562.刹那とレン
旧神殿を越えた先。
アルティシア中央から北へ進んだところにある広場。
石柱によって仕切られ、出入り口には二体の大きな石像。
その足元で咲く花が、どこか神秘的な雰囲気を生み出している。
「あっちだ!」
「おっ、暗夜教団がいるぞ!」
予想以上に大きな展開となったアルティシアの崩壊クエスト。
暗夜教団を名乗る謎の組織と、最強野生児たちのぶつかり合い。
その戦いを見るのに一番いい場所はどこかと、動いていたプレイヤーたちが集まってくる。
「ここに来るのがキミとは……運命的だね、ナイトメア」
夜空には輝く満月。
美しい広場の最奥に並ぶ石柱。
その上に腰を下ろした刹那は、魔法陣を見下ろしながら笑う。
「そして皆さん、聖教都市アルティシアの終焉にようこそ」
両手を開き、妖しい笑みを浮かべたまま『観客』たちにもあいさつを一つ。
黒の衣装を身にまとった刹那とレンの並びに、「おおおお……っ!」と声が上がる。
「とりあえず、ナイトメアはやめて」
聞こえてきた「がんばれナイトメアちゃん」という言葉に、少し恥ずかしくなりながらつぶやくレン。
メイン級の戦いが始まりそうなこの場所には、当然観客も多い。
「どうしてだい? 今夜のキミは……『本気』って感じに見えるよ」
「そ、それは仕方ないじゃない……っ」
恥ずかしかろうが、ゲームで出し惜しみをして負けるのは絶対に許せないレン。
腕の包帯と眼帯を隠しながら、ちょっと顔を赤くする。
「メイは先に、最後の魔法陣を探して」
「りょうかいですっ!」
足が速く発見力に優れたメイは、いまだ未発見の魔法陣探しに動いてもらうことにする。
「どうぞ」
そんなメイを、刹那は追いかけない。
「……最後の魔法陣、大罪悪魔の出現場所は未確定なのが嫌らしいわね」
「ふふ。仮に明けの明星を打倒したところで、四つすべての陣を破壊しなければ街の崩壊は避けられないんだ。おとずれる未来は変わらないよ」
大罪悪魔を打倒して魔法陣を潰しても、どこかの陣が残った状態で時間が来てしまえば魔力が注入。
『終焉』がおとずれるようだ。
それは『倒し切ることができなかった』という判定になるのだろう。
「ナイトメア……使徒の祖の一人にして、その先を征く者」
「なんかすごい感じにしないで」
「妖しさと優美さを感じさせる杖の振り、闇の使徒を背後から動かす戦略、夜月のように輝く黄金の眼」
「…………」
「そして『後衛は近接に弱い』という常識を覆し、【魔力剣】で敵を斬る裏切りの魔導士でもあった」
「と、当時の細かい説明はやめておきなさいよっ!」
かつて特に意識してやっていた演出を暴露され、一瞬で赤面するレン。
「でも、どちらが上かを決めたことはなかった。そろそろはっきりさせてもいいのかもしれないね……ボクの方が強いってことをさ」
そう言って、闇の使徒として共に行動していた頃と変わらない『隙だらけの構え』を取る刹那。
「さあ、啼き叫べ」
月に照らされ、妖しく笑う。
「――――我が狂気の前に」
杖は持たず、【黒銀のバングル】を使うことで両手を空ける。
そして速く大きなステップが可能な移動スキルで、平気で敵に近づいていく。
この変則スタイルが、維月刹那・ルナティックの特性だ。
「【連射】【ブレイズバレット】」
レンに向けた右手から放たれる、五連続の炎。
真紅の弾丸が、怒涛の勢いで飛来する。
「ッ! 五発はなかなか良いわね。正面から撃ち合ったら不利……でも! 【連続魔法】【誘導弾】【ファイアボルト】!」
まともに撃ち合えば、連射が一発少ない分だけ不利となる。
レンは駆けながら魔法を放つ戦い方を選んだ。
【誘導弾】なら射線が外れていても、放った魔法が敵に向かってくれることを利用する形だ。
「【飛び影】」
曲がってくる魔法弾を、刹那は移動スキルで回避。
「誘導弾か。やっかいだね」
首を傾けることで最後の炎弾を避け、薄く笑みを浮かべる。
すると次の瞬間。
「高速【連続魔法】【フレアアロー】」
「速い……っ」
突然の高速直線魔法。
ビームのような尾を引いて飛んできた炎矢が、刹那の頬をわずかに焦がす。
四連発の誘導弾をかわしてたことで気の緩んだ瞬間を、見事に狙い打つ。
「さすがに魔法の使い方が上手だねナイトメア! 【連射】【ブレイズバレット】!」
迫る五連続の閃熱弾を、駆けることでかわすレン。
だが閃熱弾から逃げた先にこそ、刹那の狙いはある。
「【飛び影】!」
その高速直線移動は、まるで瞬間移動を思わせるような速さ。
刹那は一瞬で、レンの手前に飛び込んできた。
「【レビティア】! ほーら飛んだぁ!」
足元に生まれる魔法陣。
直上にいた相手を強制的に宙に飛ばすそのスキルで、レンはまんまと夜空に飛ばされた。
刹那はあえてゆっくり手を伸ばして、照準を付ける。
「【ブレイズキャノン】」
空に浮かぶ的。
無防備状態となったレンに、刹那が放つ真紅の炎砲弾。
そのまま夜空を突き進み、直撃しそうになったその瞬間。
「【浮遊】!」
これを空中で突然軌道を変えることでかわしたレンは、掲げた杖をそのまま強く振り下ろす。
「【氷塊落とし】っ!」
【夜風のローブ】による、空中での魔法使用。
あまり使い道のなかったスキルを、ここで発動する。
「くっ! 【飛び影】!」
落下した家一軒サイズの氷塊は、地面に突き刺さって砕け散った。
「……すげえ」
「見たことねえぞ、こんなレベルの魔法戦……」
その見事な魔法の撃ち合いに、早くも夢中になるプレイヤーたち。
二人の戦いは、さらに激しくなる。
「やるねナイトメア。これならどうかな【チェーンスキューア】」
「ッ!!」
足元に生まれる黒点。
次の瞬間、両刃のダガーが先端に付いた10本の鎖が、突然地面からクロスするように突きあがった。
「あっぶな!」
全面に紋様の彫り込まれたダガーは、転がり出るレンの足をかすめる。
「【連射】【ブレイズバレット】」
すぐさま立ち上がって駆ける。
必死の全力疾走で、どうにか全てを避け切ったところで――。
「【飛び影】【連射】【ブレイズキャノン】」
飛び込んできた刹那が、眼前に手を突き出してきた。
「ま、ずッ!!」
ゼロ距離で放たれた二連の砲撃を、転がり出る形で直撃をギリギリ回避。
余波に吹き飛ばされながら、上級魔法二連発を可能にする【連射】の性能に驚く。
「【設置魔法】【フリーズブラスト】!」
ここでレンは手前二面に、魔法陣を設置。
「解放っ!」
追って来る刹那に罠を発動する。
「そんな事だろうと思ったよ」
しかし刹那は魔法の方向性を予測し、手前で停止。
噴き上がる氷嵐を難なく回避した。
「……【誘導弾】【フレアストライク】」
やがて二面張りの氷嵐が晴れたところで、刹那は即座に魔法を発射。
「【連射】【ブレイズバレット】」
迫り来る閃熱弾に、レンも再び正面から向かい合う。
「【低空高速飛行】【誘導弾】【連続魔法】【ファイアボルト】」
高速飛行で横に退避しながらの攻撃を見せることで、刹那の注意を奪う。
迫る炎の弾をかわしながら、撃ち合う両者。
「…………?」
刹那が不意に、異変に気づく。
観客たちの視線がなぜか、空に向いている。
「どういうことだ……なッ!?」
視線を上げて、驚愕する。
夜空には、自らを狙って落ちてくる炎砲弾。
これまで余裕を崩さなかった刹那も、さすがに表情を変える。
直後、二つの氷嵐に隠す形で打ち上げられていた炎砲弾が地面に炸裂。
「ッ!!」
直撃こそかわしたものの、かすめた爆炎に地面を転がった。
「高速【連続魔法】【ファイアボルト】!」
「くっ!」
追撃に放たれた高速炎弾を、刹那はとっさの横っ飛びで回避する。
「こっそり打ち上げておいた魔法が、誘導で落ちてきて当たる。やっぱり君はすごいよナイトメア。魔導士として挑んだのでは厳しいみたいだ……」
レンの思いがけない戦い方に、それでも「さすがだね」と笑う刹那。
「すげえ……魔導士ってこんな戦い方もできるのか……」
「やっぱ闇の使徒ちゃんスゲーわ」
「こういうのだよなぁ。このパーティのすごさは」
魔法の使い方一つで戦況を優位に変えるレンに、観戦者たちが感嘆の声を上げる。しかし。
「ここからは、悪魔召喚士としてお相手しよう」
刹那はそう言って、月に向けて指輪を掲げる。
「さあおいで――――ボクのアモン」
静かな召喚の直後、落雷のような激しい赤光が天地を駆けめぐる。
足元に生まれた巨大な魔法陣が煌々と輝き、風が薙いでいく。
轟音と共に現れたのは、狼の腕を持つ半蛇のフクロウ。
「始めようナイトメア。ボクは強いよ…………誰よりもね」
禍々しい赤い輝きの中。
強欲の悪魔を背にした維月刹那は、妖しい笑みを浮かべた。
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