1487.レンの疑念
「ゴグゥ……ンン……」
「ザッハ、なんだよな……?」
戦闘中に、そして今もハウジング仲間である極・魔剣の名を呼ぶ不死の魔物。
今はまた倒れ伏したまま、ゆっくりとHPを回復させている。
「でもこの不死の魔物はザッハで、事の発端じゃないってなると……その前に倒した粘土みたいな魔物の『入れ替わり』を、喰らったってことだよな?」
「そう考えるのが普通だよなぁ」
「元凶の変身する粘土の魔物を倒したのに、不死の化物になったまま元に戻らないのね……回復方法はまた別に探せってことなのかしら」
「ええっ!? 勝っても治してあげられないのーっ!?」
これにはメイも、残念そうにする。
街づくり組の中に潜り込んできた、偽物のザッハ。
そしておそらく本人は今も、倒れている魔物の中にいると思われる。
そんな状況がそのまま続くというのは、さすがに恐ろしい。
「治せないのであれば、この魔物を移動しないとここで復活を繰り返すのでしょうか」
それはさすがに面倒だ。
復活する直前に攻撃して、動けない状況を作り続けるなんて手間がかかり過ぎる。
「それに街づくりの中で急に起きた事件ってことは、他にも気づいてない犠牲者がいるかもしれないのよね」
レンの言葉に、思わず皆息を飲む。
「もしかして、姿を見なくなったゲンサンもか……?」
「とにかく一度、確認してみようぜ」
こうして戦いを終えたレンたちは、再び街の中心部に戻ることにした。
「では、この魔物の回復は私たちが抑えておきますよ!」
一部の掲示板組の申し出を受けて、メイたちは街へ戻る。
そこではすでに、ハウジング組や掲示板組が自分たちの作業を始めていた。
「なあ、ゲンサンを見なかったか?」
「いや、今日も見てないな」
「魔物とか魔法陣とか、ちょっと話が噛み合わないプレイヤーとか、何か怪しいものは見ていない?」
「突然帰って来たプレイヤーさんでも構いません」
「特にないなぁ」
「ああ、でも今日になって来てないヤツならいるぞ」
「……本当か?」
「この時間に来るって話してたんだけど、見かけてないんだよな」
「ちなみに、怪しい魔物を見たりとかは?」
「いや、見てない。そんな話も聞いてないぞ」
約束の時間に来ていない者はいる。
だがハウジング組や掲示板組の中に、魔物の気配を感じた者はなし。
「んー……」
レンは、わずかな違和感を覚えているようだ。
「来てないプレイヤーは存在する。そして魔物の発見はなし……一応、調べておきたいんだけどいいかしら?」
「もちろんだ、何でも聞いてくれ」
「街作り組の中に、橋を完成させた後にやって来た初見の人っていない?」
その問いに、極・魔剣が驚きを見せる。
「なるほど……! ソロで来た新参は特に怪しいかもな。パーティを組んでないのであれば、怪しまれることも早々ない。さすが闇の世界を活きる者は違うな……!」
「その経験が今役に立ってるわけじゃないんだけど!」
さっそくハウジング組と掲示板民が、こっちに渡って来てから初めて見かけたプレイヤーの名前をあげていく。
あがったのは、数人のみ。
「声を掛けに行ってみましょう」
極・魔剣はさっそく、該当者を探して進む。
するとやがて、見かけた一人の人物を指差した。
黙々と街路作りを進めている青年のもとに、極・魔剣が駆け寄っていく。
「どうしたんですか? こんなに大勢で」
ちょっと驚いたようにする青年。
肩に小さな使い魔を乗せた青年は、メイたちに空を駆ける馬を貸してくれたハウジング勢だ。
「いや、調子はどうかと思ってさ」
「上々ですよ」
「一応聞いておくけんだけど、昨日から起きてる妙な事件について何か知らないか?」
「事件? 知りませんね」
青年は【石タイル】を並べながら、首を傾げた。
「やっぱり違うっぽいな」
馬を貸してくれた青年は、極・魔剣に肩を叩かれるも表情一つ変わらない。
こうして踵を返した極・魔剣を先頭に、来た道を戻る。
そしてまた別の鍛冶ソロプレイヤーの元へ。
「なあ、誰か怪しいやつとか魔物とかを見なかったか?」
「知らねえなぁ」
皆、鍛冶プレイヤーの挙動を真剣に見つめるが、やはりおかしな点は見つからない。
そしてそれは、他のプレイヤーも一様に同じだった。
「……謎は謎のまま残る感じかな。来てないプレイヤーも、そのうち出てくるように祈ろう」
「そうだな。こうなった以上、ザッハらしき化物は回復する前に攻撃を繰り返して、どこか遠くに……運んでこようか」
「それしか……ないな」
やはり七不思議は、解決しない。
新たな手掛かりもなく、ハウジング勢が残念そうに息をつく。
不死の魔物が何度でもよみがえってしまうという状況は、さすがにやっかいが過ぎる。
「ザッハ……」
そしてそんな嫌な役回りを、仕方なく極・魔剣が引き受けようとしたその時。
「ちょっと待って」
声をあげたのは、レンだった。
「これまで何人も消えてる可能性があるのに、今日まで話題にならなかったのよね。そしてそっくりに化けて入れ替わる粘土の魔物……ちょっといい?」
思い出してレンは、極・魔剣に提案を一つ。
今度は一人で、青年の元に行ってもらうことにした。
「おーい、度々悪いな」
「はい。あれ、今度は一人ですか?」
「ああ。聞き忘れてたんだけど、怪しいプレイヤーか魔物は見てないか?」
「いいえ、知らないです」
「そっか、悪いな」
あらためて確認を終えた極・魔剣は、再び踵を返してゆっくりと歩き出す。
そして、十数秒ほど後。
青年は極・魔剣の後ろに、音もなく接近。
そのまま――。
「【アサシンピアス】」
「っ!?」
聞こえた声に振り返る。
そこには極・魔剣の背後を、【隠密】で尾行していたツバメの姿。
そして空を駆ける馬を貸してくれた青年が、粘土状になって倒れ伏した。
「……こいつも犠牲者だったのか!?」
「やっぱり、ザッハだけじゃなかった!」
そのまま消えていく青年に、困惑するハウジング組。しかし。
「いいえ、違うわっ!」
異変に気付き、声をあげたのはレン。
「成り代わりを増やしていくのなら、内密なのが前提になるから大勢の目前でプレイヤーを襲うことはできない。だから独りになったフリをしてもらうことで様子を見たんだけど、正解だったわね! 見て、偽物のプレイヤーが粘土になって消えたのに――――肩に留まっていた使い魔が消えてない!」
「……まさか! 最初から本体は……っ!」
極・魔剣が、そう言った瞬間。
青年の使い魔のフリをしていた翼を持つ蛇の魔物が、その目を赤く輝かせて襲い掛かってきた。
「ぐっ!」
「チッ! 思ったより速いぞ!」
「痛っ!」
高速移動からの連続【喰らいつき】が、ハウジング組数名のHPを削る。そして。
「動きは結構なもんだな! でも、勝てない相手じゃないって……こ、これは、なんだ……っ!?」
ダメージはそこまで高くなく、もれる安堵の息。
しかし次の瞬間、噛まれたハウジングプレイヤーの身体が異変を起こし始めた。
「う、うおおおおおおっ!?」
「なんだよこれ、う、うわああああああ――――っ!!」
腕や脚の色が黒く変わり、その組織自体が明らかに人間のものとは違う構成になっていく。
それは先ほど見たザッハのなれの果て、不死の魔物によく似ている。
「そういうこと……っ!! この使い魔みたいな魔物は、粘土で作った人間を街づくり組に紛れ込ませて使役。隙を突いて【喰らいつき】でプレイヤーを不死の魔物化しては、代わりに粘土の魔物に化けさせた偽物を増やしていく……そうやって浸食、崩壊させていくんだわ!」
「それが、不死の魔物の生まれ方ですか……!」
「お、おそろしいですっ!」
「……ええと?」
ゲーム経験の少ないメイがちょっと迷っているが、レンの予想は鋭い。
この事態を生みだしたのは大物モンスターなどではなく、『内側に入り込んでくる』小さな一匹の魔物によるものだった。
まさかの展開に、皆驚きを隠せない。
「う、うああああああ――――っ!!」
次々にその姿を浸食されていく、ハウジング組。
「急ぎましょう! おそらく魔物化が始まっている皆さんは、時間経過で牙をむいてきます……!」
「りょうかいですっ!」
「は、はひっ!」
「元凶の魔物、今度こそ叩かせてもらいましょう!」
「……もちろんだ」
レンの言葉に、極・魔剣はそっと自作の剣を取った。
「ここでザッハの仇は取らせてもらう。いくぞおおおお――――っ!!」
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