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会長の提案

「……じゃあ、午前の授業は此処まで。ちゃんと予習しておいて」


 終了時刻を告げる鐘の音と共にスカー先生が教科書を置く。長身で鍛えた体には多くの古傷と、見た目からして戦闘関連の先生かと思いきや座学の授業が中心らしい。更に言うならば特別な儀式である従竜の儀を行う為にやって来た臨海学校では食堂でも働いているんだから激務だ。それにしても……。


「疲れた。肉体的は兎も角、精神的に……」


 英雄となる者を育てるという名目上、当然だけど戦闘訓練以外にも勉強する事は沢山有るんだけど……朝の八時から十二時まで普通科目をやって、昼の一時から夜の七時半まで戦闘訓練やら戦術の授業とかハードだ。しかもアスモデウス学園の生徒は全寮制で何時もこんな授業内容だとか。


 権威と財力に屈して栄光を失いつつあるって聞いたけど中々どうして。まあ、欠席したのにスルーしているのも何人か居るそうだし、貴族のボンボンって話も聞くけどさ。欠席をスルーされている連中、僕達が挨拶した時に見下したりエリーゼに卑猥な視線を送っていた奴らを思い出しながら重い足取りで食堂に向かう僕。今日のランチは何だろうか……。




「やあ。他のテーブルが埋まっているのでご一緒させて貰うよ」


「せ…生徒会長っ!」


 僕がクラスメイトとランチを食べていると少し遅れてコルネリアさんがやって来る。流石は期待の星だけあって一緒にご飯を食べていた子は緊張していた。まあ、スポーツ大学で既に現役で活躍している生徒と会うみたいな物なのかな?


「遅かったですね。生徒会長のお仕事ですか?」


 一応先輩だから敬語敬語っと。気さくな相手だから別に良いとは思うけど流石にね。


「ああ、先生方の補佐に加えて今出来る会長としての執務、更には学業もしなければならない。多忙の身で昼食も少し遅れたという訳だ」


 既に僕以外は食べ終わってお話ししている時間帯で、昼休みが既に半分は過ぎている事に肩を竦めるコルネリアさん。忙しいけど、それをこなせるから期待されているんだなって感心していると厨房の方から声が掛かった。



「そろそろ来る頃だから準備してたよ。……書類は置いて食べないと味が分からないから止めてよね」


 この人もこの人で忙しいスカー先生。まだ四日目だけど端で見ていて激務をこなしている彼は書類の束を手にしているコルネリアさんをジト目で見ながら今日のランチを並べている。


 あっ! 僕の七回目のお代わりも出来てるや。今日は塩で味付けした鶏肉と野菜のサンドイッチに豆のポタージュ等々。矢っ張り学校で一番楽しいのは学食だよね。ウキウキしながら取りに行くとざわめきが聞こえてくる。うーん。僕、注目されている?



「……君、結構噂になっているぞ。一ヶ月だけの短期入学生がかなりの凄腕だとな。あと、かなりの大食家だと聞いていたが……予想以上だ」


「あはははは。僕としてはそれ程でもないと思うんだけどね」


「謙遜も過ぎれば嫌味になるぞ? ああ、それと……午後からはみっちり実戦訓練だろう? 私は本来なら先生方の補助なのだが……私と一戦やらないか?」


 不適な笑みを浮かべるコルナリアさんの瞳が怪しく光る。そっか、この人ってバトルジャンキーって奴かぁ。何か発言を聞いた周囲が盛り上がっているし、断りにくい雰囲気だよ。……もしかして予想した上での発言だろうか?



「聞いたか? 噂の転入生と会長の一騎打ちだとよ!」


「まあ、勝つのは会長だろうけど……」


「いやいや、璃癒ちゃんも結構強いわよ。戦ってみないと分からないわ!」


 ……ありゃりゃ。面倒だから嫌だって言えないね、これじゃあ。まあ、真剣で戦う訳でもないし、お祖父ちゃん達が短期入学させたのも、こうやって経験を積めって事だろうから……。



「うん、良いよ。でも、言っておくけど訓練用の武器だからね」


「……おや、これは惜しい。出来れば真剣でやってみたかったのだが……今回は諦めるとしよう」


 いや、真剣を使った次とかは絶対に無いからっ! この人、妙に強引で疲れるよ。マイペースって言うか、何って言うか。変なカリスマみたいなの持っているし。


 僕が了承した事で更に盛り上がる中、離れた場所で他の生徒の食事を作るスカー先生達とは別の料理人達に作らせて届けさせた料理を食べていた数人の生徒達が面白くないって表情をしていたんだけど、コルナリアさんと僕以外の生徒は誰も気が付いていなかった。




「所で一緒に入ったエリーゼって子は?」


「臨時で入った教官の授業で魔法使い系のクラス持ちはサバイバル訓練だってさ」


 僕達と同時期に雇われて今日から本格的な授業らしいけど、どんな人達なんだろう?








「皆さん、静聴を。拘束魔法において観察眼は必須と覚えて置きなさい」


 エルフの国(カノンノ)に入国する為の審査を通る為に必要な条件を満たすまでの一ヶ月間、私と璃癒は英雄学園と名高い……いえ、名高っかったアスモデウス学園に通う事になったのですが……正直言って空也さんの指導よりも分かり易いです。専門家ではないのですから仕方ないと言えば仕方ないのですが……。


 今は新しい教員の方の、自然に宿る精霊の力を感じながら魔法を磨く、との方針で自然の中で皆で炊事をしてからの午後の授業。魔法指導者の責任者であるリシャーナ先生が実践前に講義を行っています。


 青い髪を伸ばした二十代前半の女性。前髪は目を隠し、後ろ髪は腰まで伸びた少しミステリアスな感じの方で拘束魔法の達人と他の生徒の方々からお聞きしています。私もホーリーバインド等の拘束魔法を使えますし今日は是非腕前を上げたい所ですね。



「先ず必要なのは相手の肉体の構造を理解する事。相手が力を入れやすい体勢、束縛箇所、それらを絶対に避ける、これは最低条件です。むしろ把握していないのは素人レベルだと知りなさい」


 はい、素人レベルです。私、特に考えずに使っていました。確かに効率良く相手を束縛すれば長い時間より多くの相手を捕らえる事が出来るはず。今までなら足止めすら満足に出来なかった相手だって……。


 ……うん、たった一ヶ月ですが絶対に教えをモノにして見せます。私は絶対に強くなる。世界を救う英雄になる為にも……



「では、そろそろ新しい教官を紹介しましょう。……先に言っておきましょう。彼はレベル40のハイウォーロックです」


 レベル40、リシャーナ先生の言葉にどよめきが走る。私のお友達のお父さんが狩猟民族の族長で部族最強の戦士なのですが彼は30。そしてたった10の違いですが天と地ほども差があります。リシャーナ先生は確かレベル23、これは小国の宮廷魔法使いに匹敵するのですから反応は当然でしょう。


 一体誰が……と、丸分かりな事に疑問を持った振りは無駄なので止めておきましょう。もはや伝説級の強さですが、それを偽装して低く申告しているレベルの持ち主を知っていますからね、私。


「さて、インパクトのある登場をお願いしましたが……」


 今のアスモデウス学園には軍の高官や貴族、豪商の子息子女が多く通っていて自尊心が高い。それも腕前に釣り合わない位の方も数人把握しています。まだ四日目にも関わらず。


 なので最初の登場で印象を強くしてレベルは高いけど侮って良い相手だと思われない為のお願いだったのでしょうが、誰か確定していない今でも嫌な予感がします。


 そして、その予感は的中する。突如、私達を囲む様に無数の竜巻が発生、凄い風にリシャーナ先生さえも驚く中、竜巻は空中に飛び上がって巨大な風の球体となる。……お願いします、聖獣王様。現れるのがあの御方で有りませんように。



 やがて球体は収縮し、私達の目の前にゆっくりと下降したかと思うと二つに割れ、中から願い虚しく空也さんと、彼の肩に乗った幼い少年が現れました。


 白い脚絆に上半身は羽衣一つ。緑色の髪が風に揺れ、足や手に風の渦を纏っている。そして感じるのは圧倒的な存在感。人とは一線を画する神聖な気配。私の脳裏に一人の御方との出会いが浮かぶ。信仰している方の妙に軽い口調は今でも忘れられない中、この場の空也さん以外の人間は固唾を飲んでその時を待つ。かの少年が言葉を発する瞬間を。


 そして小さな唇が動き、言葉が紡がれる。





「余はシルフ、風の精霊王なり。此度は契約者の願いを受けて姿を見せている。必要以上に気を張らず、肩の力を抜くが良い」









(よぉっしゃぁああああああああああああっ! 仕事モードだぁあああああああああっ!!)


 皆さんが固まる中、私は心中で拳を振り上げていました……。だって精霊王様達って仕事モードの時と仕事モードじゃない時の口調に落差があるって聞いていましたから。私、ウンディーネ様を信仰してますけど流石にショックが大きいので、素の口調を聞いたらね。

ブックマーク 感想待っています せめて減った分を取り戻したい

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