上級アンデッド ②
短編 ハッピーエンドのその後で…… を投稿しました 感想待っています
「むぅ! 何だよ、これは!」
「むぅ! 何なのさ、これは!」
己の居城で森に放ったアンデッドの様子を鏡を通して見ていたイルマ・カルマだったが、突如画面が暗転する。ビックリした後に癇癪を起こしてお菓子みたいに食べていた目玉の皿を放り投げた時、再び画面が映った。特にグール相手に苦悩した様子の男の姿に爆笑して続きが気になっていたのでワクワクしながら目を向けるのだが、映っていたのは全くの別物だ。
それは憎悪と遺恨、何より食欲に彩られたミステリー。
世間を煩わしく感じたとある富豪が建てた山の中の洋館。莫大な財産を残した彼の親族が集まっての話し合いの席で事件は起こった。嵐によって落とされた吊り橋、次々に殺されて行く親族達。皆が疑心暗鬼にとらわれる中、車椅子の少女の依頼で屋敷に滞在していたキグルミ姿の探偵、アンノウンが調査を開始した。
真剣な顔付きで皆を館の大広間に集めたアンノウンは襟を正し、こみ上げてくる涙を堪えながら事件の真相を話していく。正義の為、何より殺された彼女の為に。
「……巨大絡繰り時計を使った死体移動のトリック、笑う貴婦人の肖像画の謎、何より十三年前の密室殺人の真相を知ることが出来た人物! グレちゃんを殺す事が出来たのは君でしかあり得ないんだ!」
皆の視線が指先で示された者に集中する。一人目が殺された時から血塗れだった指名手配中の連続殺人鬼へと……。
「……何だよ、これ」
「……何だろう、これ」
阿鼻叫喚の惨事を喜劇として楽しもうとしていたイルマ・カルマは思わず同じ事を連続して呟いた。映し出されるのはサスペンスドラマのCMみたいな映像で、どれだけ元に戻そうとしても変わらない。地団太を踏み、癇癪を起こして鏡を叩き割ろうと巨大な拳が直撃しても薄い膜に守られているみたいにビクともしなかった。
「……疲れたね、カルマ」
「……疲れたよ、イルマ」
リピート再生が続く鏡の映像では時々台詞を噛んだりスタッフのキグルミが見切れていたりとグダグダな上に演技が下手で見るに耐えない。精神的に疲れた二人は椅子から飛び降りると重い足取りで部屋から出て行く。
「おやおや、まさかアンノウンが介入して来るとは。あの森に余程秘匿したい相手が居るのでしょうか?」
イルマ・カルマが退室して鏡に映る映像の音声のみが響く中、天井に逆さまになって立っていたシアバーンが空中で一回転して着地する。城の主である二人に一切気取られる事無くこの場に存在した彼が見詰めるのは見ているのが苦痛になるレベルのグダグダな演技で進められるサスペンスドラマの予告編。タイトルを読んだ彼はガクッと肩を落とす。
「パンダ探偵の推理日記 宍道湖絡繰り屋敷殺人事件~暁に消えた明太子~……いや、意味が一切分かりませんね。あの野郎は全く昔から……」
表面だけの丁寧さでも、嘲笑う時の本性でもなく、旧友を懐かしむ様な口調でしみじみと呟くシアバーンは右手を鏡に向け、手の中の何かを握り潰す様に指を曲げる。ピシッという音が鳴って先程イルマ・カルマが攻撃した時は微塵も揺るがなかった鏡に罅が入り、派手な音を立てて砕け散った。破片は床に散らばるなり幻の様に消え去り、それを見届けたシアバーンは背を向けて歩き出しす。
「お前が私を救おうとしているのは分かっているが……余計な世話だ、友よ。他の救われたい者には悪いが私は人になる気はない。情も音も平気で捨て去る人などにはな。せめてもの義理として此度は詮索しないでおこう。精々足掻け、元親友よ」
脳裏に浮かぶ懐かしき思い出を振り払い、自らに言い聞かせる様に決別を口にするシアバーン。音を聞きつけたイルマ・カルマが戻った時には姿を消しており、苦労して再生した鏡には映像の記録が一切残っていなかった。
「……ちぇ。退屈だし、ローランドをさっさと別の場所に移そうか?」
「……ぶぅ。退屈だし、ローランドをさっさと別の場所に移そうよ」
苛立ちの籠もった声でイルマ・カルマは命令を送る。その頃、コープスとなったローランドは璃癒達との戦いの最中であった。
「あ痛たたたたたた……。二人共、大丈夫……じゃないか」
散弾みたいに飛んできた骨片の内、目とか当たったら拙い場所に当たりそうな物は叩き落として物陰に隠れたけど、それでも体の彼方此方に刺さっている。あんまり深くないけど、後で傷口を調べないと下手に回復魔法を使って異物が残っていたから炎症でも起こしそうで怖いよ。
「まあ、何とかな……」
「ええ、戦闘には問題有りません」
咄嗟に雷の刃に更に魔力を注いで巨大化させて地面に突き刺し盾にしたのかヴォルテクトも肩や腕に幾つか刺さっているだけで平気そうだ。シャロットも足とかに掠ったのか血が出ているけど深手は負っていない。服が所々破れて下着が見えているので僕が男だったら目のやり場に困りそうだけど……。
「ウゥウウウウウウウウッ!」
「ああ、糞が! 此奴、只のコープスではないぞ。膨大な量の怨念が死体を寄り集めているだけでなく、何か核となる魂を得ていると見た!」
先端が砕け散った骨が叫び声で震えれば徐々に再生して行く。切り落としたパーツをくっつけたり別の死体を取り込んだりは可能だって習ったけど、欠損部分が自動再生するとか習っていないぞ!? 忌々しそうにヴォルテクトが呟いたけど、多分その通りだと思う。
「それでどうするの? てか、魂を核にすると強くなるの?」
「倒すしかあるまい! ああ、爺様が酒を飲みながら語る武勇伝に出てきてな。余程の強者でなくば無理だそうだが……」
こうして話す姿は余裕が有りそうだけど、コープスは大きく息を吸い込んで風船みたいに膨らんで行く。このまま破裂したら良いんだけど、多分そうはならないだろう。全身から骨が突き出たままボールみたいになった姿はウニか毬栗みたいだ。……あー、ウニ丼食べたい。醤油かけて刻み海苔をまぶして食べたい。
「来るぞっ!」
ヴォルテクトの叫びにハッとした時、コープスが転がりながら向かって来た。回転速度が速すぎて輪郭位しか分からない状態で僕達の方へ向かって飛び跳ねる。流石にあれを正面から受けるのは無理が有るか。左右に避ければ地面を削り木々をなぎ倒しながら通り過ぎたのがUターンして向かって来る。あれじゃこっちの姿は見れないだろうにどうなってるんだよ。モンスターを普通の理屈で考えるのは無理が有るだろうけどさ。
再び避けるけど、直ぐに方向転換して向かって来るし、速度も徐々に上がっている。このままじゃジリ貧だ。どうにかして動きを止めないと。
「……仕方無い。俺様がどうにかしよう」
真正面から転がって来るコープスに対してヴィルテクトは逃げようとする素振りも見せず、刃の先端をコープスに向けて構える。おいおい、まさか真正面から動きを止める気!?
「アームブースト、レッグブースト、マジックブースト!」
「良くやった、シャロット!」
続けざまに強化が付与され、コープスはヴォルテクトの目前まで迫る。同時に彼は一歩前に進み出て、地面に罅を入れる踏み込みと同時に刃を突き出した。回転する巨大が雷の刃と正面からぶつかり合い周囲へと弾き飛ばして行く。近距離で弾かれた雷はヴォルテクト自信の体にも傷を負わせるけど徐々にコープスの回転も勢いを衰えさせて視認出来る速度にまでなる。
「行くぞっ!」
きっと二人には余計な言葉は要らないのだろう。ヴォルテクトが叫んだ瞬間には金属を仕込んだブーツで蹴り上げると同時にシャロットもすくい上げる一撃でコープスの体を真上へと叩き上げる。回転は更に弱まり、宙で身動きが出来ないコープス。二人の視線が僕へと向けられた。
さて、それじゃあ僕も働くとするか。後方で解説するのは勇者である僕の役目じゃない。僕に課せられたのは受けた希望に応える事だ。そして希望に応えるのは今しか無い!
後先考えず、コントロールも無視してありったけの魔力を集める。心臓から腕の先へと莫大な力が移動する感覚。それが最高潮まで高まった瞬間、今僕が放てる最高最強の一撃を繰り出した。
「フレイムブラスタァアアアアアアアアア!!」
魔法にも相性があって、同じ位の才能なら相性が良い方が威力が高いんだってさ。そして、どうやら僕は炎系統の魔法と相性が良いらしい。膨大な熱エネルギーの波動は宙に居るコープスを飲み込まんと周囲を赤々と照らしながら突き進んだ。さっきまでは森の中だったから使えなかったんだけど、これで勝負有りだっ!
中級炎魔法の中でも威力と射程が段違いのこの魔法、この新しい力なら僕は今までより絶対に強くなれる。何時までも守られるだけじゃないぞ!
「やったな」
フレイムブラスターが直撃する寸前、ヴォルテクトがそんな事を呟いた。まあ、フラグなんて創作の世界だけだし……。
「オォアアアアアアアアアアア!!」
耳を塞ぎたくなる大絶叫。同時にコープスの顔に存在する無数の瞳から黒い魔力の波動が放たれて目前に迫った赤い魔力の波動と正面から激突する。威力は力を注ぎ込んだ僕の魔法が勝ったけど、瞳からそんなのを放った反動でコープスの体が射程範囲から逸れてしまった。僕の体の一部を焼いただけで、コープスの瞳から放たれる魔力は放出が終わっていない。
「逃げ……」
逃げろ、そう叫ぶよりも早く黒い魔力が空中で拡散して僕達に降り注いだ。構えた武器は弾き飛ばされ、宙に投げ出された僕達に容赦なく魔力は降り注ぐ。息すら出来ない衝撃に耐える中、空気を吐き出したのか人っぽい姿に戻ったコープスは僕達の前へと降り立つ。骨の杭がビッシリ生えた腕を振り上げながら近付き、急に背中を向けて走り去った。
「助かった……?」
心の底から湧き出したのは安堵……なんかじゃない! 完全に、完全に負けていた! 僕はコープスに完敗して運良く助かっただけなんだ。ヴォルテクトも無言で地面に拳を叩きつけ、シャロットも明後日の方向を向いている。
「ああ、僕は弱いな。全然だよ、まだまだ……」




