1486.偽物の魔物
狂うザッハの正体は、変身した魔物だった。
普通に会話をしたばかりのプレイヤーが、突然襲い掛かってくるという状況が生み出した衝撃は大きかった。
「それなら、本物のザッハはどこに行ったんだ?」
当然生まれる疑問。
「そして偽物は、そもそもどこからやって来たのか……」
尽きない疑問に、極・魔剣が首を傾げる。
これにはさすがにレンやマーちゃんも、思い当たることはなし。
「やはり、もう少し辺りを確認した方がいいかもしれませんね。この場に来ているプレイヤーさんの真偽も含めて」
そしてツバメが、そんなことを言ったその時だった。
「魔物だ! 魔物が来たぞ――っ!!」
聞こえてきたのは掲示板組の、注意喚起の声。
「行きましょう!」
「りょうかいですっ!」
ツバメとメイはいち早く走り出し、声の上がった方へと向かう。
見れば作り掛けの街に向けて一直線に駆けてくる、大型の魔物あり。
不格好な四足の骨格に、黒いぼろ布をまとったような見た目。
真っ赤に煌々と輝く口内と肋骨の隙間、そして目の虚ろさが恐ろしい。
「小物には見えねえ魔物……そしてザッハに化けた魔物が倒された直後……そういうことだよなぁ!」
「お前か! 元凶はああああ――っ!」
「ウボァァァァァァァァ――――ッ!!」
魔物は猛烈な咆哮を上げた後、狂った獣のようなめちゃくちゃな勢いで突撃を仕掛けてきた。
手前に出ていたのは、メイとツバメ。
いびつな長さをした腕を、勢いのままに振り下ろしてくる。
「はいっ!」
右腕の振り下ろしを、メイが横っ飛び一つでかわす。
「当たりませんっ! 【回転跳躍】!」
左腕の叩きつけを、ツバメは横への跳躍で回避する。
「くるよっ!」
「はいっ!」
敵がわずかに首を下げたことに気づいたメイが、注意を促す。
ブレスか咆哮か。
エフェクトの輝きが見えなかったことで二人は、咆哮に備えて防御を選択。
「「っ!!」」
しかし吐き出されたのは、強烈な酸液だった。
防御でもあまりダメージをカットできない、溶岩のような攻撃だ。
「「「うおおおおっ!?」」」
激しい飛沫を散らす一撃は、メイたちの後方にいたハウジング組の一部にまで届いてHPを削った。
溶解による湯気のような粒子が舞う中、魔物はさらに特攻。
なんと次撃は、強烈なヘッドバッド。
「【跳躍】【受け身】!」
狙われたツバメはこれが『かすめた』ことを利用し、着地と同時に【受け身】を使うことで最速の反撃に入る。
「【加速】【リブースト】! 【紫電】【十二連剣舞】!」
敵の動きを硬直させたうえで、二刀流による乱舞を全て叩き込む。
「【サンダーボルト】!」
「【閃光】!」
半端な距離にいた一部ハウジング組も、即座に攻撃を続ける。
こうして敵の硬直時間を伸ばし、程よい距離が生まれれば、そこに駆け込むのはもちろんメイだ。
「【重ね着】【装備変更】! 【アクロバット】からの【フルスイング】だああああ――っ!」
【狐火】を灯した青の一撃は、豪快なエフェクト共に炸裂。
魔物はギリギリのところで防御を間に合わせたが、大きく後退して転倒。
それでもそこから即座に転がって体勢を立て直すと、再びメイとツバメの二人を狙って走り出す。
「喰らいつきっ!」
メイの予想通り、突進しながら放たれるのは恐ろしい【喰らいつき】だ。
「「はいっ!」」
さらに続けて踏み出しもう一撃。
「「はいっ!」」
そこからさらに三発目の【喰らいつき】で迫る。
「「はいっ!」」
これをメイとツバメは見事にタイミングを合わせた、三連続のバックステップで回避。
「すげえ……! めちゃくちゃ息が合ってる……っ!」
「ツバメちゃん!」
「はいっ!」
三連撃の後に、メイの視線が捉えた首を下げる動き。
通常であれば、ここからプレイヤーが狙うのは左右への早い回避だ。
しかし二人は、攻勢を取りに行く。
「【ラビットジャンプ】!」
「【加速】【リブースト】【スライディング】【反転】!」
酸液が吐かれた瞬間、二人は既にその場にいなかった。
メイは敵の頭上を跳び越え、ツバメは正面から接近して足の下をくぐり抜ける。
すれ違った両者。
振り向き合う瞬間は、ほぼ同時だった。
どちらが先に攻撃を出すかで、ここからの展開が決まりそうな状況。
その瞬間鳴り始める、風が集まるような音。
それは魔物が範囲高火力攻撃である【爆音波】を使うための予備動作だ。しかし。
「【同時撃ち】【火炎弾】!」
すでにレンが、パラス・アテネを別動で派遣済み。
三発同時に放たれた炎弾が、魔物に直撃して大きく体勢を崩した。
「ありがとーっ! 【バンビステップ】!」
「ありがとうございます! 【加速】!」
二人は一直線に走り出し、そのまま敵の懐へ。
「【フルスイング】!」
「【三日月】!」
そのまま並んで、垂直の振り降ろしを魔物の頭部に叩き込んだ。
「【隼狩りの矢】!」
「【サンダーボルト】!」
「【閃光】!」
続いたハウジング組の追撃で、与えた大ダメージ。
これで見事に、HPはゼロとなった。
「よォォォォしっ!!」
倒れ伏した、赤眼の黒き魔物。
「でも、消えないわね……」
「ほ、本当ですね」
間違いなくHPは尽きているが、動かず伏したままだ。
念のためまもりは盾を構え直して、注意を向けておく。すると。
「ウ、ウウ……ウォォォォォォ――――ッ!!」
「「「っ!?」」」
魔物は下半身を引きずるようにして、腕の力だけで猛然と前進。
「まさか少しずつHPが回復してるのか? 一度は確かに死んだはずなのに!」
「なんなんだよこいつ! 不死身かよッ!」
「これってもしかして、七不思議の『不死』にかかってるんじゃないか!?」
戦闘中にHPが回復することや、HPゲージがなくなった後に第二形態になる敵は存在する。
だが死んだ後にゆっくりと回復し、また戦うというゾンビのような敵に覚えはない。
「「「っ!!」」」
魔物が振り上げる腕。
狙いはハウジング勢の中でも、戦える方の一団だ。
「う、おおっ!」
先頭に立っていた極・魔剣はどうにか盾で防御して、すぐさま反撃の体勢に入る。
「この位置取りなら、俺でも……っ!」
敵のHPは、数ドット程度。
「喰らえ! 【ぶん回し斬り】!」
大きく踏み出した極・魔剣が、自ら鍛冶で作った剣を振り下ろそうとした――――その瞬間。
「……ゴグ……マゲン」
「ッ!?」
魔物から聞こえた唸り声に、身体がビクリと止まる。
「まさか、今……俺を呼んだのか……?」
驚きと共に、あらためて目を向ける。
すると魔物の首元には汚れているが、確かに見覚えのあるアイテムがあった。
「ちょっと待て! お前そのトンカチのペンダント……ッ!」
「ウヴォォォォォォォォ――――ッ!!」
「ぐああああ――っ!」
魔物の猛烈な体当たりが、極・魔剣を弾き飛ばす。
地面を派手に転がった極・魔剣はどうにか立ち上がり、ヒザを突いたまま問いかける。
「まさかお前、ザッハか!? ザッハなのか!?」
だが、返事はない。
魔物は怒涛の勢いで駆け出すと、容赦なくその大きな口で極・魔剣に【喰らいつき】を仕掛けにいく。
そしてその乱食いの牙が、届きそうになったその瞬間。
「【連続魔法】【ファイアボルト】!」
だがすぐさまレンの放った炎弾を喰らって、再びその場に倒れ伏した。
「……アア……ウウ……」
HPはまたもゼロ。
しかし今回も死なずに、倒れたまますごくゆっくりとHPの回復を始めている。
「まさかお前、七不思議の死なない魔物になっていたのか……!? でも、どうしてっ!?」
ログアウトしたと思われていたハウジングプレイヤー、ザッハ。
その偽物を打倒した後に出てきた魔物は、どうやら変わり果てた姿になったザッハ本人のようだった。
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