サイドストーリー 伝説となる若者達 ⑨
毎日投稿してる他の方の文字数って2500位が結構多い 3000ちょいじゃなくても良いかなぁ……
私が禍人に堕ちる前、魔界に囚われる更に前、小さな貧しい漁村に私を奉る祠があった。都の職人に頼むお金はないから村人達が頭をつき合わせ、四苦八苦しながら漸く作り上げた見窄らしい祠。
でも、嬉しかった。目出度い事があったと感謝の念を込めて祈りを捧げ、不吉な事があったと厄払いの祈りが捧げられる。
実際の所、私に出来るのは限られているけど、それでも一生懸命応えようとしたし、本当に幸せだった。
村人が減って祈る人が少なくなっても、村が滅びて誰も私に祈らなくなっても、私の名を知る人が居なくなって、祠も崩れ去っても、それでも私は……。
「そっか、そうだったんだ……」
愛する二人を失って泣き崩れる男の姿に私は遙か昔の事を思い出していた。魔界、何処よりも白く、何処までも広く、何時までも静寂で、何よりも寂しい。
そんな場所にずっと、ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと、ずっと居て何時の間にか忘れて居た。
あんな人が居ない島に引きこもって穢れを貯めようとしなかったのも、シャークゥを愛せたのも、私が人を憎めなかったから。
「何がそうなの?」
「ふふふふふ。ちょっと大切な事を思い出しただけ」
怪訝な顔を向けてくるクラリアに微笑みかけながら私はシャークゥが向かった島がある方向、どうせ真正面から助けに来るだろう考えが浅い彼が現れる方向を見詰める。
この時、私は覚悟を決めた。この恋の為に全部捧げちゃおうって決めたのよ。
「……ほう。この状況で挑んでくる者が居るとは」
グラニスが酒瓶から口を放して興味深そうに視線を向けた方向から放たれた砲弾がタコの触手をもつ巨大蟹のオクトクラブに命中する。あの強固な甲殻に罅を入れる程の威力を持つ大砲を持っている船乗りは限られているわ。特にこの近辺じゃね。
あの船は間違い無い、私が間違える筈がない。あの船こそシャークゥの船、数々の苦難辛苦を乗り越えた相棒、ヒュカフレ号だ。
波と風を巧みに味方に付けて向かって来るヒュカフレ号以外に船は来ない。もう、無茶しちゃって。増援を呼ぶ暇も惜しんで助けに来てくれるなんて本当に馬鹿よ。
「たった一艘!? 自殺志願者だね、絶対。まだ活動時間は残っているのに、時間切れを狙って当てが外れたって所かな?」
馬鹿にしているのが丸分かりなクラリアは完全にシャークゥを侮っている。グラニスも視線を向けるだけで立ち上がりもせず、一番厄介なレンドラスは起きる様子もない。
今がチャンスだけど、後一手足りない。今逃げ出しても捕まってしまうだけ。その後でシャークゥ達も殺されちゃう。それだけは……絶対駄目。
だけど、貴方なら分かってるわね? 私がこうやって動かないって事の意味が何かを……。
「これなら一々動く必要もないか。……ほら、動き出した」
私達禍人には拠点から離れた場所での活動時間に制限がある。聖獣王の張った結界の影響よ。拠点の変更には力を大きく消耗するし、大抵は幹部でも、いえ、力が必要な幹部だからこそ拠点は移さない。
だからレンドラスは町から逃げ出せないように水の壁を作り出したし、支配するモンスターにも攻めてくる船への攻撃命令を出してある。町を威圧する為に固まっていたモンスター達は雑な命令によって固まって動き出す。押し合いへし合い、相手を乗り越えながら邪魔になりながら。
その中心に一発の砲弾が放たれる。濁った水色の変わった砲弾。中心のモンスターに見事命中した時、砲弾と同じ色の煙が広がってモンスター達が崩れ落ちる。
「ね…寝てる? 強力な睡眠薬の類かな? こんな滅多にない状況じゃないと役に立たなさそうなのに……」
この呆れ顔のクラリアには私も賛同よ。今回は密集してたから濃い濃度の煙を吸わせられたけど、馬鹿みたいに高い金で開発したってのに対して役に立たないって皆が不満顔だったわね。
ああ、あの時の拗ねた顔のシャークゥは可愛かったわ。
そして、今の彼は最高よ。クラリアが灰色の砲弾を視認した時、既に私は飛び出していた。背後から叫び声が聞こえて魔法を放とうとするけれど、其れよりも早く砲弾が炸裂して周囲一体を覆う濃密な煙幕が現れる。海面に降り立った私は煙幕の中を迷わず進む。レンドラス程でなくとも海に縁のある私は船の位置が把握出来た。
そして、クラリア達は海とは無関係な性質の力を感じたけど予想通り察知の類は出来ない。レンドラスが考えなしなお陰で支配下のモンスターの中に海底に居て睡眠弾の被害を逃れたのは居ない。そして、船が眼前に迫るなり波を操って甲板まで私を運ぶ。降り立った場所の直ぐ正面にシャークゥの姿があった。
「……もう。遅いんだから」
「悪い。この埋め合わせはどうにかするさ」
レンドラスに触られてキスまでされた不愉快な事実を塗り潰す為にシャークゥと熱いキスを交わし、強く抱き締めて貰う。全身で感じる彼の存在に心が満たされる気がしたわ。
「さて、これからどうするか……」
「呆れた。何も考えて居ないのね。……安心なさい。拠点変更の為の力程度は戻ったから」
私が船に乗り込むなり反転して逃走を開始したヒュカフレ号。波と風を利用して速度を上げる中、シャークゥがとんでもない事を呟いた。禍人と拠点の事とか、海じゃ居場所が分かるから陸に逃げるしかないって既に教えた筈なのに。
少し呆れながらも同時に安堵する。こんな時でもシャークゥは変わらないんだって。心の奥に湧き出した淡い願いが私の覚悟の邪魔をする。何があっても一緒に居たいって思っちゃう。ただ、それだけで構わないって。
「……ねぇ、私は海の側じゃないと拠点に出来ないって分かってる? きっと大変よ、これから」
「分かってるさ。どんな苦労も、どんな罪も俺は被ろう。お前だけは俺が守り抜く」
「キャプテン! 俺達も忘れちゃ困りますって。姐さんの助けになりたいんですから!」
次々に出てくる賛同の声。これから迎えるであろう地獄を分かって尚、私と一緒に居てくれようとしているのね。ああ、本当に私は幸せ者だわ。
この一件でレンドラスは私を追い続けるでしょう。見付かれば逃げ切れたとしても周囲の被害は甚大で、拠点変更に必要な力を得るには穢れを貯める必要がある。それは人に負の念を感じさせるって事で、シャークゥ達は荒くれ者揃いの海賊じゃなくって善良な船乗り。
「……ねぇ、シャークゥ。私を強く抱き締めてくれる? そして熱いキスをして欲しいの」
「了解だ!」
ふふふふ。船員の皆が少し呆れているわね。こんな時で、更に自分達の前なのですもの。でも、シャークゥはお願いを聞いてくれて、強く包容して熱い口付けをしてくれた。私も彼に身を擦り寄せ、唇を求め貪ったわ。
互いが満足するまで口付けを続けた私はシャークゥから後退りしながら離れる。最後の瞬間まで彼の姿を目にしていたかった。
「シャークゥ、皆……本当に有り難う。どうか生き延びて」
私が何をする気なのか察したのでしょうね。駆け寄ろうとする彼の目前に私が支配したレッサーシーリザードが飛び出して立ちふさがる。私は最後に微笑んで、そして船から飛び降りた。手摺りから身を乗り出して手を伸ばすシャークゥは怒っていて悲しそうで、私がこんな事をした理由を察したのでしょうね。
「シャークゥ、愛しているわ。出会った日から、例え生まれ変わってもずっと……」
だからこそ、これ以上彼の荷物になりたくない。罪を犯す理由になりたくない。これは私の、恋をした女の意地なんだから。今度は海中に沈んだ私は返神によって本当の姿を取り戻す。船よりも大きな海亀、それが私の真の姿だ。
一度この姿を見せた事がある。そうしたらシャークゥは言ってくれた。どんな姿でも俺が愛した女に変わりはないって。波を操り、戻れと叫ぶシャークゥを乗せたヒュカフレ号を遠ざける。強い力が急速に迫っているのを感じていた。
「だから戦うわよ、シャークゥ。私が愛した人。この恋は絶対に守りきるんだから」
そう、例え死んだとしても、二度と会えないとしても……。
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