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英雄学園

 他の客が少なかった事もあって静かだった船旅だけど、シードラゴンの襲撃を受けた船に乗っていた人達を受け入れて少しだけ船内が騒がしくなった。


 揉め事には引率の大人や生徒会長らしいコルネリアさんが目を光らせて居るから今の所は起きていないけど、食料の消費量が一気に増えたから食事量に制限が付いたんだよ……。


 これ、僕にとっては大事件。美味しい物をお腹一杯食べるのが旅の醍醐味だってのにさ。仕方ないとは思うけど……。


「しかし、あのアスモデウス学園の人達と一緒になるなんて思ってもみませんでした」


「アスモデウス学園?」


「別名英雄学校、冒険者が建国したフロレス共和国に存在する戦士を育て、平和を守る為の学校です」


 当然の話だけど勇者が必要になる禍人の侵攻だけが平和を脅かす事じゃない。生き物である以上はモンスターの大量発生は禍人が関与しなくても起きるし、縄張りを広げたり追い出されたモンスターが人里に現れる事だって当然あるんだ。


 勿論、自然災害だって侮れないし……人間の悪意も恐ろしい。つい最近倒した人攫い集団みたいな悪党の集まりの他にも領土を広げようと戦争を始める国だってある。


 そんな相手に対して武を持って抑止力になる、そんな目的で設立されたのがアスモデウス学園だとエリーゼは語る。


 実際、勇者が居ない時期にも人類の危機は訪れたんだけどアスモデウス学園の卒業生達が解決して、勇者達以外の英雄の多くはアスモデウス学園の出身者が多いらしい。


 出身地や種族を問わず平和の為に動く人材を育成する……らしいんだけど。


「一応は同盟国が運営資金を出し合って、特定の国の干渉を必要以上に受けない独立組織……と言うのも形骸化しているそうで……」


 残念そうにエリーゼが語ったみたいに今では学園の出身ってのを箔付けにしようと賄賂を渡して入ったり、特定の貴族の息が掛かった人達が運営に関わる職員になったり、嘗ての栄光は今は昔ってな感じだってさ。


「恐らくダームダール島へは伝統行事である従竜の儀(じゅうりゅうのぎ)の為に行くのでしょうね。ほら、ガルムの人達がモンスターを騎獣にしていたでしょう? あれと同じくドラゴンを乗りこなして相棒にするんです」


「それってドラゴンライダーって奴っ!? 凄いっ!」


 そう言えばシードラゴンに立ち向かっていた人達とか一足先に声を掛けに来たコルネリアさんもドラゴンに乗ってたよね。ガルムの人達は翼の無いドラキリーってドラゴンに乗るのが普通だけど生徒全員が空を飛ぶドラゴンを従えるとか、落ち目っぽい情報だったのに全然凄いよ。


「いえ、昔は野生のドラゴンやモンスターを力で屈服させていたのですが、今では何世代も育て続けて従順な性格の個体を選んで繁殖させている牧場で選ぶそうなんです。……特に優秀な子は寄付金が多かったり家の身分が高い生徒に優先的に渡されるとか……」


 そうやって家の財産や格で付けられた優秀な成績で卒業した生徒が学園や国の重職に入り込んで、また派閥内の家の子を優遇する。人海戦術で集めさせた魔魂石でレベルは上げているから一応の強さは保てているから表向きは名誉を維持しているけど、本業の世界では名が地に墜ちた、って評価らしい。


 ……あ~あ。政治とか利権とか面倒だな。お祖父ちゃん達が勇者って事を隠そうとしている理由を改めて理解したよ。実際、前の冒険の時は立場を利用しようとして苦労したそうだしさ。


「でも、最近噂になっている人が居て……」


 もう呆れてしまって興味を失ったんだけど、さっきまで失望してます残念ですって顔をしていたエリーゼの顔が明るくなる。別格の人が居るって所かな?



「コルネリアさん?」


 まだ一目見ただけで相手の強さを見抜くとかの領域に平和に暮らしていた僕が到達する筈もないんだけど、乗っていたドラゴンが強そうだった。古傷が多くって、少し野性的っていうか。多分だけどあのドラゴンは飼い慣らされたんじゃなくって野生のを従えたって気がする。


 って言うか他の生徒よりも一学年上らしいし、忙しそうは生徒会長が同行して大勢の生徒を抑えているって時点で飛び抜けているんだろうね。


「そうです! よくわかりましたね、璃癒。彼女は平民出身ながらトップ合格、貴族や大商人の子供達に支持されて生徒会長になった学園希望の星なんです。……まあ、学園側も一人は本物を出して置かないと拙いと思っているんでしょうね」


「……エリーゼ、少し黒くなった?」


 サラッと毒を吐いておきながら僕の問い掛けには何を言っているのかと首を傾げている。この子、天然で黒いのだろうか……。




 まあ、今のは聞かなかった事にしよう。にしても学校かぁ。夏休みの最中で良かったよ。世界を救って次の日には登校とか憂鬱だし、勉強とは離れているからね。……示現お祖父ちゃんが近い内に勉強の時間を作りそうな予感がするけどさ


 数学は構わないけど、歴史と古文は苦手なんだ……。




 まあ、アスモデウス学園の人達とは港に到着すればお別れ、特に関わる事もないし、気にしなくて良いか。示現お祖父ちゃんが少し目立ったし出来るだけ出会わない様にしているしね……。







「本日より一ヶ月だけだが体験入学をする事になった二名だ。レベルは君達より上だし、侮らないで仲良くするように。はい、挨拶して」


「エリーゼです。クラスはウォークレリックを修得しています。宜しくお願いしますね!」


「璃癒です。クラスはマジックナイトです。どうか宜しく」


 古傷だらけで眼帯をした男の先生、スカー先生に促された僕達は少しの間だけ学友になる人達に挨拶をする。反応は色々で、普通に好意的な人や多分貴族なのか見下した感じの人、利用する気なのか値踏みする感じの人、僕の胸に視線を向けて鼻で笑う人……は顔を覚えたからな。エリーゼを嫌らしい目で見てた奴と同じく覚えていろよ。


 ……いや、そもそも何で学校に通う事になったのかって言うと、ダームダール島の港町であるピュパに到着した後まで遡るんだ。






「入国審査ー!? いやいや、そんなの無いって話だったじゃ……」


 このままカノンノに直行するって予定だったんだけど、それが無理になったって示現お祖父ちゃんに聞かされた僕は思わずウインナーを食べる手を止める。コンガリ程良く焼かれたウインナーはパリパリの皮と柔らかい肉の中に旨味たっぷりの肉汁が詰まっていて、バターで炒めている上にマスタードやケチャップ、チーズフォンデュを付けて食べれば更に美味。船の中で途中から三人前しか食べられなかったから取り戻そうと食べている途中だった。


 最初の話ではそれほど厳しい審査じゃなかったけど、勇者の仲間だった女王を頼って大勢が集まったらしい。面白くないのが他の種族を見下す傾向のあるエルフの民。敵対者の侵入防止を理由にエリーゼが教えてくれた時よりも遥かに厳しくなって、建て前としては他種族を拒んでないってアピールをしているけど、実際は大勢が弾かれて島にたむろしているらしい。……うーん。地元の人の視線が厳しかったのはそれが理由っぽいな。余所者がどんどん来て島にとどまっているから不安なんだね。


 ……あれ? だったら僕達って無理じゃないのかな? だって何処の馬の骨ってレベルじゃないよ、異世界人だし。エリーゼだって故郷が滅びたのが広まっている頃だし……。




「強行突破して女王様に会うの?」


「おい、示現。いよいよ奈月に似て来たな。あの愚妹、余計な物を遺伝させやがって」


「貴方も同じ感じですよ、空也。……璃癒、平和的な解決法が有りまして、一ヶ月程の間に仕事をこなせば推薦状を書いて頂ける事になりまして。……貴女はその間、学校に通いましょうか」


 そう言って制服を出す示現お祖父ちゃん。もう決まってる事だと悟った僕はアスモデウス学園の制服を受け取るしか道は無かった……。









「ああ、ついでに帰った時に困らない為に歴史等の授業を夜に行いましょう。座学で行う数学はちょうど同じ辺りをやっているらしいので大丈夫でしょうが」


「……うへぇ」


 余談だけどこの世界って数学とかは日本と同じレベルだとか。文明は中世くらいから進まない……様にされているってお祖父ちゃん達が言っていた。文明の発展を止めるとか、誰が何の為にしているんだろうか……?


ブックマーク 評価感想待っています


アンノウンのキャラ紹介コーナー


第三回 奈月


くーちゃんこと空也の妹でじげっちゃんこと示現の奥さんだよ。凄いお転婆で召喚された際には格闘系のクラスを修得したんだ。お兄さんの事を馬鹿兄貴って呼ぶけど仲良しで、大人になった後は猫を被って一代で大企業のトップになったよ。孫からは優しくって上品なお祖母さんと思われているんだ、もう荒々しい性格を知られたけどね! 帰った後の接し方が実に楽しみさ。

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