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サイドストーリー 伝説となる若者達 ⑥

ブックマーク減った……

 お菓子のなる木や砂糖細工の草花に囲まれた地にて、ハシビロコウのキグルミは知りたくもない島の秘密を話そうとする。これ、無視して先に進んでも良いでしょうか? 


 いえ、アンノウンが世界を自由に渡れると知った以上は思惑に乗って不興を買うのは防ぐ方向で行きたい。塩茹で大根の影響で森がメルヘンチックな世界に変わった理由など知りたくもないですが。……目の前の男は私の本心を見抜いて話そうとしている節がありますね。


 この時、私は目の前の男を外道と理解した。


「ククク。さて、今から話すとして……名乗らぬと会話が面倒か。私の事は鳥トン(トリトン)と呼ぶが良い。我が主から貰った新たな名だ」


「む? お主、本当は違う名なのか?」


「左様。少し前までの私は自分の立場に相応しい品行方正な人格と、他者の苦悩を眺めるのが好きという生粋の性根によって苦しんでいたのだが……奴に出会い好き放題に生きて良いとキグルミを渡されて迷いが吹っ切れたのだ」


 鳥トンはチルニアの問い掛けに昔を懐かしみながら答えると私に視線を向ける。空也達はそれなりに気にしているので私の姿を見て楽しむ予定なのでしょうが……上手く行くと思わない事ですね。今までの人生で本性を隠して生き続けた手腕を見せてあげましょう。



「先程肯定した通り、この光景はフォースガルドの力の影響だ。ああ、と言っても剣自体に草木をお菓子に変える力は存在しない。普通に封印しては面白くないからと我が主が手を加えてな。こうして甘い香りのする森が出来上がったのだ」


「……随分と意味のない事をする。勇者が居なければ入れない島にその様な悪戯をするとは暇なのですね。砂糖で服や靴がベタベタしたら嫌なので気が済んだのなら元に戻して貰えますか?」


「おや、これは心外だ。ただお菓子に変えただけとでも? 見た目や香りでは分からない秘密があるのだよ。……試しに食べて見れば良い。体に害は無いぞ?」


 自分が信用に値するとは思っていないであろう上での発言に私は迷う。普通に考えれば食べるのを拒否すべき案件であるが、相手は借家を勝手に回転寿司屋に改築し、異世界だろうと自由に自由に行き来する存在の配下。普通の考えでは……。


「じゃあ、私が貰うね。エクレア貰いっと」


 そんな私の苦悩など知った事かとエクレアに手を伸ばした奈月さん。止めるまもなくかぶり付き、口元をクリームで汚した状態で表情が固まった。


「矢張り罠……」


 急いで吐き出させ解毒しようとしますが、奈月さんが首を横に振って手で制する。





「これ、塩気のある大根の味がする……。甘い物を食べようとしたら口の中に広がる塩気とか……」


「塩茹で大根を使って作った聖剣の影響なのだ、仕方あるまい? まあ、その反応を引き出すための罠だったのだがな。食べるまでは甘い菓子と信じて疑わなかっただろう? ククク。実に愉快だ」


 肩を落とし落ち込みながらも残りも口に運ぶ姿に私は何を言うべきか迷う。短絡的な行動は控えろ、自業自得、そんな所ですが精神的にガクッと疲れてそれどころではない。鳥トンがキグルミの下で嘲笑していると感じてならなかった。


 いや、結局罠なのですね。一発くらい殴って良いでしょうか?






「さて、お遊びは此処までだ。任務をこなさないと時給を減らされてしまうのでな」


 あの珍獣は部下に給金をちゃんと払っていたのだと驚かされながらお菓子の森を進む。魚が住む池かと思えば寒天で作った和菓子であり、切り株はプッシュドノエル。まさか上空の雲まで綿菓子なのではと場の空気に影響されてか妙な事を考えてしまった時、何時の間にか先導していた鳥トンが振り返っていた。


 ……まさか思考を読まれていませんよね?



「さて、此処で一つ聞かせて欲しい。君達はキャプテン・シャークゥとミューリの恋についてどう思うかね?」


「本来は結ばれない間の二人の恋とかロマンチックだと思うわよ?」


「妾も嫌いな話ではないのじゃ。恋に種族など関係ないからな。のう? 示現」


 唐突な問いかけに女性陣は楽しそうに肯定的な意見を述べる。まあ、年頃の女性なら恋の話に興味津々でもおかしくはないのでしょうが、この短時間で性格の捻くれ具合を知らしめて来た鳥トンがそんな答えを聞きたくて問い掛けて来たとは思えない。


 しかし、二人共は問題から目を逸らしているのか気が付いてさえいないのか。素敵の一言で終わらせて良い話ではないのですがね。さて、私はどう答えるべきか。否定的意見を述べるのは容易いですが、今後の旅を考えると関係に亀裂が入る可能性がありますし……。


 取り敢えず空也の意見を聞いて当たり障りのない事でも言いましょう。



「……俺はちょっとな。素直に応援して良いのか迷うわ」


「えー!? 何でだよ、馬鹿兄貴!」


「いや、ほらよ。禍人と人間との関係を考えたらちょっとな。二人が幸せになれるとは思えなくってよ」


 まあ、そうですね。伝説上でさえ二回、今回を入れて三回も別の世界から侵攻して来た人類の敵。それが禍人への共通認識です。幾ら彼がミューリは友好的だと訴えても、騙されているか洗脳でもされていると思われるのがオチ。仮に子供が産まれれば迫害されるでしょうに。



「ククククク。まあ、その通りだろう。……これは結果論に過ぎないが、世の中は結果が全てだ。特に被害を受けた者にとってはな。彼が女を島から連れ出さなければレンドラスに目を付けられる事も、その結果としてラグレに大規模な侵攻が行われる事もなく、君達が準備不足のまま強敵に挑んで世界が救われなくなる可能性が大きくなる事もなかった。……本当は気が付いているのではないか?」


 鳥トンの言葉に空也の意見に対して不満そうだった二人も黙り込む。空也もそうですが、二人も頭を使わないだけで使えない訳ではありません。使おうと思えば使えるのです。



「ああ、それともう一つ。……君達が世界を救えば禍人は魔界に強制帰還だ。二人が会うことは二度と有るまい。まあ、四度目の時に彼女が再び来ることが出来れば来世で会うのは叶うかも知れないが。……着いたぞ」


 最後に二人の恋は間違いなく終わると告げ、鳥トンは腰までの水位がある湖を指し示す。澄んだ水は透明に近く、中心では神々しさすら感じさせる剣が鞘に収まって底に刺さっていた。


 ……凄いですね。伝説の剣など実際は大した事がないと侮っていましたが、実際に目にすればこの距離でさえ感動すら覚える。あれが本当に……いえ、気分が台無しになるので止めておきましょう。






「とても大根を茹でて作ったとは思えんだろう? さあ、引っこ抜きに行きたまえ」


「……ええ」


 気分は一気に台無しにされましたが、考えてみれば幸運かも知れません。剣の美しさに流されて持つべきではない勇者としての使命感など持ってしまってはなりませんから。所詮は地球とは関係無い世界の話であり、巻き込まれただけと認識しなくては。


 しかし引っこ抜けと敢えて大根っぽい言い方をしなくても良いのでは?



「本当に関係ないと思うのかね? ……いや、これ以上は止そう」


 矢張り心を読まれていると警戒心を強める。言葉の意味が気になりますが一旦忘れて水の中を進み、白銀色の柄を握れば思いの外容易に抜ける。鞘から抜き放てば太陽の光を反射して眩く輝くのは山吹色の刃。成る程、先程心を冷めさせて良かったと感じた時、脳内に直接声が響いた。



『ハッハー! 今度のマスターも野郎かよっ! どうせならボンキュッボンのお姉様が良いんだがな。まっ! 宜しく頼むぜ、相棒』


 まあ、間違い無くフォースガルドの意志なのでしょうが、剣に自我とか必要なのでしょうか? 何らかの力の制御を行うとしても、自動制御装置で良いと思うのですが。


 ……それと大根から作られた剣が人間の女性に興味を示す理由が理解不能だ。動物と植物、無機物と有機物でしょうに。


 此方の思考も向こうに通じるのか返事が来る。つまり、この剣を握っている間は思考が漏れているのですね、不愉快な。必要な時以外は鞘に納めておきましょう。


『いや、それは全部ノリなんだわ。俺に自我が有るのはノリで付けられて、女の子に興味津々なのはそっちの方が面白いかなってさ。……原材料については言わないで、マジで』


 では、今後はその面白くもない冗談は言わないで下さい。その代わり私は大根について口にしません。


『……了解。まっ、次回の相棒の時に解禁すれば良いわな。んじゃ、宜しく頼むぜ、相棒!』


「ええ、此方こそ。……おや?」


 気が付けば声に出して返事をしており、空は赤みが掛かっている。私の感覚からすれば一分にも満たない会話時間は数時間も要したとは。


「……少し身体が怠いですね」


 フォースガルドと契約を行った影響か、思いの他体力を消耗している。ラグレまで戻るのに慣れぬ船旅で半日。レンドラスの襲撃時間まで一日と少し。船が壊れては論外なのでこの力を使いこなした上で休息に使える時間は僅か。


 ……無理ですね。勇者なんだろう、と、文句を言われそうですがラグレには滅びて貰いましょう。避難誘導をすれば十分でしょうし。また別案としてミューレに時間を稼いで貰うとか。


 だって勇者しか世界を救えないのでしょう? 多数の為に少数を切り捨てるのは昔から行われてきた事ですしね。


「現実的な現実逃避はお終い。さて、どうすべきか……」


 一応遠回しに提案してみますが、あの恋に酔っている方々が納得してくれるのか疑問がある。自分達が原因なのですし、支配して弄ぶために自分に町をくれ、とでも頼んでくれませんかね、自主的に。


 会って間もないですが恐らくは非現実的だろうと溜め息を吐きつつ湖から上がれば空也がタオルを投げつけたのでキャッチする。着替えを入れたリュックを差し出しながら茂みを指さしていた。


「着替えてこい。覗かれないように見張っといてやる」


「誰が覗くのじゃ!」


 いや、このタイミングで言ったら覗く気だったと言っているような物ですよ?


「ええ、着替えて少し休ませて頂きたいですね。奈月さんは……」


「時間が掛かるって鳥トンが言ったからな。ひとっ走り知らせに行ったぜ」


 出来ればゆっくり行ってゆっくり戻ってきて欲しいですね。疲れが存外酷い。ハンモックは追い付きませんし、贅沢を言えば柔らかいベッドで眠りたい所ですよ。


 叶うはずもない願いを抱きながら着替えて焚き火に当たっていると砂煙を上げながら奈月さんが戻ってくる。手にはエクレアを持っていた。




「大根と思って食べたら結構美味しい! ……じゃなくって、私達を置き去りにして船が出航してたんだけど、どうしよう!?」



 ……何か予想外の緊急事態の様子。ですが私にとっては都合が良い……。


「取り敢えず食事をしながら打ち合わせですね」


 手持ちの食料と奈月さんが取ってきた大根味のお菓子を食べて一息付く。パリパリのチョコもフワフワの生地もトロトロのクリームも全て大根の味しかしないエクレアを水で流し込み、肉が入ったスープで体を温める。


「それでどうするんだ? 船が無いんじゃラグレに泳いで戻るか……俺とチビニアがアイスクリエイションで足場を作って……無理か」


「魔力が枯渇してレンドラスとの戦いでお荷物じゃな。脳筋のお主でも一応は後衛クラス。近接オンリーは無理じゃろ」


「私以外はエアウォーク使えるし、走っていく?」


「船で半日の距離をですか? 今度はスタミナ切れでしょう。ウンディーネにどうにか頼めませんか?」


「……どうだろうな。彼奴を呼び出したままにしておくのは結構キツい。俺無しで勝てる相手じゃねぇ。いや、少なくても万全の状態で挑むのが最低条件だろ」


「ええい! あの馬鹿者は何を考えているのじゃ!」


 案を出し合うも妙案は出ず平行線。遂にチルニアは怒りに任せて叫んだ。






「ククク。何があったか知りたいかね? 実に短慮な行動だ。愛の力、正義を想う心、どの程度で覆せる力の差など状況次第でどうとでもなる。だが、此度はその範疇ではないのだがな」


「……何があったのですか?」


 背後に佇み黙っていた鳥トンが実に楽しそうに呟く。……ああ、彼は外道ですが基本的な考え方は共感できますね。


 そして、彼の言葉に何があったか聞かずとも察する。







「いやいや、簡単な事だ。愛しき姫の危機を察した王子が居ても経っても居られずに動き出した。……既にレンドラスが動き出したのだよ」


 鳥トンはあくまで他人事のように、それでもって起こるであろう悲劇を、開幕を心待ちにする喜劇であるかのように告げた。

 


感想 ブックマーク お願いします 評価も欲しいです


次回は本編 エリーゼ視点かも



~おまけ~


ある日の夕食にて


「このオデンの大根最高! これだけでご飯六杯はいけるね!」


「血は争えませんね……」


「あら、示現さん。何か言いまして? 璃癒、口元にご飯粒がついていますよ」


 勇者は尻に敷かれています




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