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第三十五話

勝利の余韻が大広間を包んでいた。

俺とラトは互いの健闘を称え合い、深い安堵の息を吐いていた。

ラトの琥珀色の瞳は興奮で輝き続け、兎耳がぴょこんぴょこんと絶え間なく弾んでいる。

彼女の小さな手が俺の腕を掴み、まるで夢から覚めることを恐れているかのように握りしめていた。


「やっぱり策士だね!リオちゃんは、あんな複雑で巧妙な作戦を、戦闘中にあんなに短時間で考えついて実行して思いついちゃうんだもん!ラトちゃん、こんなに成長してたんだって泣きそうになっちゃった~!」


「お前は俺の母親かよ」


「ごめんごめん、成長したんじゃなくて元々そうだったってことだよね!ラトちゃん、お嫁さんとしてすっごく鼻が高いよ!」


「それは気が早い」


「いたっ」


念願だったラトにチョップをお見舞いすると、広間に散らばった血液の回収を開始した。

分身として使用した血液の残滓、血の繭から飛び散った飛沫、そして壁に突き刺さった血の槍……。それらを操作し、空の大瓶へと集約していく。深紅の液体が宙を舞い、まるで逆再生の映像のように瓶の中へと収束していった。


「わぁ、リオちゃん!けっこう回収できたね!あんだけ大盤振る舞いしてたんだもん、本当に足りるかな~って心配になっちゃった」


「階層主を倒せば、ここの階層は攻略したのと同義だからな。出し惜しみせず、全力で戦ったよ」


予想以上の回収量だった。大瓶の三分の二以上は確実に回収できている。

これだけあれば、次の階層でも十分戦えるだろう。

その作業を終えると、俺は腰の剣を抜いて刀身を確認した。

血液が薄く塗られた剣身は、微かに赤い光を帯びて見える。


「ラトちゃんの改造、結構役に足ったでしょ~?ラトちゃんのこと、褒めてもいいよ!」


「そう言われると……何だか褒めるのも癪だが、確かに本当に助かった。ありがとう」


「そうでしょ~えへへ」


剣の改造――

そう俺の剣はラトによって改造されているのだ。

元々剣自体新しいものに変えた訳だが、それにラトはこの件に一工夫加えてくれた。

その秘密は刀身ではなく、この鞘にある。


ラトの銃を作る技術を応用して、鞘の内部に魔法陣と極細の管を張り巡らせたのだ。これにより鞘の内部に血液を貯蔵する機構が組み込まれることで、任意で剣身に血液を纏わせることができる。

つまり瓶の血液を消費することなく、他にあらかじめ貯蔵した血液を使用することで剣を強化できるのだ。

まさに俺にとって夢の武器である。

これで一々血液の瓶を使用し、剣を纏う手間が省ける。


「ラトちゃん頑張ったんだよ~!魔力の流れとか、血液の粘性とか、温度変化による体積の変化とか……もう計算がいっぱいで、頭がくらくらしちゃった」


「ああ、感謝してる。今回の勝利も、この剣があったからこそだ」


「そうだよね!これこそラトちゃんとリオちゃんの愛で手に入れた勝利だよ!」


そんなよく分からないラトの発言を聞きながら、ようやく一息つく。

やっとこうして二階層の階層主を倒すことが出来た。

これでとにかく二階層はクリアだ。


いや――待て、本当に終わったのか?

あまりにもあっけなすぎないか?

そんな言葉にならない悪寒が体を走った。


ベールは確かに強かった。

その魔法の技術は隔絶されたほどに高く、めぇ太郎との連携も厄介だった。

しかし……こんなあっさり二階層が終わるのか?

俺は一階層での戦闘で、何度死んだか分からない経験をし何度も追い詰められた。

あの経験と比べるが厳しかった。

確かに一階層の時と違い仲間もいるし、技術も上がった。

しかしそれでもこの消化不良な感覚が否めないでいる。


本当にラトより強かったか?

あの程度の敵。

百年前のラトが簡単に負けるような敵には見えない。

仲間を直前に失い精神不安定なラトだとしても、ベール程度の敵であれば攻略できた可能性の方が高いと感じる。

たしかに拘束魔法は強力だったが、すぐにその有効性がバレるとも思えない。

それにラトの無敵能力は、物量で押し切るベールとは相性が良い。


そもそも……

二階層のボスを倒したとなれば、三階層へと続く階段が現れるはずだ。

一階層でラトを倒した時も、天井が開いて石の階段が降りてきた。

なのに……この部屋には階段が現れない。

そういう物音もしない。

あるのは俺たちが入ってきた扉と、さらに奥へと続くもう一つの扉だけ。


「ラト、階段が現れていないが……もしかして奥に階段があるのか?」


「ん~そうじゃないかな!こ階段のある部屋がラトちゃんの一階層みたいに、中央部分にあるとは限らないもん。その扉の奥にあるんじゃないかな?」


俺は奥の扉に歩み寄り、慎重に取っ手に手をかけた。

冷たい金属の感触が指先に伝わる。

そして――扉を押し開いた瞬間。


俺の思考が完全に停止した。

俺の視界に映ったのは、純白の廊下。

そしてその廊下の奥に――


薄桃色の髪を揺らしながら――


純白のドレスを纏ったベールが立っていたのだ。


「……は?」


俺の視界に映るベールは、先ほど俺が剣で斬り伏せたはずの少女と全く同じ姿をしていた。

薄桃色の髪が肩でふんわりとカールし、薄紫色の瞳が穏やかな光を湛えている。

純白のレースドレスも、白い靴下も、何一つ変わらない。


「お疲れ様でした~フォスさんとラトさん。いや~見事な戦いぶりでしたね、まさか私を倒してしまうなんて、本当に驚きましたよ~。私も長いこと階層主をしてますけど、あれほど見事に私に勝つ方は初めて見ました~。すごかったで~す」


ベールは両手をパチパチと叩きながら、まるで観劇を終えた観客のように俺たちを褒め称えている。

その様子はあまりにも自然で、そして奇妙だ。


「いや……なんで」


慌てて振り返る。広間の床には確かに――

真っ二つに切り裂かれたベールの死体が横たわっている。

純白のドレスが深紅に染まり、薄桃色の髪が石床に広がった無残な姿。

それは紛れもなく俺が剣で斬った、階層主ベールの成れの果て。

しかし目の前にいるベールと見比べても、髪の房の数から顔の輪郭まで、全てが完全に一致していた。

だとすれば――目の前にいるこの少女は何なのだ?


「何だよ……これ?お前は一体誰なんだ?俺は確かにお前を殺した。今そこに死体があるだろ!なのになぜお前が……」


予想外の状況に、俺の声が掠れていた。

横にいるラトは、ただ絶句している。


「あ〜それですか〜?それもベールで、私もベールですよ~。何か不思議なことでもあるんですか~?そんなに驚かれても、私も困っちゃいますね〜」


彼女は首を小さく傾げながら、まるで当たり前のことを説明するかのように答えた。

その仕草、声の調子、表情――

全てが先ほど戦った階層主ベールと寸分違わない。


「は?同じベール?ちょっと待て……何を言って……!」


「その通りの意味ですよ~!私もベールなんです~。あなたが倒したベールと同じ人間です~。ほら私はお二人の名前も、先ほどまでの会話の内容も、どうやって殺されたかも覚えていますよ~?それなのに同一人物でないと、疑う余地はどこにあるんですか~?」


「リオちゃん、これって……どういうこと?ラトちゃん、頭がくらくらしてきちゃった。さっき確かにベールちゃんを倒したよね?でもでも、ここにもベールちゃんがいるし……もしかして双子?それとも魔法?でもでも、魔力の気配も全く同じだし……ラトちゃん、わけが分からないよ~」


「そうですか~?あるがままを受け取ってくだされば、これ以上に混乱することもないと思うんですけどね~。そんなに難しく考えなくても良いんじゃないでしょうか〜?」


ラトの困惑もどこ吹く風のように、穏やかな調子のベール。

会った時と変わらない不気味な、温和すぎる態度。

そのにこやかな目を見ると、寒気がする。

俺が手のひらの上でベールを泳がせていたと言うのに、泳がされていたのは俺の方だったのか?


「どういうことだベール?同一人物だと言うのなら、殺されたのになぜここにいるんだ?殺されたのなら、もう死んでいるはずだろ?」


「だから何度も言っていますよ~、あるがままを受け入れてください。難しく考える必要はありませんよ~?」


「難しく考えなくてもいいなんて、ラトちゃん無理だよ~。殺したはずの人間が、当たり前のように現れたんだよ!意味わかんないよ!ベールちゃん、本当に本当のベールちゃんなの〜?」


「はい〜もちろんですよ〜。偽物だったら、こんなにも自然にお話しできないじゃないですか〜。私の記憶も、感情も、全部ちゃんとありますからね〜」


「記憶が共有されてるってことは、分身とかそういう類なのかお前は?」


「違いますよ~、私がベールで、あれもベールで合ったからに過ぎません。分身とか、偽物とかじゃなく、正真正銘私もあれもベールなんです~」


「増々意味分からないよ~、ラトちゃん頭パンクしそう」


「そうですか~、けれどまあ理解できなくても大丈夫ですよ~。そもそも理解し合う必要も、全てを語る必要もありません~。だって……敵であることに変わりはありませんから~」


その瞬間――

背後から強烈な魔力のうねりを感じた。振り返ると、動きを止めていためぇ太郎たちが一斉に起き上がり、青白い魔法陣を展開していたのである。

複雑な幾何学模様が空中に浮かび上がり、激しい魔力の収束音が大広間に響く。

そして次の瞬間、無数の光線が俺たちに向けて一斉に発射された。


「ラト、逃げるぞ!ついて来い!」


「は、はい……」


俺は咄嗟にベールを突き飛ばし、ラトの手を引いて廊下の奥へと駆け出した。

なぜかラトの顔が赤いのは気のせいだろうか。

ベールの小さな身体がよろめき、純白のドレスが翻る。


「あれれ~逃げるんですか~?正々堂々もう一回戦いましょうよ~」


ベールの声が背後から聞こえたが、俺たちは振り返らずに廊下を駆け抜けた。めぇ太郎たちの「めぇ〜」という鳴き声と、追いかけてくる足音が後方から響いてくる。

純白の廊下を全速力で走り、見えてきた扉に向かって一直線に向かった。


扉の取っ手を勢いよく掴み、力任せに押し開ける。

そこに広がっていたのは――

小さな居間だった。


暖炉には薪が燃え盛り、柔らかな絨毯が足元に敷かれている。

本棚には革装丁の書物が並び、柔らかな絨毯が足音を吸収していた。

そして暖炉の前の椅子に、またしてもベールが座っていた。


「慌てるのは良くないですよ~、リオさん。ラトさん」


「……っ!?」


「もう意味わかんないよ~!」


本当に意味が分からない。

俺の思考が完全に停止した。

前方の居間にはベール、後方の廊下にもベール。

そして背後には大量のめぇ太郎たちが「めぇ〜」という鳴き声を上げながら迫ってきている。


「あら〜、どうされたんですか〜?そんなに驚いた顔をされて〜。私がここにいるのが、そんなにおかしいですか~?」


前方のベールが穏やかに微笑みかける。


「なんだ、これは……一体何が起こってるんだ?」


冷たい汗が額を流れ落ち、声が震える。

足元の絨毯が急に頼りなく感じられ、浮遊感が全身を支配した。

何度見比べても、ベールが二人いるのだ。

寸分違わない二人の人間がいるのだ、こんな奇妙なことがあるのだろうか。


「ちょっと待てよ〜!ベールちゃんが二人いるだなんて〜、ラトちゃんもう頭が爆散する勢いだよ~!こんなこと間違いなくおかしいよ~!」


「え~そうですか~?めぇ太郎だって増えるんですから、私たちが増えるのだって普通だと思いませんか~?」


後方のベールもいつもの声色でそう答えた。


「そ、それはそうだけ!めぇ太郎が増えるのもおかしいけど!ベールが増えるものおかしいの!リオちゃんどうしよ!?どうすればいいかな~?」


「……さっき俺らが殺したのもベールで、お前も、お前もベールなんだよな?さっき記憶の共有がされているみたいな話があったよな!?じゃあこれはどうなる?前のベールの記憶と、後ろのベールの記憶、どう処理されてるんだ?」


「難しいこと聞かないでくださいよ~。どっちもベールなんですから、そんな深く考えなくても、きっと分かります~」


「そうですよ~、同じベールなら記憶も景色も、全ていっしょなんですから~。郷に入っては郷に従いましょう。ここではそれが普通で常識なんです~。大人しく受け入れましょう~」


「うわぁー前後から同じ声聞こえるの滅茶苦茶だよ!こんなの狂ってるって何で伝わらないの!ラトちゃん、怖いよ!」


「正気を保て、ラト。ここはとにかく深呼吸しよう。もしかしたら錯覚かもしれない。しっかり現実を見るんだ、きっと錯覚だ」


「それ現実見れてないよ!逃避しちゃってるよ、リオちゃん!」


その瞬間――

背後から再び強烈な魔力の波動が押し寄せてきた。

空気が重く歪み、耳の奥で不快な音が響く。

肌がぴりぴりと刺すような感覚に包まれ、本能的な危険信号が全身を駆け巡った。


後方のめぇ太郎たちが再度、一斉に口元に青白い魔法陣を展開している。

同時に、後方のベールもまた手を掲げ、薄紫色の光を帯びた魔法陣を描き始めた。


「もっとお話合いしたい所ですが~切り上げたのは元々あなたたちですから~!ここで大人しく死んでください!羊の福音~!」


「リオちゃん、空想の世界に逃げてないで、逃げるよ!」


「くそ……夢なら覚めてくれ!」


咄嗟にラトに手を引かれ、居間の奥へと駆け込んだ。

レーザービームの死角に入ろうと、暖炉の脇を駆け抜ける。

後方の扉の死角、奥側の壁の角にまで走り抜ける。


そこで――信じられない光景を目にした。


――!!


自分たちが逃げたことで、その魔法の軌道には前方に居たベールに重なる。

そこで攻撃を辞めるのかと思いきや――

前方にいたベールを完全に貫いていた。


光の奔流が彼女の身体を貫き、純白のドレスが一瞬で灰燼に帰していく。

薄桃色の髪が光に飲み込まれ、純白のドレスが粉々に砕け散った。

ベールの身体は一瞬で原形を留めなくなり、無数の光の粒子と一緒に血と肉塊が居間に散らばった。


「……!?」


「ぐ、ぐろい!」


俺とラトは、その光景に震わせながら呆然と立ち尽くしてしまう。

ベールがベールを殺したのだ。

本人が本人を殺す。

同一人物を――何の躊躇もなく、何の感情も見せずに。

まるでゴミでも捨てるかのような無造作さで、自分自身を消し去ったのだ。

目の前で展開される光景は、人間の理解を超えた異常事態。


しかし――

まるで何事もなかったかのように、後方のベールがめぇ太郎たちを引き連れて居間に入ってきた。散らばった光の粒子を踏みしめながら、相変わらずの穏やかな笑みを浮かべている。

その振る舞いに暖炉の炎が頬を照らす温度すら感じられないほど、血の気が引いていく感覚が全身を支配した。

何が起こっているんだ――


「あ~当たっちゃいましたか~。ふふっ自分を殺すのは、いつまで経っても新鮮ですね~。殺したときの達成感と、殺された時の光悦。それをどっちも味わえるのですから、これ以上に得なことはありませんよね~」


「あーもうこんな気持ち悪いの!久しぶりだよ!やっぱりラトちゃん、ベールちゃん嫌い!もう全員殺す!」


――!


銃声が居間の静寂を切り裂いた。

銃声が居間に轟き、魔石の弾丸がベール目がけて一直線に飛んでいく。

琥珀色の瞳に戦闘時特有の鋭い光が宿り、兎耳がぴんと立ち上がった。


「あらら~気が狂ってしまいましたか~?けど簡単に殺されませんよ~」


ベールの白い手が宙に舞い、瞬時に半透明の防護壁が展開された。

水晶のように美しく輝く魔法の盾が空中に浮かび上がり、弾丸を受け止めようとする――


しかし。


――!!


ベールの防御魔法が、まるで薄氷が砕けるように粉々に割れ散る。

光の破片が宙に舞い踊り、まるで雪のように舞い散っていった。


「あれ――?まさか」


ベールの薄紫色の瞳が驚愕に見開かれた。

防護壁が粉々に砕け散り、光の破片が宙に舞い踊った。

弾丸は威力を失うことなく、そのままベールの肩を掠めていく。

純白のドレスに深紅の染みが広がり、彼女の小さな身体がよろめいた。


血液弾――

俺の血を混ぜ込んだ、特別仕様の弾丸。

一階層での共同生活で生み出した、俺とラトの連携の結晶。

血液そのものが持つ魔力増幅の性質により、通常の防御魔法では防ぎきれない威力を発揮する。普通の弾丸とこの血の弾丸が織り交ざっているからこそ、その攻撃は奇襲のようにベールの予想を外した。

この好機を――逃すはずがない。


俺は腰の剣を引き抜くと同時に、鞘に内蔵された血液を刀身に纏わせた。

深紅の液体が刃を包み込み、ラトの魔法技術によって精密に制御された魔法陣が剣身に浮かび上がる。

筋肉が熱を帯び、骨格が軋みを上げるほどの力が全身を駆け巡った。

剣身に纏わせた血液が深紅の光を放ち、刀身全体が激しく脈動している。


「友禅染――!」


俺の叫び声と共に、剣をベールに向け投擲した。

剣身に纏った血液が激しく発光し、まるで夕日に染まった絹織物のような美しい軌跡を描きながら空気を切り裂いていく。深紅と金色の光が複雑に入り混じり、華麗にして凄絶な光の帯が居間を貫いた。


血液に込められた魔力が剣の回転と共に螺旋状に展開され、空間そのものを歪ませるほどの圧迫感を放つ。暖炉の炎が一瞬で掻き消され、周囲の空気が激しく振動した。光の軌跡は美しくも恐ろしく、まるで死神の鎌のように確実にベールを狙い定める。


「めぇ〜!」「めぇ〜!」「めぇ〜!」


その瞬間、ベールの背後から無数のめぇ太郎たちが現れた。

白い毛玉のような身体を盾にして、必死に主人を守ろうとする。

五匹、六匹、七匹――

次々と軌道に割り込んでくるめぇ太郎たち。


血液に包まれた剣が最初のめぇ太郎に触れた瞬間、その柔らかな毛並みが一瞬で切り裂かれる。

二匹目、三匹目と次々に貫通し、深紅の軌跡が一直線に伸びていく。

めぇ太郎たちの「めぇ〜」という鳴き声が悲痛に響く中、剣は止まることなく進み続けた。


そして――


――!!!


剣がベールの胸部を貫いた。

深紅の刃が純白のドレスを切り裂き、薄桃色の髪が宙に舞う。

薄紫色の瞳に宿った光が徐々に失われ、小さな身体がよろめいた。


「ぐっ――全く、あなたたちは何度私を楽しませて呻き声が漏れる。

ベールの口から血が溢れ、膝をついて床に崩れ落ちた。

血液に包まれた剣が背中まで突き抜け、石床に鈍い音を立てて突き刺さる。

純白のドレスが深紅に染まり、暖炉の炎に照らされて妖しく光っていた。


「……」


ベールの身体が静かに床に倒れ、もう二度と動くことはなかった。

俺は血の魔術で剣を操作し、静かに手元へと引き寄せる。

深紅の液体が空中で螺旋を描きながら戻り、剣身を清拭して鞘へと収めた。


同時に――

動きを見せていためぇ太郎たちが、再び静止した。

ふわりと宙に浮いているだけの存在へと戻っている。


しかし俺の思考は、依然として混乱の渦の中にあった。

同じ死体が二つある居間。


「ふぅ、やっと殺せたよ~。リオちゃん、こんな意味の分からない場所、さっさと終わりにしたいよ~。階層主を殺したら、クリアなんじゃないの~!主が何人もいる階層があるなんて、そんなこと許されるの~!?」


「それは階層主だったらラトの方が知ってるんじゃないのか?」


「ラトちゃんの常識なら、もちろん無理だよ!こんなの間違ってるよ!ルール違反だよ~……リエルちゃんこのベールとか言う人、出禁にしようよ~」


「そう言っても仕方ない……けどこんなことになってるなら、何かカラクリがありそうだな……」


「分身?それとも双子?三つ子?でもでも、記憶も共有されてるって言ってたし……ラトちゃん、もう頭が痛くなってきちゃった……」


「とりあえず……ここを出よう、ラト。この階層の構造を把握しなければ、何も始まらない。もしかしたら、奥に何かヒントがあるかもしれない」


「そうだよね!早く抜けだそ!」


足音を立てないよう慎重に歩み寄り、冷たい取っ手に手をかけた。

金属の感触が指先に伝わり、ゆっくりと扉を押し開く。

そこに広がっていたのは――

純白の廊下だった。

壁も床も天井も、すべてが眩しいほどの白さ。

しかし廊下の奥――


「こんにちは~、数秒ぶりですね~」


薄桃色の髪を揺らしながら――

純白のドレスを纏ったベールが、こちらに背を向けて立っていたのだ。

その姿は、俺たちが今しがた殺したベールと全く同じ――

いや、寸分違わず完全に一致していた少女が……。

申し訳ないのですが、土日までお休みをいただきます。

よろしくお願いします。

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