007
口笛吹くシルフィ亭
今、俺はこれまで歩んだ人生で最も多くの女性と同時に接している。
目の前の席に美しいエルフの女性、ヴェルヘルミーナ・ヴァルデンルスト。
その隣には金髪ロングで筋肉質なこの店の主人、マーサ。
そしてマーサの隣で俺を見つめる金髪で青い目の美少女、マリーナ。
ヴェルはこの店をよく利用しているらしく、マーサともマリーナとも親しげに接し会話も弾んでいる。
一方、前の世界で異性と会話するイコールほぼ母親だった俺としては、日常会話にはまったく入ることができず、ただ出されたレモン水をチビチビと飲んでいた。
「リヒト、あんたそんなに強かったんだね!」
マリーナが意外そうな顔をして俺を見る。
「あっという間だったよ。3人相手に、しかも武器まで持っている者もいた。」
ヴェルはそう言ってレモン水を口に含んだ。ただ飲み込んだだけなのにそれが優雅に見えるエルフのしぐさに危うく見惚れそうになる。そんな俺を見るマリーナの視線が痛いほど冷めきっているように感じるのは澄み切った青い目の色のせいだろうか・・
「私は今、この町の少し先にあるトナリナの町に向かう途中なんだ。近くにダンジョンが見つかって冒険者たちで賑わっているようだが、そのせいで日常の仕事を請け負う冒険者が減っているらしくてね。」
「ヴェル、あんたはダンジョンには興味ないのかい?」
「まあね。興味なくはないが、困っている人族の力になりたいからね。」
そうだった。ヴェルはかつて人族に助けられた恩を忘れず、旅をしながら各町で薬草採取や畑を荒らす魔物の駆除などの仕事を請け負って人族の助けをしていたはずだ。
「リヒトよ。そなたさえ良ければ一緒に来ないか?腕の立つ前衛がいてくれると心強い。」
「かァ・・・構わない。一緒に行こう。」
いきなり誘われて声が裏返りそうになるのをグッと抑え、できる限り落ち着いた声のトーンで答えた。
「決まりだな。では明日早朝出発しよう。昼にはトナリナに着くだろう。」
「分かった。」
その後日が暮れるにつれ店は冒険者や客たちで賑わい始めた。
ヴェルは食事を頼んだり果実酒を飲んだりしながら周りの冒険者や客たちと楽しんでいるようだ。エルフは孤高で静寂を愛する、などとイメージしていたが、ずいぶんコミュ力高めのエルフのようだ。
俺は夕飯にシチューのようなトロトロのスープとサラダを食べた後、部屋に戻った。
整理してみよう。
ここブレストピアーライジングの世界はフリーシナリオかつマルチエンディング。
そのマルチエンディングすべてがバッドエンディングだった。99回は。
分岐点や選択肢を間違ったら詰む。
落ち着いて思い出そう。
この世界、ブレストピア大陸にはいくつか種族がいる。
人族、エルフ族、ドワーフ族、獣人族、竜人族、魔人族。
人口が多い種族が人族と獣人族。次いでドワーフ族で、長命種のエルフ族と竜人族は子どもの出生率が低いせいか人口が少なく、魔人族に至っては普通にゲームを進めていた場合、ほとんど会う機会がなかった。魔人族ルートで進めたこともあったが、集落が点在している程度であまり多くはいなかった。
難易度が低めなのは人族ルート。選択肢も多く人族の町も多いためイベントも起こりやすいだろう。
必ずしもゲームの通りに進むとは限らないのが気掛かりではあるが・・
悩んでも仕方がない。明日はトナリナだ!




