サイドストーリー 伝説となる若者達 ③
「……のう。ちゃんと訊いておらんかったが、お主達兄妹と示現はどの様な関係なのじゃ?」
お昼過ぎ、買い出しから帰らない馬鹿兄貴達を待つだけなのも退屈なのでパンケーキを焼いてたらチルニアが如何にも興味有りませんって振りをしながら話し掛けてきた。
そっかー。この子、示現さんが好きだもんね。横から見てたら丸分かりだもん、本人は気付かれていないって思ってるけど。三枚目のパンケーキを皿に移した私はシロップとバターを乗せた一枚をチルニアの前に置いて自分のにはジャムとバターを乗せた物を置く。残りは示現さんのだ。
馬鹿兄貴の分が無いけど自分で作らせれば良いよね。だって馬鹿兄貴だもん。
んじゃ、恋バナに付き合ってあげよっかな。馬鹿兄貴にはガサツだの男勝りだの言われてっけど、私だって女の子らしい所も有るんだよ。じゃあ、お姉さんらしく話を聞いてあげようか!
「……なんじゃその目は?」
「いやいや、チルニアも女の子だったんだなって思ってさ。……えっとね、私達の家と示現さんの家が近くにあって、親の仲が良いから遊んでたって言うか馬鹿兄貴が示現さんに絡んでたんだよね。っで、渋々一緒に行動している所に私も加わって、何時の間にか仲良くなってた。まあ、そんな所」
他に近所の子は少なかったし、仲良く出来てたのは小学生からずっと委員長を任されてきた奴と、其奴の隣に住む同性愛者疑惑のある女位ね。……いやー。女性専用車両の中で口説かれた時はビックリしたわ。思いっきり断ったら引きこもったそうだけど。まあ、大本命の委員長が世話焼くでしょ、絶対。どう見てもラブラブだったし。本人達は否定してたけど。
「昔からあの脳筋に振り回されたのか。……同情しかせぬな」
まあ、それには同感。ぶっちゃけ示現さんってあの頃は私達の事をどうでも良いって思ってたっぽいもん。本人は上手く隠してたけど馬鹿兄貴は気付いたし、言われてみて観察してた私もそう思った。いやいや、チルニアが同情した顔をしてるけど、本当に大変だったと思うよ。
……にしても、この子も面倒な人に恋をしたものね。世界を救ったら帰る気満々なのを無視してもエルフは長寿で成長が遅いし、今は小さいから落とすのは大変だってのにさ。それにぶっちゃけ、示現さんってこの子の事を……あれ?
「私のパンケーキは?」
チルニアの顔を見たままフォークを突き立てようとしたけどテーブルに当たる。下に視線を向ければパンケーキのお皿がなくって、横を見ればパンダと黒子が居た。って言うかパンダが私と示現さんの分を食べていた。
「うーん。僕はアンバターが一番好きかな?」
我が物顔で人のオヤツを食べている珍獣の横では黒子が慌てた様子でペコペコ頭を下げて菓子折りを差し出してくる。わおっ! 結構豪華な羊羹じゃないの。……だが、それとこれとは別だ。
「はっ!」
私が得たクラスは近接格闘系。強くなれば気を放つとか少年の憧れの技の再現とか出来るし、会得したら早速やってみた私だけど威力は直接殴る蹴るした方が高い。特に蹴りは大岩も砕く。
近距離から顔面への飛び膝蹴り。流石に好き放題に家に侵入してくる正体不明の相手に手加減は出来ないから気功で身体能力を上昇させての渾身の一撃。伝わってきたのは分厚い布の固まりを蹴った感触。
まあ、キグルミなんだから仕方ないけど、問題は微動だにしていない事だった。いや、返神とかいうのを使った禍人でも結構堪えるのに無反応って……。
「ビックリしたー! 人を急に蹴ったら駄目だって教わらなかったの? まあ、僕は人じゃなくってパンダだけどさ。でも、絶滅危惧種だよ?」
「そっちこそ人の家に勝手に入って人の物を食べるなって教わらなかった?」
「そっかー。僕も悪かったね。反省反省。それで追加オーダーお願いできる?」
間違いなく微塵も反省せず、図々しく皿を差し出してきたパンダの横で黒子がペコペコと頭を下げている。アレは苦労人ね、間違いなく。同情すら芽生えたし、これ以上何か言っても無駄なだけね。
……じゃあ、本題に入りましょうか。
「ねぇ、アンタって何者?」
「聖獣王」
「嘘を付くな、この珍獣め。貴様のようなのが聖獣王様な訳がないだろう! ……まったく、馬鹿馬鹿しい」
あっちゃ~。私達からすれば興味のない話しだけど、流石にこの世界の住人なチルニアは怒っちゃったよ。まあ、世界で信仰されている存在を目の前の変なのが名乗ったら怒るだろうけどさ。
膨れ面でチルニアはアンノウンを睨んでいるけど、あんな小さい子じゃ威圧にもならないわ。私も蹴りが通じなかったし……。
「まあ、今は異世界に自由自在に行き来できる喋るパンダとだけ覚えて置いてよ。因みにこの子は僕の部下。好みはチルニアちゃんくらいの年頃の子だけど、露出の多い大人しい子の方が好きなんだってさ!」
「!?」
「チルニア、ちょっと下がってなさい。……早く」
うん、一応チルニアは私の背後に避難させておこっと。……結局正体を探るどころか謎が深まっただけね。
「うーん。もう用事があるから帰るけどさ……今回の一件を解決したらご褒美に魔界と禍人について詳しく教えてあげるね。……じゃあ、これはお土産の何かの薬。食前か食後に飲めば何か薬効が有るからさ」
「いや、何の薬なのよ……」
「何かって言ったでしょ。君は相変わらず人の話を聞かないね。絶対直しなよ」
思わず拳を叩き込んだら頭を貫通するけど中身は空。穴が開いた頭の部分だけ残してアンノウンは消え去っていた。
「!?」
尚、黒子は何故か取り残されていた。……帰ってくれる?
「……この一件、と言ったのですね? どうも妙な話を聞いたのですが関わっているのでしょうか?」
帰宅後、私達から話を聞いた示現さんは顎に手を当てて考える。異世界に自由に行けるとかの発言に反応を示したけど、家を寿司屋に改築してこの世界に存在しない筈の食材を使ったりとか証拠は十分だもんね。そっかー。なら、お米とかこっちで食べ放題な訳だ。引き留めてたら良かったな。
「んで、馬鹿兄貴。思い当たる件って何よ?」
「ああ、その事なんだがよ。奈月、お前はこの町をどう思うよ?」
ラグレをどう思うかって聞かれても波は穏やかだし、少しモンスターが多い気もするけど禍人の影響で大量発生は世界中で起きているんだから珍しくもない。
ああ、でも魚は美味しいな。ちょっと排他的な空気は感じたけど、今は受け入れて貰えているしさ。まあ、用事を済ませたらさっさと出て行け的な事を来た当初は言われてたのに、レッサーシーリザードを沢山倒してたら急に愛想が良くなったのはちょっと引くかな?
「ご飯が美味しい」
「そればっかだな、おい。……どうも数年前、この世界が魔界と繋がってから少し経つまでは地形だか海流の影響とかで荒れている事が多かったんだとさ」
「……逆じゃなくって?」
「ああ、住処になる場所も多いからモンスターも元から多かったけど、三ヶ月前までは減ってたんだってよ」
其れはちょっと気になるかな? 禍人の影響で荒れ出したなら兎も角、その逆ってのは。あー、やだやだ。ぶん殴って解決できる内容なら楽勝なのにさ。
取り敢えず腕を組んで考えているけど良いアイディアが出そうにない。
「なんじゃ、奈月。お主が考えても無駄じゃし止めとけ」
「あっ、うん。そうだね」
唸っている私が不気味だとでも言いたそうな顔を向けてくるチルニア。まあ、普段から示現さん、偶に馬鹿兄貴やチルニアに頭脳労働は任せて暴れるだけが私の仕事だし、仕方ないか。
……いや、流石にチルニアに頭脳労働を放り投げるのは年上の威厳が台無しな気がするな。既にゼロならこれから先は負債になるし。
まあ、馬鹿の考え……何だっけ? 兎に角、下手に考えるのは私向きじゃないし、放置で良いでしょ。
「それはそうとチルニア。後でアイアンクローの刑だから」
「のじゃ!?」
だって納得はするけどムカつくし。
その翌日の事、金さえ払えばガノス島まで送ってくれるって言っていたアゴーナって人だった。さん付けはしたくない。いや、だってさ……。
「今日中に払えなければ話は無かった事に? 当初の期日まで日は有りますよ?」
「予定が変わったんだ。商売の都合もあるし、あの島には別の奴に乗せてって貰いな!」
朝早くからやって来て開口一番に約束を違えるって言ってきたもん。何でも船員の中で不満を持つ人が出て来たから納得させるためにお金が必要だとか言ったけど。
なーんか足元を見られてるって言うか、無理にでも町から遠ざけたいって感じ。だってキャプテン・シャークゥ位しか安全に航海できる人が居ない位に危ない海域だって言うし、この町に一人居るからって他の町にも居るとは限らないじゃないのさ。
「ちょっと待った! 兎に角、キャプテンと話を……」
「分かりました。今日中にお金を用意すれば良いのですね?」
「あ…ああ。無理なら話はご破算だ。馬車は手配してやるから別の所に行きな」
私の抗議を手で制した示現さんの問いに答えたアゴーナは慌てて帰って行く。確かにもう少しで貯まるけど何時もの収入じゃ二日分は必要だから今日中は難しいんじゃ?
「どうも気になりましてね。取り合えずは稼ぐしかないでしょう」
「だな。大暴れしておびき寄せてぶっ倒す。それだけだ!」
……仕方ないか。じゃあ、気合い入れて戦おう。まあ、どうにかなるでしょう。
「……って、思っていたんだけど」
「居らんの、モンスター。昨日まではウジャウジャ出てきたのに……」
唖然と海辺を見る私とチルニア。岩場に向かえば数十匹は直ぐに発見できたのに今日に限って一匹も居ない。まさか狩り尽くしちゃった? だとしたらどうしよう?
平和そのものの海を眺めていた私は視線を感じて後方に視線を向ける。慌てた様子でこっちを見ていたキャプテン・シャークゥの所の船員が何処かに走り去っていった。
「……怪しい」
「ですね。じゃあ、空也。打ち合わせ通りに行きましょう」
「だな。おい、奈月。お前は別の場所でチビと一緒に派手に暴れておいてくれや」
「ん? 別に良いけど二人はどうするの?」
「「泳ぐ」」
邪魔になる上着を私達の前で脱ぎ捨てた二人は海に飛び込んで姿を消す。いや、説明はちゃんとしてよ。……あれ? チルニアが静かな様な。
「……」
「気絶してる……」
あー、うん。お姫様だもんね、元々。上半身だけとはいえ男の裸は刺激が強かったかぁ……。
「……悪いな、ミューリ。こんな洞窟で過ごさせて」
「ううん。私のせいでシャークゥや皆に迷惑掛けて謝るのはこっちの方だよ。……あんな奴に目を付けられるだなんて。早く諦めて何処かに行ってくれたら良いのに……」
薄暗い洞窟の中、シャークゥは一人の女と向かい合っていた。ベッドやテーブル、食料などが広めの場所に用意されて生活が出来るようになっている。
シャークゥは如何にも海の男といった日焼けした逞しい肉体の持ち主。反対にミューリと呼ばれた女は良家のお嬢様を思わせる白い肌で気品のある美女だ。二人が居る洞窟の所々には彼を慕う船員が見張りを行って誰も来ないようにしていた。
二人は抱き合い、やがて唇が重なりそうになった時、突如水没した部分にミューリは視線を向けた。
「誰か来るっ!」
「モンスターじゃないのか? 此処に来るまでの水中の通路にはモンスターを配備しているだろ?」
やがて水面が盛り上がって来訪者が姿を現せばシャークゥは顔を強ばらせた。
「……よう。久々だな、シャークゥさんよ」
「さて、挨拶は後にして……其処の彼女について説明を頂けますか?」
海中を通って洞窟の内部に現れた二人はシャークゥが咄嗟に背後に庇ったミューリに厳しい視線を送る。彼女からは誤魔化せない禍人の気配が発せられていた……。
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委員長とレズさんについては完結した別作品を参照です




