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期待する者、されぬ者

感想ゲット! テンションあがった

「これはこれは、随分と手酷くやられましたねぇ! あひゃひゃひゃひゃひゃっ!」


 保健室に響き渡る不快極まりないシアバーンの嘲笑。外に聞こえても不思議ではないのに誰も部屋に向かう様子もなく、顔を隠した不審な人物、いや、人ですらない気配を放つ男の登場にもエンケーは怯え戸惑う姿を見せない。


 それは彼が剛胆なのではなく、会いたくない相手に会ったという不愉快そうな顔から知己の間柄だと伺える。人類の敵と貴族の三男坊という両名の立場からして大凡真っ当な間柄ではないのは明白だ。


「おい、声がデカいし校舎内に現れるな。今、妙な奴らが来ているんだ」


「妙な奴ら? ああ、どうも極東の出身らしい少女ですか? あれは凄い。学園屈指の実力者二人と三つ巴で見事に戦っていますよ、今現在。素晴らしい才能ですねぇ、貴方様と違ってっ!」


「……僕の方が才能がある。今日は偶然だ」


 オーバーリアクションでエンケーを指差してシアバーンは彼を煽る。お前には才能の欠片もないと聞こえたエンケーは拳を握りしめ、自分に言い聞かせる様に絞り出した声で睨み付けた。


 だが、シアバーンは睨まれても意に介した様子すらなく、逆にちゃんと聞こえなかったと言わんばかりに耳に手を添え、彼の方に傾けた。


「おんやぁ? 今、偶然負けたと仰いましたかぁ? そうそう、偶然偶然。凄まじい奇跡の連続で本来は格下の者達に負け続けただけですものねぇ! あひゃひゃひゃひゃひゃっ!」


「ぐっ!」


「いやいや、エンケー様は素晴らしいですよぉ? 家の力で手に入れた成績と、貧乏な姿を見せれば家の恥だからと使えている家の金、他人に集めさせた経験値で上げたレベル! どれもこれも他人の力で、自分自身の力は皆無なのですが……良いんですよぉ?」


 反論が出来ず俯くだけしかしないエンケーにシアバーンは煽りを続けながらも彼の肩に手を置き、先程までとは全く違う雰囲気の声で囁いた。



「結局、磨き抜かれた技も力も先人が効率の良い修行法を模索したから。誰も彼も他者の力の恩恵を得ているのです。……そして、私が本性を出して接するお客様は貴方だけ。他でもないエンケー様だからこそ力をお貸ししているのです」


「僕…だからこそ」


 貴族にとって子供とは次代を担う存在だ。長男が大切なのは当然で、次男もスペアとして重要性が高い。だが、三男からはスペアのスペア。年の離れた兄が当主の座に付く日も近いダッツモ家にとって婿入り先も見付かっていないエンケーは冷や飯食らい、特に注目される存在ではない。


 だからこそ偉ぶれる学園では家の力を見ている取り巻きと共に横暴な態度を取っていたが虚しい毎日。そんな彼にとって自分に価値を見出したという言葉は甘く響き、彼の手の平にピンポン球より一回り小さい白い球体が置かれた。


「お飲みなさい。それだけで憎い方々を超越した力を得られますよ」


「これを飲めば……」


 渡した相手も、内容からしても禄な物ではないと疑って当然の物体。ジッと見つ迷うエンケーだが、脳裏に浮かんだのは自分と同じ貴族にも関わらず(少なくても彼の中で)貴族らしくないヴォルテクト、平民にも関わらず優秀と騒がれるコルネリア、そして自分に恥を掻かせた璃癒。


 今まで聞かされた無価値という罵倒が聞こえ、彼は一気に飲み込む。効果は直ぐに現れた。


 腹部が燃える様に熱く、体の隅々まで力が行き渡るのが分かる。汲めども汲めども尽きぬ力の泉が自分の中に湧き出した感覚にエンケーは今までにない万能感と高揚感が溢れ出す。


「……凄い、凄いぞっ! これなら僕を不当に扱った奴らに罰を……。おい、例の三人は何処に居る?」


「中央修練場……おや、もう行かれましたか」


 シアバーンの言葉の途中でエンケーは壁をぶち抜いて三人が戦っている方向へと向かい、残されたシアバーンはエンケーの為に用意されていたワインのボトルを手に取ると喉に当てる。喉の一部が大きく裂け、鋭い牙の生えた口が姿を現した。




「さてさて……彼は何時まで保つのでしょうかね。イルマ・カルマ様はどう思いますか?」




「死ぬよ、直ぐ死ぬ。あんなのに期待しているの?」


「死ぬね、直ぐ死ぬよ。あんなのに期待する必要無いよ」


 誰も居ない筈の方向に言葉を掛けるシアバーン。彼が顔を向けた方向から子供特有の声が二つ返り、豪奢な椅子に座る双子が姿を現した。


 二人はエンケーを嘲笑し心の底から楽しそうに笑う。まるで虫を殺す遊びを楽しんでいる幼子の様にだ。





「いえいえ、適当に選んだだけですよ? 毎回毎回名前を忘れそうになって……えっと、名前は何でしたっけ、彼?」


「「知ーらないっ! そんな事よりさ……その時が楽しみだよねっ!」


 ゲラゲラと腹を抱えて笑う声が響き、やがて声が消えると保健室からは影すら消え失せた……。

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