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勇者の船出

最初は今回から章ごとに目安にちょうど良い十万字って決めたけど大変でした


合計二〇万三千文字 頑張った

 突如高まり出す、いや、暴走を始めたブーリスの魔力に僕は総毛立った。ヤバい、多分自爆する気だ! もう制御を手放しているから中途半端な攻撃を加えても意味がないし、今の僕じゃ完全に吹き飛ばすのは無理だ。


 じゃあ、どうするか。急速に高まっていく力の波動に僕も頭脳をフル回転させて打開策考える。周囲に遮蔽物は無いし、逃げるにも唯一の道だった坂はブーリスを挟んだ向こう側。アレじゃあ逃げ切る前に自爆しちゃうと気が焦る。諦めるな、絶対に諦めるんじゃないぞ、僕! 


「絶対に何か……」


 鼻に潮の香りが届くそう言えばこの洞窟はそこら中で海と繋がっているって……。背後直ぐ其処、シーリザードが現れた水辺に視線を送る。ちょっとダメージが大きくって飛び込むのは無理。だったら転がって入り込めば良いだけだ! 傷に染みるとか怪我のせいで泳げるか不安だとか余計な事は後にして、今は兎も角飛び込んで逃げる事だけを考えるんだ!


 凸凹した道を転がるのは痛そうだけど気にしないで転がろうとした瞬間、天井の一部に穴が開き、頼れる大きな背中が降りて来た。


「随分無理をしましたが、もう大丈夫です。……ホーリーブレイド」


 示現お祖父ちゃんは光を纏った剣を一閃、只それだけで解き放つ寸前の力さえも纏めてブーリスの肉体と共に消え去る。圧倒的なエネルギーによって暴走した魔力さえも吹き飛ばしたんだ。


 あの魔法、僕が使えるホーリーセイバーの上位互換だよね。ホーリーセイバーが剣を芯にして光の刃を作り出す魔法なら、その数十倍のエネルギーを圧縮して剣に纏うのがホーリーブレイドだ。今の僕じゃ使えないし、使えてもコントロール出来ない。分かっていたけど、勇者としての格の違いを見せ付けられた気分だよ。


 相手が実のお祖父ちゃんだから悔しいって気分は薄い。まあ、ちょっとは有るんだけどさ。でも、またお説教されると思ったら気が滅入るよ。いや、勝手に動いて死に掛けたんだから叱られるのは仕方ないと思うけどさ。僕が拳骨の一つでも覚悟した時、示現お祖父ちゃんが近寄って来て、そっと頭を撫でてくれた。




「ちょっと見ない間に成長したものです。寂しくもあり、嬉しくもある。……ああ、本当に子供の成長は早い」


「……無理してごめんなさい」


 高校生にもなって恥ずかしいと思ったけど、示現お祖父ちゃんに撫でられて安心したら怖かった事とかがぶり返して来て、示現お祖父さんに縋り付いてわんわん泣いた。勇者に選ばれたとか、目の前の人を助けられるなら、そんな想いから覚悟を決めた……その積もりだったんだけどな。僕もまだまだ子供だったって事だね。


 示現お祖父さんは泣き続ける僕の背中を優しく叩いて頭を撫で続けてくれる。……うん、本当に無茶は止した方が良いかな? でも、僕は多分目の前の誰かを見捨てられない。だから絶対強くなろう。お祖父ちゃん達に心配されない様に……。





「幽霊船かぁ。……ちょっと見てみたいかな?」


 怪我を魔法で治して貰い、ペル君を連れて洞窟からラグレに戻る道中、僕はこの嵐の理由について聞かされた。って言ってもお祖父ちゃん達が先代勇者だってフィーラさんに分からない範囲での話だけどさ。にしてもラグレにモンスターの群れが向かったそうだけどエリーゼは大丈夫かな? 空也お祖父ちゃんが間に合っていれば良いけどさ。


 其れはそうと幽霊船について聞かされた僕は興味を引かれた。実はホラーとか大好きだったからさ。まあ、この世界に実在する幽霊にはちゃんと個人の意思があって人生があったんだから見世物扱いする気は無いんだけれど、それでも本物を見てみたいとは思う。


「……言っておきますが見せ物ではないですよ?」


「うん、分かってるよ」


 ありゃりゃ釘を刺されちゃったよ。でも、剣を返しに行くのに同行させて貰えそうだね。僕が楽しみに思った時、フィーラさんがおぞおずと言った感じで話に入って来た。




「あ…あの、私もご同行させて貰って良いですか? ……何故か行かなくちゃ駄目な気がするんです」


 自分でも理由は分からないと戸惑いつつも真剣な眼差しを彼女は向けて来る。……彼女も幽霊船を見たかったのかな?







「っと、そろそろだな」


 流石に町の直ぐ側に幽霊船が現れたら大騒ぎになるからって少し離れた沿岸部に僕達は来ていた。エリーゼは残念だけど来ていない。えっとね、死霊系のモンスターは平気だけどガチの幽霊は苦手なんだってさ。だから待っていたんだけど、突然霧が立ちこめて海の向こうから青白い光に包まれた船がやって来る。


 ……うん、映画とかに出てくるCGなんて比べ物にならない何かがあった。上手く説明出来ないんだけど冷水をぶっかけられたみたいな感覚がして、気が付けば隣に立っている空也お祖父ちゃんの服の袖を掴んでいたよ。


 そして船の船首から此方を見詰める幽霊船の船長ことキャプテン・シャークゥを見たんだけど、何故か驚いたみたいな顔に見えた。視線の先を追うとフィーラさんが居て、彼女もキャプテン・シャークゥを見詰めて居るんだけど、驚いたとか怖がっているって感じじゃなくって……何故か涙を流して呟いた。




「やっと会えたわね、シャークゥ。……あれ? 今、私何て言いました? それにどうして泣いて……」


 自分が泣いた事、呟いた言葉が理解出来ない様子で涙を拭うけど次から次へと涙が溢れている。お祖父ちゃん達はビックリした様子で顔を見合わせているんだけど、泣いている程度で驚く事なのかな?


 そんな風に僕が驚いている間に船が到着し、キャプテン・シャークゥは船首から飛び降りて着地する。その手には綺麗な装飾がしている鞘を持っていて、僕が見取れている間にエリーゼが守ろうとしたって剣を空也お祖父ちゃんが差し出すと彼は其れを受け取って鞘に納める。その途端、嘘みたいに海も空も穏やかになったんだ。


「今回は迷惑を掛けた。剣を取り戻してくれた事を感謝する」


 キャプテン・シャークゥはそれだけを言うと船に飛び乗り、船は忽ち霧に包まれて消え去って行く。結局フィーラさんの涙の理由とかお祖父ちゃん達が驚いていた理由が分からなかったな。



「……まあ、良いか」


 そんな事よりもお腹が減っちゃったよ。海も穏やかになったし、新鮮な魚介類をお腹一杯食べられそうだね。エビフライとかフィッシュ&チップスとか海産物のシチューとか。想像しただけでお腹減って来ちゃったよ……。









「良かったんですか、キャプテン? 彼女って姐さんの……」


「……今の彼女は新しい人生を送っている。会えただけで俺は満足だ。……それ以上を求めたらミューリに怒られそうだし……縁が有ればまた会えるだろう」






 そうして僕の知らない所で恋人達が再会をして、僕やエリーゼが念の為に町で休養をする事になってからの数日間、色々な事が有った。


 先ず、フウ一家の捕縛。人身売買やら禍人との繋がりやら後ろ暗い事を沢山やってて全員捕まったって。……残念な事にシーリザードの餌にされた人も居るから全員は無理だけど、浚われた人の捜索は行われるそうだ。手の届かない場所に居る人を助けられないと分かっていても悔しい。もっと早く訪れていたら助けられた人が居たはずだって思っちゃうんだ。


 そしてフィーラさんだけど、何とラグレに残るってさ。研究者を止めた訳じゃなくって、この町を拠点にして調査を続けるって上司を説得して許可を得たみたい。


「……誰かは分からないけど、勝手に満足している馬鹿を怒らないと駄目な気がするんです。この町に居れば会える気がして」


 本人もよく分かっていないそうだけど理由を訊ねたらそんな風に言ってた。お祖父ちゃん達は何かを知っているみたいだけど、他の人の耳が無い場所で教えてくれるってさ。多分勇者関連なんだろうけど、三百年前の事とフィーラさんにどんな関係があるんだろうか?


 次にエリーゼなんだけど謝られちゃった。戦いを強要したって気に病んで頭を下げて来たんだ。





「確かに召喚したのはエリーゼだけど、お祖父ちゃん達に任せないで自分も戦うって決めたのは僕の意志だよ。だから気にしないで……一緒に強くなって世界を救おう」


「はい!」


 僕がそう言って拳を突き出せばエリーゼも同じ様にして互いの拳をぶつけ合う。……女の子なら握手の方が良かったんじゃって思ったけど後の祭りだ。



 まあ、そんなこんなしながら海鮮炒めを食べたり、エビフライを食べたり、干し魚を食べたり、貝のスープを食べたりして過ごしていたラグレから旅立つ日がやって来た。




「璃癒、髪型はそれで良いんですか?」


「まあ、落ち着くからね」


 折角エリーゼが色々と試してくれたけど、僕はポニーテールに慣れているからと髪型を戻していた。さーて! 無事だった船に乗って向かう先はエルフの国、カノンノがあるダームダール島。どんなご馳走が……どんな困難が待っているのか分からない。きっと自分が無力だって思い知らされる事も沢山有るんだろう




「でも、絶対に大丈夫だ」


 僕にはお祖父ちゃん達が居る。エリーゼだって僕と一緒に強くなっている途中だ。だから、どんな試練だって乗り越えてやろうじゃないか!


 港から離れていく船の甲板で水平線の向こうを眺めながら僕は次の出会いに心を踊らせる。この先にどんな運命が待っているのか今から楽しみだった。













「……ダディ」


 璃癒が新たな冒険の地に心躍らされた頃、拠点である家にてブーリスの帰りを待ちわびながら絵本を読むリーカの姿があった。だが、ページを捲る手は動かず、目には涙が溢れている。父親が死んだと、二度と会えないのだと幼いながらも理解してしまったのだ。


 そんな彼女は背後に感じた気配に気が付き振り返る。もしかしたら父親かもという淡い希望は直ぐに消え去った。立っていたのはシアバーン。彼はリーカと顔の高さを合わせると静かな声で告げた。



「貴女の父親は勇者に、人間に倒されました。憎みなさい、怒りなさい、母親と会う為に、何よりも父の仇を討つ為に」


「ダディの仇……」


 俯き、静かに呟いたリーカの体にどす黒い何かが集まって来る。空中や地面から湧き出したそれは急激な勢いで彼女の身体に吸い込まれ、それが終わるなり気を失った少女の身体をシアバーンが受け止めた。









「あひゃひゃひゃひゃひゃっ! これにて! これにて今代の魔王の誕生ですっ! いやいや、良い具合に勇者への憎悪を燃え上がらせて下さいましたねぇ!」


 シアバーンは笑う。ブーリスを、リーカを、この世全てを嘲笑うかの如く笑い続け、そのまま手を前に突き出せば何も無い空間にドアが現れた。ドアノブを捻り、向こうに行こうとした所で立ち止まった彼は呟く。




「さぁて、さて。次は何をしましょうか。ああ、英雄志願者の子供達を勇者の子孫に殺させる、等が面白そうですねぇ! これは早速お二人に提案をしなければ……あひゃひゃひゃひゃっ!」


 これから起こる惨劇を想像したシアバーンは再び嗤い、ドアの向こうに彼が消えるとドアも姿を消す。床に落ちた絵本のページを窓から入った風が捲り、持ち主の少女が一番気に入っていたページが開かれる。父親と母親、そして娘の三人が幸せに暮らす、そんな絵が描かれていた……。

今後は更新速度が少し落ちて2~3日に一度になるかも


感想待っています  流石に二十万字越えて一回も来ないとね……


アンノウンのキャラ紹介コーナー


第二回  鳥トン


人の不幸が大好きなハシビロコウだよ。僕に忠義を誓っていないけど、基本的に皆そうだよね! 僕と一緒だと好きな物が沢山見れるって従ってるよ。じげっちゃんには嫌われているみたい。好物は激辛料理。自分で料理して辛いのが苦手な子に振る舞ってるんだ、意地悪だよね!



次章 英雄候補と竜の卵 応援待ってます

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