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サバイバル二日目

 未だ鶏も鳴かない早朝、森の中を流れる川に一匹の狸が近寄って来た。捕食者を警戒しているのか頻りに鼻をヒクヒクと動かして警戒しており落ち着きが無い。


 水面を恐る恐る覗き込み、水中に引き込もうと待ち伏せしている者が居ないのを確認すると舌先でペチャペチャと水を嘗める。だが耳は警戒しているのか動いており、何か物音を聞いたのか不意に顔を上げて周囲を見渡した。少し霧が立ち込める周囲には動く物は流れる川か風に揺れる枝葉だけであり、直ぐに水を飲み直す。




「!?」


 風を切りながら何かが飛んで来た。それを察した狸は咄嗟に飛び退いて飛んでくる物が何かと目を向ける。飛んで来たのは人の腕ほどの太さを持つ蜘蛛の糸。先程まで狸が居た場所に向かって地面に当たる……その直前に急に向きが変わって狸の体に張り付いた。


 ジタバタと暴れ、キュウキュウ悲鳴を上げるも既に狸は蜘蛛の巣に捕らわれた蝶同然、逃れられる筈もなく蜘蛛の巣に引っ張られ、一本釣りの要領で宙を舞う。


 離れた木の上で気配を殺し獲物が油断する時を待ちかまえて居たのは大蜘蛛のモンスター、フィッシャーギア。基本的に臆病であり、狙う獲物は狸程度が関の山。それ以上の相手には相対するなり機敏な動きで逃げ出す程だ。知能はそれなりに高く、調教次第では騎獣にもなる。アメンボと同じ方法で水上も動けるので結構重宝されていた。


 暫く獲物と出会えなかったのか興奮した様子で牙を動かし、この時点で消化液が漏れ出している。空腹と久々の獲物を得た興奮でこのフィッシャーギアは忘れていた。獲物を捕らえた時が一番危険な瞬間なのだと。




「コケッ!」


 気が付いた時にはもう遅い。足が自分より速いフィッシャーギアを捕らえるべく数日に渡って姿を隠していたカメレオンチキンが襲い掛かったのだ。飛べない代わりに発達した脚で押さえ込み、鋭い嘴で頭を潰して逃げられない様に仕留める。弧を描いて飛んでくる途中の狸も一緒に食べてしまおうと目を向けた時、投擲された刀の切っ先が首を貫く。


 どうやら久々の獲物を前に油断してしまったのはフィッシャーギアだけではなかったらしい……。



「朝ご飯ゲットー! これ、尻尾はどんな味なんだろう……?」


 木の上から落ちてきたカメレオンチキンをキャッチした璃癒は調理方法を考えながら尻尾に視線を向ける。タレのぼんじりは焼き鳥の中で二番目に好きなメニューだ。因みに一位は皮の塩らしい。ただ、人と同じ位の大きさ以外は普通の鶏に見えるが尻尾は例外であり爬虫類を思わせる、要はカメレオンの尻尾だ。


 煮て食うべきか焼いて食うべきか迷った時、漸く狸が落ちてくる。地面に落下激突する前に抱き止めると助けて貰ったと理解したのか璃癒に鼻を擦り寄せ目を潤ませながら甘え声。少し小さめの体をしている事もあって可愛らしい。


 璃癒の腕の中、狸は食われる恐怖から解放された安心感で寝息を立て始めた。スヤスヤと眠る狸は夢の中で大好物の柿をお腹一杯食べる。モンスターに怯えながら暮らす狸にとって久方ぶりの幸せな夢であった。












「ランチは狸汁ー!」


 だが、食われる者が変わっただけであり、食う物が増えた璃癒は鼻歌混じりに狸を抱いて洞窟へと戻る。人の言葉など分からない。弱肉強食が自然界の掟。これも自然の摂理であった。







「エリーゼ! これ、ランチに使おう! 狸汁って食べてみたかったんだよ、僕」


「え? それって狸じゃないですか!? 狸汁にするなんてとんでもないですよ!」


 だが、捨てる神在れば何とやら。拠点である洞窟に持ち帰った狸を見たエリーゼは慌てた様子で狸汁の取り止めを要求する。どうやら狸の命運は尽きていないらしい。








「狸は臭みが強いですからハーブ焼きがオススメです。子供の頃、同じ孤児院出身の猟師さんが捕ってくる度にハーブ焼きが食卓に並んでいて今でも大好物なんです」


 ……かと思ったら気のせいだったらしい。狸の命運は尽きていた。







「うーん。矢っ張りさぁ、女の子としては入り口剥き出しの洞窟で暮らすのってどうかと思うんだ。寝床だってもう少しどうにかしたいよね」


 二人が拠点として指定されたのはそれ程広くも深くもない洞窟。湿気も高くなく、野生動物や虫の住処にもなっていない、今回拠点に選ばれた場所では比較的当たりの場所だ。貴族と違って璃癒はこれを運で引き当てていた。


 ただ、洞窟なので戸が無くって外から丸見え、雨風が入り放題であり、寝床も少し掘った地面に柔らかい木の葉を敷き詰めただけの物。そんな場所で過ごすのはサバイバル訓練とは言え女の子としてどうかと主張する璃癒の姿を見たエリーゼは昨夜の事を思い出していた。





「今すぐ返すかキグルミを刻まれるか選びなよ」


 折角手に入れた大量の葡萄を食べたアンノウンに緋鋼を突き付ける璃癒。アンノウンはリンゴを刃先に当てて器用に皮を剥き出すとリンゴを一口で食べてしまった。完全に璃癒を馬鹿にしている。


「リっちゃん短気ー! じげちゃんとくーちゃんの名前に特に反応されないのって僕のおかげなんだよ? 具体的に言うと催眠怪音波を世界中に放ったから禍人も気が付かない」


「いや、流石に嘘だろ」


「酷い! 僕、一生懸命頑張った訳じゃないのに! 大体、僕の正体って知ったらエリちゃんが平伏するんだよ!」


「いや、絶対嘘だろ」


「同じ対応だ!? 渾身のボケもスルーだし……」


「はっ! 本当に其処まで凄い正体だったら鼻からパスタ食べてあげるよ。……あれ?


 何時の間にかアンノウンは消え失せ、一枚の紙が落ちていた。拾い上げれば何か書いている。






『大盛りペペロンチーノね!  ps魔王が誕生したよ』


「大事な方が追伸だ!」







(女の子って自覚があるなら鼻からパスタ食べるって言わないで欲しいのですが……)


 言わぬが仏。沈黙は金なり。黙っておく事にしたエリーゼであった。だって手遅れだから。









「じゃあ、僕は毛皮が取れそうな大型の獣でも狩って来るから。ついでに使えそうな木を引っこ抜いて来るねー!」


「……頑張って下さい」


 住処の環境を改善するのは構わないのだが、行動があまりにもワイルドな方向の璃癒に掛ける言葉も見付からないエリーゼは取り敢えず木の実やキノコを探していた。


 幼い頃より山に入っては遊びながら食材を探していた経験豊富な彼女は次々に食べ物を発見、直ぐに入れ物が一杯になって行くが、璃癒の食事量からして絶対に足りない。何往復か目に突入した時、向こうから来たシャロットに気が付く。彼女も食料探しらしく、くまをかついでいた。


「おや、これはどうも」


「お早う御座います」


 互いに一礼して別れようとした時だ、複数の足音と共に男達が現れた。



「やった! 丁度良いのを見付けたぞ!」


 嬉しそうな声を出したのは太りすぎで顎が無い少年。服も脂肪でパンパンに張り詰めている彼は鎧姿の男達が担ぐ台座の上の椅子に座り込んで二人を舐め回す様に見ていた。





「おい、光栄に思え! 良い娼婦を他の奴らに取られちゃったから、代わりにお前達に僕の相手をさせてやる!」

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