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嵐中の戦い

感想マジで来ない……

「むぅ。雨の日はこれだから困るよ……」


 退屈を紛らわせる為のトレーニングを終えた僕は鏡の前で唸る。十七年間連れ添った相変わらずの剛毛は湿気で先端が跳ねまくり。さっきから櫛で解かしているんだけど効果は見られない。


 もう諦めようか? 学校に行く日なら兎も角、休日は髪が整わない時は部屋でゴロゴロしてたし、旅の恥は掻き捨てって言うしさ。面倒になったので鏡の前から退こうとしたんだけど、エリーゼに肩を押さえつけられた。


「こら、駄目ですよ。璃癒はちょっと無頓着過ぎると思っていましたし、色々と髪型を試してみませんか?」


 櫛を持ったエリーゼの笑顔から圧力を感じる。うーん、別に一緒に旅をしているのってお祖父ちゃん達とエリーゼだけだし、旅の最中なんだから気にしても……とは言わせて貰えない何かがあった。


 提案の様で実際は強制だっ!?


「……お願いします」


「はい! お願いされました。小さい子達の世話もお仕事の内でしたから自信があるのですよ」


 観念して身を任せる僕の背後でウキウキのエリーゼが櫛を持つ。まあ、どうせ暇だし別に良いか。


 ふふふ。どれだけ頑張ってもロールもウェーブも無駄だった僕の髪は強敵だよ、エリーゼ!






「取り敢えずポニーテールを解いて癖毛風にしてみました」


「……マジっすか?」


「ええ、マジですよ。次はあのリボンを使ってみましょう」


 肩に掛かる程度の長さの髪は今まで自分で何をしても直線を描いていたのに、鏡に映る僕の髪はウネウネ曲がっている。うーん。違和感が凄いや。


 予想以上にエリーゼは凄かった。今、僕は戦慄さえ感じている。何度も鏡を見て手に取った自分の髪を見て、それでも変わらない。


 あのリボンか。一度折れ掛けた僕の心を奮い立たせてくれたアレは間違いなく宝物だ。うーん。だからこそ勇者として自信が付くまでは封印かな?


「エリーゼ、君って本当に何者?」


「え? ごく普通のシスターですよ? 今はクラスがウォークレリックですけど。……こんな世の中で孤児になる子も多いですし、経験です」


「……そっか」


 最後の方の声には憂いを感じて、僕は自分が育った平和な世の中がどれだけの価値があるのか分からされた。家だってお金があるし、僕って恵まれているよな。


「ねぇ、エリーゼ」


「はい? 何でしょうか?」




 取り敢えず顔を見てお礼を言うべきだと思って振り返ると、そこには大きな胸があった。


 僕の言葉に小首を傾げれば揺れる。凄く揺れる。うん、これは凶器だ。




「胸揉んで良い? って言うか揉むね」


「ひゃわぁあああああ!?」


 憎き脂肪の塊をむんずと掴み、指に力を入れすぎない様に注意しながら揉む。兎に角揉む。何か悲鳴が聞こえたけど揉む。


 糞っ! 若い頃に僕と似ていた奈月お祖母ちゃんは大きかったのに僕は何故小さい? あっ、もう片方は小さかった。お母さんも小さいし遺伝だ。


 おのれ! 何故父方が遺伝しなかった、乳だけに! 乳だけに! もう一丁、乳だけにっ!!





「……いや、マジでごめんなさい」


「い…いえ、大丈夫ですから気にしないで下さい」


 十分後、我に返った僕は自主的に土下座して謝罪する。息が荒いし顔も赤らんでいたけど本当に大丈夫かな?


 しかし同年代で胸囲に驚異の差があるなんて不公平だ! 丁度良い機会だし、胸を大きくするコツがあるなら聞いてみようか?


 だけど、僕が胸囲を気にしているからかエリーゼからフォローが入った。



「あ…あの、璃癒の胸も小さくて可愛いと思いますよ?」


「……は?」


 絶対に言ってはいけない事を口にしたな、エリーゼ! 僕はムクリと立ち上がると再び胸を鷲掴みにする体勢になる。


「り…璃癒?」


「こんの貧乳の敵がぁあああああああっ!!」


 そのフォローはフォローに非ず! 僕は再びエリーゼに襲いかかろうとして、外から響いた声に動きを止める。





「だ…誰か助けてぇえええええええっ!!」


 遅れて何かを破壊するみたいな音に獣以外の唸り声、生魚を大量にぶちまけた様な生臭さを感じて窓を開けるとモンスターに追い詰められたお姉さんの姿があった。


 モンスターは二種。黒い鱗を持つ顔が完全に魚の半魚人。手には珊瑚の槍を持っていて、見るからに多分此奴が生臭さの理由だ。


 もう一体は二メートル位の蜥蜴。爪は鋭利で長いし、尻尾も強靭そう。見るからに凶暴な肉食っぽい。


「レッサーシーリザードにブラックマーマンっ!? そんな馬鹿なっ!?」


 モンスターだって群れを成す。でも、違う獣が混ざって暮らすケースが少ないみたいにモンスターも特に友好的な関係じゃないと一緒に行動しないらしいんだ。互いの能力が相性抜群だとか。逆に敵対している種族もいるし、一方的に支配して従えているケースも有るってさ。



 でも、エリーゼの反応からして本当は一緒に行動する関係じゃ……いや、今は考えるのは後。先ずは人助けってね!



「はっ!」


 緋鋼を手にして窓から跳躍、女の人に伸ばしたブラックマーマンの腕を切り飛ばすと同時に着地、威嚇するように切っ先を向ける。女の人は呆然としてたけど背後の宿屋を指差したら慌てて入った。これで一安心だ。


「さあ! 何処からでも掛かって……あれ?」


 腕を切り落としたブラックマーマンは僕を威嚇して牙を剥き出しにするけど他は散開した。あれれ? もしかして逃げ出した……いや、違う!


 仲間を傷付けられて怒るでもなく怯えるでもなく予定変更とばかりに建物を破壊してお店の商品を奪い、家畜を連れ去ろうとする。本当にこのモンスター達は変だ!


「璃癒、私も今すぐ……きゃっ!?」


 僕を援護するために窓から飛び降りようとして窓枠に足を引っかけたエリーゼが落下、お尻を強く打って痛そうにしている。でも、隙だらけの獲物を無視して強奪を行おうとするモンスター達に違和感を持ちながらも止めるべく駆け出した。


「今は皆困っている時期なんだっ! 更に苦しめるんじゃないよっ!」


 さっき腕を切りとばしたブラックマーマンの首を蹴りでへし折って進むと足に力が漲る。エリーゼがレッグブーストを使ってくれたんだ。じゃあ、これ以上被害が出る前にさっさと倒そうかっ!



 馬の手綱を引っ張って連れ出そうとするブラックマーマンを袈裟懸けに切り裂き、酒樽を転がして持ち去ろうとするレッサーシーリザードの首を次々に切り飛ばしていく。金庫を抱えて走り出したブラックマーマンの心臓を背後から貫き、道に落ちた金庫を咥え去ろうとしたレッサーシーリザードの尻尾を掴んだ。


「どりゃぁああああああっ!!」


 振り回して勢いを付け、店の戸を叩き壊そうとしたブラックマーマン達に叩き付ける。やばっ! ブラックマーマンが激突して戸が衝撃で少し壊れちゃったけどセーフ……かな?


「ホーリーアロー!」


 僕の頭上を通り過ぎた光の矢が遠くのモンスターを貫く。さて、エリーゼも頑張っているしもう一踏ん張りだ! 気合いを入れて緋鋼を握り直した時、再びモンスター達の動きに変化が出る。大量のレッサーシーリザードとブラックマーマンが行く手を遮り、その向こうには子供数人が連れ去られようとしていた。


 両親らしき人が必死に追い縋ろうとするけど遠いし速度が違う。だから、僕が助けるしか選択肢は存在しない!


「邪魔っ!」


 密集し、僕の手足を掴んで押さえ込もうとするモンスター達の隙間をすり抜けるみたいに交差し、刃の届く範囲のモンスターを斬り伏せると止まらずに突き進む。背後からモンスター達が迫る気配がしたけれど、巨大な土の壁が遮って通さない。続いて壁に逃げ場を塞がれたモンスター目掛けて魔法が降り注ぐ音が耳に入った。



「ママ、ママー!」


「誰か助けてー!」


 生臭く恐ろしいモンスターに抱えられて連れ去られる恐怖から涙目の子供達が必死に手を伸ばす。海まで後少し。飛び込まれたら流石に追い付けないと更に速度を上げ、一番後ろのブラックマーマンに遂に追い付く。万が一子供ごと斬ってしまわないか心配だったのですれ違いざまに腕から引ったくった。


(……妙だ)


 強く握られていて少しは怪我をさせるのではと心配してたけど杞憂で、怪我をさせないように優しく抱えられていた子供はあっさりと奪還できた。取り返そうと腕を伸ばすブラックマーマンを遠慮なく切り飛ばし、子供を地面に置くと次の一体を追う。再び簡単に奪い返せたけど、最後の一体は他の二体を見てたのか腕に力を入れて子供の悲鳴が聞こえた。


 でも、もう一歩で追い付ける距離だ。地面を踏みしめ、一気に跳ぶ。




「え?」


 だけど、荷物の陰に潜んでいたレッサーシーリザードが僕に飛びかかり、斬り殺して追うも伸ばした手は僅かに届かない。ブラックマーマンは海に向かって飛び込む。気が付けば僕もそれを追うように荒れ狂う海に飛び込んでいた。




「璃癒ーー!!」


 海に落ちる瞬間、風と波の音に混じってエリーゼの悲鳴が聞こえた……。


文字数を犠牲に投稿間隔を頑張ります


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