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そうと分かればまずは状況把握からだ。
たしかゲームでは行き倒れていた主人公がマーサ母娘に助けられたところから始まる。その後町を散策しているときに何らかのトラブルに巻き込まれてストーリーが分岐していくはずだ。
よし、町を散策だ。
マリーナに手を振って町に出ることを伝え、店を後にする。
ゲーム内だけではあるが、かつて知ったる何とやらだ。どうにかなるだろうと思って歩いてみたがー
感動した。
今まで家庭用ゲーム機でプレイしてきた身としては、この光景は感動したという以外の表現ができない。
人々の動きや息遣いまでわかる。何ていうのか・・そう、臨場感。直に肌に伝わる感じ。いや、今が現実世界なのだろうから当然なんだが、目の前に広がる町並みは中世の都市のようなレンガ造りのような家屋や幌を屋根にした道端の商店。ドワーフ族やエルフ族、獣人族など人族以外の種族の姿もそこかしこに見える。
フルダイブ型VRゲームをやり込んでいればおそらくすぐに順応できたのだろうが、これまでの世界やゲームとのギャップを見た俺はただボケっと突っ立っていた。
「おい、あんた!邪魔だぜ!」
後ろからドンっとぶつかってきた背の高い人族の男がこっちを睨んで去っていった。
それで我に返った俺は、とりあえず道なりに歩いた。『口笛吹くシルフィ亭』からまっすぐ進めば、たしか教会がある。道々で何も起こらなければ教会で何か動きがあるはずだ。
何も起こらなかった。
すんなり教会に着き、教会にもすんなり入れた。
おかしいな・・
教会までの道でゴロツキに絡まれ、たまたま通りがかったエルフの女性に助けられてそこから旅にでるエピソードや、教会前で借金取りの連中が大騒ぎしているところに出くわして、出てきた老神父をかばって攻撃を受け、そこでやはりたまたま通りがかったエルフの女性に助けられて借金取りのグループを一網打尽にするエピソードがあったはずだ。
いずれたまたま通りがかったエルフの女性との旅が始まるのがこの最初の町のイベントだ。
それなのに、何もない。
どういうことだ・・
とりあえず中に入り、それほど広くない教会内の隅の席に座った。
煤けた壁や床。古い椅子。あまり手入れは行き届いていないようだが、古いというだけでひどい汚れなどはない。少し湿ったような木の匂いがした。
「教会は初めてですかな。」
少し擦れた、そして落ち着いた声が後ろから聞こえたので振り返ると、そこに老神父が立っていた。
おお!やはりここは老神父の教会だった!
「どうされた?そう緊張せんでもよい。私はこの教会の神父、ブラムスという。旅のお方かな?」
「あ、ええ。旅をしています。リヒトです。」
この神父、名前があったんだ・・・ゲームでは名前はなかった気がする。何も答えずにブラムス神父を見ていたため緊張していると思われたらしい。
「つかぬことをお伺いするのですが」
「なんでしょう。」
「この教会に借金取りやゴロツキなどがやってくる、といったことはありませんか?」
「面白いことを言う。ここにはそうした輩は立ち寄らぬよ。」
老神父は白い眉と髭を震わせて笑っていた。嘘を言っているようには思えない。
「失礼しました。旅の途中でどうした訳か記憶を失ってしまいまして・・」
「それは難儀なこと。心が落ち着くまで休まれるとよい。神の祝福があらんことを。」
そう言うと神父は神への祈りを捧げ、別の席に座っていた男性のところに歩いて行った。
何も起こらない。
しばらく何かが起きるのではないかと座って待っていたが、本当に何も起こらない。
もしかしたら別の日なのかもしれない。
立ち上がり教会の出口に向かった時、ブラムス神父がこちらに手を挙げるのが見えた。
教会の隣に孤児院があったはずだ。ゲームでは教会の老神父がその孤児院の暮らしを守ろうとして金策が立ち行かなくなり借金が膨らんだことが事の発端だった。しかし借金取りは来ていないと言う。
悩んでも仕方がない。せっかくだし他の施設にも行ってみよう。外に出て、孤児院のある方向に歩く。
ふと目を向けると、孤児院の前で3人の男に絡まれている少女の姿が見えた!




