8話
「それじゃあ、本当に十億円が僕に入るかもしれないんですか」
「本当に彼女が死んだらね。でも、こちらもそうならないように気を張ってる」
「……すいません、そういうつもりじゃなかったんですけど……」
「ああいや、気になるよな。人生に関わることだ。こっちとしては田村さんの意向を尊重したいと考えてるから、田村さんがそう望むなら、そうなるだろう」
その言葉を聞いて、突然怖くなった。昨日、佳耶さんと交わした冗談めいたやり取りを思い出す。
僕に、というのはさておき、佳耶さんの身体が大金に変わりゆくのは本当のことなのだ。
見ず知らずの僕にポンとあげられるほどの価値を、佳耶さんは本当に持っている。
「戸惑うのも当然だと思うんだけどさ。多分、田村さんも何の考えもなしに君を指名したわけじゃないと思うんだよな。だから――」
「えっと、正確に言うなら、僕はまだ佳耶さんを相続するかどうか決まってなくて……。その、佳耶さんは……退屈させなかったら相続させるって言うんです」
十億円の話が本当なのだとすれば、このことも何だか狂気の沙汰だ。だって、そんな大金の行方があんな適当な事で決められていいはずがない。
けれど、原田先生は何故か楽しそうな笑い声を上げた。痩せた膝を叩きながら、「なるほどね」と言う。
「それ、厳しいかもね。だって、彼女の意向でどんな風にも転ぶんだから。なるほど、そりゃ大変だ」
原田先生が笑う。
「田村さんと関わるうえで必要なのは、ただ笑わせることだ。彼女は愛想笑いが苦手だからね。布団が吹っ飛んだとか言ってみなよ。びっみょーな顔されるよ」
原田先生は真面目な顔をしてそう言った。一体何が言いたいのか分からないまま、話は続く。
「田村さんが金になるっていうのは本当だけど、今のところはそういうのを全部気にしないで、彼女と接してくれるかね。あの子、退屈してるんだわ」
「気にしないで」って言われても……。そもそも僕、佳耶さんとは本当に何の関係もなくて……。
「まあ、そんなに気負わないでいてくれればいいから。じゃ、行っといで」
原田先生は半ば強引に話を打ち切ると、さっさと僕を追い出してしまった。
次回未定




