怪しい男
「だから!!ここのクッキーの中に、コレが入っていたと言っているだろっ。おかげで歯を痛めたんだ。慰謝料を払えっ!!責任者を出せと言っているっ!!」
怒鳴る彼の手には銅貨1枚があった。
近づくにつれて、段々と内容が聞こえてきた。
あ、あり得ないわ!!あの男は何を言っているのかしら。ふざけてるわ!!
クッキーのなかに直径3センチもある銅貨が入っていたならば、作成中に必ず気付くだろう。どう考えてもイチャモンをつけてるだけである。それに、マルコニ洋菓子店が衛生管理について、徹底して常に細心の注意を払っていることは、アンバサダーである私が1番よく知っている。
対応している店員も、「異物混入など当店ではあり得ません。お引き取りを。」っと青褪めた顔をして震えながらも、毅然として態度で対応している。
それに対して、「おまえ覚悟が出来てるのか。貴族の俺に歯向かって、ただで済むと思ってるのかっ!!」っと、権力を振りかざして理不尽な事を言っている。
流石に貴族に歯向かう訳にもいけず、店員の彼は真っ白な顔のになって、俯いてしまっている。それでも店の前から退かずに店を守っているから、更に貴族の男は、店員を怒鳴りつけている。
もう〜!!我慢出来ませんわ!!貴族、貴族と言うなら、私だって貴族としての権力で対応してあげるわっ!!
「何の騒ぎですの?私、この店に用があるのに、入れないじゃない。貴方邪魔よ。退きなさい。」
「何だとっ!!誰だおまえはっっ!!部外者は下がっていろっ!!」
「はっ。愚かね。貴方こそ誰ですの?社交界でお会いしたことがないですわ。」
「おまえこそ誰だっ!私は、ミドリル子爵の者だぞ。無礼だっ!俺に楯突こうなど、不敬で訴えてもいいんだぞっ!!」
………ミドリル子爵。確か領主の金遣いが荒く、なのに3年前に事業に失敗し、資金調達に各方面に援助を頼み込むが、どこにも相手にされずに。。ついに裏の危ない連中と繋がっているらしいって噂があるヤバい家だ。
目の前の男は、年齢からすると今の領主の息子だろうか。まだ20代にみえる。衣服は平民より上等そうだが、今の流行りから外れた派手な装いで、ただの成り金の坊ちゃまって感じにみてる。
イチャモンつけて脅して金を取る算段なのね。まるでチンピラみたいだわ。これが同じ貴族だとは……恥ずかしいわね。
「貴方こそ、不敬で訴えますわよ。私、このお店のアンバサダーをしております、レニア・モーガンって言うのですが、ご存知かしら?」
「……。モーガン………って。っあの…もしや、公爵家のっ………!!!」
男は、瞬く間に青を通り越して、白に顔色を変えていった。そして、何故だか急にキョロキョロと辺りを見始め、挙動不審になった。
……?誰かを探してる??協力者がいるの?
私も男に釣られて周りを見渡せば、人混みの後ろの方に、ツインテールがチラリと一瞬だけ見えた。
えっ??……あれっ!
一瞬だったから、見間違えた可能性もあるが、さっきカフェテラスで見かけたばかりだ。カフェから移動して偶然に居合わせただけかもしれないし……
分が悪いと思ったのだろう、私が目を逸らしていた間に男はそのまま、クルッと向きをかえて、早足で逃げていってしまった。
くぅ~っ!!逃げられたっ!!
もっと、懲らしめてやりたかったわ〜。
チラリと護衛の1人に目で合図を送ると、コクリと頷きスッと人混みに消えていった。あの男の後を追わせたので、後で報告があがるだろう。男が探していた相手ともし合流すれば、それも誰だかもわかる。これもお父様に報告しなきゃだわ。
「ありがとうございますっ」
先程まで男に詰め寄られていた店員が、泣きそうな顔で感謝を伝えてきた。ただの店員が、貴族相手に本気で怖かっただろうに……。それでもお店を守っていた彼は勇敢だわ。
「いいえ。アンバサダーとして当然よ。貴方も大変だったわね。……お店に中に入ってもいいかしら?」
「もちろんですっ!!どうぞっ」っと、店の扉を開けてくれた。店内には、怯えた女性従業員が肩を寄せ合っていた。泣いてる娘もいる。
女子を怖がらせるなんて……
ほっっっとに!!
あの男、碌でも無い男ね!!
ぜったいに許さないんだからっっっ!!!!
私が入店すると「お店、一度閉めてきます」と先程の店員が、外の看板をクローズにし行った。こんな状況だと、お店をやるどころじゃないわね。
すると、裏口の扉がバンっと開いた音がした。
「 みんなっ、大丈夫かっ?? 」
っと、大声がし、見るとかなり慌てて来たようで、髪は乱れ、衣服は着崩れ、ハァ、ハァと息を切らしてジョージが入ってきた。
皆の顔を、一通り見渡した後、ほぅっと溜息をつき、相当急いで来たのだろう…両膝に手をつき、俯きながら肩で息をし、呼吸を整えだした。
乱れててもイケメンはイケメンなのね……っと不謹慎だけど思ってしまったのは、、内緒だ。




