船旅での出会い
異世界に勇者として召喚される、そんな創作の世界みたいな体験をしてから僕の毎日は驚きの連続だ。魔法を使ってみたり、お祖父ちゃん達が実は先代の勇者達だったとか、驚く材料に不足する事はない。
……僕が勇者として戦わないといけない禍人が実は元々神様だって聞いた時は本当に驚いたけどね。でも、正体不明の相手よりはマシかなって思うんだ。相手が誰でなんで戦うのかも分からないって方が不気味だもん。
まあ、悪い事も沢山あったけど、良い事も沢山あった。僕はそれなりに今の生活を満喫しているのさ。
「……うん、凄いって言葉しか浮かばない」
国ごとに食文化や食材の違いが有るみたいに、この世界特有の食べ物が当然存在する。それにしても、まさか異世界でこれを食べられるなんて。きっとサブカルチャーに触れた事のある人なら結構な割合で知っていて憧れはするけれど絶対に食べる機会の訪れない食材。
巨大な皿に申し訳程度に乗った野菜、そして他の料理から注目を奪い尽くす圧倒的な存在感。コンガリ焼けた小麦色の両側から突き出した白い骨。一口噛み付いたら簡単には噛み千切れないぎっしり詰まったジューシーなお肉。
そう! あの伝説の食べ物、マンガ肉が存在したんだ!!
「この世界に来てから最高の出会いだよ、全くさ」
正確にはマンガじゃなくってマゥンガって家畜のお肉らしいけど、僕は敢えてマンガ肉と呼ばせて貰おう。この食べ物とマンガやゲームで出会って憧れ続けた同士達の為にも!
ブチブチと噛み応えのある肉を口の中一杯に入れてゆっくり噛めばパリパリの皮からは脂が、ほんのりレアの肉からは肉汁が溢れ出して幸せ気分。
ああ、この世界に不満が有るとすれば、僕にとって心の友と呼ぶべき物が存在しない事だ。
「お米とニンニク醤油がほしいよぉ……」
美味しい、美味しいんだけど僕の頭二倍はある大きさの肉を同じ味で食べ続けるのは……まあ、平気ではあるんだけど、どうせなら欲しかった。あ~あ。この世界にはどうしてお米と大豆製品が無いんだろうか……。
いや、諦めるもんか! 未だ食用になっていないだけで何処かに存在する可能性はある。絶対見つけるんだ、世界中を巡ってでも。マンガ肉をニンニク醤油と炊き立てご飯で食べる為にも!
「よし! 絶対にやってやるぞ!!」
「璃癒ったらあんなに張り切って。うふふふふ。私も負けて居られませんね。後で魔法のお勉強です」
(いや、違うな)
(絶対にすれ違って居ますけど……黙っていた方が都合が良いですね)
……取り敢えずデザートは何にしようかな。あっ、チョコタルト有るんだ。これが良いかな? でも、桃のプリンも食べてみたい。……両方だな!
食事が終わって少し休んだら修行の時間。船員さん達の邪魔にならない場所で示現お祖父ちゃんと木刀を持って向かい合う。木彫り職人さんに頼んで作って貰ったとはいえ、慣れていないせいか本来と少し感じが違うけど修行には十分だ。
「はぁっ!!」
今は兎に角打ち込む事にのみ集中。足運びに注意しつつ接近して木刀を打ち込むんだけど、簡単に防がれ弾かれる。体制が崩れそうになったのを無理に戻して距離を取り、再び攻勢に転じるんだけど、文字通りにレベルが違う。結局一撃も当てるどころか一歩も動かす事さえ出来ず、防御の特訓では木刀が手から飛んだり、叩き落とされたり、まあ散々だったよ。
「まだまだですね、璃癒。取り敢えず素振り500回です」
「うっへぇ~」
この修行だけど、体を鍛える事よりもレベルアップで得られる恩恵の方が大きいし、レベルアップ後の急激に伸びた身体能力に適応した動き方を身に付ける方が重視してある。実際にステイタスを得た直後の僕は少し走っただけで木に激突したりとか振り回されて居たからね。
「文句を言ったので1000回追加。時間までに終わらないなら三時のオヤツは抜きです」
相変わらずの優しい声と顔で厳しい示現お祖父さん。空也お祖父ちゃんはエリーゼに魔法を座学で教えたり、元警察官だから逮捕術とかの稽古を付けているけど、あっちの方も大変そうだなあ……
「よーし! 今の動き一連をワンセットで700回だ!」
「は…はひぃ~!」
まあ、そんな風に僕達の船旅は順調に進んでいたんだ。嵐に遭う事も無かったし、海賊とも遭遇しない。まあ、モンスターが何度か襲ってきたけど大型じゃないし、魔法で狙い撃ちしたり、乗り込んで来たのを実戦訓練の相手にしながらダームダール島まで半分を過ぎた頃、甲板で海風に当たっていた僕は立派な船を発見した。
「何処かの貴族の船かな?」
船首に装飾がされてたり、結構豪華な作りになっているその船には何かの紋章が描かれている。炎を纏ったドラゴンっぽい見た目の赤い紋章だ貴族の家紋か何かかなって思っていた僕が向こうから手を振られたので振り返そうとしたんだけど、けたたましい鐘の音と共に煙が上がる。
「拙いっ! あの船、襲撃を受けているぞ!」
甲板で働いていた船員さんが叫ぶと居たのが反対側だったので見えなかったモンスターが姿を現した。船に巻き付く程に長く太い胴体は金色の鱗に覆われている。頭は鋭く尖った流線型で蛇みたいな体には鋭い爪の生えた短い前足が生えている。
シードラゴン、普段は海底で過ごして滅多に姿を現さない特定災害危険種指定の一体だ。そんなのが急に襲って来たから向こうの人達はパニックに陥っている。見れば僕と同じ位の子達が多いし、同じ服を着ているから多分学校か何かだ。救命胴衣なんて気の効いた物は無いみたいだし、飛び込むのを躊躇しているみたいだけど今のままじゃ危ない!
僕が思わず飛び出しそうになったその時、向こうの船から人を乗せた馬くらいの大きさのドラゴンが飛び出した。シードラゴンの周囲を飛び回ってし、魔法を放ったり擦れ違い様に攻撃したりブレスを吐きかけたりしている。
「……駄目だ、敵わない」
確かに傷は負わせているけれど些細な傷で、シードラゴンが頭や尻尾を振った際に命中したら一撃で墜落する。船を守りながらじゃどうしても動きを制限されるんだ。今は最後の一組が戦っているけれど、いい加減鬱陶しくなったのか苛立った様子のシードラゴンが電撃のブレスを吐こうとしている。あれを吐かれたら船なんて一撃で大破しちゃうぞ!?
意を決して動き出そうとした時、僕の背後から風の刃が飛んでシードラゴンの頭を跳ね飛ばす。頭部を失った胴体はグラリと揺れて水飛沫を上げながら海面に倒れ込んだ。
今のはエアスラッシュ。あの威力って事は……。
「流石に見過ごせませんからね」
「示現お祖父ちゃん!」
矢っ張り示現お祖父ちゃんだ。僕じゃ傷付ける事が出来ても首を一撃で切り落とせないから流石だよ。レベル100なだけあるね、全くさ。
「おや? 向こうから誰か来ますね」
見れば少し騒がしい向こうの船から少し小さいドラゴンに乗った誰かが向かって来た。臙脂色の長髪をした生真面目そうな彼女は甲板に降り立つなり丁寧に頭を下げる。顔付きからして生真面目そうだな、この子。
「ご助力大変助かりました。事態が事態故に私が教員一同及び生徒を代表してお礼申し上げます。……申し遅れました。コルナリアと申します」
この出会いが新たな冒険に繋がるなんて、この時の僕は知る由もなかった……。
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