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99回バッドエンドを経験して転生した世界で初のハッピーエンドを目指す物語  作者: 月兎光


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10/11

009

トナリナに着いた。


町の規模としてはブラムスの町と同程度だろう。


時間としては昼過ぎくらいなのだろう。人通りも多く何となく活気があるように感じる。通りの左右には露店が並びあちこちで売り込みの声が聞こえる。朝から何も食べていなかったせいか、肉系の焼く香ばしいにおいが食欲をそそる。


うーーん、腹減った。


そんな俺の姿など見えていないのかあえて見ていないのか分からないがヴェルは通りを突き進み、何の躊躇もなく1軒の宿屋兼酒場に入っていった。


『実りの麦穂亭』


何となく落ち着く感じの名前の宿屋だ。ヴェルに続いて店に入る。


けっこうな広さだった。


真昼間から酒を飲んでいる冒険者や農作業の休憩時間に昼食を食べに来たのであろう人たちが数組、奥の席にはフードを被った冒険者風の人物が1人、この宿の近所に住むと思われる4人の女性たちが窓際の席で楽しそうに話をしていた。


「おお、ヴェルヘルミーナ。久しぶりだな。」


ヴェルを見た店主がにこやかに声をかけてきた。髭にハゲ。大柄な体の店主だが笑うとなかなかに愛嬌がある。ヴェルも気さくに返事をして近況などを報告していた。


「連れかい?」


後ろに立っていた俺に気づいたようだ。


「ああ、ブラムスで。縁あって一緒に旅することにしたんだ。」


「へぇ・・・あんたがね」


店主が品定めするようにこっちを見る。


「まあ、あんたの連れなら腕は確かなんだろう。いくつか頼みたいことがあるが、見ていくかい?」


「ああ、そのつもりでこの町に来たんだ。」


そう言ってヴェルはこっちを振り返り「いいよな?」と聞いてきたので、ちょっとは相談してもらいたいものだと思いながらも断る理由もないので頷いた。ヴェルは薄く笑うと店主に依頼の種類を聞く。


「それじゃあ、こいつが・・」


店主とヴェルは仕事の依頼を打ち合わせていた。


ブレストピアーライジングの世界ではよくゲームやラノベなどにある『ギルド』というものは無い。仕事を頼みたい場合、基本的には宿屋や酒場の店主にその依頼を持ち込み店主が冒険者に斡旋して条件が合えば請け負う形だ。それ以外にも当事者同士で直接やり取りしたり、途中で別の冒険者に譲ったりすることもできる。


かつての世界で、1度だけ働こうと思い立ち近所にあったワークプラザに初めて仕事を探しに行ったときー


受けようと思って持っていった求人のことごとくが担当職員にダメ出しされ、あげくに考え方が甘いのなんのと大声で説教された。周りの求職者やほかの職員たちの憐みの目や蔑みの目が耐えられず、泣きながら帰宅したことがある。それ以来行くことはなかったが『ギルド』のシステムがどうしてもそのワークプラザと重なってしまうため、苦手意識を拭い去れないでいた。


その面からも『ブレストピアーライジング』は俺にとってハードルが低く、性に合っていたのだと言える。


ここトナリナの町は初めてのプレイヤーに対して依頼を受け方や戦い方を学ぶチュートリアル的な町でもある。いくつか依頼があるがどれも比較的簡単なので達成もしやすいうえ、初心者ボーナス的意味合いなのか報酬も高めなので、トナリナでいくつか依頼をこなして金を稼ぎ次に訪れるミバンの町でよい武器を購入するのが鉄板となっていた。


「これがいいな!」


物思いにふけっていた間にヴェルが気に入った依頼を見つけたようだ。見せてもらうとトナリナの近郊にある炭鉱跡に巣くったゴブリン退治の依頼だった。


このゴブリン退治はトナリナで受けられる依頼の中で最も危険で最も実入りのいい依頼だ。


ゴブリンの数が当初聞いていた数より多く不審に思ったプレイヤーが調べていくと、奥にはゴブリンを指揮するホブゴブリンがいる。探索途中で出会うゴブリンをすべて倒してレベルを上げておかないとかなり苦戦し、戦い方によってはバッドエンドに直結する初見殺しのイベントだ。その分得られる対価にもボーナスがつくだけでなく探索中にレアアイテムもいくつか入手できる。


「賛成だ。町の近くにゴブリンの巣があると、いつ襲われるかわからないからみんな不安だろう。俺たちでその不安を振り払ってしまおう。」


このイベントを熟知している余裕から自信満々にヴェルに同調した。その答えが意外だったのかヴェルは少し驚いたように目を見開いたが、すぐに笑って俺の肩を叩いた。


「リヒト、いいね!そういう考え。そなたとはうまくやっていけそうだよ。」


47年生きた人生で、初めて生きていてよかったと思った瞬間だった。いや、転移したのか。いずれにせよこんな台詞を俺の人生で聞くことができる日が来るとは!泣きそうになる気持ちを抑え、笑顔でうなずいた。


「じゃあ、あんたたちにこの依頼は任せよう。これが炭鉱跡までの地図だ。ここからなら1日あれば着く。期限は特に決まっていないが、ゴブリンの連中は繁殖もあっという間だからできるだけ早めに出発してくれ。」


「分かった。準備ができたら向かうよ。」


ヴェルは店主にそう言うと俺の服の袖を引っ張り店の入り口に誘導した。


「ゴブリン退治だからそこまで危険はないと思うけど、数が多いとやっかいだから薬とか多めに用意しておかないと。これから必要なものを買いに行こう!」


依頼を受けその準備のためではあるが、これほどのエルフ美女と一緒にショッピングできるー


心底俺は転移したことを神に感謝した。

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