会議は踊る
ああ、本当にくだらない。何時の世も、どの様な状況でも、例え世界が変わったとしても、人の本質は同じなのだと、まざまざと見せ付けられる。
「確かシッツ先生は武力ならば教師随一だと豪語しておりましたな。では、今が証明する時では?」
「いやいや、未だ何が起きているのかも定かではない状況ですし、此処は情報を得てから動くべきですぞ。敵の戦力を把握して万全の準備を整えたならば、このシー・シッツが解決してみせましょうぞ」
「そう言いますが、偵察が手間取ったから手遅れになったと言い訳する積もりなのでは?」
「何ですとっ! ならばエン・ブゥン先生が行き下さい! 失敗した時の為に私が控えていましょう!」
「いや、私は学者畑でして……。ですが前線で動く方さえ居るのなら敵を分析し解決の一助と……」
会議は踊る、されど進まず。学園の名誉に関わる緊急事態に対して何とか自分の派閥の発言権を高めようと功名心を働かせる一方で、貴族、特に他国出身の生徒に何かあった時の責任を負うのは嫌な様子。更に言うならば未知の敵が怖い。故に手柄は得つつも責任自体は他者に押し付けられる立場で動くのを皆が願っている。
偶然か、それとも狙ったかは知りませんがマトモな部類に入る教師は正に現場の森に居るなど硬直状態から抜け出せる様子も無し。私と空也が向かうと言ったのですが、これは学園の問題だからと臨時の雇われ風情に解決されるのは拒否する。……いえ、怯えの表情も見えましたし、先程襲撃して来たドラゴンゾンビの様な敵が来るのを恐れているのでしょう。片方だけでは敵の編成等次第では私達が強くとも守りきれる範囲には限界がある……その程度は直ぐに理解して行動に移せるのですから逆に感心しますよ。
「……なあ、もう勝手に行かねぇか?」
「気持ちは分かりますが、下手に動けば責任を全てb負わせられますよ? 璃癒ならば生半可な敵相手に遅れは取りませんし、本当に危ない時は聖獸王が介入するでしょうしね」
欠伸をかみ殺す空也に賛同したい所ですが、此処で事件を解決したら後は終わり関係無しとは行かないのが世がままならない所。私としても孫と元の世界への帰還方法である彼女以外がどうなろうと知った事ではないのですけどね。所詮は他人。これ以上目立って禍人の注目を浴びるのは勘弁願いたい。
世界を救う為なのですし、別に責められる判断ではないでしょう? 実際に私が勇者だった頃は取捨選択を行ったのですから。理想や綺麗事では世界は救えないと、実際に世界を救った私が断言しましょう。……まあ、貴族の腐敗具合や目の前の会議を見る限り、共通の難敵が居なくなった事で別の問題が発生したのでしょうが。魔王が倒れても破壊された街や荒らされた自然が元に戻る訳でもないですしね。
「……思ったのですが、あの死体は罠なのでは?」
「そ…そうですな! 彼があれだけの数のドラゴンゾンビから逃げ切れるとは思えませんし、既にアンデッドとなって動いていた可能性も……」
「取り敢えず箝口令を敷いて、後は現場の方々にお任せしましょう。折を見て調査隊を派遣すれば良いでしょう」
……成る程。臭い物には蓋をせよ、ですか。責任は森に居る教師に押し付け死人に口無し。後は十分揃った戦力で異変の原因を排除して仇を討ったとでも発表する……そんな所でしょうね。ああ、本当にくだらない。こんな遣り取りをする連中の為に文字通り住む世界が違う私達が戦わなければならない等とは……。
「……ちょいと便所に行ってくらぁ」
「私も一服させて貰いますよ」
空也が馬鹿馬鹿しいとばかりに席を立ち、私も煙草など吸わないのですが口実にして退出する。やれやれ、危機を報せるべく命懸けで戻って来た彼ですが、同僚がどれほど腐って居るのか見定める事が出来なかったのですね。全く、何が英雄学園ですか。ああ、本当にくだらない……。
「ったく、会議ってのは本当に面倒だな」
「警視まで出席したなら何度も経験があるのでは? ドラマではあの様な感じでしたが、実際の所はどうなのですか?」
「ノーコメントだ一々言う位の事でもねぇよ」
会議の内容に呆れ果て、外の空気を吸おうと中庭に出てみれば椅子に寝転がっている空也の姿がありました。一応は便所に行くと退席したのですから目立つ場所に居られると面目が立たないのですが、まあ今頃はどうせ全てが終わった後の手柄の配分方法について話し合っている最中でしょうし、別に構わないでしょう。
私が近付けば起き上がって場所を空けたので隣に座る。退屈ですので雑談でもした後に食堂でお茶でも飲もうとした時、相棒であるルーベットに乗った。
「さて、独り言だが私の予想では先生方は動かないのだろうし、勝手に動こうと思う。その際、誰かがルーベットに乗り込んでも気が付かないだろうし、生徒の私が活躍したのなら指導した先生方の顔が立つから細かい事には誰も注目しないだろう。例えば誰か一人謎の助っ人が居たとかな」
「よし、示現、俺ちょいと腹を下したから便所に籠もるぜ」
「……どうぞご自由に」
……さて、私は会議室に戻るとしましょうか。ドラゴンに乗って璃癒の所に向かう親友が羨ましいと思いつつも私は来た道を戻る。流石に二人共ん姿を消せば知らぬ振りは出来ませんし、便所にいるという情報を知らせる必要が有りますからね。
「ああ、実に面倒な。召喚前に滅びれば良かったのですよ、この世界など。少なくても聖獣王はこの世界の人間など救う気など無いのですから。奴が救いたいのは寧ろ……」
……物心付いた時からシャロットは俺様の傍に居た。
「ええい! 庶民というだけで不当に扱いよって! こうなれば俺様が乗り込んで……」
「護衛の方に捕まり、次期当主の醜聞によって家の発言権が下がって助けられた人が助けられなくなるのですね。今動いてもヴォルテクト様の気が晴れるだけですのに」
「……ぬぅ。そうだな。影から不当な暴力を受けた者への支援に留めよう」
「ええ、既に手配済みです」
「早いなっ!?」
彼奴は俺様がやりたい事を見抜き、意志を貫ける様に動いてくれた。俺様を支え、叱咤し、励まし、背中を押し、何より守ってくれた。彼奴さえ居れば何も要らないv……等とは言わぬ。理想を捨てず突き進む者でなければ奴には相応しくないからだ。
「シャロット……」
そんな大切な女が居た場所には怪物の腕が振り下ろされて陥没していた。飛ばされた小石が体に打ち付けられて裂傷が出来るが気にする余裕が存在しない。あれでは助からぬと認めるしかない。きっと腕を退かせば無惨な姿のシャロットが……。
気力が削がれ、俺様は膝を折る。ああ、俺はこれからどうすれば……。
「いや、既に分かっている。彼奴に顔向け出来ぬ生き方をしない、それだけだっ!」
後で涙が枯れるまで泣き叫ぶのだろうが、先ずは目の前の化け物を討とうと武器を構えた時、背後から呆れた様な溜め息が聞こえる。この声を俺様が聞き間違える筈がない……。
「シャロット?」
「ええ、その通りです。全く、勝手に人が死んだ風に扱うのですから……お詫びに後で口付けを所望します」
「……当然だっ! 何度でもしてやるともっ!」
俺様の背後、其処には璃癒に抱えられたシャロットの姿。ああ、何という事だ。これ程の歓喜、生まれてから数える程しか無いぞ! シャロットに出会った時やシャロットと初めて手を繋いだ時、そしてシャロットと……。
「……うーん。立場的にはヒロインを救った主人公だけど、僕は男じゃなくって美少女だからね。空気でも仕方ない」
「さあ、行くぞっ!」
「油断なさらぬ様に。相手は上級アンデッド……コープスで御座いますので」
「……スルーかぁ。まあ、真面目に対応されるのもキッツイから良いけどさ」




