足りない物 成すべき事
私、異世界チート物は大好きです!
港町ラグレの一角、ならず者が集まる屋敷こそフウ一家のアジトだ。商店を恫喝してのみかじめ料の徴収や盗品の転売、密輸や人身売買にまで手を出す悪党であり、宿屋の酒場で大騒ぎしていた者達やエリーゼに絡んで気絶させれた男も萎縮した様子で中に居た。
「……子供一人だと? おい、今回の仕事に幾ら掛かっていると思っている?」
葉巻を持った手を止め、紫煙を吐き出しながら不快そうに眉を顰めた壮年の男こそ一家のボスのツゥ・フウ。元はケチな詐欺師だったのだが、若くして領主となったメタ・ボリック伯爵に騙して連れ出した娘を献上した事で手を結び、賄賂によって商売敵を潰させ、自分の悪事は揉み消しで貰っていた。
「で…ですが、ボス。厄介な女二人が居まして……」
「其れをどうかするのがお前達の仕事だろうがっ! ……ったく、あのデブ貴族は連絡が付かねぇし、何奴も此奴も役に立たねぇ」
灰皿を釈明を行った部下に投げつけたツゥは頭痛がするのか頭を押さえながら葉巻の火を机の表面を使って消す。
「女共はさっさと追い出せ。浚った餓鬼は……餌だ。子供か若い女しか食べないからな、アレは。……まだ大丈夫だ。この町さえ支配すれば幾らでも取り返しが付く」
背後の金庫を見詰めて呟くツゥ。金庫の中には装飾が豪華な剣が納められている。但し、その剣には鞘が無かった。
「……これだから人間は」
木陰に隠れ、屋敷の様子を伺う人影が吐き捨てる様に呟く。見えない傘でも有るのか頭上の雨が途中から何かに弾かれているのはウサギのキグルミ。灰色で右耳が折れている。
「あれぇ? グレちゃん先輩って人間じゃないんですかぁ?」
「……グレちゃんは止めなさい、ヒポタマ子」
「可愛いし、グレー兎ってフルネームよりマシですよぉ?」
声からして中身は若い女性の背後にカバが現れる。差し入れのバスケットを丁寧に受け取りながらもグレー兎は顔が見えず声も出していないのに不愉快なのが伝わり、煽っているのかヒポタマ子は喋るのを止めない。
「にしてもぉ、船乗りに伝わる恋の歌って変ですよねぇ? 確かぁ、ペンネームがメロリンクィーンって人のポエムを元にしたって聞きましたけど、グレちゃん先輩は誰か知ってますぅ?」
「早く戻りなさい。仕事が残っているのでしょう? 油を売っている場合ですか?」
「はぁい。じゃあ、今からダーリンのお手伝いをして来ますねぇ」
グレー兎から向けられる怒気を受け流してヒポタマ子は姿を消す。残された彼女は少し苛立ちが感じられる声で呟く。
「あの珍獣、人の黒歴史を……絶対殺しましょう。……来た様ですね」
瞬時に殺気を抑え込み、さきほど間での観察中以上に気配を周囲と同化させる視線の先、ツゥ達が居る部屋に幼い少女の姿があった。
「へいへいへーい! 来てやったぜ、人間! 超絶可愛い愛娘のリーカと共に俺参上!」
端から見れば微笑ましい光景に見えただろう。幼い少女が熊のヌイグルミを揺り動かしながら作った声を出している。ピンクのゴスロリドレスを着たアルビノ幼女は青いリボンを付けたヌイグルミを抱えて非常に可愛らしい。
だが、この場にいる誰もが戦々恐々とした態度で目の前の幼女に怯えている。ツゥは辛うじて強がれてはいるが冷や汗が背中を伝っていた。
知らない者が話だけを聞けば嘲笑してフウ一家を馬鹿にする事だろう。だが、この場に居れば否が応でも理解させられる。目の前の幼女は禍人で、有象無象の雑魚とは違うと、姿を見ているだけで心臓を掴まれているかの様な恐怖によって……。
「……今月分の支払いは少し待ってくれ」
「だって、ダディ。どうする?」
「ノンノンノーン! 命儚い人間にツケ払いはナッシング! ……現物払いでヨロピクねっと!」
ヌイグルミをギュッと抱き締めて小首を傾げた彼女は再びヌイグルミを前に突き出す。妙にノリノリの声と共にヌイグルミの表面が裂けて無数の黒い手が怯えて立ち尽くすん下っ端数人の胸を貫き、心臓を引きずり出した。
「ひ…ひぃ! 何も殺さなくても……」
「ガタガタ抜かすな、馬鹿っ! 俺達が何と手を組んだのか忘れてやがったのかっ!!」
血を吐いて崩れ落ちる仲間を見てガタガタ震えながら膝から崩れた部下達を一喝すると幼女に向き直ったフゥ。だが、僅かに視線を外した間に姿を消し、領収書が一枚だけ残されていた。
「……畜生が。最後に相手を利用するのは俺だ。この町を支配してのし上がってやるよ」
忌々しそうに拳を机に叩き付ける。強く叩き付けたのか机の表面が軽く割れて手からは血が出ていた。
「……見られていたね、ダディ」
「ああ、居場所までは分からなかったけどな、マイエンジェル」
闇の中、宙に座り込んだリーカは腕の中のヌイグルミを抱き締めて顎を頭に乗せながら問い掛ける。少しだけ不満そうな彼女の頭を再び中から突き出した黒い手が撫でれば機嫌が直ったのかご満悦の様子。するとヌイグルミは彼女の腕からすり抜け、トコトコと歩き始めた。
「……ダディ?」
「ちょーっと嫌な予感がすっから洞窟行って来るぜ。お前はもう寝る時間だから戻ってな」
「私も一緒に行く」
「おっと、俺様愛されてハッピーだぜ。だが、ノンだ! まあ、折角一緒に禍人に堕ちたんだ。ダディの言うことは聞いてくれよ」
不満そうに頬を膨らませるリーカにヌイグルミは肩を竦め、暫く見つめ合っていたがリーカは不承不承といった様子で頷いた。
「……明日、ご本読んでね?」
「オッケーさ! 何万回でも読んでやるよ。可愛い可愛いマイエンジェルの為だからな!」
ヌイグルミの言葉にリーカは微笑み、瞬時に消える。それを見届けたヌイグルミは洞窟に向けて歩を進めるのであった。
一方、他にも岬の洞窟に向かう二人組が……。
「せやっ!」
自分が貰った力で調子に乗っていただけって自覚してから何が足りないのかを必死に考えた。結果、答えは単純で足りないのは経験だ。
例えば運転免許を取ったばかりの人がスポーツカーを初めて運転して直ぐに乗りこなすのは難しい。大きな力を手に入れても、それを扱うのはそんな力とは無縁だった僕なんだし、使いこなせる方が無理ってもんだよ。
実際、空也お祖父ちゃんも世界を救うような大冒険をしたけど数十年のブランクで大規模な魔法の使用には苦戦しているしね。今の僕がすべきなのは無力を嘆くことじゃない。少しでも早く力に慣れて十全に使いこなす事だったんだ。
じゃあ、何をすべきかって考えて、素人考えの修行もどうかと思いつつも戦闘中に課題を設定する事にした。例えば、相手を斬る! だけじゃなくってどの辺を斬る、とか。何歩で接近して倒す、とか。体の動かし方を考える。
だけど、これが難しい。最初に遭遇したモンスターのレッドゲルの同種のイエローゲルだけを斬るつもりが背後の草まで斬っちゃうし、コボルトの肘から先じゃなくって前腕部の途中から切り落としたり……上手く行かないなあ。
「いや、まだ始まったばかりだ。希代の天才にでもなったつもりかよ、僕!」
千里の道も一歩から。落ち込む暇があったら頑張れよ、璃癒! 自分を奮い立たせて進もうとすると後方から声が掛かった。
「三メートル先の前方! 地中から来ます!」
指示を出したのは洞窟への案内を頼んだフィーラさん。彼女の言葉に遅れて地面から飛び出してきた三匹のイモムシっぽいモンスターを両断。全部胴体を斬ろうとしたけど一匹だけ頭を斬ってしまった。
それにしても凄いな。僕だけじゃ地中からの奇襲に反応が遅れていたよ。本当について来て貰って助かったな。本当は地図で教えて貰う予定だったんだけど……。
「とんでもない! 護衛を雇う費用を浮かせるチャンスですから同行しますよ。……報告書を送らないと送金が無いですし。一日三食ご飯が食べたいです。もう文字通りに道草を食って空腹を誤魔化すのは……」
少し世知辛いことを聞かされたけど、彼女を本当に頼りにしている。町の防衛にエリーゼが残っているし、今回は調査が目的。捕まっている人が居るなら救出プランを考えるけどね。
「彼処です。ちょっと分かりにくいですけど。足元が滑るので注意して…ひゃあっ!?」
草木に隠された入り口から洞窟に入ろうとして転ぶフィーラさん。ちょっと心配だけど、大丈夫。……かな?
明日は諸事情で投稿が不安 明後日は休日で早い時間に出来るかも
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