神であり父である
少し短め
昔々、とある世界のとある国のとある山奥に武を司る神を奉る祠が存在した。武の道を志す才能有る者が十日通い祈りを捧げれば其の者の前に怪物が現れ、臆さず立ち向かえば夢の中に神が現れ指南をしてくれるという。
実は其の怪物、黒い肌に単眼で多くの腕を持つ鬼こそが神の本当の姿であるとは知る人の子は居ない。自らの異形を自覚せし神はそれでも才有る者を鍛えるのが楽しくて、愛する妻子と同様に人が好きだった。
例え何時しか誰も訪れなくなっても、祠が年月の経過で崩れ落ちても、誰からも忘れ去られても……。
「……此処は何処だ?」
ある時、気が付けば神は奇妙な場所に居た。地も空も真っ白で殺風景な広くて風の音も聞こえぬ寂しい場所。どれだけ叫んでも、どれだけ彷徨っても妻子はおろか見知らぬ者の一人も見当たらない。悠久の時を過ごす神でさえ長く感じる時の中、孤独と不安は着実に心を蝕む。
そしてこの世界……魔界に囚われたのはこの神だけではなく、あらゆる世界、あらゆる場所の忘れられた神々。 忘れ去られ孤独の世界に囚われた事を嘆く長い長い時の果て、別の世界と繋がった。
だが、この世界に向かえたのはほんの一握り。望む望まないに限らず、世界や司る物の区別無く。たった一人しか存在しない無味乾燥の世界に居るにも関わらず、神々は理解した。あの世界を手にすれば魔界より全ての者が解放される。もう孤独ではなくなる。会いたくても会えない大切な存在に会える、と。
何故突如別の世界と繋がったのか、どうしてその様な事が分かるのかと疑問に首を傾げる者も存在したが、孤独によって弱まった心はそれ以上から目を逸らさせる。
武の神もまた、その一人。信仰が廃れ忘れ去られたのは人の世の流れとして恨みはしない。だが、未練も存在する。大切な家族と再会したい、そんな当たり前の願いであった。
だが、神々の願いは潰える。他ならぬ人の手、英雄の存在によってだ。一度、二度、三度、新たな神が送り込まれ、やがて誕生した魔王によって世界支配まで順調に進めるも最後には阻まれる。深い絶望を感じたが、同時にこれ以上無辜の民が犠牲にならずに済んだ事に安堵する。
ただ、疑問が一つ。送られた神が禍人なる存在に変化しているのは伝わって居たのだが、どうして其処まで人を憎み嫌悪する存在ばかりなのだろうか、と。答えは四度目、彼自身が選ばれた時に理解した。
「ぐっ! がぁあああああああっ!?」
頭の中で声が響く。人を恨め、人を憎め、と。心がどす黒く染まって行く中、彼の頭を過ぎったのは長年見てきた人の姿、強くならんとする者達の輝き。其れがあるからこそ彼は抵抗し、気が付けば中途半端な姿で送られていた。
存在として不安定で短時間で消え去りそうな異形の肉体。だが、其れで良かった。心残りは有るが、誰かを傷付けてまで、と思い消え去ろうとしていた。
「……ダディ?」
「……リーカ?」
そう、もう会えないと思っていた愛しい娘が奇跡的な確率で共に選ばれ、消え去る前の彼と再会するまでは。心の中に欲が芽生え、先程振り払った声が再び響く。かくして武の神はヌイグルミを仮初めの肉体とする事で存在を保ち、愛しい娘を母親に会わせる為に修羅の道を辿る覚悟を決めたのであった。
禍人の特性として自らが関わった事柄において人が抱いた負の感情が力の源となる穢れとなる為、時に外道にも手を染めた。彼と違い心を蝕んだ例の声に抵抗出来なかった娘は人を傷付ける事に躊躇を覚えなかったのだが、彼は無邪気で心優しかった娘が外道に堕ちる姿を見るのは耐え難く、自らが積極的に傷付ける。但し、なるべく無辜の民とは到底呼べない悪党共を選んだのだが。
正直言って自らの心を誤魔化す為の行為でしかない。それでも彼は敢えて外道共を対象に選び、見つけ易い様に悪党に近付いて取引を持ち掛けた。例えば交易の最重要拠点である港町を支配したくはないか、等。正直言って心が痛み、何度も心中で謝ったものだ。
結局、船乗りの男と恋をした女神と同様に人を憎み切れなかったのであった。家族と無辜の民草を天秤に掛け、迷いながらも家族を選んだ彼。人を憎む者達が多い禍人の中で決して悟られてはならぬ人への想いに苦悩する日々。
ある日、それは終わりを告げた。四人目の勇者、自分達の希望を壊し、彼を家族と引き離す憎いはずの存在。だが、武を司る神としての心が躍った。
経験が浅いのか未熟。だが、才には目を見張る物があり、ついつい指導の言葉が口から漏れ出る。何よりも真っ直ぐな瞳が失い掛けた何かを呼び覚ました。
故に負けた事には後悔はしない、恨みもない。只、心残りは娘の事。幼い娘が孤独を味わう事が無い様にと、彼は最後の力を振り絞る。未だ誕生せぬ魔王が倒されれば禍人は再び魔界に囚われる。それだけは許容出来なかった。
(ああ、確か禍人が死んだ場合はこの世界に生まれ変わるんだっけか……)
ならば自らが死んでも巡り会う可能性は残っていると笑い、彼は残った力を暴走させて解き放つ。崩落する天井、巨大な力が彼を飲み込んだ……。
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