003
静かにレモン水を飲む。少しずつ、少しずつー
昂っていた気持ちがかなり落ち着いてきた。
分かってしまえばなんてことはない。
ここは俺がやり込んだゲーム『ブレストピアーライジング』の世界。
その最初の町ブラムスに転移した。
ということは
ゲームで達成できなかったベストエンディングを目指すことができるということか!
1度でも選択肢や対応を誤ればバッドエンドに向かって修正することもできずにひたすらプレイし続け、エンディングを迎えたらセーブデータも消えてまたブラムスの町に強制移動させられるあの日々。
俺はそれを99回繰り返してきた。
100回目がまさか実体験することになろうとは思わなかった。嬉しい気持ちもある。同時に不安もある。
目の前のかつてのキャラクターは生きている。普通に生活し、話している。声も聞こえるしにおいも味もする。叩けば痛みもある。
やっていけるのか?失敗したらどうなるのだ?またバッドエンドを迎えるのか?
不安がよぎる。
たしか94回目だったか
かなり順調に進めていたと思っていたが、どこでどう間違えたのか俺が属する人族がすべての種族を敵に回し、その状況を打破するために別種族のかつての仲間たちに交渉したがすべて断られて全種族と交戦状態となった。
仲間だった種族をことごとく滅ぼし、最終盤には結婚の誓いを立てたエルフ族の女性が立て籠もる村を襲撃し、優しかった彼女の父と婚約者の女性を泣く泣く打ち果たした。
そうして国に戻ったら戻ったで「非道の者」の烙印を押されて追放され、仲間も失い1人で理想郷スピアを目指して旅に出る・・・でエンドロールが流れ、俺は涙が止まらなかった。
そしてエンドロールが終わった後、主人公リヒトが1人で歩く姿が画面に映った。
まだ続くのかと霞む目を凝らして見ていたら、リヒトにむかって少年が駆け寄ってきた。その少年はエルフ族の婚約者の弟だった。リヒトにとても懐いていて、よく狩りや釣りに一緒に出かけたり一緒に川で泳いだりした。
その彼がリヒトに追いつき、振り返るリヒトを後ろから短剣で刺したところでENDになった。
3日間寝込んだ。
99回やったが、あのエンディングだけは忘れられないトラウマとして記憶に残った。
俺はこの世界で生きていけるのか?またあんな思いをしたら・・・
「リヒトさん、大丈夫?」
気が付くとマリーナの顔が目の前にあった。俺を覗き込むように見ている。
「あ、ああ。まだ本調子じゃないようだけど、大丈夫だよ。」
「そう、おかわりはいる?」
「いや、美味しかったよ。ありがとう。」
よほど俺の顔色が悪かったのか、マリーナは少し心配そうな顔をして何か言いたげだったが別の客に呼ばれて席を離れていった。
大丈夫だ。俺は99回このゲームをやってる。
バッドエンドしか経験はないが、少なくとも中盤までは問題なく進めることができていた。この町で起こることはすべて覚えている。選択肢も、行動も。
この世界で生きていくために覚えている知識のすべてを使って、まずは序盤を乗り越えよう!




