#3 狩りの危険性
「猟友会の方ですよね。いったい何があったんですか」
真っ先に男たちに話を聞きに行ったのはアンナだ。
「あぁ、尋常じゃなく強い熊が現れたんだ。普通なら熊なんかにはやられねぇのに!」
例の今朝の猟師が答える。今朝は自分よりも一回り大きい熊を担いでいたのだからその言葉の説得力は言うまでもないだろう。
血まみれになっていた青年は僧侶の女の治療を受けている。
「頼むぞ嬢ちゃん、そいつは俺のせがれなんだ。俺たちのため熊の足止めをしようとして一撃食らっちまった」
涙と汗でぐしゃぐしゃになった男の顔には悔恨の色があった。
プノアたちは今朝自分たちを助けてくれた人の嗚咽を見てしまいなんだかバツの悪い気持ちになった。
「とりあえず、事態の詳細を教えていただけますか? 他の方々は今日は危険ですので森に行かないよう気を付けてください」
アンナと猟友会の男たちは話をするためにカウンターの奥の部屋へ向かった。
もともともう一つ依頼を受けようとしていたプノアたちは森に行けないということで、その日は街中でできる依頼をこなす。
数時間後、依頼を終えて二人は宿に戻り何事もなく就寝。
翌日、あらためてギルドに行くとこのような注意書きが張られていた。
「町の北の森への進入禁止
先日ネームドモンスターとして登録された熊の突然変異突然変異個体『ノクス』が出現したため北の森への侵入を禁止します。現在ギルド本部への応援要請をしているので討伐されるまでご協力をお願いします
『ノクス』の特徴
・一階建て家屋程の巨体
・額の三日月型の傷跡
・木々をなぎ倒す力
見かけたらすぐに逃げること」
「『ノクス』……」
「使役したいとか思ってんのか? 残念ながら無理だぞ。森自体入れねぇんだから」
プノアが注意書きを見る目が心なしか輝いているのを見て、マオが咎める
「……わかってるわよ」
そう言いつつもプノアはそのキラキラした視線を注意書きから離さない。口角も少し上がっている。マオは知っている、こういう顔をするときのプノアはなにか悪巧みを考えているのだ。
「あっ、見てくれましたか注意書き」
例のごとくアンナがプノアたちに声をかける。
「アンナさん! 大変なことになりましたね。ところで、注意書きにある『ネームドモンスター』っていうのは何ですか?」
「突然変異で生まれた異常に強かったり、特別な力を持つ生物はギルドで名前を付けて情報を管理しておく必要があるんですよ。要はすごく強いモンスターって認識で大丈夫です」
アンナが分かりやすく解説をしてくれる。切羽詰まった状況なのでいつもの営業スマイルはなく、深刻な顔つきだ。
「なるほど、ちなみに今日は北以外の森なら依頼も受けられるんですか?」
「はい、狩りで成り立つこの街で森に入ることは止められませんからね。今は一人で森に入るのが怖いという猟師の方の護衛依頼が多く入っています。受けますか?」
「どうする? マオ」
楽しみという感情を隠しきれていないプノアの表情をみれば、止めたほうがいいのは明白である。しかしマオは知っている。自分はこういう表情をしている時のプノアが一番好きだということを。
「受けてもいいんじゃないか。アンナさんが言った通り猟師の人が仕事できないと俺らも困るし」
「そうですね! ギルドとしても今はこの依頼を受けてくださるとありがたいです」
二人の意見を聞いたプノアはその依頼を受け、依頼主と会うためギルドの隣にある猟友会へと向かった。
「君たちが僕の依頼を受けてくれた冒険者か。まずは自己紹介だね。僕は猟師をやっているルーカスだ」
「冒険者のプノアです」「同じくマオです」
「いやー助かったよ。僕は罠師だから戦闘は苦手なんだ」
「ということは、それは自衛用のものですか」
マオがルーカスの背中に掛かっている猟銃を指差して言う。
「ああそうだ。いや、君たちを信用してないってことじゃない。ただ用心するに越したことはないだろう」
「もちろんです。むしろこちらも守りやすくて助かりますよ」
プノアの言葉にルーカスは安堵の表情を浮かべる。
「そう言っていただけてありがたい。さあ早速行こう。暗くなる前に帰ってこないとだからな」
森へ向けて歩いている最中にルーカスがこの後やることについての説明をする。
「今日やるのは罠にかかった獣の回収と罠の再設置だ。本来二人の仕事はもし『ノクス』に遭遇したときに僕を守ってもらうことだが、途中で出会う敵の対応もお願いしたい」
「お安い御用ですよ。じゃあ私たちができることも簡単に言っておいたほうがいいですかね。私はビーストテイマーで使役獣を操って戦います。炎魔法と剣術も使える、くらいですね」
「俺は風魔法と短剣を組み合わせて戦うって感じです。よろしくお願いします」
「なら僕も。銃は使えるが下手だから期待しないでくれ。あと、攻撃には使えないが空間魔法が使える」
それぞれが自己紹介を終えると、一行は西の森に到着した。
「この先に僕の一つ目の罠がある」
ルーカスが指すところには確かに網にかかったイノシシの姿があった。イノシシは唸り声を上げていてまだ生きている様子である。
ルーカスはナイフを取り出しイノシシのそばへ歩み寄る。
ルーカスはイノシシの首にナイフを一突き。すると赤い血がドクドクと流れ出し網のなかで暴れていたイノシシの動きが止まる。
次にイノシシを木につり下げ、頭を下にして血抜きをする。
「おや、新人って聞いていたが血は大丈夫なんだね」
「まぁ、学生の頃から見慣れてるんで」
「ああ、もしかして噂のエアグナから来たって子?」
プノアがそのとおりと伝えると、ルーカスの顔が急に険しくなる。
「ああ、すまない。レオ……昨日熊にやられたあの子も学校に通ってたんだ。エアグナみたいな凄いとこじゃないけど、お父さんの後を継いでフォレトシアの肉をもっと広く知らせるんだって意気込んでて。帰ってきたばっかだってのに……」
ルーカスは歯を食いしばり、悔しそうな顔をしていた。しかしそれをすぐ抑え込み
「悪いな、こんな暗い雰囲気にして。よし! 血抜きは終わったな」
そう笑って言い、空間魔法を使ってイノシシを何処かへ消した。
「すごいだろ! 空間魔法で異空間に収納したんだ」
その後ルーカスは二人に聞こえる大きさで鼻歌を歌いながら手際よく罠を再設置する
「本当は獣を苦しめるから生け捕り罠は使いたくないんだけど、殺す罠は肉の劣化が怖いんだ。あと、罠を設置する位置は獣道を見極めて――。ああすまん、興味ないか?」
ルーカスが妙に明るく振る舞い、早口で言う様子を見てプノアは「いえ、続けてください」と答える。
「……ありがとう!」
少し間を開けた後ルーカスは笑って感謝を伝えた。その後ルーカスはずっと罠や獣の話をしていた。プノアとマオもそれをずっと「なるほど」「へー!」と相槌を打ちながら聞いていた。
罠を三つ程回ったあたりで太陽が真上に上っていることに気付いたルーカスは「そろそろ昼にするか」といい、異空間からさっきとったイノシシを取り出し手際よく解体して肉を焼く。
「僕は肉を焼くのは自信があるんだ、ほら! 食ってくれ」
「ありがとうございます」
プノアとマオがルーカスから豚肉を受け取ったその瞬間――
『ピェーーーーーー』
鳥の鳴き声が聞こえてきた。
「! 肉を焼くにおいを嗅ぎつけてきやがったか」
上空に巨大な鷲が現れる。その後鋭い眼はイノシシ肉を捉えている。




