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第三十七話

扉の向こうに広がる純白の空間――

その中央に、三人のベールが整然と並んで立っていた。

薄桃色の髪が肩で揺れ、薄紫色の瞳が穏やかな光を湛える少女たち。

純白のレースドレスを纏った姿も、あどけない表情も、すべてが寸分違わず同一の存在。

まるで鏡に映された多重像のように、完璧に一致した三体の階層主が、俺たちの帰還を静かに待ち受けていた。


空気が重く澱み、皮膚がぴりぴりと刺すような緊張感が全身を支配した。

心臓が嫌な音を立て、喉の奥が焼けるように乾いていく。

俺の隣でラトもまた、兎耳を警戒に立て、琥珀色の瞳を鋭く光らせていた。

白い手袋に包まれた手が、愛用のリボルバーの柄を無意識に握りしめている。


パチパチパチ……。


三人のベールが一斉に拍手を始めた。

白い手袋に包まれた手が、リズミカルな音を奏でながら静寂を破っていく。

その音が純白の空間に反響し、まるで劇場の観客席から響く喝采のように俺たちを包み込んだ。


「おめでとうございます~。ここまでたどり着いたお二人に惜しみない賞賛を送ります~」


左端のベールが満面の笑みを浮かべて讃える。


「まさかあの霧の試練を乗り越えてくる方がいるだなんて、思いませんでしたよ~。ここを超えた方は、初めてかもしれませんね~」


中央のベールもまた、同じ表情で続いた。


「全ての方が、その前で死ぬか、霧の空間で迷うか、大体いずれかですから~。長いこと階層主をしておりますけれど〜あれほど冷静に判断できる挑戦者は滅多にいらっしゃいませんね〜」


右端のベールも同様に手を叩きながら、その讃辞に加わる。

三人の声が重なり合い、純白の空間に複層的な響きを生み出していた。

それは確かに賞賛であり、心からの物であるのは確か。

しかしその賞賛の言葉とは裏腹に、彼女たちの薄紫色の瞳の奥には――


どこか嘲笑めいた光が宿っているのを俺は見逃さなかった。


「さっき、言ってたよな?これで真実が知れるんだろ?」


するとベールたちの表情が一瞬にして変化した。

先ほどまでの温和な笑みが、にやにやとした不気味な薄笑いへと変貌していく。

薄紫色の瞳に宿った光が一層冷たくなり、まるで獲物を前にした捕食者のような鋭さを帯びた。

三人の少女が同時に同じ表情を浮かべる光景は、背筋に氷のような冷気を走らせる。


にやり――


その笑みだけが、白い空間に浮かんでいた。

声もなく、動きもなく、ただ三つの同じ顔が同じ笑みを湛えて俺たちを見つめている。

その視界に広がる景色は、奇妙というほかないほどに不気味であった。


「……答える気はないのか?」


三人のベールは相変わらず笑みを浮かべるだけで、何も答えようとしない。

その沈黙がかえって不気味さを増幅させ、俺の神経を徐々に削っていく。

ようやく――中央のベールが口を開いた。


「そうですね〜、せっかくここまで来てくださったのですから、お教えしましょう〜。私たちは皆、ベールです〜。そしてめぇ太郎はめぇ太郎です。それは確かであり、その数に限りはありませんし〜、終わりもありません〜」


左側のベールが続ける。


「でもでも〜、この無限に終焉を告げる方法がないわけではありませんよ〜。金色の羊を見つけることができれば〜、きっとこの無限の円環から抜け出すことができるでしょうね〜。それが、この階層の任務ですから〜」


右側のベールが締めくくった。


「つまり〜、あなたたちは金色の羊を探さなければならないのです〜。それ以外に、この階層から先へ進む方法はありませんからね〜」


金色の羊が捕まえられなければ、この無間地獄からは出られない。

ベールもめぇ太郎も、その限り永遠に現れる。

彼女の説明だとそういうことになる。

やはり最初に示されていた文字こそ、この無限に終焉をつける鍵だったのか。

しかしそうなると、やはり最初の問題に戻る。


「それでどこにいるんだ、その金色の羊は?どこを探せばいいんだ?」


金色の羊はどこにいるのか。

それがこの階層に来てから、最大の問いだ。

そんな膠着状態を破ったのは、中央のベールだった。


「物語は途中で終わらせることはできませんよ〜、リオさん〜。私が話した童話について、覚えていますか~?あの筋書きを守らなければ〜、終わりは決して来ないのです〜。あの童話の主人公のように〜、航海を最後まで成し遂げなければなりません〜。そうでなければ〜、金色の羊は永遠に見つからないでしょうね〜」


航海を成し遂げる……。

そのためにはあの童話のように、数々の試練を乗り越える必要がある。

つまり最初のベールとの戦いも、あの霧の世界も、試練であったと……?

それを乗り越えても、金色の羊が見つからないということは……


「つまり……まだまだ多くの試練があるということなのか?そのいくつかの試練を主人公と同じように乗り越えた先に、金色の羊がいるということになる。逆にそうしないと金色の羊は見つからない。そういうことでいいのか?」


俺の問いかけに、三人のベールは再び首を小さく傾げて見せた。

薄桃色の髪が肩で揺れ、まるで困惑しているかのような仕草を演じている。


「そうですね〜、それはある種、正解です~。けれど不正解でもあります~。なにしろ物語ですから~、どう転ぶかは主人公次第ということでもあります~。主人公がどのような道筋をたどるのか、リオさんも主人公になったと思い、判断してください~」


中央のベールがそう答えると、左右のベールも同調するように頷いた。

またしても煙に巻くような、要領を得ない返答である。

教えると言った割には、結局核心には触れようとしない。


「ねぇベールちゃん、回りくどい表現止めようよ~。ラトちゃんもう飽き飽きだよ、こういう話し合い。もっとストレートに話し合おう、スパーんってさ!ベールちゃんそういう話し方してると、嫌われるよ?」


ラトの不満げな声が純白の空間に響く。

ほんと、その通りだラト。もっと言って欲しい。


「そう言われましても~最大限の答えを言ってますよ~私は。だって金色の羊の見つけ方は、お二人次第ですから~。もしかしたらとても簡単なところにあるのかもしれません〜。でも同時に〜、とても難しいところにあるのかもしれませんね〜」


またこの調子か……。

金色の羊の見つけ方は、二人次第ってどういうことだよ……。

用意された試練があって、それを突破していくんじゃないのか?

それとも俺たちの選択で、試練が変わるのか?

進む扉が二つある……みたいなことがあるのだろうか?


すると――右端のベールがゆっくりと口を開いた。


「あるいは〜この冒険という夢から目覚めるしかないのかもしれませんね〜」


夢から覚める――?

冒険という夢を諦めると言うことか?

つまり二階層の突破を諦めろと、そういうことなのだろうか?


その時――俺の肌がぴりぴりと刺すような感覚に包まれた。

濃密な魔力の波動が、三人のベールを中心として渦巻き始めている。

空気そのものが重く歪み、呼吸が困難になるほどの圧迫感が空間を支配した。

彼女たちの薄紫色の瞳に、冷たい光が宿っていく。


ラトもまた、その異変を敏感に察知していた。

兎耳が緊張で立ち上がり、白い手袋に包まれた手が素早く愛用のリボルバーに伸びる。


「やっぱりベールちゃんたちと語り合うなんて、無意味なんだよ!こうやって武力で語り合わないと~!」


――!――!


銃声が純白の空間に響いた。

ラトが素早くリボルバーを抜き放ち、引き金を引いたのだ。

愛用のエンフィールド・Mk2リボルバーが火を噴き、弾丸が一直線に飛んでいく。


その直後――


わずか一秒の間隔を置いて、再び銃声が響いた。


二発目の弾丸が、先ほどより少し角度を変えて射出される。

両方とも――左側のベールに向けて放たれていた。


「あれれ~?気付かれましたか~、では……沈黙せるタルシシ!」


左側のベールが、咄嗟に防御魔法を展開した。

半透明の水晶状防護壁が空中に浮かび上がり、まるで美しい氷の盾のように光を反射する。

一発目の弾丸がその光の壁に激突した瞬間、激しい火花が散り、轟音が響いた。

しかし――ラトの弾丸は、ベールが予想していたよりも遥かに強力だった。


――!


氷が割れるような音と共に、防護壁に蜘蛛の巣状の亀裂が走った。

美しく輝いていた光の盾が次の瞬間には粉々に砕け散り、無数の光の破片が宙に舞い踊る。

ベールの薄紫色の瞳が驚愕に見開かれ、小さな口がぽかんと開いた。

そして――


――!


防御を失った彼女を、二発目の弾丸が正確に捉えた。

深紅の軌跡を描きながら、弾丸がベールの胸部を貫通する。

薄桃色の髪が宙に舞い、純白のドレスが深紅に染まっていく。

左端のベールの身体がゆっくりと後方に倒れ、石床に鈍い音を立てて横たわった。

薄紫色の瞳から光が失われ、静寂が彼女を包み込んでいく……。


「こっちはやったよ~、リオちゃんにそっちは任せるよ~」


「ああ、任せろ」


左側のベールが倒れた瞬間、俺もまた行動を起こしていた。

麻袋から中瓶を素早く取り出し、コルクを引き抜く。

深紅の液体が空中で渦を巻き、瞬時に鋭い槍の形状へと変貌した。

血の槍が右端のベールにがけて一直線に射出される。


「っ……、弓浜絣!」


しかし俺の視界が一瞬ぐらりと揺れていた。

くそっ……これまでの戦闘で体内の血液を使いすぎた。

立ちくらみにも似た眩暈が頭を襲い、足元がふらつく。

それでも必死に意識を保ち、槍に追加の魔力を込めていく。

深紅の魔法陣が槍の周囲に展開され、激しい光を纏いながら空気を切り裂いた。


「私も倒すつもりですか~?沈黙せるタルシシ〜」


咄嗟に展開された防護壁が、俺の血の槍を受け止める。

先ほどと同様、美しい水晶状の盾が空中に浮かび上がったが――

そんなこと分かり切っている。

その防御能力がどれほどか既に分かっているからこそ、その威力は調整していた。


「なっ……」


またも、半透明の盾に亀裂が走る。

そして――粉々に砕け散った。

光の破片が宙に舞い踊り、ベールの前方から防護が完全に失われる。

その隙を――俺は見逃さなかった。


腰の剣を抜き放ち、鞘に仕込まれた血液を剣身に纏わせる。

深紅と銀色の光が宿った刀身。

その輝きと共に、俺は全身の力を込めて剣を投擲した。


「――友禅染!」


剣は魔力と血液の光を纏いながら、激しい閃光と共に一直線にベールへと向かった。

美しい軌跡が純白の空間を彩り、まるで流星のような輝きを放ちながら標的を捉えていく。


そして――

右端のベールは回避する間もなく、その刃に胸部を貫かれた。

深紅の光が彼女の身体を通り抜け、純白のドレスが鮮血に染まっていく。

数秒後、彼女もまた、力なく石床に崩れ落ちた。


石床に倒れ伏した二体の死体を尻目に、中央のベールだけが立ち続けていた。

薄紫色の瞳に冷たい光を宿し、口元に不気味な笑みを浮かべている。


「ふふっ、血の気が良いですね~お二人とも。それほど私たちを殺したいのでしょうか~?けれど、いえいえ~正しい行いです~。そうしなければ試練など、乗り越えていけませんから~」


「随分と余裕そうだな、ベール。自分が二人も死んでて、何にも思わないのか?」


「ん~?特になにも思いませんよ~。死ぬべくして死んだ自分に対して、同情とかしませんから~。だって私が生きてますから~。ならどれだけ他の自分が死んでもいいんじゃないですか~」


「狂った感性してるね~ベールちゃんは!けど二人と同じように殺されるって、自分で思わないの~?」


「ふふっそうですね~殺されるかもしれませんね~。けれど試練の本番はここからです~。私を倒すことが、果たしてお二人は出来るのか~楽しみですね~」


そう言って、ベールは指を口元に持っていった。

ピィィィィ――


鋭い指笛の音が純白の空間に響き渡る。

そして――


俺たちの視界が再び悪夢に変わった。


「めぇ〜」「めぇ〜」「めぇ〜」


無数の白い毛玉が一斉に現れ、視界を埋め尽くしていく。

彼女の合図で再び、大量のめぇ太郎がその部屋に現れた。


「うわ~またそれ!?ラトちゃん見飽きたよ!そんなにめぇ太郎出して戦って、一辺倒の面白くない戦い方だって自覚ないの~?」


「自覚ですか~?面白いこと言いますね~。有効な手段があれば、相手の弱点があれば、それを執拗なまでに繰り返す。それが戦闘というものですよ~?」


確かにめぇ太郎を大量に出し、戦闘として有効な手段かもしれない。

めぇ太郎は攻撃をほとんど受け付けないし、攻撃も防御もできる。

いるだけで厄介な存在。


「じゃあそれが、有効な手段でも弱点でもないって分かったらどうするんだ?」


しかし……これまでの戦闘経験から、階層主であるベールを倒せば配下のめぇ太郎たちも活動を停止する可能性が高い。

そうとなればめぇ太郎が生き生きと動き出す前に、さっさと戦闘を終わらせるのみ。


「そうそう~、そうなったらさっさと先制攻撃~!」


ラトの小さな身体が、兎人族特有の爆発的な脚力で宙に舞った。

純白と深紅の衣装が風を切り、瞬く間にベールとの距離を縮めていく。

その動きは稲妻のように素早く、残像が空中に踊った。

俺もまた、小瓶から血液を取り出し魔弾へと変換する。


「綴織!」


血の魔弾がベール目がけて射出された。

小さいながらも鋭利に研ぎ澄まされた弾丸が、ラトを追い越すように一直線に飛んでいく。

このタイミングなら、ベールは防御魔法を展開するか、めぇ太郎を盾として使用するはずだ。


しかし――

ベールは身体を左に逸らし、魔弾を回避した。

彼女は魔法も召喚も行わず――

ただ身体を逸らして、俺の魔弾を回避したのだ。


「……!?」


その動きは極めて人間的で、自然で、当然の反応だった。

攻撃が飛んできたら避ける――それは生物として当たり前の行動。


しかし、これまでのベールは常に防御魔法やめぇ太郎による迎撃で対処していた。

だからこそ俺の予想が外れた。

直接的な回避行動を取ったのは、これが初めてだったのだから。


そのままラトが魔力を纏った蹴りも、ベールは軽やかなバックステップで回避する。


「ベールちゃんってそんなことも出来るんだね~驚いたよ~」


これまで通りの流れ。

俺がベールの防御手段を封じ、ラトが確殺の一撃をお見舞いする。

その瞬時に頭の中で立てた計画が、その予想外な動きで塵と化す。

まるでベール俺たちのその思惑を全て読み切っていたかのように――


「実は私も~体術は苦手じゃないんですよね~」


彼女の右手に魔力が集中し、複雑な魔法陣が拳を包み込む。

突如として光を放ち、突風を発生させるほどの魔力を纏った拳がラトに目掛けて放たれた。


「地を照らす、東方の輝き――ベツレヘムの星!で~す」


「ベールちゃん、体術魔法まで用意してたの~!?」


潤沢な魔力と精密な魔術構成により強化された一撃。

ラトは咄嗟に魔力を両腕に集中させて受け止めようとするが――


――!!


その威力は咄嗟の防御で対応できるほどの威力ではない。

激しい衝撃音と共に、ラトの小さな身体が宙に舞い上がる。


そして――

彼女は石床を滑るようにして、俺の足元まで押し戻されてきた。

純白と深紅の衣装が乱れ、口から少量の血を吐いた。


「ラト、大丈夫か?」


「痛ぁ~けっこういいの食らっちゃったよ~。けどまだぴんぴんしてるよ~!ベールちゃんもテンション上がって来たんじゃないかな~、さっきの攻撃ぞくぞくしたよ~」


口から血を流しながらも、彼女の琥珀色の瞳は興奮で輝いている。

兎耳がぴょこんぴょこんと弾み、薔薇色の唇が愉悦に歪んでいた。

純白と深紅の衣装が汚れ、白い手袋にも赤い染みが広がっているというのに……。

この戦闘心から楽しんでる危険で美しい笑み。

まさにラトらしい。

ラトの調子が上がってきたことは好機だ。


俺は密かに回収していた血液を確認した。

ラトがベールに攻撃を仕掛けた隙に、先ほど投擲した剣と、周囲に飛び散った血液を静かに操作していたのだ。

深紅の液体が床の各所から糸のように立ち上がり、空の中瓶へと収束していく。

剣もまた、血の魔術によって俺の手元へと滑るように戻ってきていた。


瓶の中を覗くと、三分の二程度。

残る血液は大瓶の残りと、もう一本の中瓶だけ。

短期決戦に持ってかないと、この戦いはかなり厳しい。

早々に手を打たないと……。


「良い雰囲気ですね~、お二人ともまだその闘士の火が潰えていない。実に喜ばしいことです。せっかくここまで来たんですから~、こんな所で野垂れ死ぬのはもったいないですよ~」


激励に似た嘲笑の言葉。

薄紫色の瞳に宿った冷たい光が一層強くなり……

口元に浮かんだ笑みが不気味に歪む。


「ベールちゃん肉弾戦出来るなら、そんなめぇ太郎に頼らないでラトちゃんと殴り合いしようよ~!そっちの方が楽しいよ~!」


「そんな脳筋な提案をされても困ります~。苦手ではないと言いましたけど~、それは苦手ではないだけです~。私はそういう汗くさいのは嫌いです~」


「にしてはさっきの拳は中々だった」


「お褒めのお言葉ありがとうございます~。けどあれは不可抗力ですよ~、最終手段です~、好きな訳じゃないんですよ~」


「え~そんなのもったいないよ~?あんな綺麗なパンチを放てるのに、それを利用しないなんて~ラトちゃん理解に苦しむよ~。もしかして、いやもしかしなくても、ベールちゃんって賢くないの~?」


「賢いからこそ、こっちの選択をしているんですよお馬鹿さん」


「あ、馬鹿って言った!そういうこと言っちゃ駄目なんだよ~」


「何をいまさら……そうですね~、では私も本気を見せてあげましょう。汗臭くない美しく気高く崇高な魔術の真髄を。あなたたちの試練にはこれがふさわしい――」


そして――彼女が両手を空に向かって掲げた瞬間、空気が重く変化した。

濃密な魔力が渦巻き始め、皮膚がぴりぴりと粟立つような圧迫感が全身を包み込む。

耳の奥で不快な共鳴音が響き、本能が危険だと信号を出した。

濃密な魔力の奔流が純白の空間を渦巻き始める。


「怒りの日よ、その日は――世界を灰燼に帰す日なり。いかなる戦慄か、やがて来たらん時――裁く方の出でまし給う時は。ラッパは鳴り響き、諸々の墓より――死せる者どもを生ける者の御前に呼び出さん。死と自然は驚き恐れん――創られたるもの全てが甦りて、裁く方に答えんとして……」


ベールの声は次第に重層的になり、まるで複数の声が重なり合うような神秘的な響きを生み出している。

魔力が激しく渦巻き、空中に浮かぶめぇ太郎たちの身体が淡い光を放ち始めた。


「うわっ、やばいやばい詠唱始めちゃった」


「これは……」


なんなんだこの光景は……?

詠唱と共に、めぇ太郎たちが一体、また一体と融合を始めた。

白い毛玉同士がぶつかり合い、溶け合い、より大きな光の塊へと変貌していく。

その様子は美しくも恐ろしく、神聖でありながら禍々しい光景だった。

空気が震え、魔力の奔流が肌を撫でて過ぎていく。


「何一つ隠されることなく。さればその時、裁く方座り給わん時――隠されしこと皆顕れん。罰せられで残ることなし――汝、いかに応えん哀れなる我よ――」


白い毛玉が次々と融合し、より大きな光の塊へと変貌していく。

そして最後に――ベール自身もまた、その光の渦に飲み込まれていった。

薄桃色の髪が光に溶け、純白のドレスが輝きと一体となっていく。

百を超えるめぇ太郎たちと階層主が融合し、眩い光が純白の空間を更なる光で満たしていく――


「こんなの、邪魔しないと!」


――!

ラトが愛用のリボルバーを抜き放ち、光の塊に向けて引き金を引いた。

銃声が響き、弾丸が一直線に飛んでいく。

しかし弾丸は光の渦に呑み込まれ、何の効果も示さない。

光はますます強くなり、俺たちの視界を完全に白一色で染め上げた。


「――終末の獣」


詠唱が完了した瞬間、光が爆発的に拡散し、俺たちの視界を完全に奪った。

耳を劈く轟音と共に、石床が激しく振動する。


そして――


光が収まった時――


そこに立っていたのは巨大な化け物だった。


人の背丈を遥かに超える二足歩行の異形。

螺旋状に捻れた巨大な羊の角が頭部から突き出し、全身を覆う厚い羊毛が不気味に蠢いている。

その毛並みは純白でありながら、内側から邪悪な光を放っていた。

羊の化け物とでも言うべきか。

巨大な天井に届かんばかりの巨躯を誇る、羊が人間のような体格をしている形容できない何か。

けれどそれはベールと全てのめぇ太郎が合体してできた、明らかなる人智を超えた終末の獣。


「どうですか~驚きました~?ベールちゃんの必殺技~。めぇ太郎との超絶合体技で~す」


ベールの温和な口調そのままに……

しかし声質はガラガラと掠れ、まるで巨大な鍋で煮え立つ湯のような不気味な響きを帯びていた。

投稿が非常に遅れて申し訳ございません。

本二章までは執筆するることに決めましたので、週一ペースで投稿をこれから再会させて頂きます。

途中で終わらせるのはあまりにも忍びないので。

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