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サイドストーリー 伝説となる若者達 ①

過去編です 

 ああ、非常に疎ましい。目前を這って向かってくる水棲の大蜥蜴、レッサーシーリザードの頭を切り飛ばしながら思う。このモンスターが体に纏う粘膜は耐火耐電に優れている上に刃に付着すれば切れ味が落ちる。


 剣を振って付着した粘膜を払い除け、魔法で他の個体を倒していく。既に結構な数を倒すも海から次々に飛び出し、仲間が幾らやられても逃げる素振りはない。


 いえ、チルニアから聞いた生態からして当然なのでしょうけども。何せ種の保存を考えなくても構わないのですし、時間をおけば数は戻りますからね。非常に面倒な相手です。


 だが、疎ましいのはモンスターに対してではなく、この世界全体に対してでだ。私の名前は示現。友人と友人の妹と共に異世界に拉致された被害者です。ああ、この世界の住人は勇者を召喚したと言っていますね。まあ、同じ事ですが。実際は崇高っぽくしているだけですよ。



 私にとって勇者として召喚され、この様に戦いの日々を過ごすのは非常に不本意でしかない。


 人類の危機? 私達にしか出来ない? 其れがどうかしましたか? 所詮は異世界、私には微塵も関係ない。貧困で学習の機会すらない子供の話に同情はしても実際に募金をしない方が居るように、他国ですらない場所の他人の為に命を懸けて戦う事に意義が見出せない。正直、異世界の人間に頼らなければ滅ぶなら勝手に滅べば良いとさえ思うのだ。


「おらぁっ! ったく、キリが無ぇっ!!」


 ハルバートを振り回し時折魔法を放ってレッサーシーリザードを仕留めているのは幼い時からの友人である空也。私とは正反対に頼られる事を良し、正義と義憤で動ける物珍しい人間です。……近くにいれば疎ましいですが何かの役には立つかと付き合いを始めたのですが人生とは分からないものです。最初は用もないのに話しかけてくる鬱陶しいが能力は高い付き合い方に悩む面倒な相手でしたのに。


 私は彼に友情を感じている。今でも自分で信じられない事にですが……。


「馬鹿兄貴、うっさい! 蜥蜴共、これで潰れろってのっ!!」


 叫び声と共に巨大な岩を蹴り砕いたのは空也の妹の奈月さん。この兄妹は直情型な部分が似ているので口喧嘩が多い。まあ、それでも仲が良いのですが。何だかんだ言っても一緒に居ますしね。


 砕いて小さくなったと言っても自分の倍ほどもある岩を次々と投げつけて海から飛び出してくるレッサーシーリザードに命中させていく。刃の切れ味を落とす粘膜も単純な質量攻撃には無力となった。


「これで漸く残り三分の一。……ですが、もう終わりますね」


「準備完了じゃ。今すぐ跳べいっ!」


 後方、レッサーシーリザードが向かわないように足止めしていた先で幼いエルフの少女、チルニアが叫ぶと同時に私達はその場を飛び退き、魔法が放たれる。



「アイシクルストーム!!」


 無数の巨大な氷塊が極寒の吹雪と共に放たれる。忽ち凍り付いたレッサーシーリザードの身体を氷が叩き潰して一匹残らず殲滅した。


「ふふん! どうじゃ、妾の魔法は。誉めても良いのじゃぞ、示現」


「ええ、相変わらずの腕前です」


 保護してくれる大人は居らず、空也達は子供扱いするからか彼女は私に懐いている。……この少女こそが私達を拉致した犯人ですが、利用価値が有るので大切に扱っています。


 まず、魔王を倒した後で私達を元の世界に戻すのが彼女だけという事。手間を掛けて儀式の準備をすれば他の連中にも可能だそうですが、世界を救った勇者という政治利用の格好の駒に何を請求されるのか分かりませんからね。


 彼女の場合は馬鹿が付く善良さの持ち主であるし、伝承と違って戻す事が出来なくてもエルフの王族の血統と世界を救った英雄という称号さえあれば支援した国の属国という形であっても故国の復興は可能なはず。


 ……エルフは長命ですし、先代と自分は別と後継者に放り出される可能性も薄い。ならば老後も安心ですね。



 あくまでも最終手段であり、可能ならば即座に帰るのが大前提ですが……。








「にしても倒しても倒してもキリがないのぅ。いや、魔魂石の価格はそれなりじゃから助かるんじゃが……」


 不死の力を得た魔王を殺せるという伝説の剣、フォールガルドの封印場所を探して文献を漁り、解読して向かうも空振りに終わること早十回。今度こそはと今滞在している港から船で三日程の場所にあるガノス島に向かおうとしたのですが、危険地帯を通る上に特に立ち入る理由がない場所なので向かう船が無く、仕方なく腕利きの船乗りを船ごと雇う資金稼ぎをしているのが現状です。


 幸いにも大量発生したレッサーシーリザードには船乗りも悩まされていて退治を続ける私達に好意的な視線が向けられています。これならば余所者には金を出そうと船は貸さないと突っぱねられる可能性は低くなったでしょう。万が一に備えて資金は多めに稼いでおきますが。


 宿屋だと宿賃が嵩むので安い借家を借りてレッサーシーリザードの討伐を繰り返す毎日にチルニアも疲れが見え始めていました。


「まあ、チビが疲れるのは仕方ねぇな。明日はガキンチョらしく休んどけ」


「そうそう。小さいんだから無理すんじゃないって」


「……この程度問題ない」


 この気位の高さから来る負けず嫌いは修正しないと面倒ですね。散り散りになった家臣にその辺りを教えてくれる人が居れば助かるのですが。……私? 嫌ですよ、面倒な。旅の最中はこの位が御しやすいですしね。残ることになる可能性が濃厚になれば考えましょうか。


 二人が気を使って言っても内容が悪いので通じずむくれたチルニアは駆け足で借家に向かうと鍵を開ける。扉を開けようと爪先立ちになってドアノブに手を伸ばしますが先に空也が開けてしまいまいた。



「がははは! まだ開けるには身長が足りな……間違えました」


「間違ってないでしょう。鍵だって合いましたし」


「……いや、開けたら寿司屋だった」


 チルニアを笑いながら扉を開け、直ぐに閉じる空也。疲れているのですからふざけないで欲しいです。この世界には米がないのですから寿司など作れるわけもなく、朝から夕方の間に民家を寿司屋に改築など出来るはずもないでしょう。


「馬鹿兄貴、何言ってるんだよ。早く晩御飯食べたいんだから……」


 私同様に奈月さんも呆れながら扉を開け、そのままで固まってしまう。中を見れば間違いなく回転寿司屋になっていました。……幻覚でしょうか? 


 漂う酢飯の香りに久々に見る白米。レーンを回る様々なネタ。間違いなく何の変哲もない回転寿司屋ですね。握っているのがパンダとハシビロコウのキグルミでなければですが。



「らっしゃい! パンダ寿司にようこそ」


「えい!」


 カウンターから出てきたのは、喋るパンダと書かれたネームプレートを付けたキグルミ。奈月さんはそれに近寄るなり躊躇無く頭を掴んで外す。下にもパンダの頭が有りました。


「ねぇ、アンタ誰?」


「僕、アンノウン! 見ての通り人畜無害な喋るだけのパンダだよ!」


 ……禍人ではありませんね。奴らは対峙しただけで人外と悟らせる独自の気配を持っています。ですが目の前の不審な存在からは何も感じない。ですが怪しいのは変わらない。


「……空也、此処は分かっていますね?」


「ああ、当然だ」


  流石は旧友。詳しく言わなくとも伝えたいことが伝わったのか前に進み出し、アンノウンを追い出すべく先制を……するかと思いきやカウンター席に腰を下ろしました。



「取り敢えずお勧め握ってくれや。あっ、彼奴はワサビ苦手だからサビ抜きな」


「残念だがウチはサビ抜きは卵以外は受け付けていない。諦めるのだな」


「仕方ねぇな。おい、示現。一個一個自分でワサビ除けるしかないってよ!」


 ……所詮自分以外は皆他人。信じすぎるのは良くないって悟りました。っと言うか何平然と注文しているのですかっ!?



「空也、怪しい相手の作った食事を食べるのはどうかと思いますよ?」


「だって米だぜ、米っ! 海鮮丼も天ぷらの盛り合わせも醤油も有るんだ。食べたいだろ、普通。それに悪い奴じゃ無い気がするしな」


「貴方はまた無根拠で……」


 ……仕方ない。虎穴に入らずんば虎児を得ず。奴の正体を探るためにも此処は危険を冒しましょう。毒は探知系魔法で察知出来ますしね。


 私は席に着くと仕方なく寿司を口に運ぶ。幾ら除けてもワサビの風味は残って少し辛かったですが久々の日本食は美味しかったのは否定できない。幸い刺身に似た料理は此方にも存在するのでチルニアは平然と食べる事が出来ています。それどころかワサビがお気に召したのか大盛で注文する始末。見ているだけでツーンとするきがしますよ。



「むふふふふ。これぞ大人の味じゃな」


 ……いえ、味よりも大人っぽいと思ったから食べているだけでしょうか?




「かっぱ巻き、ワサビは少なめでお願いします」


「さて、どうすべきか。この世界の為に頑張っている諸君を労おうと故郷の食事を用意したが……苦手なワサビに苦しむ君の顔は見ていて飽きないのでな」


 この瞬間、ハシビロコウが禄でもない人物だと察する。これは他人の苦しみや絶望を悦楽に感じる類の外道だ。恐らく先天性でしょう。環境だけでは此処まで歪まない。生まれ落ちた時点で歯車がズレて……いや、彼は何と言った?






「えっとね。君達は頑張っているからお寿司を用意したって言ったんだよ? でも、ワサビに苦しむ君の顔が最高! だってさ。性格悪いよねー」


「おや、彼がワサビが苦手だと調べ上げてサビ抜き禁止と言い渡した貴方が言うかね? ふむ。我が主ながら性格が悪い」


「……貴方達は何者ですか?」


 正直に答えるとは思いませんが、この世界に存在しない物を用意した上に私達が何者かも分かっている様子。問わずにはいられなかった。






「哺乳類食肉目クマ科の獣」


「ペリカン科ハシビロコウ目ハシビロコウ属の鳥類」


「ふざけず真面目に答えて欲しい。それとも馬鹿にしているのですか?」








「「正体を隠すのは理由が有っての事だからふざけていないけど、趣味だから馬鹿にはしている」」


 これが私達とアンノウンのファーストコンタクト。彼の正体を知るのはそう遠くない未来でした……。






 知った後で思ったのは世も末。まさかこんな性悪の正体が……。

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