が放つ一撃で、キングオーガの片割れが吹き飛び消える。
「お前の相手はこのオレだぁぁぁぁ――――っ! 【奈落落とし】ィィィィ――ッ!!」
そして二体目の頭には、裸に金仮面の男が跳躍から降り下ろすハルバードが直撃して消滅。
続く魔導士組の攻撃で、お供のオーガたちを片付ける。
息をつく後続組。
「生き残りがいるぞ!」
「このままじゃ前線に入り込まれちまう!!」
しかしその背後に残っていた猛獣を見落とした。
絶対に崩したくない戦線を狂わせるかもしれない、足の速い魔獣オルトロス。
後続組は思わず冷や汗をかく。
「えいっ」
「……な、ないすぽよーっ!!」
誰もが慌てたところに、現れた少女。
これまで付近をウロウロしていた迷子ちゃん、騒がしいと思ってたどり着いた先でまさかの好プレイ。
オルトロスの弱点を一刺しして動きを止めた。
「【不動鉄観音】!」
立ち直った後方部隊を見て、トップたちも再び意識を黙示録の獣に集中することが可能となる。
アルトリッテとグラムが下がった代わりに前に出た金糸雀は、攻撃ダメージを大幅減し、その場から一ミリも動かないスキルで尾の振り払いを受け止めた。
「――【風遁・爆進脚】! 【火遁・竜鳴砲】!」
即座に距離を詰めた雨涙は二刀流を叩き込み、火炎砲で獣を崩す。
「【サンダーウィップ・エクステンド】!」
そして雨涙に喰らいつきにきた頭は、ローチェがフォロー。
「それーっ!」
続く頭をココの拳が弾いたところで、動けるようになった金糸雀が続く。
「いっくぞぉぉぉぉ!! 【ミョルニルインパクト】だあああああ――――っ!!」
炸裂する一撃は地を割り、天を突く派手なエネルギーエフェクトを噴き上げた。
「畳みかけますわぁん! 【流転避行】【首狩り一閃】!」
滑るような動きの瞬間移動から、斬撃の軌跡が駆ける技を叩き込む。
「ここ、勝負所! 【フレアドライブ】!」
「ゴアァァァァァァァ――――ッ!!」
アトラクナイアの指示に咆哮をあげたイフリートが、爆炎をあげつつ迫る体当たりで獣を弾き飛ばす。
「【裂空一矢】【バーストアロー】!」
「……【霊鳥鳳火】!」
着弾と同時に高火力の爆発を起こす矢と、無数の光の鳥が一羽の巨鳥となって突撃する一撃が混じり炸裂。
大きな爆発を巻き起こした。
間違いなく、戦いの優劣を決めるような流れ。しかし。
「あはは……これでもまだ3割にもならないなんて、悪い夢みたいだよ」
「……耐久オバケ」
RPGなどで稀に感じる『まだ無理』『早すぎた』感に、ローランは苦笑い。
どうやらマリーカも同じ感想のようだ。
煙が晴れると、潰れた二つの頭が復活。
六つの頭が同時に口を開き、18発の大型炎弾の乱射を、ローランたちを中心にした後衛に向けて放つ。
「――後衛狙い!」
「退避! 間に合わない者は防御で!」
指示を出してから【ラピッド・ワン】で回避を狙うローランだが、その範囲の広さからは逃れられない。
「「「うわあああああああ――――っ!!」」」
後衛組は続く火炎弾の炸裂に、吹き飛ばされて転がる。
「これ以上は許しませんわ! 【エンジェライズ】【ライトニング・スラスト】!」
追撃を止めつつ再び攻勢を始めるため、飛び込んでいく白夜。
その狙いは見事だが、残った1つの頭は接近するプレイヤーをしっかり捉えていた。
「きゃああああッ!!」
残った頭が放つ水砲弾は、その異常な飛来速度で白夜を弾き飛ばした。
地面に叩きつけられ、跳ね転がる白夜。
さらに獣は前足を叩きつけ、地面が突きあがる。
「「ッ!!」」
これをグラムとアルトリッテが慌ててかわすと、そこに振り回される尾。
「こいつ……っ」
「化物ではないか……!!」
尾に弾かれ2割ほどのダメージを受けたグラムとアルトリッテが、その表情に驚愕を見せる。
見ればココを始めとした前衛別動組も、まとめて戦線を下げる形になっていた。
「しっかりと1つ頭を残してくことで炎弾乱射の後の隙も消し、隙を突きに来た白夜ちゃんにカウンターを叩き込む」
ただ闇雲に7つの頭をぶつけるのではなく、それすらオトリにする戦法を持つ獣はやはり強い。
「どうにか戦いを作ってはいるけど、攻めに勢いが足りてないかも。大技の連携が長くつながっていないのも、大ダメージを与えられない理由かな……」
起き上がったローランは、パーティメンバーの生存を確認しながらつぶやく。
互いのスキルの感覚などもあまり知らないため、連携が最大限をなしていない感じは確かにある。
攻守はしっかりしているが、攻め切れていない印象だ。
「それにおそらく後半戦はまた、新しい強力なスキルも使ってくるはず」
その対応に必要な時間もかかると考えると、閉会式までという制限時間は絶望的な気がしてくる。
「メイちゃんたち、どうしたのかな……」
かつてない厳しい戦いになったレイド戦、メイはまだ姿を見せてない。
「メイちゃんは来ないのか……?」
参加者たちからも、聞こえてくる声。
トップ勢の中にはもう、HPが3割ほどの者もいる。
黙示録の獣の攻撃なら、次に直撃を喰らえば終わりだろう。
ローランはもう一度全体を見回しながら、再び前線のサポートに戻るのだった。
誤字報告、ご感想ありがとうございます! 適用させていただきました!
返信はご感想欄にてっ!
お読みいただきありがとうございました!
少しでも「いいね」と思っていただけましたら。
【ブックマーク】・【ポイント】等にて、応援よろしくお願いいたします!




