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サンライトリゾート編 第5話

わしの大切なものを隠した場所。禁じられた道路の空にあるだろう。


二〇一番道路。そこにはドナルドが立っていた。


ドナルドとジェリリンの間は、小さな翼でも一息には結べず、三度歩いた。


たどり着いた道路で、バスに乗った。


――――――


四〇八番道路。そこにはヘンリーが立っていた。


ヘンリーとジェリリンの間は、小さな翼をつけて二度歩き、たどり着いた。


ジェリリンとカレンの間を一息に渡るには、間抜けな歩き方をする者の助けが必要だった。


しかし、その者は愚かで、カレンとドナルドの間を結べず、そこはすべて歩くしかなかった。


そうしてたどり着いたこの道路では、バスがどこにあるのか、見つけられない。


――――――


四一三番道路。そこにはアーノルドが立っていた。


アーノルドは小さな翼をつけて、ジェリリンのもとへたどり着いた。


そのあと鋭い目を借りて、ジェリリンはサニーのもとへたどり着いた。


しかし、その者の眼差しが気に入らなかったのか、サニーとハロルドの間は結べなかった。


このとき、アーノルド、ジェリリン、サニーは、それぞれ何歩歩いたのか?


最後の一文まで読み上げると、メリーの考えが、そのまま口からこぼれた。


「サンライト家と関係があるのは、間違いないはず。道路と、小さな翼。何を表しているんだろう」


半ば放心していたフィリップが、首を振った。


「メリー、僕はもう二十分も格闘したんだ。リゾートの従業員をつかまえて、ここに出てくる人たちの関係まで聞いてね。でも、どこから絡まった糸をほどけばいいのか、さっぱり見当がつかない。翼って何だ、道路って何だって、頭の中が大混乱だよ」


「こういう謎は、ひらめきがないと、なかなか解けないでしょうね。ジェリリン様、見て何か思いつきませんか?」


いとこの兄との口論ですっかり気分を害した彼女は、大きな石板をろくに見てもいなかった。問われて口は開いたが、実のある答えは出てこなかった。


「嫌な奴の名前ばかり、並んでるってこと」


「そうですか……。ひとまず、謎の文章の鍵になっている『人と人の間』が何を意味するかは、わかった気がします」


それを聞くと、ジェリリンの顔からぼんやりした色が消えた。驚いてみせれば馬鹿に見えるかもしれない。そう思い、感嘆の声を喉の奥へ飲み込む。微妙な顔をした彼女を見て、メリーは少し照れたのか、言い添えた。


「あっ、大したことではありません。ただ、これだけは確かな気がして……」


「言ってみなさい。ちょ、ちょうど私も、一つ思いついたところなの。ワトソンの見解を聞かせてもらおうかしら」


「人と人の間には、三通りの解釈ができると思います。一つ目は、文章の中に出てくる人同士の物理的な距離。二つ目は、心の距離です」


「それは……主観的すぎるんじゃない?」


「私もそう思います。普通の人には知りようがないので、それではクイズになりません。石板に文字を刻むほど手をかけるなら、答えが変わらず、サンライト家以外の人にもわかるものでなくては。その条件に合うのが、三つ目の距離、血縁上の親等です」


「……まあ、そのくらいは私も気づいていたわ。それなりに頭は回るみたいね?」


ジェリリンは顎を上げ、腕を組んだ。見下ろして威圧するつもりだったのに、目の前のメリーは、まっすぐ視線を合わせながら、考えを整然とまとめているだけだった。その姿は、ジェリリンの胸に、すっきりとは収まらなかった。羨ましさと片づけるには、あまりに濁った感情だった。


「はい、皆さんも見当はついていたと思います。翼、目、愚かといった表現からすると、親等の距離をつなぐものは生き物で、共通の法則があることも、確かだと思います」


メリーは、石板に刻まれたいくつもの文を指でなぞった。集中する彼女を見て、フィリップが弾んだ声を出した。


「もっともらしいね。前から思ってたんだ。メリーって、メイドより探偵みたいだよ。蝶ネクタイをすれば、ぴったりだ」


褒めたつもりのフィリップに、思いがけない謝罪が返ってきた。


「申し訳ありません」


「何が?」


「メイドの身で、坊ちゃまより目立とうとして……」


主人の大切な花瓶を割ってしまった使用人が、白状するときのような声だった。


「え? いや、そもそも君と僕は、そういう関係じゃないし……。この話はやめよう。早く続きを解こうよ」


フィリップは困惑を押しやり、メリーの発言を収めようとした。ほかの人々は事情が飲み込めず、ただ二人を見つめている。突拍子もない流れについていけず、頭の上に見えない疑問符を浮かべながら。


「坊ちゃまと私が、そういう関係じゃないなんて……。私は四年前から、ずっとメイドでしたのに」


「だから、それは君が勝手に……」


「坊ちゃまの願いのために頑張ってきたのに、私はお荷物だったんですか?」


訴える気配が濃くなり、哀れっぽい口調になった。どうしたことかと、アダムがそっと会話へ割り込んだ。


「どんな願いなんだい?」


メリーはフィリップと目を合わせられず、恥ずかしさに満ちた声で言った。


「坊ちゃまが、『メイドは男のロマンだよ。坊ちゃまって呼んでくれる女の子が欲しいな』と、おっしゃったので……」


「馬鹿! どうしてそれを、みんなの前で!」


「ご主人様じゃなくて、坊ちゃまとは、趣味がはっきりしてるねえ。応援するよ」


アダムはフィリップの背中を強く叩き、親友の黒歴史を聞いて、言いふらしたくてたまらないような調子で言った。湿布でも貼るべきではないかと、フィリップは背後へ目をやる。熱くなった顔を隠すためでもあっただろう。


「いたたっ、痛いですよ。とにかく、それは四年前の話です。まだ中学生だった頃ですよ。思春期には、誰だって一度くらい、そんな妄想をするでしょう」


ジェリリンはメリーとフィリップを交互に指さし、わけがわからないという顔をした。


「ちょっと待って。本物じゃなかったの? メイドを連れているから、実はすごいお金持ちなのかと思ってたのに、ただのごっこ遊びだったわけ?」


「はあ。クイズを解いていたはずなのに、どうしてこんな説明をしなきゃいけないんだろう。メリーは、変なところで話がそれるんだよ……。メリーは、僕の父のもとで一緒に育ったんだ。もともとは、僕をお兄ちゃんって呼んでた。それが、どういう風の吹き回しか、四年前からあの服を着て、坊ちゃまって呼ぶようになったんだ」


「私は坊ちゃまのために始めたのに。今では、この服が皮膚みたいに感じられるほどなのに。そんな私がお嫌いだなんて……」


碑文を冷静に分析し、顎を撫でていた少女探偵は、どこかへ消えてしまった。代わりに、主人に捨てられた子犬のように涙をためたメイドが、床にへたり込んでいた。


「本当に困るな……。よく聞いて、メリー。君が嫌いだなんて言ってないよ。確かに、その服を着始めてから最初の一か月くらいは、一緒に歩くと周りの視線が気になった。でも、僕はもちろんメリーが好きだ。別に、迷惑をかけられているわけでもない。君の人生なんだから、尊重するよ」


「それなら、これからもメイドでいていいんですか?」


「うん。やめろなんて、言ったこともないだろう? その服も似合ってると思うよ。僕が言いたかったのは、君が謎を解いても構わないってこと。いや、むしろ解いてほしい。まさに、メイド服の解決士だ。素敵じゃないか」


メイドの話になると、メリーが変人になってしまうことは知っている。それでも毎度、呆れて苦笑してしまうのは変わらなかった。メリーはミニスカートの埃を払って立ち上がり、ほっと息をつくと、落ち着いた口調に戻った。


「ありがとうございます。私は、ほかのクイズを見ながら考えてみます」


「今解いていたのは、見なくていいの?」


「出題者が同じなら、問題の作り方をつかむことで、手がかりが見つかるかもしれません。裏技だとは思いますけど、どうしても解きたくなったので」


「なるほど、わかった。僕と、このおちびちゃんは、引き続き考えてるよ」


「また、おちびちゃん……。もういいわ、好きに呼びなさい」


怒鳴ることにも疲れたのか、それとも両親の言葉が気になったのか。ジェリリンは左肩に触れるほど力なく頭を傾け、ため息を漏らした。それから、碑文の下にある箱の南京錠をつかんで続けた。


「そもそも、三桁の鍵なんでしょう? 適当に数字を入れていけば、開くんじゃない?」


するとフィリップは舌を鳴らし、眉をぴくりと動かした。


「ちっちっ。温室育ちだからって、すぐ諦めることから考えるんだね。そういう当てずっぽうは、知的な遊びで一番やっちゃいけないことだよ」


「何が知的な遊びよ。この馬鹿! あんただって解けてないじゃない」


「それはそうだね。偉そうなことを言える立場じゃなかった。でも、馬鹿って?」


さっきより柔らかく言い合うフィリップとジェリリンを見て、メリーは自然と口元を緩めた。冷たい壁に並んだ碑文の長さを見比べ、比較的短い謎の前で足を止める。出題した老人になったつもりで、ゆっくり読み上げた。


四人の兄弟がいる。


脚のない太鼓腹は、前へ進む。


脚が一本の太鼓腹は、ぴくりとも動かない。


脚が二本になると、太鼓腹は後ろへ進む。


まだ語っていない最後の一人は、横になれば別の意味を持つ。


この四人をまとめて、何と呼ぶか?


文の下には筆箱ほどの箱が壁に取りつけられ、大きな四文字式のアルファベット錠が掛かっていた。ほかのクイズも、鍵の形が違うだけで仕組みは同じだった。アダムが片手をポケットに入れたまま、妙に気取った足取りで近づき、メリーの肩に手を置こうとした。


「頑張るねえ。正直、俺には何が何だかわからないよ。やっぱり若いっていいのかな。頭がよく回るじゃないか」


「そこまでです。それ以上、近づかないでください」


下心を見抜かれ、きっぱり言われると、狼のような男は残念そうに肩をすくめた。ただ、メリーも気まずい空気にはしたくなかったので、あたりを見回すふりをして、当たり障りのない話を振った。


「本当に、たくさんのクイズがあるんですね。会長は、いろいろなことにお詳しいんですね」


「アーノルド会長は、新しいことに挑戦するたび、謎かけを作るんだよ」


「今日で八十歳のお誕生日を迎えられると聞きました。すごい方ですね」


「行動力だけは、並じゃないからね。君が見てるのは、運転免許を取ろうとしていたときの謎だ。一度くらい秘書任せにせず、自分でアクセルを踏んで、血が沸き立つ感じを味わってみたい、とか言ってたかな。はは、案外可愛いところもあるだろう? あれでも大企業の会長なんだけどね。俺も会長になって、好き勝手に生きてみたいなあ」


(運転?)


返事も忘れて動きを止めたメリーは、解答用の箱の文字を合わせ、あっという間に鍵を開けた。


「どうして、そんなにすぐ解けたんだ? 答えは何?」


「アダムさん、アルファベットで、お腹がぽっこり出ていると言われたら、何を思い浮かべますか?」


彼女はもう、意地の悪い冗談に頬を染めていた少女とは違っていた。本当に、さっきまで「近づかないでください」と叫んでいた人物なのだろうか。腰に手を当て、自分からアダムへ一歩近づく姿は、挑戦的ですらあった。照れなど微塵もない、自信に満ちた顔。アダムは、答えるまでに少し間が必要だった。


「Bか、Dかな」


「では、脚、つまり下へ線を一本伸ばして、成り立つアルファベットは?」


「Pか。そうすると、最初の兄弟はDだね」


「Pに斜めの脚をもう一本つけて、太鼓腹に二本の脚を生やしてみてください」


「ええと……Rだね」


「そうです。では、九十度横に倒して書いても、意味のあるアルファベットには何がありますか?」


「Z、N、O、Xかな」


「はい。その中でも、別の文字にならなくてはいけませんから、OとXは除きます。まずZですが、DPRZと言われて、何か思いつきますか?」


「ううん、何も」


「それでは、DPRNなら?」


「それも、よくわからないな……あっ! 運転か!」


「前へ進む太鼓腹、Dは前進。Pは駐車、Rは後退、そしてNはニュートラル。変速機に記された頭文字です。この四つをまとめて、普通はギアと呼びます。答えは、GEARです」


「すごいな。よく、こんなに一瞬で……」


「いいえ。運転という言葉を聞かなければ、解けなかったと思います。ともかく、ここのクイズは、会長が作った当時、どんな分野に興味を持っていたかがわかれば、決定的と言っていいほど大きなヒントになるようです。あの最後の問題を出した頃、会長が何に関心を持っていたか、ご存じですか? 些細なことでも構いません」


「俺が知ってる限りでは、ゴルフだね。ちょうど面白くなってきた頃で、毎日のようにお相手をしていたよ。それから、秘書に頼らず、若い人みたいに電子機器を使いこなしたがってた。認知症の予防にいいと言って、オンラインで花札もしてたな。ほかには何があったかな……。ああ、このリゾートの改装にも興味を持っていた。でも実際には、部屋の名前を変えるだけの遊びで、家具も部屋の場所も変わらなかったんだ。本当に、わかるようでわからない人だよ。事務室じゃ堅苦しいから、洒落た感じに『オフィス』と呼べと従業員に言ったり、お手洗いと書かれた看板を『トイレット』に変えろと言ったりね。まあ、そういう変わった発想を押し通す性格だからこそ、人にかしずかれる立場まで上り詰めたんだろうけど。それから、当然だけど、会長は菓子作りにも関心がある。俺も一度、会長の作ったハニーピーナッツを食べてみたいな。そんなことをしたら、大変なことになるけど……」


メリーは目を閉じ、黙って考え込んだ。アダムはまだ話題が尽きないのか、話し続けていた。窓の外では雨が激しくなり、雷まで鳴ったが、思索に沈むメイド服の解決士には、何の音も届かなかった。


(改装は、謎と関係なさそう。電子機器の操作。血縁関係を線で結ぶと絡み合った形になることから、インターネットのウェブに着想を得たのかな。ううん、家系図は蜘蛛の巣の形にはならない。無理に結びつける必要はないかも。残るのはゴルフ。関係があるとすれば……)


手がかりを並べ、パズルをつなぐ瞳は、収縮と拡大を繰り返した。一人で話していたアダムは、返事がないので聞いているかと尋ねかけたが、執念すら感じる集中ぶりに、黙るしかなかった。細い、細い糸口を引き寄せ、絡まった糸をほどき始めたメリーは、ついに沈黙を破った。


「解けた」

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