藪蛇
僅かですがお気に入りが伸びています やった!
「……ふぅ。私が此処までダメージを負ったのは久し振りですね。流石は英雄、この世界の存在であればば負けていたかも知れません」
「!?」
手応えは確かにあり、実際に流れた血が地面に残っている。にも関わらず服に血の染みすら存在しないシアバーンの姿に此処まで来ても無言を貫きながらも黒子は驚きを隠せない。警戒した構えでナイフを構えるも胸の表面を横一文字に切り裂かれた事で血が流れ出しており万全とは言い難い様子だ。
先程までは互角、だが今は黒子が手負いでシアバーンは健在。ましてや負傷して満足に動けない二人を先程の様に守りながらでは勝敗は明らかだ。シアバーンもそれが分かっているのか余裕を見せて向かって来るどころか構えすら見せずにいた。
「さて、勝負は付きました。ええ、私の勝ちですとも。何か納得していないという様子ですね。まあ、世界を救う宿命の持ち主ですから逆境は何度も越えて来たのでしょうが……私とは戦うなとアンノウンから言われてますよね?」
「!」
黒子は思わず反応してしまう。シアバーンが語った様に彼は他の世界において物語の主人公に該当する存在だった。英雄に憧れる未熟な少年が運命的な出会いと苦難辛苦の末に成長し、やがて途轍もない険しさの試練を乗り越え世界を救うまでに至った
。そんなありふれた物語の主人公であった黒子は本当は勇者である璃癒一行の観察が仕事だったのだが、純粋で正義感が強い事から誰かの危機を見過ごせなかった。例え相性の問題で絶対に勝てないと聞かされた相手であろうとも。
「図星ですか。予測するに後ろの二人を助けんと飛び出したのでしょうが無駄でした。私、この世界に選ばれた英雄でなくば倒せないのです。例えるなら化け鯨を退治する物語に吸血鬼ハンターが出ても活躍出来ない、そんな感じです。だって、そんな風に作られた世界なのですから」
「……ちょっと待て。さっきから何を訳の分からない事を言っているかと思いきや、そんな風に作られたですってっ!? 何で禍人に都合良く世界が出来ているのよっ!」
シアバーンの言葉に思わず口を挟んでしまったリシャーナ。だが、世の中には藪蛇という言葉が存在する。余計な事を言ったばかりに攻撃の手が向けられる……それだったらどれ程良かっただろうか。
この世には知らない方が良い事が確かに存在するのだから。
「ああ、それは簡単な話です。貴女達は我々が世界を侵攻しようと攻めてきているとお思いですが……この世界は私達の為に創造されたのですよ。付属品として貴女達人間を付けてねぇ! あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」
愉快そうに笑うシアバーン。彼の言葉を聞いたリシャーナとスカーは呆然とする他無かった。そして、何を思ったのかシアバーンも黒子に背を向けた。
「言っておきますが見逃して差し上げるのですよ? 先程も斧を使わなかったでしょう? 友の部下への温情です。……ああ、伝言を一つ。今代の魔王は覚醒したと、彼にお伝え下さい」
最後に振り向いてお辞儀をしたシアバーンが頭を上げた時、彼の姿は消え去る。黒子は悔しそうに拳を握り締めた。
時間は少し巻き戻り、食堂には空也の姿。今から食事の様だ。酒の飲み過ぎに口五月蠅く止めに入る璃癒が居ないせいかとことん飲む予定である。
「教職とか面倒だと思ったんだが……待遇は悪くないな。結構な事じゃねぇか」
キンキンに冷えたエールを木製のジョッキに注ぎ、ゴクゴクと喉を鳴らして喉を潤す空也は満足そうな顔で皿の上に用意されたハンバーガーに手を伸ばす。
ゴマが散りばめられた少し硬めのパンズに挟んでいるのは粗挽き胡椒で味付けされた肉厚の鶏肉ハンバーグ。ソースは唐辛子(っぽい物)を中心に少し辛めに味を調えたトマトペーストであり、自家製ピクルスは酸味が抑えられている。レタスも新鮮で瑞々しいのが挟まっていた。
一口齧れば最初に口に広がったのは芳ばしいゴマと小麦のハーモニー。ハンバーグは表面をしっかりと焼き付けてカリカリにしているが中はふんわりと抜群の焼き加減でタマネギの甘みと肉の旨味が合わさった肉汁が口の中を駆け巡る。
その全てを数段上に昇華させるのは辛口トマトソース。唐辛子(っぽい物)によってヒリヒリと口の中が刺激されるが食欲が増進され、他の食材の長所が際立つ。シャキシャキのレタスの優しい味がコッテリした味に傾くのを抑制していた。
続いてスプーンでクラムチャウダーを口に運んだ。少し濃厚でトロミが付いたスープはじっくり煮込んで溶け込んだ野菜の味がしっかりと存在を主張し、臭みを一手間も二手間も掛けて消した貝の身が濃厚な旨味で主役は自分であるとアピールしてきた。
サラダはサラダで新鮮なリンゴが素材の味のみで勝負に出た野菜の中に添えられ、他の料理が濃厚なだけにシンプルな味が嬉しい。
そして何よりも最高なのは冷え切ったエール。料理はこれを楽しむ為に生まれたのだと酒好きである空也が思う程だ。
「示現も不幸だよな。別の仕事頼まれてるからこんなに美味いのを食べ損なうんだからよ」
この料理は臨時教諭の示現の為に用意された物であり、素材も只の臨時職員に対しては破格の待遇と思える品質の物を用意してある。この日、学園が存在するフロレス共和国で信仰されている風の精霊王シルフを召喚したのが理由であり、出来れば今後も学園に属して欲しいと言外に伝えて来るのが分かっていた。
「しかし美味いっ!」
テーブルに広げられた料理をツマミにエールをグビグビと飲み続ける空也だが、その手が急に止まって窓の方を顔が向く。ルーベットの背中から飛び降りた璃癒が窓から飛び込んで来た。
「空也お祖父ちゃんっ!」
「お…おうっ!? これはアレだぞ? ちゃんと休肝日は守るし、これで終わりだから……ほれ、このミートボール美味いぞ」
「本当だっ! 挽き肉に混ぜられた野菜は少し大きさをバラバラにしてあるから食感の違いが生まれて、中の濃厚チーズが……って今はそれどころじゃないんだ! 外っ! 外に感知魔法っ!」
「感知? サーチ……って、変なのが来るな」
大量飲酒の最中に慌ただしく飛び込んで来た孫娘に慌てて対処する空也だが、どうも健康診断の結果を案じて苦言を呈する気ではない様子。四六時中使っていれば気が休まらないと切っていた感知魔法を使用すれば人とモンスターが混ざった気配が接近して来る。
「どうもエンケーって奴がモンスターになったみたいなんだけど、殺さずに止める方法でお願いっ! 出来れば元に戻してやって」
今のままでは建物内から視認出来る位置まで来るのも僅か後だと慌てる璃癒が危惧しているのはエンケーが攻撃を受けて死んでしまう事。正直言って嫌いな相手ではあるが、だからと言って人が死ぬのは見過ごせない。そんな風に訴える彼女の頭に空也の大きな手が優しく置かれた。
「可愛い可愛い孫に頼まれたんだ。此処でどうにかしない俺じゃねぇ! 祖父ちゃんの凄い所を見せてやるぜ!」
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アンノウンのキャラ紹介コーナー
第四回 黒子
元々は僕が別の世界で本来の運命をねじ曲げて引き入れた子だよ。年上好きだったけど、訳あってロリコンになっちゃった。夢見がちで純粋だったけど、今じゃ敵に容赦がないんだ。ロリコンだけどね!




