554.墓所の主
「これで神官が自分用の召喚悪魔を手に入れるっていう展開は、防げた形ね」
地上に戻ってきたレンたち。
神官ザケルドは、廃教会のステンドグラスの下で不吉な笑みを浮かべている。
「私たちのルートは神官の手の上だけど、『気づけば』どちらにも付くことができる第三勢力っていう位置づけだったと」
「本当にレンさんが、アルティシアと大罪悪魔復活のカギになっているのですね」
「それはそれで嫌なんだけど……」
「やれやれ。できれば私も、便利に使える悪魔が欲しかったのですがね……」
ザケルドは、これ見よがしにため息をついた。
「ですがアルティシアが滅ぶことに変わりはありません。そして利用できなくなった君たちはもう用済みです。ここで……消えてください」
悪魔の召喚を防いだ場合、ここで戦うのは別のボスになる。
「この研究所の『主』は強力な魔導士でしてね。さあ、出番ですよ」
ザケルドが宝珠を輝かせると、廃教会の足元に広がる魔法陣。
そこから現れたのは、長いローブを引きずった骸骨魔導士。
「――リッチ」
「それでは。私は大悪魔復活へ最後の準備がありますので。不要となった冒険者たちの掃除は任せましたよ」
ザケルドはリッチにそう言い残して、転移していった。
「悪魔を復活させていたら、ここで軽くぶつかった後に逃走。神官も悪魔使いのボスとして再登場するんでしょうね」
ステンドグラスを背に、並々ならぬオーラを放つリッチ。
手にした杖を、静かに掲げた。
「――――!」
声にならない声と共に、上方へ放たれる魔力の奔流。
崩れかけの天井を撃ち抜くとステングラスが割れ、廃教会自体が崩落を始めた。
「また派手な戦闘開始ね!」
もちろん当たれば衝突ダメージを取られてしまう。
崩れ落ちてくるガレキをかわす6人。
するとリッチは杖を手前に向け、強烈な輝きを放った。
生まれたのは、大量の魔法弾。
その全てが、先頭にいたメイ目がけて一斉に飛んでくる。
「よいしょっ!」
落ちるガレキの中でも、メイは回避を失敗したりはしない。
光の尾を引き迫る魔法弾をかわし、ガレキも避ける。
「メイさん! 追尾です!」
「おっとと!」
「この量、この速さの魔法弾が完全追尾って、なかなかやっかいね」
高速で迫る無数の魔法弾は、全て『追尾』の性能付き。
本来回避よりも、対魔法用の防御力が求められる相手なのだろう。
「おまかせくださいっ! 【装備変更】【バンビステップ】!」
しかしメイは、並みの敏捷型ではない。
超追尾の大量の高速魔法を、【鹿角】装備で駆け引き付ける。
そしてわざとつかず離れずの距離を保ち、まるで光をまとって踊っているかのような回避を続ける。
そんなメイの引きつけ回避に驚きながら、踏み込んでいくのはツバメと雨涙。
「【加速】」
「――【早駆け】」
するとリッチは杖を掲げ、そのシルエットを大型化。
猛烈な冷気を吹き上げる杖を、振り下ろしてきた。
地面を叩く形の攻撃が『氷の突き上げ』を引き起こすのだろうと判断した二人は、そのまま左右に分かれるように跳躍。
見事に氷刃を回避した。
「【加速】【リブースト】」
「――【早駆け】」
同時に着地した二人。
ツバメがリッチの左側を、雨涙が右側を、互いにすれ違うような軌道で斬り抜けていく。
するとリッチはツバメに狙いをつけ、魔法を放った。
連射された魔法弾が強い誘導で飛んで来る攻撃魔法は、走り続けることでしかかわせない。
「【加速】」
これをツバメはメイのようにしっかりと引き付けてから【加速】で距離を取る。
そうなれば当然、雨涙の手が空く。
「【封魔手裏剣】」
振り返り際に雨涙が投じた大型手裏剣が、見事炸裂。
背中に氷結の炸裂を受けたリッチは、わずかにダメージを受けた。
どうやら魔力系の攻撃には、耐性があるようだ。
リッチが再び掲げた杖に、輝く灼熱。
振り回すと一斉に、溶岩のような粘着質を持った炎弾が飛び散る。
「「ッ!!」」
二人は同時に身をかがめて、これをかすめるだけにとどめる。
喰らえば高ダメージとなる高熱の一撃をかわしたところに、リッチはさらに杖を降り下ろす。
「――――!」
声にならない声と共に放たれたのは、足元から無数に突き上がる光の腕。
それは竜の腕を思わせる、長く武骨な形状をしている。
どう考えても、つかまれば窮地に追い込まれるはずの捕獲系スキルだ。
だがこれくらいの攻撃なら、どうとでもなる。
「【跳躍】」
「――【苗木越え】」
本来完全追尾型の魔法は、どこかに当たるかリッチに一定以上のダメージを与えたところで消える。
しかしメイが完璧に引き付け続けているため、いつまでも後を追い続けてしまう。
そうなればリッチの攻撃は全て『一つの魔法を使用中』の計算となり、連射力は低下してしまう。
「【加速】【リブースト】【四連剣舞】」
着地と同時に一瞬で距離を詰めたツバメは、そのまま剣舞を放つ。
「――【早駆け】【流刃】」
するとノックバックで下がったリッチを追い、後方から駆けつけた雨涙が赤光の刀で二連撃。
「【加速】【リブースト】」
のけ反ったところに、再び飛び込んできたツバメが二連撃。
「――【早駆け】」
互いを追い越し合うようにつなぐ連携。
雨涙が刀による連撃を決めたところで、さらにツバメが駆け込んでいくが――。
「――――!」
リッチは炎をまとった杖を薙ぎ払う。
業炎の一撃が、『手前』のツバメを焼き消した。
生まれた大きな隙に、残り火を割るようにして駆け込んできたのは雨涙だ。
「【遅れ咲き】」
刻まれた傷跡は刀を振り下ろすのと同時に開き、リッチは大きく体勢を崩す。
「――それでは」
「お願いします」
そう言って道を開けた二人の後方から、魔法弾を引き連れて飛び込んできたのはメイ。
「おまかせくださいっ! 【ラビットジャンプ】からの【フルスイング】だーっ!」
炸裂する盛大なエフェクトに、弾き飛ばされたリッチのHPは半分ほどまで減少。
リッチが大きな一撃を受け、メイを追っていた魔法弾も消え去った。
「やったー!」
三人は当たり前のように集まりハイタッチ。
無表情ながらもしっかり参加する雨涙も、まるで同じのパーティの一員かのようだ。
「こういう連携よね、私が期待してたのは」
「「…………」」
白夜とリズ、そろって無言。
そしてリッチのまとうローブの色が、黒から白に変化していく。
「HPが半分になってタイプを変えてきたわね。ここからはパーティ変更でいきましょうか!」
「了解ですわ」
「無論準備はでゅきている」
レイピアを引き抜き、ポーズを決める白夜。
迫力あるアンデッドに噛みながらも、それに続くリズ。
後半戦は、チーム使徒が動き出すようだ。
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