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三つ巴と教師の過去

「む? スカー教諭よ、何故此処に? 俺様達は立会人を依頼した覚えはないが?」


 風呂に入って夕食で腹を満たし、やっと一息、自由時間と他の生徒が悠々自適に過ごす中、三つ巴の試合を行う事となった璃癒、ヴォルテクト、コルネリアの三名だが、中央修練場に向かうと既にスカーの姿があった。


 身の丈程のタワーシールドを壁に立てかけ、多忙から来る疲弊の色が見て取れる顔を見たヴォルテクトが疑問を向ければ呆れの顔が帰って来た。


「いや、流石に放置する訳には行かないし、責任を取ったり後始末の段取りを付ける必要が有るし、文字通り貧乏くじを引かされたんだよ。……料理人と座学講師を両立して忙しいってのにさ。……はぁ」


「それは済まないね、先生。まあ、余裕が有れば周囲への被害は抑えると約束しようじゃないか」


「話が分かるね、生徒会長。……余裕が無い場合は?」


「酒でも奢ろう」


 つまりは甚大な被害が出て報告書やら諸々の手続きが必要となる訳で、スカーに甚大な量の書類作業が降りかかり睡眠時間が削られると、そう言う訳だ。


「……ふぅ」


 余裕とか絶対無いし、周辺被害を気にして戦う気も無いと、全て悟ったスカーは空を仰ぐ。この時点で激務の予感に胃がキリキリと痛んで星空が目に染みた。




「……ねぇ、スカー先生泣いてない?」


「大人だからね。色々あるのさ」


「うむっ! 大人になるとは苦難辛苦の連続であるなっ!」


「……じゃあ、さっさと始めて」


 お前達が言うなと怒鳴りたい気持ちを優しい心で飲み込んで試合を始めるスカー。開始が遅れれば睡眠時間がそれだけ減る、そんな悲痛な想いがこみ上げるのであった。






「さて、予定通りなら来週の始めから君達はサバイバル訓練の後に従竜の儀だったが……望むなら大怪我しない程度に手を抜いてやるが?」


「ぬかせっ! 其方こそ生徒会長の職務に支障が出ぬように手を抜いて欲しいのではないか?」


 コルネリアとヴォルテクトの挑発合戦を耳にしながら璃癒は二人の武器に目をやる。ヴォルテクトはダガーだ。武術を牽制に使い、防御やここぞの時の一撃に武器を使うのが彼のバトルスタイルだと観戦した試合で目にしている。


 対してコルネリアのバトルスタイルは耳にした範囲では攻め重視としか情報が入って来ず、武器も初対面の際に目にした限りだ。片手で扱う少々小振りなフレイルと鎖で連結されているのは三日月状の巨大な刃、やや流線型なブーメラン。聞けばフロレス共和国に伝わる武器で、名をマデュス。扱いが難しいので廃れて久しい武器との事だ。



(でも、彼女の評判からして使いこなしているよね)


 雑な扱い、単調な動き、そんな不慣れから来る容易く対処できる動きなど微塵も期待せず璃癒は武器を構える。流石に真剣は許可が下りなかったので三名とも木製の武器を用意し、マデュスの鎖も頑丈な細縄に代わっている。


 先ず動いたのはコルネリア。縄の中心部を手にし、左右の武器を回転させながら璃癒へと迫る。叩き落とそうと木刀を振れば直前で動きを変え、変則的な動きで木刀を迂回して璃癒へと迫る。だが、攻めに転じれば防御が手薄になる物。縄に指を絡ませ自由自在に刃と鈍器を操るコルネリアにヴォルテクトの蹴りが迫り、彼女の身体に隠れる様にして璃癒が突きを放った。


 咄嗟に滑り込ます手が腹部への直撃を避けるが身体は後ろに飛び、そのまま無理やり軌道を変えて横に振るわれた木刀は柄を手にしたフレイルで防がれる。片手で持つフレイルを両手で持つ木刀が押しやろうとするも三日月刃が地面スレスレを飛んで足へと迫る。咄嗟に跳んで避けようとすれば鍔迫り合いの最中だった二人纏めてヴォルテクトの両の拳が叩き付けられる。二人共、武器で咄嗟に防いでいた。



(あーあー、嫌だ嫌だ。これだから才能がある奴らってさ)


 僅かな攻防で三名の才能を見抜いたスカーは心底嫌だと溜め息を吐いていた。視線を次に送るのは盾。戦闘において彼の役目は防御であり、それに対しては絶対の自信がある。だが、裏を返せば防御以外に自信も、本人が欲するレベルの才能も無かった。


 彼が産まれたのは……本人も覚えていない場所であり、一番古い記憶は傷だらけで遠国のスラムに倒れていた事だ。きっと禄でもない人生を送っていたのだろうと興味は持っておらず、彼にとって重要なのはその後からだ。



「ああ、安心しろ。俺達は卑しい身分で貧しい暮らしだが……仲間の結束は強い」


 スラムの子供達のリーダーをしていたのはスカーと同年代の少年。聞けば貴族が遊びで手を出した使用人の子供であり、正妻が懐妊したからと命の危険を感じた母が赤子の彼を連れて逃げ込んだのがスラムで暮らす理由らしい。既に母は病死したが結束が強いスラムの住民によって逞しく育ち、スカーにとっては憧れを抱く存在となった。


 そつなく物事をこなし、他者を気遣う彼の周囲に他の子供が集い、スカーもその中の一人。体が大きくて頑丈だが喧嘩の腕はからっきしだったスカーが選んだ道は盾役だった。


 スリや盗みのバレた際の逃走や、憲兵達との攻防で殿や仲間への攻撃を古ぼけた盾で防ぐ日々に彼は充実を覚えていた。戦いが苦手な自分でも誰かの役に立てると幸せだった。



 ある日、業を煮やした領主が本格的に派兵を行い、一度は撃退した。いや、撃退してしまったと言うべきだろう。それによって他の領地からも援軍が送られ、スラムは壊滅、仲間は散り散り。リーダーだった少年は捕らわれたと風の噂で耳にしており、行き方知れずだという……。



(あの時、僕にもっと力が有れば。戦いの才能が有れば……)


 己の才の無さを悔やみ、無力を憤る彼が如何にして教師になったのかは紆余曲折の末としか言えないが、あの頃よりも強くはなったと思っている。今更力を得ても遅いとも。




「……何だ?」


 そんな彼が防御以外で誇れるのはスラム暮らしで身に付けた危険察知能力。魔法とは違う勘の延長線上の力であり、猛スピードで迫る何かに咄嗟に反応した彼が盾を手に取ろうとした瞬間、轟音と共に巨大な人影が修練場に降り立った……。

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