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誰か私を買ってください~ビジュの良さと前世の知識でマネタイズ! 貴族相手のコンサルで孤児院救って成り上がります~  作者: 夕波


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02.武器を持て、立ち上がれ

前世の記憶を取り戻してまず私がやったことは自分のスペックの確認だった。


ここではエクレール司祭やシスターたちが仕事の合間に簡単な読み書きを教えてくれるけど、紙もペンもじゅうぶんにない中で孤児が身につけることができるのはせいぜい数を数えることと子どもむけの絵本を読む程度。

それが今ではこの世界の文字なら知らない単語がでてこない限り、わりとなんでも読めるようになっていた。

計算も然り。税金も日本ほど複雑ではないから、記憶を取り戻して1、2か月たつ頃には簡単な事務仕事なら手伝えるようになっていた。


「素晴らしい。これはきっと神からの恵み。いえ、奇蹟なのでしょう」

エクレール司祭はそう言って涙ぐんだ。


栗色の髪は肩まで伸びてひとつに結んでいるのがいかにも優雅な物腰だ。温かみのあるブラウンの瞳はいつでも子どもたちにむけられていて、背は高いけど、私たちに食べ物をゆずるせいでひどく痩せている。古びた服や靴を身に着けていても隠しきれない品のいいイケオジさに流されそうになるけど、私ははっと我に返る。


ちがうんだわ司祭。

これは奇蹟なんかじゃなくて、貧乏ゆえに予備校という標準武装も持てず、丸腰で受験戦争を勝ち抜いた私の努力の賜物なんだ。


「私、今度の風邪で死にかけて心底思ったんです。神なんていない。必要なのは自分で道を切り開く力だって。べつに宗教や教会を否定するわけじゃないんです。ここで育ててもらって感謝しているしエクレール司祭のことも尊敬しています。でも私には、どうしても神様がいるなんて信じられないんです。」


「メリッサ…。」

そこんとこよろしく、と付け足したかったけど心は日本人。めちゃくちゃ謙虚なので黙っておいた。


私はチートと呼べるほどでもない前世の知識を活かして、孤児院を立て直すことに決めた。こんなボロ教会でも、愛情だけはたっぷりもらって育ったのだ。

前世で就職してすぐに母を亡くし、早々に天涯孤独になった私にとって、エクレール司祭は本当に大切な、家族みたいな存在だったから。


私はエクレール司祭に、これから自分がやりたいことについて説明した。

平たくいえば、自分の見た目と知識をマネタイズしていく方法についてだ。

パソコンがないから手書きの企画書しか作れなくて残念だけど、ガンガン稼いでこの孤児院をラグジュアリーかつサスティナブルないい感じに立て直したい、という熱意だけはこめたつもり。


司祭は私の変貌ぶりに圧倒しながら、子どもたちのためになるのならと、計画の一部は快く認めてくれた。


孤児院の仲間たちは、思っていたより冷静だった。みんな捨て子か路上で育ってきた子どもたちだ。困窮の末に発狂した人間を見たことがない子のほうが少ない。

ただの孤児のメリッサは「良い方に」気がふれたと思っているみたいだった。


そんな私の持つ知識は本物だと司祭が認めたことで、孤児院には一発逆転のチャンスかもしれないという空気が漂い始めた。


まず最初に、子どもたちを食堂に集めて読み書きと計算を、それからマナーや立ち居振る舞いについて教えた。

識字率が高くないこの世界、読み書きができればそれだけで将来設計が大きくかわってくる。


孤児でも計算ができれば商家の下働きに雇ってもらえる。さらにその場にふさわしい振る舞いができれば、孤児を理由にひどい扱いを受けるリスクも下がる。

運が良ければ、裕福な家の養子に引き取られることだってあるかもしれない。


私は学生時代に結婚式場で身に着けた接客マナーを、覚えている限りで子どもたちに伝授した。

お辞儀はかならず立ち止まって、背筋を曲げずに頭をさげる。物を受け取る時は指先をそろえて両手でゆっくりと。

たったこれだけでも徹底すればずいぶん印象が変わる。


いちいち面倒くせぇな、と反論するのは10歳を超えたあたりのギャングエイジの男の子たち。私は彼らひとりひとりに、どんな態度をとられても説得しつづけた。

まあ言い方をかえれば大人げなく論破したというべきかもしれないけど。


孤児院の学童期から年長児までを食堂にあつめて、立ち居振る舞いと身だしなみを整えるだけで収入にどれだけ差がでるか、私はその可能性についてめちゃくちゃ熱弁した。


「美しい所作っていうのはね。相手も自分も大切に扱うことなの。自分を粗末にする人間に価値は生まれない。人から大切にされないの。私たちはどんな生まれであろうと、知識と所作、マナーが全く身につかないわけじゃない。そういうのぜんぶ、自分の人生を少しでもマシにしていくための、見えない小さな武器なんだよ。

私は確かに見てくれはいいかもしれないけど、それだって歳をとったら衰えてしまう。知識やマナーは誰にも奪われないし、なくならない。だから今はバカみたいだって思うかもしれないけど、読み書きと一緒で騙されたと思って練習してみて欲しい。」


14歳の孤児になぜそんな説得力と知識があるのか、といぶかしまれたものの、そこはエクレール司祭が神の思し召しなのでしょうと言えばみんなそういうものかと信じてくれたらしい。


いや、んなわけないって。そんな胡散臭い話信じちゃだけだってば。騙されちゃうよ。

純粋な子どもたちの将来がすごく心配だ。でも、こんな育ちじゃ大人の言うことなら正しいに違いないっていう判断しかできないのが現状なんだ。


大人だって間違っているかもしれない。自分の考えのほうが正しいって、知識と経験が備わって初めて判断できるんだよね。


まずは私が道を切り開く。絶対ににここから成りあがって、みんなで前世よりいい暮らしをしてやるんだって決めたから。

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