遭難と卵
初代勇者な賢者と嫁な女神、ハッピーエンドの後に新米勇者の仲間になる 新作連載中です
険しい山の中、僕は雨宿りで洞窟に入って空を見上げる。だけど霧が深くて空が見えない。
「困ったなぁ……」
遭難してるの? そうなんです。携帯食料や水に余裕はあるんだけれど、これからどうすべきか迷う。下手に動かず救助を待つか、山頂に向かって周囲を見渡せる場所を目指すか。確か下手に下山を目指すのは危険なんだっけ?
「君はどうすべきだと思う?」
「ゴア?」
無駄だと分かっての問い掛けは勿論無駄で、僕の頭の上に乗っている小さくて黒いドラゴンは何か言ったの? と言いたそうに鳴いた。癒されるけど駄目だ、役に立たない。まあ、最初から何を期待してるんだって話だけどさ。
そもそも僕が遭難している理由はと言うと時間は少し遡る。
「全員足下に注意して。足場が悪いよ」
アスモデウス学園伝統行事の従竜の儀。それに必要なドラゴンを飼育している部族のタラスクの集落は険しい山の上にあるらしく、例え普段は特別扱いで甘やかされている貴族等の出身の生徒も登らなければならないんだ。
大荷物を背負い険しい山を登る。彼らの高いだけのレベルはこの登山の為だけって揶揄する生徒も居る程に大変なんだ。何せ一日以上掛かる難所続きの山道だからね。
貴族の権威に負けている学園最後の意地……だったら格好良いけども、タラスクの人達が山を登れもしない者には大切なドラゴンを従える資格はない、って渡さないらしい。だから流石にこの時ばかりは参加して、頻繁に休みを要求して足を引っ張るのが恒例だと生徒会長のコーネリアさんが言ってた……のだけど。
「いや、しかし本当に順調だな。何時もみたいに訓練中に文句言って中断させる奴らが居ないから」
「この場にいない人の悪口は感心……しないけど普段から言いたくなる好き放題っぷりだし、聞かれたら家の権力と財力で嫌がらせを家族にまでして来るから好きなだけ言いなさい」
一連の事件の影響もあって優遇されていた奴らは軒並み親に泣きついて連れて帰って貰ったり、残された人も街に逃げ出したりと居なくなっている。貴族はもうヴォルテクトしか残っていないのは彼が流石なのか残り全部がアウトなのに絶句すべきなのか迷う所だよ。
他の生徒も好き放題するけど文句は言えない連中に煮え湯を飲まされていた反動で晴れ晴れしている表情だった。死人が出た事は兎も角として、授業がスムーズに進むのは良い事だ。だけど落とし穴もあって……。
「拙いな。滞る事を予定に入れての計画のままだっただったから時間が余りそうだ。ちょっと早いけど休憩にしようか」
スカー先生、まさかの凡ミス。授業がスムーズに進まないのを確定としていた辺り貴族の生徒達の所行が伺えると言うか何と言うか……うん。少し開けた場所に来たんだけど、当初の予定では二時間は我が儘でロスするだろうってなっていたから休憩も二時間位追加された。こんな何も無い所でって思ったけど周囲を見ればお喋りで時間を潰している。まあ、ゲームやスマホみたいに娯楽に使える物が最初から存在しないからね。暇潰しはお喋りで十分って所か……。
「……っと、エリーゼ、少し散歩に行って来るよ」
「霧が出ているから遠くに行ったら駄目ですよ、璃癒。あっ! 私もご一緒に……」
「えっとね、お花を摘みに行くって僕の居た所では言うんだけど……」
流石に便所に行って来るって言えないから遠回しに伝えたんだけど通じなかったのか首を傾げていたエリーゼに軽く耳打ちする。流石に気不味いみたいだ。
「ど、どうぞ……」
そんな風にされたら僕まで恥ずかしいのだけど……まあ、良いか。さっさと済ませてお昼寝でもしよっと。でも誰か来たら嫌だし少し遠くに……。
「って言うのが間違いだったよね。荷物は降ろすの忘れて背負ったままだから助かったけど。……お弁当が無いのは流石に大変だよ」
はい、見事に迷いました。霧が立ちこめているし小雨も降って来た。その上、目の前にはモンスターまで現れた。見た目はメタリックグリーンのウツボ。但しジンベイ鮫位の大きさの上に空中を泳いでいる。えっと、確か空ウツボだっけ? 授業で習ったよ。食欲旺盛で動物性の物なら何だって補食する凶暴な奴だ。
「つまり、僕を襲う気だって事だ」
大きな口を開けて空ウツボが迫ってくる。口の中には鋭利な牙が生えているし噛まれたら痛そうだ。そして空ウツボが僕に噛みつこうとした瞬間、振り上げた刃が首を斬り飛ばした。
「うげっ!? ぺっぺっ! 口に入っちゃった……」
首を跳ね飛ばしたのは良いんだけど世の中には慣性の法則と言うものが存在する訳で、断面が見事に晒されたまま空ウツボの胴体がぶつかる咄嗟に顔を腕で庇っても飛び散った生臭い血や肉片は隙間を通って口の中に入ってしまった。物凄く生臭い上にアンモニア臭がキツいから多分食べられそうにないね、残念。
「うん? これは……」
仕方無いから魔魂石だけ取り出そうとした時、喉の奥から何かが転がり出て来る。一抱えもある巨大な卵で、胃液にまみれているけど溶けた様子は見られない。その上激しく動いている上に中から殻を割って出て来ようとしていた。
「えっと、どうしようか……」
モンスターだから直ぐに殺せば良いってこの世界の人なら言うだろうけど、モンスターなんて存在しなかった世界の住民の僕には難しい。兎に角卵の正体が何であろうとも今は雨に晒すのは可愛そう。何処か雨を凌げる場所はと探してみたら丁度良い所に洞窟発見。僕が急いで向かう間にも卵の罅は広がり、滑り込むと同時に元気良く中身が飛び出した。
「ゴアー!」
「ド、ドラゴン?」
黒っぽい紫の鱗に頭の一本角、複腕には皮膜。性別はドラゴンの雄雌鑑定の方法を知らないから分からないとして……うん、どうしよう
「ゴア」
「刷り込みって奴だよね、これってさ……」
どうも僕を親だと思ったのか甘えて来ているし困ったぞ。親が探しに来るかも知れないし、餌が分からない。えっと、口の中には既に牙が生えているし、草を擦り潰す為のも肉を食い千切る為のも有るから多分雑食だ。……さっきのウツボじゃ駄目かな?
「それにしても本当に困った……」
多分探しているだろうし、懐いているモンスターを殺すのは抵抗がある。僕が困っていると遠くからエリーゼの声が聞こえて来る。
「やれやれ、助かったよ……取りあえず君に名前を付けないとね」
「ゴア?」
ゴアって鳴くからゴアと名付けたドラゴンを抱っこしながら呼ぶ声に返事をする。……名前を付けたら情が湧いて来ちゃったよ……。
明後日まで更新難しいかな? 感想待っています




