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腐敗した者達

今回不快要素有りです

 二日酔いには迎え酒、二日酔いが怖いなら三日三晩飲み続けろ、その宴は正にその言葉を体現しているだろう。朝から酒気が漂う宴の席で貴族の子息子女、大商人の子供達は金の力で用意した美酒美食に舌鼓を打っていた。


 授業に出なくとも優秀な成績が約束され、素行不良も見逃される。ただ、此処に居る者達の将来の展望が明るいかと問われれば否と答えるべき者が多い。


 偽物として処理されたエンケー同様に三男や妾の子等々の家を継げない者達だ。家に残れば冷や飯食らいは目に見えていて、婿入り先や嫁入り先が見付からない者も出るだろう。だからこそ、現実から目を逸らし享楽に溺れる。貴族だ高貴な生まれだと強がるが、実際は未来に怯えているのだ。


「ひっくっ! ああ、良い気分だ。夜通し高い酒を飲み、高級娼婦を抱く。ふふふ、俺みたいな選ばれた存在に許された特権だよ」


 その一本だけで庶民の月収相当の値段がするワインの瓶を片手に千鳥足で建物から出て来る。こうして誰かを見下せば自分が高い場所に居る気がして、自分に用意された豪奢なログハウスと他の者がサバイバルを行っている森を眺められる外に出て来たのだ。


 周囲を見回せば酔い潰れて転がっている者や未だに飲み続け管を巻く仲間達m。部屋に戻されたり毛布の一枚も掛けられていない所が護衛の者達の彼らが向ける彼らの感情が分かるという物だ。


 そんな最中、寝不足や過度の飲酒でボヤケた視界にフラフラと覚束無い足取りで近寄って来る者達の姿を捉えた彼は密かに馬鹿にしている情報クラスメイトの恥を広めるべく近寄って行く。


「おいおい、大丈夫かい? 其れはそうとして聞いてくれたまえ。コーシの奴が漏らしたんだ。臭いからして大きい方も…‥…君も臭いな。まさか漏らして…‥…」


ヘラヘラと軽薄な笑みを浮かべながら近寄るも漂って来た悪臭に鼻が刺激されて動きを止める。今まで嗅いだ事のない香りに動きを止めた時、漸く相手の顔が視認出来た。


 蛆が湧いている腐敗した肉は所々が腐り落ちて骨が露出しており、片目は眼窩より飛び出して神経で辛うじて繋がってぶら下がっている。口をだらしなく開き全く知性の欠片も感じられない表情で呻き声を上げていた。動く度に嫌な香りがする腐汁が滴り落ちて強烈な腐敗臭が全身からはなたれているではないか。


「ひ…ひぇ……」


 彼は知っている。目の前の存在がゾンビと呼ばれる物だと。そして既に生涯を終えているにも関わらず三代欲求の一つ、食欲が無尽蔵に存在すると。何を食べるのか、それも知っているが故に彼はその場で足が竦んで倒れてしまう。這い蹲って逃げようにも震えて上手く動けず、声が出ない。


 これが平時なら周りの貴族が異変を察知しただろう。護衛の者達も酔っ払いが倒れたとしか思わず動かないなんて事もなく、そもそもとして貴族以外の生徒も大勢居るので誰かがゾンビに直ぐ気付いて迅速な行動が取れたのだろう。


 だが、この場の多くは酔っ払いであり、脚がもつれて倒れても、正面の相手に覆い被さる者が居ても即座に動きはしない。酔っ払いでも何かあれば声を上げて助けを呼ぶからで、声を出せない程に怯えているとは思われなかった。


「アァアアアア……」


「ぎゃぁああああああああああああああっ!!」


 だからこそ、此処に居る者達が異変に気が付いたのはゾンビが目の前の肉に食い付いて首の肉を食い千切った事で派手に血飛沫が上がった後だ。最初の犠牲者はとある男爵家の四男であり、彼を夢中になって食べるゾンビの背後からも蠢く腐乱死体が次々と現れる。直ぐ目の前の肉に我先にと殺到し、他の者を押し退けてでも食べ進めるが当然食べれないゾンビも居る。


「ウゥゥゥ」


 だが、問題はないだろう。目の前には大量の新鮮な肉が居るのだから。未だ混乱覚めやらぬログハウスを囲む様に次々と木々をかき分けてゾンビが集まって来る。眩い光に群がる羽虫の如く生者に引き寄せられた死者達によって泥酔していた者達も一発で酔いが覚めてしまった。



「わぁあああああああああああっ!?」


 先程まで料理を貪っていた少年が悲鳴を上げながら逃げ出す。それが引き金となって他の生徒達も逃げ出したのだが周囲はゾンビに囲まれている為に包囲の手薄な部分へと密集した。酔っ払いがパニックを起こして走り出せばどうなるか、その答えは簡単に分かる。


「わっ!?」


 貴族の子女が一人、脚がもつれてその場で転ぶ。ロングヘアーの美少女で卒業後はそれなりの家に嫁ぐのが決定していた。転んで擦りむいた足が痛むが起き上がろうとして、後ろから走って来た誰かに踏みつけられた。足を、背中を、頭を、自分だけでも助かろうと逃げ惑う者達は足下に転がる誰かを踏むのさえ気にせずに走り続ける。そんな光景が彼方此方で見られた。


「う…うぅ……」


 中にはこんなのを守る為にゾンビなど相手に出来ないと逃げ出した護衛も居て、鎧を着て重量が増した彼らに踏まれた事で死んでしまった生徒も居る中、その少女は生きていた。足も運良く折れてはいない。起き上がって走るのは無理だが数日療養するか回復魔法で直ぐに治る程度だ。




「アァアアアアアアア」


「ウゥウウウウウウウ」


「ひっ!?」


 この状況でそれが幸運かどうかは疑問ではあるが。分かるのは彼女は逃げられず、知能の無いゾンビが同情して見逃すなど有り得ないという事だけ。逆に動けない肉が目の前に存在するなど好都合でしかないという事だった……。


 暫くの間、咀嚼音と共に悲鳴が轟き、やがて悲鳴が聞こえなくなればゾンビ達は本能で感じる生者の気配、新たな獲物を食らうべく動き出す。その様子をログハウスの二階の窓から隠れ見る者達が居た。昨夜、娼婦を連れ込んだり美容の為等の理由で部屋に戻った者達だ。




「……行ったな」


「下級のゾンビで良かったよ」


 どうやら閉め切った室内に居たお陰でゾンビの察知から逃れられたらしい彼らは周囲から完全に姿を消した事を確認してホッと胸を撫で下ろす。今回は知能が失われた下級種だが、ゾンビやスケルトンが含まれるアンデッドの中には高い知能を持つ者も存在する。運良くそれは居なかったらしいが……。


「なあ、本当に居ないのか?」


 一人の疑問に誰もが黙り込む。見えない場所に存在する可能性もあるのは分かっている。その中の一人、昨夜娼婦を連れ込んだ少年は何を思ったのか彼女の手を取った。




「いや、悪いね、君」


「え? それはどういう意味で……」


 突如窓が開かれ、彼女は窓の方へと突き飛ばされる。慌てて窓枠を掴んで落ちるのを防ごうとした時、別の貴族の少年が花瓶を掴んで顔に向かって投げた。顔面に花瓶が当たって窓から落ちた彼女は首の骨を折ったのか動かず、目を見開いたまま息絶える。直ぐに窓を閉じて様子を伺っていた彼らは餌に群がって来るゾンビが居ないのを見て漸く安心した。


「さて、何か食べようか」


「助けって多分昼までには来るだろうけど……さっきの女が居たら暇つぶしに使えたのにな」


「まあ、仕方ないって。……ん?」


 庶民の命など知った事かと平然とした様子の少年達。安心したのか空腹を覚えて食べ物を取りに行く最中、一番後ろを歩いていた彼は昨夜虫に刺されたらしい場所に違和感があって触る。妙な感触を感じ、触った手を見れば腐敗臭がする液体が付いていた……。








 だが、彼がそれを気にする事は一生無い。既に脳にまで進行しているからだ。



「ウ…ウァ?」


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