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君の痛みが消えるまで  作者: 景色


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13/26

12話

 逃げ帰るように家に帰ると、母はすでに食卓に着いていた。どこかで買ってきたらしいスナック菓子を食べながら、ぼんやりとテレビを眺めている。何かあったのか、父と揉めたのか。今日の母は、いつもよりずっと不機嫌そうだった。


「早いじゃない。鬱陶しい」


 この間は、同じ時間に帰ってきたのに、遅いと怒られた。

 僕は黙って二階の部屋へ向かう。運がよければ、部屋に入ったところで話は終わる。


 けれど、今日はそうならなかった。母も一緒に階段を上がってくる。僕の行く先に、母の影がわずかに伸びた。


「無視するの? 文句があるなら出て行けばいいだろ。お前みたいなお荷物がいなければ、私だってこんな人体実験場で暮らしてないんだよ」


 ここで振り返ったのがいけなかった。


 母は隙を見つけたとでも言わんばかりの目をして、さらに言葉を浴びせてきた。


「何? 一丁前に傷ついたような顔して、責めてるつもりなの? 本当に、親の苦労すらわからないんだから。産むんじゃなかったよ、お前」


 ドアノブに掛けた手が動かない。


 タイミングを見誤れば、壊れるまで攻撃される。僕はそれを知っている。母が吐き出したいだけ吐き出させておかなければ、せき止められたものが一気に爆発する。


「お前だって同じだからね。同じ穴の狢だ。お前だってここから出さないからな。新田町から、死ぬまで一生」


 顔を見なくても、母がとてつもなくおぞましい表情を浮かべていることはわかった。


 吐き捨てるような言葉のあと、階段を下りていく足音が響いた。その音に合わせるように、僕は部屋へ入った。

 知らず知らずのうちに、息を詰めていたらしい。扉を閉めてようやく、自分が息を止めていたことに気づいた。


 十億円さえあれば、なんだってできる。


 僕はもう一度、心の中で繰り返した。


 十億円さえあれば、人生だって変わる。


 新田町を出ていくこともできる。


 声を押し殺して、僕は泣いた。

次回未定

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― 新着の感想 ―
樹くん10億受け取ってくれ、、、、
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