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前門のコープス、後門の……

新連載の投稿で遅れました 二話ほど書いてるので宜しくお願いします

「取り敢えず訊くけど……大丈夫? 因みに僕は体中が痛い」


 コープスが何故か何処かに去ってしまって助かったんだけど、戦闘のダメージが大きくて暫く動きたくない。全身が打撲やら裂傷でズキズキ痛むし、特に胸の辺りは骨に罅が入っているかも。ほら、僕って胸に殆ど脂肪がないから……ヤバい、負けた事以外の理由で落ち込みそうだ。


 自虐的な思考でうなだれる僕を不思議そうにヴォルテクト達が見ているけど、二人も落ち込んでいるって分かる。今回の戦いは僕達の完全敗北だ。あのまま戦っていたら多分大怪我じゃ済まなかっただろう。だから負けん気の強いヴォルテクトは勿論、護衛で何時の間にかカップルになっているシャロットも悔しいんだ。


「……ああ、何度自分の弱さを感じ取れば良いんだろう。きっとこれからも何度も繰り返すんだろうな……」


 落ち込んでそんな弱気な事をついつい口にしちゃった僕だけど、横から聞こえてきたヴォルテクトが鼻で笑う音が聞こえて流石にムッとしたよ。人が真剣に悩んでいるってのに失礼な奴だ。



「何だよ。君だって自分の弱さが嫌になっているんだろ? 負けて悔しいって顔に出ているぞ」


「ああ、そうだ! 悔しくない訳が無かろうが! そして俺様も貴様も今後も越えられぬ壁に挫けそうになるのだろうが……くだらぬっ! 今越えられぬならば越えられる様になれば良いだけよ!」


「単純で少々知性が不足しているのが見受けられますがヴォルテクト様の言葉は間違いで無いかと。璃癒さん、未だ自分の限界まで到達した訳ではないのですか…ら……」


「「シャロット!?」


 言い方は問題があるけど僕を励まそうとしてくれる二人。でも、それで立ち直るよりも先に問題が発生した。言葉の途中でフラッとしたかと思うと倒れたんだ。咄嗟にヴォルテクトが抱き止めるけど意識が朦朧としている上に呼吸が荒い。矢っ張り怪我が重いのに無茶をしたから……。


「ヴォルテクト、直ぐにエリーゼか誰でも良いから回復魔法を使える人の所に……」


 そして、不運って言うのは弱った人間が大好きなんだなって思い知らされた。鼻が曲がりそうな腐敗臭が漂って来て、地の底から響く様な声のした方向に視線を向ければ木々を強引に掻き分けながらドラゴンゾンビが近付いて来ていた。


 片方腐り落ちた瞳は僕達を捉えていて、一歩進むごとに足の裏と地面の間を腐汁が糸を引く。翼は腐り落ちたのか幸いな事に存在しないので空中から襲ってくる心配は無いんだけど、未だ健在の立派な尻尾の先の無数の棘からは何やら液体が飛び散って、触れた植物が煙を上げて溶けている。


「よりによってヴェノムドラゴンだと……糞っ!」


 ホラー映画と違ってゾンビに噛まれてもゾンビにはならないんだけど、腐敗した死体なだけに雑菌が多いのか付けられた傷が膿んだり病気になったりするらしい。特に毒持ちの生物がアンデッドになれば生前では無理な段階まで熟成が進んで毒が強力になるケースも有るらしいんだ。


 ヴォルテクトの反応から腐りかけの紫のドラゴンは毒が熟成するタイプ。そうでなくても厄介な相手だ。腐って尚強靭な肉体な上に……。


「避けろっ!」


 ドラゴンゾンビが口をモゴモゴと動かし、ヴォルテクトはシャロットを抱えたまま飛び退く。衝撃が伝わって辛そうな声を上げるけど今は更に危険な物、ヘドロみたいな粘性の高い液体混じりのブレスが迫って来ているんだ。通り過ぎた後の草木は完全に腐敗しているし、立ち上る黒い煙には毒が含まれているみたいだ。


「……おい。魔力はどのくらい残っている? 俺様は精々攻撃魔法五発程度だ」


「悪いけどさっきのでスッカラカンだよ、僕は。正直拙いね……」


 ドラゴンの鱗は種族の特性として魔法に強い。それはアンデッドになった状態でも同じで、だからこそ鱗を目的にドラゴンに挑んで死ぬ人が大勢居るらしいんだ。命有っての物種って言うけれど、日本とは社会的な支援も情勢も違うから仕方ないのかも知れないけどさ。


 だからドラゴンを相手にするには接近戦が良いみたいだけど、人とドラゴンじゃ筋肉の質も量も別物だから効果が薄くても魔法で狙い撃ちを続けるか大勢でチクチク削っていくしかない。


 今の僕達にはどっちも無理だ。……勇者バレを恐れて使わなかった新しい勇者専用魔法さえ使えればどうにかなりそうだけど後の祭り。状況判断を誤った僕の未熟さが露呈しただけだ。


 そんな中、僕には見えなかったけどヴォルテクトは腕の中のシャロットに目を向け、覚悟を決めた顔になる。


「コープスが去ったと思って直ぐにこれとは正に一難去ってまた一難か……。どうも俺様は聖獣王様には嫌われているらしいな。……おい」


「何? わわっ!?」


 冷や汗を流しながらドラゴンゾンビを見るヴォルテクトの表情には余裕が無い。今は真っ直ぐに吐き出したけど、吐きながら顔を左右に振ったり上に吐いて空中から撒き散らしたら避けきれないって分かっているんだ。僕も打開策を考えるけど、今の体じゃちょっと戦うのは厳しい。


 そんな僕に対してヴォルテクトが呼び掛け、振り向くと同時にシャロットを投げて来た。慌ててキャッチしたら胸が眼前に存在するけど今はそんなの気にしていられない。だって、この状況でこんな事するなんて自分だけでも助かろうとするか……。




「貴族としてではなく、惚れた女を守りたい男の自己満足を叶えさせてくれ。……此処は俺に任せて先に行けっ!!」


「……自己満足って自覚はあるんだ」


「ああ、当然だ。だが、それでも生きていて欲しいのだ。二人共が生き残るのが最善だが、俺にも男の意地がある!どのみち誰かがシャロットを連れて逃げる必要があるのなら、男が女に任せておめおめと逃げてどうするのだ!!」


 ……ったく、男ってのは勝手だって奈月お祖母ちゃんが言ってたけど、異世界でも同じだなんて。僕はヴォルテクトに背を向けてシャロットを安全な場所まで運ぶべく走り出す。



「待ってて。直ぐに助けに戻るから……死ぬなよ?」


「当然だっ! 俺様の死ぬ時はシャロットとの間の子供や孫に看取られてと決めているのでな! ドラゴンゾンビ如きが変えて良い物ではない!」


 ああ、本当に自分勝手で馬鹿で……まあ、格好良いって認めてやらなくもない。僕の好みとは違うけどね。じゃあ、僕は僕の役目を果たそう。さっさと助けを呼んで馬鹿が自己満足で死なない様にしてやらなくちゃね!


「我が名はヴォルテクト・グラン! 雷の紋章を掲げし誇り高き戦士なり!!」


 叫び声を背に受けて僕は走る。絶対に間に合ってみせるぞ!






 でも、僕の想いもヴォルテクトの覚悟も無駄だった。突如空から降り注いだ光の矢は森全体に行き渡り、目の前のドラゴンゾンビを含む全てのアンデッドを一撃で消滅させて行く。森全体の事は後から知ったし、初めて見る魔法だけど誰による物かは推測せずとも分かったんだ。


「やれやれ、良かったんだけど折角格好付けた所だったからなぁ……」


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