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葛藤

「次っ!!」


 あの敗北から数日後、流石に事態が事態だからとサバイバル訓練は中止となって時間が出来た僕は……いや、僕達は屈辱を振り払うかの様に訓練に励んでいた。ヴォルテクトと僕は試合を繰り返し、走り込み等の訓練でも競い合っている。エリーゼも試合にこそ参加しないけど文句一つ言わずに僕達に付き合ってくれていた。


「皆様、お茶の準備が整いました」


 そんな中、シャロットは片腕だけで生活を行う訓練に専念する程度には体調が回復し、たった数日でヴォルテクトの身の回りの世話を焼けるまでになった。ヴォルテクトは無理をするなと言ったけど正面から言い負かされてたのには驚いたよ。お側に居るのに相応しいと自ら認められなくば去ります、だってさ。


 着替えは難しいからヴォルテクトが手伝ってるって会話が聞こえたけど……。



「……むっ。そろそろ荷物が届く時刻だな。悪いが俺様は抜けさせて貰うぞ」


「はいはい、その間に僕がグーンッと強くなってるから行きなよ」


 そうやって一緒に頑張っているヴォルテクトだけど、どうも古い文献を漁って何か調べ物をしているらしい。……僕も示現お祖父ちゃんに勉強を教えるって言われているんだよなぁ。戻った時に間隔が開いているからってのは分かるけど勉強は嫌いだよ。少し憂鬱になって肩を落とす僕は深い溜め息を吐いた。ああ、本当に面倒だなぁ……。



「……それにしても何時まで掛かるんだろう? ヴォルテクトも公爵家だから偶に出席しているけど足の引っ張り合いと腹の探り合いばっかで愚にもつかないって吐き捨てていたけどさ」


「他の国の貴族の方もいらっしゃいますからね。これを口実にして……と考えているのでしょう。ロザリンドではそうでもなかったですが、他の町の大きな教会では似たり寄ったりだったそうですよ」


 アンデッドの大量発生に加え、本来アンデッドになる筈のない短時間でのグール課をした生徒が出た事で詳細を伏せられて招集された保護者達(貴族のみ)と学園側の会議は未だ続いている。内容はヴォルテクトの言葉からお察しで、どうすればダメージを最小限に抑えつつ最大利益を得るか、それだけを考えているらしく、僕はスカー先生やリシャーナ先生が責任を押しつけられないかが心配だった。


 でも、僕は甘かったみたいだ。貴族ってのがどれ位汚いか、それが理解出来ていなかったんだ……。






「以上が決定事項である。生徒諸君、流言飛語を無闇に吹聴して犠牲者の名誉を傷つけぬ様に。そんな事をする愚か者は厳しい処分を受ける事になるだろう」


 脅しとも取れる説明を受けた僕は怒りで叫びたくなる。横のエリーゼも呆然としていて話が理解出来ていないみたいだ。結局、スカー先生達はサバイバル訓練中の出来事に関する責任を問われない。だって、事件なんて起きなかった事にされたんだから。



「では、勇猛果敢にシードラゴンに挑み、皆さんを守り抜いた英雄達に黙祷!」


 今回の事件の犠牲者は船旅の時に起こったシードラゴンの襲撃による物となり、貴族や大商人の家の生徒達みたいな優遇されていた犠牲者はシードラゴンから他の生徒を守る為に戦って散った、そうされた。何の後ろ盾もない生徒は特に活躍もせずに死んだ事にされて、正直言って大声で怒鳴りたい気分だ。


 英雄学園とまで称されるアスモデウス学園のネームバリューは内実は兎も角として健在で、アンデッドになったりアンデッドに殺されたりとかは貴族的に家の名誉に関わるらしい。少なからず家に不要と思われていた犠牲者も居て、優秀な人材を紹介して貰うなどの要求を通す為に学園に恩を売っておく方が死んだ責任を騒ぎ立てるよりも得だとの事だ。


 本当に腐っているよ!


「……ちっ!」


 僕以上に不機嫌そうなのはヴォルテクトだ。学園の腐敗を嘆いていたから今回の決定は許せないし、本当なら殴りこみさえしたいのだろう。でも、そうすれば罰を受けるし、片腕を失ったシャロットを無理にでも側に置くのが難しくなる。だから血が出る程に唇を噛みしめ、拳を震わせて耐えているんだ。


 だから僕も我慢しよう。この世界に救う価値が有るかどうかなんて考えるな。これはほんの一部で、きっと素晴らしい物だって沢山存在する。だから耐えるんだ。




「俺の相棒はどんな奴になるんだろうな!」


「私は子供が良いなぁ。抱っこして一緒に寝るの。もう名前も決めてるんだ」


 時間は更に過ぎていよいよ明日は合宿の目的だった従竜の儀(じゅうりゅうのぎ)。一連の事件への不満や不安から目を逸らすみたいに明るく話している。


 でもまぁ、気持ちは分かるかな? ドラゴンライダーとかファンタジー物の象徴の一つだし、格好良いし楽しそう。レースに参加した時に乗せて貰ったのはケルベロスだけど、ドラゴンに乗って空を飛んだら気持ち良いんだろうって思うよ。



「ふはははは! 遂にこの時がやって来た! 俺様は用意されたドラゴンではなく古来のやり方で強きドラゴンを屈服させてみせようぞ!」


「お言葉ですが、ヴォルテクト様。所詮それは二番煎じ。普通の方法で手にした凡庸な一匹を最強に育てる事こそが相応しいかと」


「なんとっ!? そ、それは……最高だな!」


 ……うーん、楽しそう。僕以上に好きそうだもんね、ドラゴンを従えるよかさ。なんか目当ての記述も見つかったらしくて随分とご機嫌だ。……シャロット、多分どう反応するか分かっていて提案したな。じゃないと危険な事を意気揚々としそうだもん、彼奴。



「おい、璃癒よ! ドラゴンを渡されたら競争だ! どちらの相棒が優れ、どちらが騎手として優秀かきそおうではないか!」


「いや、多分貴族のヴォルテクト様に優秀なドラゴンを優先して渡すかと。璃癒さんも馬鹿馬鹿しい提案に乗らなくて構いませんよ」


 相変わらずズバズバ言う人だなぁ。でもヴォルテクトを諫めているんだろうし、僕に気を使ってくれているんだよね。確かに競走は燃えるんだけど……。





「いや、僕もエリーゼも儀式は受けないんだ。興味はあるから見学はするけどさ」


 本当は欲しかったんだけど、旅をしながら世話するのは大変だもん。有る程度の躾はされているとしても動物の世話って餌を与えるだけじゃなくって糞の後始末や病気になったり怪我をしない様に注意して、トラブルが起きない管理の仕方をするんだ。臭いも結構問題だし、宿屋の馬小屋に入れるって訳にもいかないし……。


「ってな訳で無理だけど、出来れば一度乗せて欲しい」


「意外と考えているのだな……」


 驚かれたよ、失敬なっ!




 そもそも従竜の儀の由来はフロレス共和国の初代国王が冒険者時代に荒れ狂っていたドラゴンを屈服させて従えたってエピソードから始まった行事で、元々はドラゴンの住処が密集している場所に行って力で従えていたんだけど、今じゃ危険だからってその土地を管理しているドラゴンライダーの部族が育てたドラゴンを受け取るってなったらしい。


 まあ、建て前として古来の方法も許可されているらしいけど、ヴォルテクトみたいに勇敢な挑戦者は大体が失敗してて、その結果どうなったかは、まあ、お察しって事で。



「確か竜の獸人……ドラゴニュートのタラスクって部族だっけ?」


「うむ! 学園から支援を受けて集落を保っているので意向を汲む必要こそあれど、基本は誇り高き戦士だ。若者は支援を受けずに生きていこうと主張する者が増えているしな! ふはははは! それでこそだとは思わんか!」


 ドラゴンと言えばクリスタルドラゴンを殺して卵を破壊した犯人が気になるなぁ。誰も心当たりがないって話だしさ……。






 その頃、タラスクの戦士も近寄らない危険地帯、特に凶暴で強力なドラゴンの住処にて何かを啜る音が聞こえて来た。周囲には巣の主の死骸が横たわり、音を立てていた物は中身を全部啜り終えた物を放り投げる。ドラゴンの卵の殻が音を立てて転がり、続いて不気味な声が響き渡った。



「オォオオオオオ……」


 決して満たされぬ飢餓に突き動かされローランド・コープスはその場を後にする。数日前より肥大化した体を蠢かしながら……。

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