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禍人とは

 ガキンッ、と金属同士が衝突する音がして火花が散る。緋鋼を握る手に衝撃が走って弾き飛ばされそうになるのを何とか堪え、真横から向かって来る腕に刃を振るうけど通らない。いや、皮膚を切り裂いて肉に少し切れ込みを入れるんだけど途中で止まってしまう。

 

「全然バッドだぜ、嬢ちゃん。刀ってのは振る向きと力の掛かる方向を合わせないと駄目だってんだろ! ……って、何俺はアドバイスしてるんだ?」

 

 単眼の黒い球体に無数の腕って如何にも怪物って見た目の相手だけど、どうも調子が狂うんだよ。前に倒したローズリンデは最初は人の姿だったし、返神を使ったら巨大な白蛇。異常な大きさを無視すれば喋るだけで地球の生物と変わらない。でも、目の前の相手は何処からどう見ても怪物なんだけど、ローズリンデみたいに問答無用の殺気と敵意を向ける事もしない。

 

 それと僕はそんなに剣術に詳しくないんだけど、刃先を微妙にずらされて通らないんだ。だから今の苦戦は僕の未熟さが理由だよ。恐らくだけどローズリンデやバイコーンに比べれば弱い。只、それは単純な力とかの話で技術が異様に高いんだ。

 

 

「君、変な奴だな。えっと……」

 

「俺のマイネームか? ブーリスだぜ、勇者のセニョリータ。言っとくけど娘も居るしハニーも魔界に居るから逆ナンなら諦めな」

 

「いや、それは無い」

 

 

 名前を聞いただけなのに何を言っているんだよ。ってか、腕の生えた目玉の化け物に恋するとかどんな趣味? いや、探せば居るかも知れないけどさ。僕はキッパリと言い放ちながら柄を握りしめて構えるけど、ブーリスは溜め息を吐きながら僕の腕を指差した。

 

 

「おいおい、角度が違う。何か嬢ちゃんはチグハグだな。ぶっちゃけ俺は禍人としては堕ち損ないだから多分そっちの方がストロングだぜ? でもよ、実戦経験が浅いってか、道場剣法だけを修めて来たって感じだよ」

 

「……否定はしない。ってか、さっきから妙に詳しいね。魔界にも刀は有るのかい?」

 

 日本刀と西洋剣じゃ扱い方が別物だって聞いた事があるし、この世界にもにも日本に酷似した文明を持つ地域もあるらしいけど刀は存在しないってお祖父ちゃん達から聞いている。まあ、これをくれたのはあのキグルミだし、二人が居ない間に広めたって可能性も有るんだろうけどさ。

 

 でも、ブーリスは刀を知っているだけじゃない。扱い方にまで詳しい所か指導者みたいにアドバイスまでして来る。まあ、別に答えを期待した訳じゃないけど、意外な事に答えは返って来た。其れも意外な形でだ。

 

 

 

「まあ、俺は元々は武の神だからな。まあ、嬢ちゃんの世界とは別の世界出身だけど」

 

「神様っ!? ……いや、彼女の言っていた事を考えれば……」

 

 白蛇は神様の遣いだっけって口にした僕に彼女は正確には自分は、と口にしていた。アレは蛇神だって言おうとしたんだろう。そして自分達に僕達が何をして来たかってとも言っていたけど……。

 

 まさか禍人の正体は……。

 

 

 

 

「その様子だと何か思い当たる節は有るみたいだな。そう、俺達禍人は元々は様々な世界の神だ。だが、忘れられ崇められる事がなくなった神だがな。例外も居るが……っと、話は此処までだ」

 

 ああ、そうか。ローズリンデが僕に異様な敵意を向けて来た理由、それは忘れ去られたからなんだ。それに魔界を流刑地って口にしてたし、魔界も良い所じゃないみたいだね。

 

 話を終えたブーリスは全ての腕をうねらせて僕へと向かわせる。ちゃんと刃を立てないと弾かれる位に堅く強い。さっきみたいに弾かれるのが関の山。それに先程までとは明らかに違う。さっきは迷いとかを感じていたんだけど、今は迷いが無く覚悟が決まった感じだ。

 

 

「……ソーリーだ、嬢ちゃん。マイエンジェルをハニーと会わせてやりたいんだ」

 

 一瞬だけ謝罪の念を感じさせ、全ての腕は僕じゃなくって壁や地面に突き刺さり、止まる事なく蠢く。一体何をする気なんだと身構えた時、足元や天井、壁の彼方此方から腕が突き出して伸びて来る。まさか岩や地面の中を通ったのか!?

 

 咄嗟に飛び退いて躱すけど再び地面を潜って軌道が読めない。こう何本も有ったら……そうだっ!

 

 バックステップで数歩下がり再び回避。地面に潜ろうとする腕に刃を振う。さっきまでと違い、力と刃の向きが同じになる様に。それだけで緋鋼の刃は肉を切り裂き骨を断つ。切り離された部分は地面に刺さった状態で動きを止めた。

 

「沢山あって対応出来ないなら数を減らせば良いだけだよね!」

 

「いや、そんなイージーじゃねぇぞ。嬢ちゃん、才能に溢れてんな。神のままだったら鍛えてやりたい位だぜ」

 

「へへっ! そうかい?」

 

 誉められたら嬉しいけど、僕もさっきの攻撃の際に腕が掠って背中から血が流れている。そんなに深くはないけどズキズキ痛むし、集中力が削がれそうだ。まだ腕は沢山あるし、さっき切った腕も先端が無いだけで動かせない訳じゃない。

 

 正直余裕は無い。うん、正真正銘のピンチだ。冷や汗が流れるプレッシャーで震えそうだけどね。

 

 

「……仕方無いか」

 

 刃の切っ先をブーリスに向け、前傾姿勢を取る。僕が狙うのは短期決戦、一撃必殺の突き。一直線に向かい、中心を穿つ。……でも、バレバレだよなぁ。正直分の悪い賭けだ。

 

 

「はっ! 愚直なのはバッドだが、戦士としてはグッドだ。良いぜ、真正面から来いよ、カモンッ!」

 

 でもさあ、第一の賭けには勝った。僕の狙いを見抜いて挑戦を受けるかの様に腕を体の中心に戻して身構える。これで駄目なら長期戦狙いをする気だったんだけど……見事に乗って来た。足に力を込め、正面に押し出す様に力を溜める。限界まで力を溜め、一気に放つ。其れと同時にブーリスは狭い範囲に狭めて突き出して来た。

 

 第一陣、更に強く踏み込んで顔スレスレを通り過ぎる。第二陣、真正面から来た腕を姿勢を低くして回避する。第三陣、腕や脇腹、頬を掠めるけど歩みを止めない。もう向かって来る腕は無い。

 

 

 

「……惜しかったな、嬢ちゃん」

 

 突如地面から腕が飛び出す。あれは僕が切り落とした腕っ!? トカゲの尻尾みたいに体から離れても動くのかっ! 僕も最大速度を出して左右にも下にも逃げ場は存在しない。

 

 

 

 

 

 

「なら、上だっ!!」

 

 敢えて刃先と振るう方向を合わせず叩き付け、その勢いで前へ向かう勢いを残したまま腕を飛び越す。だけど僕が上を通り越す寸前、緋鋼の刃が掴まれる。咄嗟に柄を離して僕だけがブーリスに迫る。こうなったら魔法で……。

 

 

 

「言っただろう? 惜しかったってな」

 

 ブーリスの目の中心に魔力が集まり、レーザーとなって僕の頭に向かって来る。ヤバい、魔法が間に合わ……。

 

 

 

 

「マジックアロー!」

 

「ぐっ!?」

 

 響いたのはフィーラさんの声。彼女が放った魔法はブーリスの体に命中し、僅かに体が動いてレーザーが逸れる。僕の頭を貫く筈だったレーザーは肩を貫き、僕の魔法は間に合った。

 

 

 

 

「フレイムジャベリンッ!!」

 

 至近距離から放った炎の槍はブーリスの目の中央に突き刺さり、体を貫き通して内部から焼き尽くした。勝ったっ! って、このままじゃ受け身が……。

 

 

「ぐへっ!?」

 

 顔面から地面に激突した僕は痛む身体を無理に動かして仰向けになる。ブーリスの最後をちゃんと見届けないと駄目だって感じたんだ。

 

 

 僕が目を向けた時、まだブーリスは生きていた。中央に穴を穿たれて燃えているのに浮かんで此処には居ない誰かに視線を向けて居る。

 

 

 

 

 

「……ああ、こりゃ駄目だ。俺、死ぬな。悪い、リーカ。……でも、勇者だけは俺が倒してやるからっ!」

 

 急激にブーリスの魔力が高まって行く。それも尋常じゃない量で、荒々しい。まさか……!?

 

 

 

 

 

 

「娘を守る為の父親の底力を見せてやるっ!!」

 

 膨大な魔力が一気に解放され、光が溢れ出す。天井が崩れると同時に膨大な破壊のエネルギーが解放された。

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