#2 初依頼
「さて、せっかくなのでなにか依頼を受けてみましょう」
アンナの提案に二人は驚いた。
「依頼ってもう受けられるんですか? まぁ、私としては願ったり叶ったりなんですけど」
「えぇ、問題ありませんよ。なんて言ったってお二人はもう、立派な冒険者じゃないですか」
アンナの言葉にギルド内の冒険者達もそうだそうだと囃し立てる。
二人は目を見合わせる。
「問題ないよね、マオ」
「もちろん。ずっと楽しみにしてたんだろ」
プノアの問いかけにマオが背中を押す。
「おや、意見も固まったようですね? では、そちらのボードに張り出されている中から好きな依頼を選んでください」
アンナに促された通りボードに張り出された無数の紙を一枚一枚見て回る。吟味の末「スライムの群れ討伐」と書かれた紙に刺さったピンを抜き、その紙をカウンターに置く。
「じゃあ、これでお願いします」
「はい了解です。ちなみにこちらの依頼は、二人で受ける……ということでよろしいですか?」
「ええ。基本依頼は二人で受ける想定だったんですけど、何か問題ありますか」
「いえいえ複数人での依頼受注に関しては全く問題ないですよ。ただなんというか……仲がいいんですね。この街にも二人っきりで来てるわけですし……。もしかしてお二人って付き合ってたり!」
アンナはどうやらそういった類いの話が好みのようで、目を輝かせて二人の関係について聞いてくる。
「いやいや、そんなんじゃありませんよ。俺はただプノアに召使いのように付き従わされ、こき使われてるだけで……」
マオは乾いた目を擦り、悲しんでいる感をだし、プノアに目配せする。
「はぁ? 何よ召使いって、そんなわけないでしょ!」
「だってここに来るまでの野宿中、ご飯作ってたのは主に俺だろ?」
「私だって作ったでしょ! ……3分の1くらいは」
そんなやり取りを見てアンナは、どこか残念なような、けれども微笑ましいように笑っていた。依頼の受注を完了させた二人はギルドの戸を開け、問題の場所へと向かう。
街道を歩いていると、プノアがひとつ苦言を呈する。
「さっき、ちょっと危なかったんじゃないの」
「あのくらいなら大丈夫だろ。そんな疑念を抱いている感じじゃなかったし」
「にしたって、あの誤魔化し方はないでしょ! 何? 召使いって」
「別にそれについては事実だろ」
「それは違うでしょうが。全く……変に誤解されたら面倒なことになるって分かってる?」
会話をしながら歩いていると十分程度で森に到着した。
「この街だいぶ森と近いのね。猛獣が入ってきたりしないのかな」
「そうしたらこの街の人達なら夕食が向こうから来てくれたって逆に喜ぶんじゃないか」
「確かに、そう思えるのは流石は狩人の街ってカンジね」
二人は軽口を叩き合あい、笑いながらながら森を悠々と突き進んでいく。すると――
「ん」
マオが何かに気付く。プノアに目配せをし、視線で『何か』の位置を示すマオの瞳は半透明の青い物体の姿を捉えていた。
「依頼の紙によるとスライムの目撃情報はもっと奥の方のはずなんだけどな……。まぁちょうどいい、この子で試してみよう!」
プノアが右手を前に掲げると、掲げられた手の薬指にはめられた指輪が光を放ち、空間は揺らぎ、そこから一本の角が生えたウサギが現れる。
「いけっ、ラビットホーン!」
プノアの声に応えるようにそのウサギの角が眩しく光り、角から雷撃が走った。閃光はスライムへと一直線に進む。瞬く間にスライムは弾き飛ばされ、木に打ち付けられた。大ダメージを受けた青いゼリー体は潰れて地面に広がっている。
プノアはスライムに歩み寄り右手を添える。
「使役」
プノアがそう唱えるとスライムは光に包まれ、再び現れた空間の揺らぎに飲み込まれた。少女の胸を新たな繋がりの感覚が伝う。
「さて……まずは一匹」
一匹のスライムを捕まえたプノアは、次の獲物を探し森の更に奥を目指して駆け出している。
「依頼内容ではスライムの『群れ』って言ってたから。まさかたった一匹で終わりなんてことはないでしょうね!」
「まあ、というかスライムなんて大して珍しくもない生物なんだし無関係のその辺に湧いた奴を倒しただけだったんじゃないの?」
プノアはその言葉を耳にして立ち止まり、話の腰を折るんじゃないという目でマオを見る。
「……まぁいいのよ。スライムはなんでも食べるおかげで餌代かからないから!いくら使役してもいいの。だからこの依頼選んだんだし」
久しぶりの戦闘に二人が話す声が無意識に大きくなる。その音に引き寄せられるようにスライムの大群がやってくる。
「妙だな、スライムがこんなに群れるのは珍しい。二十匹以上いるじゃないか」
スライムの大群は二人を取り囲む。
「スライムは普通人を避けるはず……たしかに妙ね。まぁ問題ないわよ。やっちゃえラビッドホーン!」
空間の揺らぎから現れたラビッドホーンの角が眩い光を放ち、激しい雷が炸裂する。ラビットホーンの前方にいた八体のスライムは全て弾け飛んで行った。
――このラビッドホーン、エアグナからここに来るまでの道中に拾ったけど思ったより戦えるわね。
「ほらほら! 今のところ新米に全部いいとこ取られちゃって、そんなんでいいのマオ?」
「はいはい。『召使い』もしっかり働かせていただきますよっと」
多少皮肉を込めた返答とともにマオは腰にかけてある短剣を抜き、軽く一振する。すると現れた風の刃がスライムをなぎ倒す。
瞬く間に残りのスライムは一匹のみとなった。最後のスライムは最後の抵抗と言わんばかりに魔法で水を放つが、プノアに向かっていた水球はマオの短剣に容易く弾かれる。
トドメを刺そうとマオがスライムに歩み寄ると、進めた足を独特の感触と粘着感が包む。マオは倒したスライムが『ある一点』に向けて移動していることに気づく。
「っ! これは、さっき倒したスライムがこの一匹に集まってきてる?」
寄り集まったスライムは互いを取り込みあう。スライムは融合し、一匹の巨大な生命体となる。
ラビットホーンは恐怖した様子で震えながらも臨戦態勢を取る。先程以上に角は輝き、巨大スライムは今日一番の雷撃の集中砲火を受けるも、あまり効いていない。
(まぁ流石に、このレベルの相手には通用しないか)
魔力切れで疲弊したラビッドホーンを見つめ、プノアは冷静に考える。
「融合したってことは、それなりに高位のスライムだったのか。厄介だな、とっととやらないと」
「まぁまぁ。」
スライムに飛びかかろうとするマオをプノアが制止する。
「あとは『主人』に任せておきなさい」
先程のマオの皮肉に応える形で場を制し、彼女の指先からは、炎が現れる。放たれた炎はスライムが放った水魔法と衝突するかと思われたが、突如火の玉からは翼が生え、ただ直進する水を軽やかにかわす。ビーストテイマーたる彼女は、炎さえ鳥のように自由に操る。
その優美なる小鳥は、激しい熱と音をもってスライムを吹き飛ばした。
少女は微笑む。
スライムは魔法の衝撃で再び分裂する。飛び散った小さなスライムは弱りきって動けないようだ。プノアはそれを余すことなく使役し、満足げである。
初依頼を滞りなく達成したことにより、二人は森を充足を胸に戻る。依頼の達成を伝えるため二人がギルドに戻ってきた。
「あれ? プノアさん、マオさん。もう戻ってきたんですか? 早いですね」
扉を開けてすぐ声をかけてくれたのはアンナである。
「はい、おかげさまで依頼、達成しました!」
誇らしげな口調で言い、プノアが指輪を掲げるとカウンター上に大量のスライムが現れる。
「わぁっ!?」
驚いたアンナが後ろに飛び跳ね、壁に激突する。
「! 大丈夫ですか、人に危害は与えないようにしてるので安心してください」
「イタタ……大丈夫です。こんなに使役したんですか……すごいですね。依頼はこれで達成です。ありがとうございました、こちら報酬になります」
アンナが報酬としてジャラジャラと音がなる袋を手渡す。手に取ると中に何枚かの硬貨が入っていることが分かる
「ありがとうございます。まだ昼頃で時間もあるのでもう一つくらい依頼を――」
「誰か! 治癒魔法を使える人はいないか!」
扉を勢い良く開ける音と、男性の叫びにギルド内の全員の視線が入口へと向かう。そこには五人の男性がいた。一人は血まみれになっていて気を失っている。
プノアは今ギルド内に響き渡った声に聞き覚えがあった。
他でもない、今朝二人に道を教えた狩人であった。




