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第三十三話

薄紫色の大理石が冷たく光る大広間――

天井は遥か高くまで伸び、深い青色の絨毯が足音を吸収している。

部屋の中央に鎮座していた天蓋付きのベッドには、今や無数の羊のぬいぐるみが散乱し、薄紫色のシーツが乱れて垂れ下がっていた。


そして大広間の奥――

壁際に立つベールの姿があった。

薄桃色の髪は先ほどの攻撃で乱れ、純白のドレスには埃が付着している。


「これはこれは~、私の楽園を汚す……その覚悟があなたたちにはあるようですね~。あなたたち、楽な死に方はできませんよ~」


ベールの薄紫色の瞳が細められ、唇の端が僅かに吊り上がっている。

笑みを浮かべているようでいて、その奥には冷たい怒りが宿っていた。

柔和で温厚だった雰囲気は影を潜め、代わりに鋭い殺気が空間に漂い始める。


「せっかくこれだけ話して、ヒントまで与えて、それなのによくもまぁ全力で私のこと蹴り飛ばせますよねぇ~。その精神性、私はと~っても嫌悪するものですね~。感情も同情も共感性もないそこらの動物、下卑た人間と同じ顔をしていますよ~あなたたち」


ベールは壁から身体を離し、よろめきながらも足を踏ん張る。

白い手が壁を支えにして、徐々に体勢を整えていく。

その仕草一つ一つに、これまでの柔和な雰囲気とは正反対の、荒々しい感情が滲み出ていた。


これは……相当苛立ってるようだな。

しかし――

俺はその変化に、奇妙な安堵を覚えていた。


これまでのベールは不気味なまでに完璧で温和。

教会のシスターのような神秘的な、清廉さを纏っていた。

それは神々しさにも似た精神性だが、それは神に近く人ではない。

感情の起伏が感じられない相手ほど、厄介な敵はいないだろう。

しかし今の苛立ちや怒りは、まさに人間らしい感情。


これまでに比べ遥かに自然で生々しい。

怒りも、苛立ちも、悔しさも――

それらは確かに人が抱く感情だ。

そんな相手だと知り、ついついほっと心を撫でおろす思いだ。

彼女もやはり、僕らと同じ人間であると。


こんな感情になるなんて……

俺は、おかしくなってしまったのだろうか?

相手が怒りを露わにしているのを見て安心するなど、正常な感覚とは思えない。

ラトとの一ヶ月間の共同生活――

表裏の激しい少女との日々が、俺の感性を狂わせてしまったのかもしれない。


「あれれ~ベールちゃんってそんな顔するんだ~。あんなに余裕ぶってて偉そうにしてたのに〜。今度は怒ってるの〜?ラトちゃんたちが強いから、ちょっと本気出されただけで、もうそんなにムキになっちゃうなんて〜、可愛いね〜」


ラトの愛らしい声が、その複雑な思考を遮った。

兎耳をぴょこんと揺らしながら、まるで心配するかのような口調で――

しかし琥珀色の瞳には明らかな嘲笑が宿っている。


それは――戦闘における基本的なセオリー。

相手を苛立たせ、冷静な判断能力を失わせる。

感情に任せた行動は隙を生み、その隙こそが勝利への糸口となる。

だからラトは煽ってる……んだよね?

いやそういうことにしておこう。


「いえいえ~ムキになってなんていませんよ~。ただここまで親切にしてくれた相手への御礼が、躊躇のない暴力となれば人間性を疑うのは当然ではないですか~?」


「え~なにそれ?逆にあの程度話しただけなのに、友達にでもなったつもりなの~?友達になったから殴り合ったりしないよね?暴力には躊躇するよね?ってこと~?ラトちゃんよく分かんないけど~、ちょろいんだね~」


「他者への暴力には躊躇するのが、人間性と言うものではないですか?人として当然のことを説いているつもりでしたが……どうやら理解はできないようですね。しょうがないですよね、ラトさんは見るからに野蛮そうですから~」


「簡単に他人を信用する方が、ラトちゃん人間として良くないと思うけどな~。やっぱりあれなの~?百年間他人に会ってないから、人肌恋しくなっちゃったんじゃないのかな~?ベールちゃんって騙されやすそうで、すっごく可愛いね~」


「信用云々ではなく、人としての当然の善性だと言っているのに、どうやら伝わってないようですね~。いいですよ~理解ない魔獣と話しても、意味なんて無いですから~」


「分かってないのはベールちゃんの方だよ~。人としての善性なんて、ラトちゃんないと思うよ~。人ってば生まれながらに悪なんだよ~、だから平気で人の幸せを奪い去る。それを受け入れてないなんて、幼稚だよね~」


「ここで性善説、性悪説を議論するつもりはないです~。これ以上ラトさんと話したいとも思いませんから、黙ってくれないですか~?」


二人の言い争いが激しさを増していく。

まるで目には見えない稲妻が空中を走っているかのように、言葉が激しく飛び交っていた。

果たしてここまで言い合う必要があるかは知らないが、ベールの精神を害することに成功しているのは確かだ。


ただ……俺忘れられてないよね?

そう思るほどに二人は完全に自分たちだけの世界に入り込んでいる。

蚊帳の外で冷静でいる自分が、仲間外れにされているような気分にさえなる。

ラトの琥珀色の瞳はベールだけを見つめ、ベールの薄紫色の瞳もまたラトだけを捉えていた。


けれど――

そこで俺はベールの魔力のうねりを捉えた。

冷静だったからこそ、体内の血液を魔力の代替として使用しているからこそ、察知できた、僅かな変化。

けれどそれは明らかな、魔法の前触れだ。


俺は素早く麻袋から小瓶を取り出し、コルクを勢いよく引き抜いた。

深紅の血液が宙に踊り、俺の意志に従って凝縮されていく。

魔法を使用すると分かって、それを邪魔しない手はない。


綴織つづれおり!」


圧縮された血液が鋭い弾丸となって、ベール目がけて射出された。

少量の血ではあるが、だからこそ尖鋭化された強力な魔弾。

言い争いに夢中になりながら魔力を操作する彼女には、この奇襲を察知する余裕はないはずだ。


しかし――


どこからともなく現れた白い毛玉が、再び弾丸の軌道に割り込んだ。

さっきラトが弾き飛ばしためぇ太郎とは、違うめぇ太郎。

何もないはずの空間から、突如として現れた。

そのめぇ太郎はくるくると高速回転しながら、血の魔弾と接触する。


――!


するとめぇ太郎はその回転の力で血液の威力を逸らし、軌道をずらして無効化する。

血の魔術は威力を受け流しにくいと思っていたが、回転による遠心力で弾き飛ばすことで防御したのか。

意外と賢いな、この羊……。

だが――

俺の軌道に羊がいるということは、ラトの射線は空いているはず。


「はい、バーン!」


――!


俺の意図を知っていたように、ラトのリボルバーが火を噴いた。

しかし――


「めぇ〜」


今度はラトの弾丸の軌道にも、三匹目のめぇ太郎が現れた。

ふわふわとした毛並みが弾丸を優しく包み込み、その運動エネルギーを完全に吸収してしまう。

先ほどの血弾とは違い、通常の弾丸は簡単に受け止められてしまった。


「なんで〜!?また出てきた〜!」


ラトの困惑の声が響く。

俺もまた、この突然の展開に眉をひそめていた。

一体どこから現れているのか、この羊たちは……。


そして――


「めぇ〜」


ベールの頭上に、四匹目のめぇ太郎が現れる。

そして同時に、青白い魔法陣が展開していた。

複雑な幾何学模様が空中に描かれ、激しい魔力の収束音が広間に響く。

何度も見て来た、あの魔法陣だ。


同時に――


「めぇ~」


部屋の奥からも、同様の魔力の気配が立ち上がった。

先ほどラトの蹴りで吹き飛ばされた羊が起き上がり、魔法陣を展開しているのだ。

前方と後方……二つの方向から狙われるとなると、回避は容易ではない。


――!――!


二条の光の奔流が、同時に発射された。

しかし俺だけを狙ったものではない。

ベールの頭上のめぇ太郎からは俺に向けて、部屋の奥からはラトに向けて放たれている。

それを瞬時に読み切った……これなら対処法は容易い。

青白い光線が空気を切り裂き、轟音と共に一直線に迫ってくる。


俺は体内の血液を魔力に変換し、筋肉と骨格に流し込む。

爆発的な身体能力の向上が全身を駆け巡り、人間の限界を遥かに超えた速度で横に跳躍した。

レーザービームが俺のいた場所を貫き、薄紫色の大理石に焦げ跡を残していく。


同時に――

ラトもまた、兎人族特有の軽やかさで光線を回避していた。

純白と深紅の衣装が宙を舞い、まるでダンスを踊るかのような優雅な動きで死線をくぐり抜ける。

さすがラトだ……あの能力が望ましい。

俺とラトは、自然と同じ場所へ集まった。


「リオちゃん、動きが華麗だね~。ラトちゃん惚れ惚れしちゃった~あの軌道読み切ってたの?」


「ああ。動きが綺麗とか、ラトには言われたくないけどな」


「え~、なんでよ~」


頬をツンツンしてくるラト。

さっきまで言い合いしていた人と同一人物とは思えない。

こういう可愛らしさと緊張感のなさは、ラトって感じがする。


「むぅ~見破られましたか~。リオさんって魔力の気配が全くないのに、その血の操作も、気配の感知も、身体能力も……ほんと不思議ですね~。魔力を介さずに奇跡を起こすだなんて、神にも等しい所業じゃないですか」


「ベールに俺は、そう映っているのか?」


「はい~。その兎さんとは一緒に居ない方が、私は良いと思いますよ~?こうして会話も成立しますし、不思議な力で戦闘能力も相当です。組む人さえ間違えてなかったら~、無事でいられたかもしれませ~ん」


「ちょっと~、勝手に間違えてるとか言わないでよ!ラトちゃんは、リオちゃんと相性抜群なんだから!」


「ふふっ、そうですか~。そうには私には見えませんが~。けどそうですね~そうして自然と二人で同じ場所に集まってしまうのは、確かに相性抜群なのかもしれませんね~。けどそれ、悪手ですよ~」


「あっ、それって……」


ベールの薄紫色の瞳に光が宿ると同時に、彼女の手に巨大な魔法陣が展開された。

先ほど見た、強力な魔法。あの威力と範囲の広さを考えると、回避は厳しいか?

その思考すら追い抜くように、大きな魔法陣が激しく回転し、魔力の収束音が大広間に響く。


「二人纏めて、死んでください~。羊の福音!」


眩い光の奔流が、俺たちが集まった地点に向けて一直線に発射された。

空気そのものが震え、雷鳴のような轟音を伴いながら迫ってくる光線。

その閃光を目にして、即座に麻袋から大瓶を取り出しコルクを勢いよく引き抜いた。


「リオちゃん、任せたよ~」


「ああ、血織!」


血液が螺旋状に回転しながら俺たちの頭上に立ち上がり、厚い防護壁を形成した。

血の繭が俺とラトを包み込み、ベールの光線を受け止める。


――!


激しい閃光と轟音が空間を満たし、血液の表面で無数の光の粒子が爆発的に散っていく。

衝撃で地面が震え、守っているはずなのに衝撃が体を揺らした。

それでも……何とか先ほどと同様に、防ぐことは出来たようだ。


しかし――さらなる攻撃が待っていた。


「めぇ〜」「めぇ〜」「めぇ〜」


他のめぇ太郎たちも一斉に魔法陣を展開し、俺たちに向けて光線を発射した。

四方八方から青白い光の奔流が襲いかかり、血の繭が激しく軋む。

俺は必死に防護壁を維持し続け、全ての攻撃を受け止めていく。

大きな瓶を使ったことで全方向からの攻撃と言えど、防ぐことが出来ている。

俺の判断は、未だ冷静でいてくれているらしい。


しかしその思考を鈍らせようとするかのように……

光線が途切れた瞬間――ベールが口を開く。


「相変わらず摩訶不思議な盾ですね~、魔力も使わずどうやってそんな芸当ができるのでしょうか~。ですけど~いつまでも持つわけではないですよね~?私にはめぇ太郎がたくさんいますから〜、あなたたちが疲れるまでいくらでも攻撃できますよ〜。そうやって〜ずっと守ってばかりで〜、勝てると思ってるんですか〜?」


ベールの嘲るような声。

どうやら余裕が戻って来たらしい。

優勢となれば途端に自信を取り戻す……

もしかしたら分かりやす奴なのかもしれない。


「そんなこと言ってるけど〜、ベールちゃんこそ〜めぇ太郎ちゃんに頼りきりじゃん〜!自分一人だったらラトちゃんたちに勝てない癖に~、偉そうなこと言わないでよ〜」


ラトは血の繭の中から、愛用のリボルバーを構えた。

俺が守り、ラトが遠距離攻撃を行う。

俺らの黄金パターンと言うべき、連携。

銃口がベールを正確に捉え、引き金に指がかかる。


――!


銃声が響くと同時に、弾丸がベール目がけて飛んでいく。

しかしそれを見透かしていたかのように……


「めぇ〜」


即座にまた新しいめぇ太郎が現れ、弾丸の軌道に割り込んだ。

ふわふわとした毛並みが弾丸を受け止め、威力を完全に無効化してしまう。


「あ~もう、面倒だな~そのめぇ太郎ちゃん!」


「面倒だなんて、めぇ太郎が可哀そうです。こんなにも愛らしくて、可愛いんですよ~。もっと愛でてください~」


「何度も攻撃されて、防がれて、見飽きたくらいだよ~。ラトちゃん、あのいっぱい居た光景とか、もう二度と見たくないんだから~」


「へぇ~そうなんですか~。じゃあその夢、もう一度見させてあげますよ~」


「……?」


その瞬間――

ベールが指を口元に持っていき、鋭い音を立てた。


ピィィィィ――


指笛の音が大広間に響き渡る。

そして――俺の視界が一変した。


「めぇ〜」「めぇ〜」「めぇ〜」「めぇ〜」


無数の白い毛玉が、どこからともなく現れ始めた。

天井から、壁から、床から――

空間の至る所からめぇ太郎たちが湧き出てくる。

気がつけば俺たちの周囲には、百匹を超えるめぇ太郎が宙に浮かんだまま、静かに俺たちを見つめていた。


「これ……冗談じゃないだろ……」


声が掠れた。

無数の白い毛玉が宙に浮かび、横一文字の愛らしい瞳が一斉に俺とラトを見つめている。数えることすら意味をなさないほどの大軍が、まるで雲のように広間を埋め尽くしていた。

百匹――いや、それ以上……。


「うわぁ〜……なんでこんなことになってるの~。いきなり現れる羊ちゃんって、意味分からないよぉ~。なにこれ~悪夢でも気味悪いよ~」


ラトの声に、初めて緊張が見えた。

兎耳が小刻みに震え、白い手袋に包まれた手がリボルバーの柄を強く握りしめている。

彼女もまた、この状況の危険性を理解していたのだろう。


先ほどまでの部屋での追いかけっことは、まるで状況が違う。

ここには扉もなければ、次の部屋もない。

逃げ場のない密室で、百を超える羊たちと対峙する――


「ふふふ~どうですか~?二度と見たくない光景が、もう一度目の前に現れましたよ~。めぇ太郎はみ~んな可愛くて、愛らしいのに。それが分からないのなら、お仕置きするしかないですよね~」


「おい、俺はそんなこと言ってないはずだが?」


「リオさんは確かに言ってませんが~、ラトさんと一緒にいる時点で同罪です~。大人しく刑を執行されてください~。ではいきますよ~、めぇ太郎が一斉に奏でる鎮魂歌を~、ベツレヘムの星~!」


「めぇ〜」「めぇ〜」「めぇ〜」


無数の羊たちが一斉に鳴き声を上げると同時に、それぞれの口元に青白い魔法陣が展開された。複雑な幾何学模様が空中に浮かび上がり、激しい魔力の収束音が重なり合って空間を震わせる。百を超える魔法陣が同時に回転し始め、眩い光が部屋全体を照らし出した。


「参ったなぁ……」


俺は変わらず血液の繭で、ラトを含めて体を覆う。

球状にも、つぼみにも見える血液の繭。

その繭に大量の光線が一極集中する。


――!――!――!――!


数十条の光の奔流が同時に発射された。

先ほどまでとは比較にならない、圧倒的な物量の攻撃。

青白い光線が四方八方から血の繭に激突し、凄まじい閃光と轟音が空間を満たした。血液の表面で無数の光の粒子が爆発的に散り、繭全体が激しく軋む音を立てる。


「リオちゃんこれ、大丈夫?」


「ああ、げほっ……心配するな」


全身に激痛が走った。

これほどの攻撃を受け止めるために消費する魔力――

この量は絶大で、体内の血液が急スピードで消費される。

それでも血液は膨大で、体内の血を魔力に変換しては必死に繭を維持する。

心臓が早鐘のように鼓動し、額に冷たい汗が滲んだ。


しかし――

この状況を冷静に分析する余裕は、まだ残っている。


集まるのは悪手だと、ベールは言っていた。

確かにあの状況であれば、その通りかもしれない。

けれど今となっては、正解であったと思う。

もし俺とラトが離れていたら、これほどの攻撃を個別に防ぐことになっていた。

それは最善手とは言えない。無駄にラトの固有魔術を発動させるより、俺がすべてを受け止める方が遥かに効率的だ。


それに今まで通り、この数秒だけしのげば攻撃に転ずることができる。

ならば猶更俺が、攻撃を受けた方が良い。

ラトの無敵能力は最長で三十秒まで持たせられる。

回数は限られるため、この一瞬で使うのは効率が悪い。


けれど――この俺の予想は外れた。

光線の攻撃が途切れないのだ。

適当に撃っているように見えて、実は時間的な隙が生まれないよう巧妙に調整されている。あるめぇ太郎が攻撃している間もう一匹のめぇ太郎は休み、そのめぇ太郎が攻撃すれば休む。そうして代わる代わる休みなく連携し、その統率が百匹を超えるめぇ太郎の中で取れている。

おかげで休む間もなく、次から次へと光線が血の繭を叩き続けていた。


これは――困った。


先ほど同じように、めぇ太郎に囲まれていた時とは状況が違う。

あの時は次の部屋と言う逃げ道があった。

また部屋は狭かったため、攻撃方向が読みやすく防御には適していた。

しかし今は完全に包囲されており、全方位から攻撃されている。

そしてベール自身の強力な攻撃も、飛んできている。


このままではじり貧だ。

血の繭は確実に、少しずつ削られている。

厚みが薄くなり、密度が下がっていくのを肌で感じていた。

いつか必ず限界が来る。

追い詰められる前に、何か手を打たなければ――


「ねぇ、リオちゃん……」


その時、俺の裾が軽く引かれた。

振り返ると、ラトが俺を見つめていた。

琥珀色の瞳に宿る光――

それは明確な意思を示していた。

自分を使えと、そう訴えているのが手に取るように分かる。


確かに……

この絶望的な状況でも、対抗手段になりうるのはラトの固有魔術だろう。

止針ノ兎刻――あの無敵能力があれば、この光線の嵐へのカウンターとして決定打となり得る。

しかし……決定打となり得るからこそ、失敗は許されない。

決めるなら、一撃だ。


ベールに対策を打たれるまでに、決め切らなければならない。

その一瞬、一時に全てを賭け、ここで仕留めるのだ。

だが俺の行動は血の繭の維持に制限されており、ベールに隙を作ることは困難。ラトだけの行動ではベールに賭けるには、状況があまりにも乏しすぎる。

いや――待て。


隙さえ作れれば、逆に……


俺の脳裏に、一つの策が浮かんだ。

危険な賭けだが、この状況を打破するには――


「ラト、俺に作戦がある」


俺は血の繭を維持したまま、ラトの耳元に口を寄せた。

血の繭の中で響く声は、外に漏れることはない。

作戦の内容を手短に、しかし確実に伝える。

するとラトの兎耳がぴくりと動き、琥珀色の瞳が大きく見開かれた。


「分かった。難しいかもだけど……やっぱりリオちゃんって、策士だね。ラトちゃんに任せてよ」


ラトの表情が、一瞬にして戦闘モードへと切り替わった。

琥珀色の瞳に鋭い光が宿り、兎耳がぴんと立ち上がる。

白い手袋に包まれた手が、愛用のリボルバーの柄を握った。


よし――反撃開始だ。


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