006
鼓動が高まる。
やっとエルフの女性と会えた。
ブレストピアーライジングのストーリーはここから始まると言っていい。
エルフの女性の名はヴェルヘルミーナ・ヴァルデンルスト。俺はヴェルと呼んでいた。
ゲームでの彼女との出会い方はいくつかあったが、選択肢を間違えなければ基本的に一緒に旅に出る流れになり、冒険を続けていくことであるときは手強い敵となり、またあるときは心強い味方となり、時には恋人や妻にもなったりした。
いずれ重要人物である。
そういえばー
かつてのディスプレイ式家庭用ゲーム、いわゆるレトロゲームにおいてこの手の選択肢には、必ず1つは絶対に選んではいけないような内容が含まれていた。
6回目のバッドエンドー
ちょうど飽きがきていたせいもあり、試しにヴェルと出会ったタイミングで「その娘に興味があったのさ、邪魔しないでくれるかい?」という選択肢が4つ目にあったため、面白半分で選んだ。
その瞬間
けっこうな量の矢が主人公目がけて飛んできたあと、エンドロールが流れた。
エンドロール後の画面では、近くの大木に吊るされた針鼠のようになった主人公の姿を映し出しENDになった。
俺自身が吊るされた夢を2日続けてみた。
今回は大丈夫だ。返事も何度もやっていたので暗記している。
「俺の名はリヒト。その子が嫌がってそうだったから助けようとしたんだ。」
「そうか。」
エルフの女性は疑わしそうな眼はしていたが、構えていた弓を下した。
「感謝する。私の名はヴェルヘルミーナ・ヴァルデンルスト。」
やはりヴェルだ!彼女は少女が怪我をしていないか確かめると孤児院の中に戻るよう促した。
「最近人さらいが出没すると聞いていた。あの連中がそうなのだろう。私はたまたま通りがかっただけだが、そなたは何をしにここへ?」
お礼を言って孤児院に戻る少女を横目に見ながらも、ヴェルはまだ俺を警戒しているようだった。
「俺は記憶を失ってこの町に着いたらしい。何かヒントがあればと思って教会に来た帰り道だった。」
「そうか。しかし身のこなしは見事なものだった。」
「ありがとう、ヴェルヘルミーナ・ヴァルデンルスト。」
あえて彼女のフルネームを言うと、ヴェルの二重で細い切れ長の目が大きく見開いたように見えた。
「これは驚いた。私の名を人族が1度聞いただけで間違いなく言えるとは。」
当然だ。この世界では初めてでも、ゲームでは何度も出会っている・・って、それは言えないが。
「記憶力はいいほうなんだ。」
俺は自慢げに言うと彼女は怪訝そうな顔をした。
「記憶を失っているのにか?」
そう言うとヴェルは1つ1つのパーツが美術品のように整った顔をくしゃくしゃにして笑った。
「す、すまん。」
ひとしきり笑った後、彼女は真顔になって俺に詫びた。
「それで?リヒト、これからどうするのだ?」
「特に何も。」
まさかヴェルと会うためにあちこち行こうとしていたとは言えない。
「この近くに『口笛吹くシルフィ亭』という宿屋兼酒場がある。食事も美味しいし女将もいい人だ。よかったら一緒に行かないか?」
やった!誘われた!次のステージに行けそうだ。
「いいね。その店、知ってる。」
「なぜ知ってる?」
「記憶力が良いんだ。」
ヴェルはまた笑った。




