2人の気持ちと大人の思惑
あまりかからなくなった電話がまたかかり始めたのは、それから一年くらいたった頃だったろうか。
姫ちゃんは涙声で、
「かー君との結婚を反対されている」
と私に告げた。
かー君の病状が思わしくなく、正直な話今度発作を起こしたら命の保証はないと言われているらしい。
かー君と姫ちゃんは、彼の最後のひとときをちゃんと夫婦として共に過ごしたいと思ったのだ。夫として、妻としてならずっと一緒にいられる。いかにも彼ららしいささやかな望みだった。
でも、夫婦という響きに、かー君がその命の灯を尚も削って命の営みをするんでないか、親たちはそう思っていたみたいだ。
確かに、死期の迫った若い男性は自らの子孫を残そうという本能が働くのか、したくなるのだと後日誰かに聞いたけれど。姫ちゃんを本当に愛していたかー君が、姫ちゃんの命を削るそんな行為をするとは私には思えなかった。
その上、かー君のお家はかなりお金持ちだった。そんなこと姫ちゃんも姫ちゃんの両親も望んではいないけど、かー君の両親が亡くなれば、かー君がいなくても遺産が転がり込んでくる。かー君の従兄弟なんかは、面と向かって、『財産目当ての性悪女』
と言ったそうだ。
「ねぇ、たぁちゃん、一緒に居たいって思うのは、いけないことなの?」
私は、そんな姫ちゃんの嘆きを毎日ほぼ一ヶ月聞き続けた。私にはそれしかしてあげられることがなかったからだ。




